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今年の単語は「ポスト・トゥルース」~真実より感情

森本毅郎 スタンバイ!

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忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」
(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)
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毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

月尾嘉男

12月22日(木)は「『ポスト・トゥルース』の一年~真実より感情」

★オックスフォード英語辞書が選ぶ「今年の単語」

今年も押し詰まってきましたので、この一年を振返ってみたいと思います。一年を総括する手法としては、今年の十大ニュースというように、この1年の世相を代表する顕著な出来事を選ぶ手法もありますし、一年を象徴する言葉や文字を選ぶという方法もあります。一年を象徴する文字としては日本漢字能力検定協会が公募する「今年の漢字」で「金(キン/カネ)」が選ばれました。「キン」の代表はリオデジャネイロ五輪で12個の金メダルを獲得したことですし、「カネ」のほうは舛添前東京都知事の政治資金問題や富山県議会議員の政務活動費の不正使用などを反映したものです。一年を象徴する言葉としては、自由国民社が主催する「ユーキャン新語・流行語大賞」で、「神ってる」が大賞に選ばれました。ただ、いずれも年末の話題にはなりますが、日本国内だけを対象にしていますし、単に世相をなぞっただけという印象です。

それに対して、世界を対象にして深く切り込んだ言葉を選んでいるのが、イギリスのオックスフォード英語辞書が選ぶ「今年の単語」です。これは11月に発表されますが、去年(2015年)はメールなどで使われる「絵文字」を選んだことで話題になりました。絵文字は日本で開発された表現方法ですが、世界でも使われるようになり、2014年の初めには10億通のメールで1000回使われる程度でしたが、同じ年の年末には4000回近く使われるようになり、2015年には8000回近く使われるというように急増してきたという背景があります。辞書に新語を採択するときには、どの程度、社会で利用されているかを基準にするという辞書を出版している会社らしい選定でした。選定の理由は、絵文字は子供が利用するだけの手段ではなくなり、微妙な雰囲気を表現できるうえに、国際的にも通用する手段になりつつあるという理由でした。

★2016年は「ポスト真実」?!

そのオックスフォード英語辞書が今年を象徴する言葉として選んだのが「ポスト・トゥルース(post-truth)」です。これはなかなか難しい概念で、「トゥルース」は真実ですが、「ポスト」が分かりにくい単語です。この場合のポストは郵便や「部長のポスト」と使われる「地位」を意味する名詞ではなく、「~の後に」を意味する前置詞です。「ポスト・ウォー」と言えば「戦後」、「ポスト・インプレッショニズム」と言えば、「後期印象派」というように使われます。でも、ポスト・トゥルースこの場合、「真実の後」では意味が通じません。そこで、本家本元のオックスフォード英語辞書の説明を引用すると「一般大衆の意見形成において、客観的な事実の説明よりも、感情や個人的信条に訴えるほうが影響力があるという状況」という意味だそうです。もう少し直裁に言えば、「理性に訴えるよりは感情に訴える方が効果がある」ということになります。

★例えば英EU離脱も…

このような説明をすれば思い当たる方も多いと思いますが、2016年は様々な選択の場面で「ポスト・トゥルース」が活躍しました。まず6月23日にイギリスで実施された「EU離脱の是非」の投票です。この選挙前の論争では、離脱推進派はイギリスがEUに支払っている拠出金は毎週480億円だと騒ぎましたが、実際は拠出金の多くがイギリスに補助金として戻ってくるため、正味の拠出金は200億円程度でしかなかったのです。投票の直後に離脱推進派の責任者は、その通りだと認めましたが、国民の怒りが爆発し、ツイッターで「ウソを信じてしまった」という書き込みが氾濫しました。

★トランプ演説はポスト・トゥルースだらけ

アメリカの大統領選挙は「ポスト・トゥルース」満開でした。トランプ候補の演説は「ポスト・トゥルース」ではない内容を探す方が難しいほどでした。例えば「アメリカの実質的失業率は42%」と、民主党政権の政策の失敗を非難しましたが、世界銀行が発表したアメリカの昨年の失業率は5.28%で、多い方から77番目で、しかも前年度より改善しています。ただ、「実質的」というところがミソで、どのようにでも解釈できることになり、本当は別の職業に就きたいのに、それが出来ないのも失業だと言い張れば、どのような数字にもなってしまうわけです。また、トランプさんはロシアのプーチン大統領が「自分のことを天才だと言っている」と自慢しましたが、プーチン大統領に確かめる方法はありませんから、言ったもの勝ちということになってしまいます。オックスフォード英語辞書で「ポスト・トゥルース」という言葉が最初に使われたのは1992年ですが、マスメディアに登場した頻度の統計では、2015年6月以後、一気に増加しているとのことです。

★日本でもポスト真実!

日本は無縁かというと世界情勢に決して遅れを取っていません。東京都の小池知事は、東京オリンピックの水泳、バレーボール、ボートとカヌーの会場について、組織委員会の事前調査が杜撰だと批判し、喝采されましたが、ほぼすべては調査されていたことがわかり、いずれも原案のわずかな修正で決着しています。また別の例では、12月13日に沖縄でアメリカ軍のオスプレイが海岸に墜落しました。稲田防衛大臣は「オスプレイが不時着水する事案が起き大変遺憾」と発言し、菅官房長官も「パイロットの意思で着水したと報告を受けている」と発言しています。それを受けて、日本のマスメディアのほとんどが「不時着」「着水」と表現していますが、アメリカのFOXニュース、イギリスのBBC放送などは「クラッシュ(墜落)」と報道しています。最近の政治家の発言の多くは「ポスト・トゥルース」ですし、企業の不祥事などで経営陣が釈明する内容も多くは「ポスト・トゥルース」です。冒頭で触れた「金」「神ってる」といった言葉も無意味だとは言いませんが、来年は社会の本質を明らかにするような言葉が選ばれることを期待したいと思います。

月尾嘉男の日本全国8時です(リンクは放送後1週間のみ有効ですhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20161222080000

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