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テレビの終わりの始まり

森本毅郎 スタンバイ!

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忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」
(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)
8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」
全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。
毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

月尾嘉男

1月12日(木)は「テレビの終わりの始まり」

★今年はナニ元年?

前回、2016年が「バーチャルリアリティ元年」と言われ、その方向に社会が着実に進んできたということを紹介しました。それでは今年は「ナニ元年」かということですが、いくつかの候補が挙っています。まず納得できそうなものは「完全自動運転元年」です。自動運転は4段階で進歩していくと想定されています。加速、操舵、停止の動作のうち、どれか1つの動作を自動でおこなう車両が「レベル1」、これはすでに、衝突しそうになると自動停止する車両が市販されています。加速、操舵、停止の動作のうち、2つの動作を自動でおこなう車両が「レベル2」で、これもすでに、高速道路などで前方の状況を判断して加速したり減速したりする車両が市販されています。さらに進んで、進路変更も車線変更も自動で行い、緊急事態のときなどは人間が代わるという車両が「レベル3」。これは2020年には実現を目指しています。そして「レベル4」はまったく人間が関与しなくても目的地まで到達する車両で、鉱山などの無人ダンプカーなどでは実用になっていますが、公道では実験段階です。このレベル4を目指した本格的開発が急速に進むのが今年からという意味です。

それに近い技術分野の「○○元年」では、高度な人工知能を備えたロボットが普及するという「スマートロボット元年」や「ビットコイン元年」も登場しています。それ以外に、インターネットで買物もでき、バーチャルリアリティで旅行体験もできるようになるので「出不精元年」になるという予測も登場しています。しかし本命は「テレビジョン・ストリーミング元年」ではないかと思います。

★テレビ・ストリーミング元年

テレビ番組が放送されているときに留守の場合は録画装置に録画して後から見るということが普通ですが、次第に、放送局がサーバーに番組を記録しておいて、見たい人がインターネット回線経由で見るという時代になっています。初期には、インターネット回線がつながる速度が遅いため、手許のコンピュータに番組全体をダウンロードしてから見るという状態でしたが、最近は高速回線が普及してきたため、サーバーから情報を送信してもらいながら同時進行で見て行くという状態に進歩しており、これを「ストリーミング」と言います。情報が川の流れのように送られてくるという意味です。ストリーミングやそれに近い技術を使ってあらかじめサーバーに蓄えられている画像を見るサービスは、以前から存在します。2005年から始まっている「ユーチューブ」、2008年から始まっている「NHKオンデマンド」、アメリカから日本に2011年に進出してきた「Hulu」、同じく2015年から日本でもサービスを開始した「ネットフリックス」は、これらの技術を使って送信しています。

これから本格的に始まるのは、放送局が普通に電波やCATV回線で放送している番組を、同時にインターネット回線でも見ることができるようにするという、リアルタイムのストリーミングです。これは現在のCATV放送と同じサービスをインターネット回線で行なうことに相当しますが、事業者にとっては回線を敷設する負担がないために初期投資はわずかですし、新たな課金をすることができるし、CATVのように地域に制約されることなく、世界を対象にサービスもできるために有望なビジネスになると考えられています。実際、アメリカの「ディレクTV」はサービスを開始していますし、Huluも参入する予定で、フォックスTVやディズニーチャンネル、スポーツ番組を提供しているESPNなどと提携する準備をしているようです。さらにアマゾンも今年から参入予定で、アメリカのプロバスケット協会(NBA)、メジャーリーグベースボール(MLB)、アメリカンフットボールリーグ(NFL)などと生中継放送をする交渉を始めていると言われています。

★放送はスマホで観る時代

これによって何が起こるかについて日本を中心に考えてみたいと思います。これまで放送番組はテレビで見るというのが常識でしたが、
それがコンピュータやスマートフォンに移る可能性があります。2020年頃から第5世代の携帯電話の時代になると現在の10倍程度の通信速度になりますから、家の中で受像機の前に坐って見るという時代は変わり、好きな場所で携帯端末で番組を見ることができます。そういう時代にもかかわらず、日本は4Kや8Kという100インチクラスの受像機で見なければ効果が少ない高精細の放送技術を開発しています。医療やデザイン分野で需要はあるにしても、家庭で見る番組に需要があるかは疑問ですし、一般の家庭には100インチの装置の置き場所がありません。1980年代に携帯電話が登場し、90年代にインターネットが登場した時期に、アメリカでは放送は有線に、通信は無線にという方針で情報社会を構築する戦略を進めてきました。しかし、日本では依然として放送は電波で高精細な画像を送るという方針なのです。

★観たい番組がない!

この「テレビからインターネット」へという変化は広告費の比率にも現れており、テレビ放送の広告費は横這いですが、インターネット関連の広告費は過去10年で3.3倍に増え、2015年にはテレビ放送の6割にまで迫っていますし、アメリカでは昨年の後半に逆転されています。そして有料にせよ、現在、放送されている番組以外にも、アーカイブから自由に選択して見ることができるようになれば、現在、日本の放送局が放送している番組のかなりは見向きもされない時代が来ることにもなりかねません。かつてアメリカの歌手ブルース・スプリングスティーンが「50チャンネルも放送されているのに、ろくな番組がない」と発言していましたし、日本がアナログ・ハイビジョンの開発に苦労していた1980年代に、アメリカの学者が「高解像度の画面でつまらない番組を見たいか、多少粗い画面でも面白い番組をみたいか」と皮肉っていましたが、それが明白になってくる可能性があります。

そしてとどめを刺すのが若者のテレビ離れです。NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」(2016年2月発表)によると、平日1日にテレビ番組を見る時間は70代男性では5時間16分ですが、50代では2時間30分と半分以下になり、20代では1時間37分になり、しかも毎年低下しています。若い世代は娯楽もニュースもインターネットで入手しているのです。日本のテレビが高精細ではあるけど、ブルース・スプリングスティーンが言うように「ろくな番組がない」という状態を続ければ、最初の放送から90年近い歴史をもつテレビという情報媒体の終わりの始まりが「テレビ・ストリーミング元年」から始まるかも知れません。

月尾嘉男の日本全国8時です(リンクは放送後1週間のみ有効ですhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20170112080000

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