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【映画評書き起こし】宇多丸、『疾風スプリンター』を語る!(2017.1.14放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

20170114_10

「映画館では、今も新作映画が公開されている。
 一体、誰が映画を見張るのか?
 一体、誰が映画をウォッチするのか?
 映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる――
 その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『疾風スプリンター』

(BGM:曲が流れる)

これ、劇中で流れる劇伴っていうか、映画音楽が今週なかったんであれですけども、劇伴もすごく合っていてよかったんですけどね。『激戦 ハート・オブ・ファイト』などで知られる香港のダンテ・ラム監督が、自転車ロードレース選手たちの栄光と挫折、友情と恋を描いたスポーツドラマ。よきライバルとしてお互いを高めあうミンとティエン。そして2人が所属するチームのエース、ジウォンの3人が過酷なロードレースを戦いながらそれぞれ成長していく。主演は台湾出身のエディ・ポン、中国出身のショーン・ドウ、K-POPグループ「SUPER JUNIOR」のチェ・シウォンなど、ということでございます。

ということで『疾風スプリンター』、この映画をもう見たというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。メールの量は……普通。でもさ、公開規模とかを考えたら結構健闘なんじゃないですか? 『疾風スプリンター』ね。そして賛否の比率は8割以上が高評価。「レースシーンの迫力がすごい」「ベタなストーリーだけど最後にはしっかりと感動してしまった」などの声。否定的な意見の人でもレースシーンの迫力は全員が認めており、全面的にけなすような人は皆無だった。反面、好意的な意見の人でもドラマパートは「古臭い」「テンポが悪い」「キツい」という声が多かった(笑)。十分キツいな、これ。その中から、代表的な意見をご紹介いたしましょう。

まずは良かったという方。「ヒラオカクニヒロ」さん。「先週のガチャでこの映画に決まった時、『えっ、疾風スプリンター? なに、その映画。知らないんだけど……』ぐらいにしか思ってなかったんですが、(昨年末に放課後クラウドに出た)三角絞めさんよろしく“付き合い”で……」(笑)。三角絞めさんは「見たくなかったんだけど、この番組の“付き合い”で見に行ったら、よかったんですよ」っていうあのパターンね(笑)。

「……付き合いで見に行ってきました。事前情報はなし。まっさらな状態で劇場に入りました。これが実に面白くて感激しました。序盤は洗練されているとは言いがたい場面に苦笑していたんですが、最初のレースシーンで『あっ、これは本気のやつだな』と一気に引きつけられました。起伏に富む話の中で語られる登場人物たちのキャラクターも魅力的で、『ちはやふる』以来に大好きになりました」。ある意味ね、あれもスポーツ映画ですからね。「……ラストは砂漠の真ん中での『マッドマックス』のごとき神話的な争いに涙。ストレートに熱く、べらぼうに面白い青春スポーツ映画でした。あとワン・ルオダンちゃん、腕が筋肉質で最高!」。これはヒロインを演じられた方でございます。

一方、ダメだったという方。「青い韋駄天」さん。「結論から言うと、久々に映画館で睡魔との戦いを余儀なくされる映画でした。序盤のレースシーンの迫力やロードレースのチームスポーツとしての戦略性は見ていてとても面白かったので、『この映画、面白いかも』と期待をして見ていました。が、レースの合間にいまどき見ないレベルのチープな恋愛模様が繰り返されるせいで全く熱は上がらず、最終的にはレース部分でさえ、強敵に打ち勝つための戦略やチームワークといった工夫も忘れてタイマン勝負に走る始末だったので、ストーリー自体が心底どうでもよくなってしまいました。役者陣のがんばりや肉体的な説得力はかなりあったと思うだけに残念でした」という方。

あとですね、こんな方もいらっしゃいます。これは「エキップアサダ山崎」さんという方ね。「いつも楽しく拝聴させていただいています。日本チームとして、世界最大の自転車レース『ツール・ド・フランス』出場を目指し活動している自転車ロードレースチーム『エキップアサダ』の山崎健一と申します……」という。すごいですね、これね。「……個人的には日本選手の海外チームへの移籍を取り持つUCI公認選手代理人としても活動しております。プロの目から見ると、役者たちのめまいがするようなハチャメチャなライディングフォーム&ギア選択とか、超長距離競技選手、特にアジア人選手にあるまじき筋骨隆々なボディ(実際のアジア人選手はもっと華奢)であるとか、自転車ロードレースがマイナー競技であるアジア自転車界には絶対にいなさそうなリア充全開な登場人物たち。どれもこれもが自転車競技界の人間から見るとポカーンとするようなSFレベル級の非日常場面の連続……」だそうです。これ。

なんだけど、「……しかし、これだけ本気汁を出しまくった自転車映画を作るスタッフ陣がそんなこともわからずに事を始めたはずがありません。そういう重箱の隅をつつくようなことは関係なく、かっこいい役者とビューティフルな風景とアガるシチュエーションをカマして、『お前、俺のこと好きになれよ!』と熱烈に求愛するオスを体現してくれるような、このスポーツのみならず、あらゆるスポーツで戦う男たちに対する愛を強く感じました。自転車ロード競技をやった者ならば誰もが夢見る、『こういうシチュエーションでライバルと戦っている俺様』を夢想するシーンをことごとく映像化しようと試みています。職業柄、自転車に関する映画は全て目を通すようにしていますが、いままでの自転車映画では自転車競技は日陰の存在であることが前提でした。そんな中、ここまで屈託もなく自転車ロードレース、かっこいい! イケてる! と真正面から言い切った映画は初めてです」と。この方、「『ヤング・ゼネレーション』、私も人生の3本に入るほど大好きな映画」とおっしゃってくれてますけども。こんなね、貴重なご意見もいただいております。みなさん、ありがとうございました!

 さあ、ということで『疾風スプリンター』、私も新宿武蔵野館で2回、見てまいりました。結構武蔵野館はすごい入っていましたけども。地方とかだとちょっと空いているところもあるなんて話も聞きますけどね。脚本・監督はダンテ・ラムさん。当コーナーで作品を取り上げるのは初めて。たしか『激戦 ハート・オブ・ファイト』がガチャには入っていたけど当たらないとか、そんな感じだったかな? だったと思うんですけど、とにかく香港の映画監督。キャリア的にもはもう20年選手ですから結構なベテランなんだけども……わけても、2008年の『ビースト・ストーカー 証人』っていう。これ以降、評価がより高まった。ド迫力のアクション――特に銃撃戦ですね。デカい爆発とかも含めた銃撃戦――と、ヘビーなドラマの両方を描けて。スケール感とかもがっちりありつつ、時に劇画チックに、非常にケレン味たっぷりに描く名手として、国際的にもだんだん評価を高めてきた監督です。ダンテ・ラムさんね。

で、いままでの銃撃戦というかガンアクション映画の路線は、どっちかって言うと、主人公がだいたいなんか過去にしでかしたことに良心の呵責を抱いていて、苦しみ続けている、みたいな感じで、まあ結構重たい、暗めな話が多いという印象が強かったんですけど。特に前作の『クリミナル・アフェア 魔警』とか、結構その方向性が行くところまで行った感があって、これは褒めていますけども、すげー変な映画でしたね。やっぱりね。

で、ただその一方で、さっき名前を出しました『激戦 ハート・オブ・ファイト』という2013年の作品では、総合格闘技(MMA)を題材にして、たしかにやっぱり主人公が過去を引きずっていたりとか、あと俳優本人が生身で演じるアクションとして、非常に、異常にハードなものを課しているとか、そういうあたりは作風として連続しつつも、最終的には割とストレートに感動させ、泣かせてくる正統派スポ根ものっていうね。この『激戦』で、割と新境地を開拓したっていうところがあるんじゃないかと思いますね。

その意味で、今回の最新作『疾風スプリンター』ですけども。この『疾風スプリンター』っていうのはもちろん邦題で、原題は『破風』。これは屋根の「破風(はふ)」じゃなくて、「風よけ」っていうね。これはどういうことか?っていうと、劇中で描かれる自転車チーム内の役割で「アシスト」。ゴールをするエースをサポートする、アシストっていう役割の意味で風よけっていう。これがまた、見終わるとグッとくる意味合いを増してくるという、この原題も素晴らしいんですが、とにかくその日本タイトル『疾風スプリンター』。さっき言った『激戦 ハート・オブ・ファイト』で手応えをつかんだであろうストレートなスポ根ものっていう路線をさらに推し進めて……『激戦』はそれでもまだわりと過去を引きずった中年のワンス・アゲイン物語だったんだけど、今回はもう本当に、現役バリバリのプロとして上を目指している真っ最中の、若者たちが主人公っていう。

で、もうほとんど「ダンテ・ラムらしからぬ」って言っていいと思いますけど、基本的には明るく爽やかな、非常に陽性の、ちょっといまどき珍しいほどド直球の青春スポーツ映画っていう感じになっていると思いますね。で、この作品全体の、明るいド直球な陽性のトーンというのを決定しているのは、やっぱりですね、僕、主人公チウ・ミンさんを演じているエディ・ポンさんだと思うんですね。このエディ・ポンさん、っつってもね、先ほどからタイトルの名前を出している『激戦 ハート・オブ・ファイト』にも出ているんだけど、体型もキャラクターもまるっきり全然違う雰囲気なんですよね。『激戦』では。なので、今回のこのキャラクターもまあ、実は見事な演技っていうことなわけなんですけど。

でも今回の『疾風スプリンター』のエディ・ポンさん、本当にね、こういうことだと思いますね。絵に描いたような「少年向けスポーツ漫画の主人公感」。もう、いまどきはいないだろう?っていうぐらい、本当に「少年漫画の主人公」感っていう。特に、目と鼻がまん丸な、それが少年っぽさ(を醸し出している)っていうのは大きいと思うんですけども。ヤンチャさと純粋さ、意志の強さみたいなものを、完全に全身で体現しているようなあの感じっていうのが、非常にこの作品全体のトーンを決定していると思うんですけど。とにかく、このチウ・ミンっていう主人公を中心に、ラブコメ的な三角関係。淡い恋模様なども交えて、まあ非常にライトなタッチで語られる序盤の……要はまだ主人公たちが無邪気に青春できている段階のドラマ部分はですね、先ほどからメールでも多い通りですね、こういう風に連想されている方、多いと思います。本当にね、80年代の日本映画とか、80年代の日本のトレンディドラマみたいな、はっきり言ってこっ恥ずかしい(笑)。いまの視点で見ると垢抜けないし、こっ恥ずかしいっていう感じのドラマが続くんですね。

なんだけど、でも僕、同時に、たしかに心地よい多幸感のようなものもあるなという感じだと思うんですよね。こう、ぬるま湯感みたいなね。本屋で本のタイトルを見せあって求愛する場面も、曲の呑気な感じと相まって、たまらないものがあるっていうね。で、まあでも序盤にそういうのが来るんだったら、それは主人公たちもまだ無邪気にしていた日々だから、っていうだけだったらお話の構造上、まだわかるんだけど……この映画の場合、後半、主人公たちが結構シリアスな状況に追い詰められているはずの段階でも、たとえばどん詰まりな精神状態を打開するためになにをするか?っていうと、「えっ、いきなりそこ? いきなりそれ、なんでやるの?」(笑)っていう超唐突な足し算展開を……これ、ぜひ見ていただきたいんだけど。「えっ? なんでそれになるのかな?」っていう足し算展開があったりして。

しかも、そういうどん詰まりな精神状態を打破するために唐突な足し算展開で見せ場がひとつあるんだけど、それの後、じゃあお話が一気に明るい方向に転んでいくのか? と思いきや、その後もやっぱりもう1回暗い展開を……なんなら、「お前の『思い切って一線を飛び越える』っていうのはそういう意味だったんかーい!」(笑)っていう、さらに転落エピソードがその後に続いていったりとかするということで。要は、ぶっちゃけ作劇としてはスマートでは全くないです。全くない。垢抜けないし、泥くさいし、ベタベタだし。まあ、鈍くさいと感じる人もいるでしょうね。ただ、このベタベタな部分っていうことに関してはですね、たとえば他の映画でもダンテ・ラムさん、やっていたんですけど、主人公の精神状態が危険領域に入ったよ!っていうのを示す時にですね、画面がわざわざ赤く染まったりとかね。今回も主人公が怒った!っていう時に、画面がガッと赤くなったりとか、そういう、さっき言った劇画的なケレン味みたいなものは、はっきりとダンテ・ラム作品の特色だし、魅力のうちだとも思うんですよ。ちょっとやりすぎなぐらい、劇画チックっていうか。というのもあるので、一概にそこが欠点とも僕は言い切り難いというところもあると思う。

そして、ダンテ・ラムの映画ならではの魅力といえばもちろん、これもさっき言ったように俳優たち本人の肉体を、駆使というか、酷使した本物志向のアクションシーン。本作であれば、もちろん自転車レースシーン。しかも、その自転車レースシーンっていうのも、街中や山岳地帯、あと砂漠であるとか。あと、競輪ですね。マディソンという競輪競技の一種まで含めた様々なシチュエーション、バリエーションが用意された自転車競技レースシーンというのを、俳優たち本人が身体を使ってやるという魅力がある。で、自転車レースを描いた映画っていうのは、僕、この間出した本の『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』の中でも一章を割いて書きましたけども、実は結構自転車ものは傑作・秀作揃いだという風に個人的には思っていて。

もちろん、先ほどのメールでも、自転車を本格的にやられている方も「生涯大事な作品だ」と言っていただいてうれしいですけども。僕のオールタイムベストである『ヤング・ゼネレーション』という1979年のアメリカ映画もそうですし。その『ヤング・ゼネレーション』の脚本でアカデミー脚本賞をとったスティーブ・テシックさんがもう1回、自転車競技っていうのを扱った、ジョン・バダム監督の『アメリカン・フライヤーズ』という1985年の作品とか、これもすごくいいですし。それこそ今回の流れで『弱虫ペダル』っていう人気の漫画のアニメの劇場版とかも僕、見たりして。割とすごくちゃんと、しっかり自転車競技っていうのを少年漫画として描いているなっていうのもあったりとか。あと、競輪だったら黒沢清の『打鐘(ジャン)~男たちの激情~』というね、1994年のVシネマ。これも素晴らしいですし。

あとは今回の『疾風スプリンター』にも出てくるドーピングの問題を扱ったものだったら、たとえばスティーブン・フリアーズの『疑惑のチャンピオン』。日本では昨年公開でしたけども。そんな、どれもいいんですけど。でも今回の『疾風スプリンター』のようにエンターテイメントとしてレースのスポーツ性そのものに焦点を当てた作品っていう意味では、僕はやっぱり2003年の日本のアニメーションですけども、『茄子 アンダルシアの夏』というね、この作品をすごく推したいと思ってますね。詳しくはこれも『映画カウンセリング』の中に書いてあるんで読んでいただきたいんですけど、とにかく自転車レースにおけるエースとアシストの役割とか、プロスポーツとしてのあり方とか、今回の『疾風スプリンター』でも当然、メインで描かれる部分なんですけど。僕はこの『茄子 アンダルシアの夏』というわずか47分間のアニメで初めて知ったことが非常に多かったし。ギュッと凝縮して、しかもそこにドラマが重なっているという非常に優れた作品だと思いますので、ぜひ見ていただきたいと思います。

なんですが、ただ間違いなく今回の『疾風スプリンター』に関して、これまでの作品と違って言えるのは、やっぱり実写映画として、ここまで自転車競技、自転車ロードレースというものを真正面から本格的に描いてエンターテイメント化した作品は、ちょっとないんじゃないかな? 「レースそれ自体に焦点を当てて」という意味では。特に素晴らしいな、やっぱり映画としていいなと思うのは、まずスポーツ映画として――これは「スポーツ映画としての『ちはやふる上の句』」評の時にも言ったことですけども――要はそれぞれのゲームの勝ち負けに至るロジック。なんでこっちが勝ってこっちが負けたのか?っていうロジックが非常に明快であるということですね。イコール、それはエンターテイメントとしてのカタルシスが明快である。つまり、カタルシスが強まるということでもあるから。これはスポーツ映画として非常にいい作りだなという風に思います。今回の『疾風スプリンター』はすごく、どのゲームもそれが明快ですよね。

そして、さらにここが重要だと思うんですけど、そうしたそれぞれのゲームのロジックが明快な勝ち負け、その移り変わりっていうのが、そのままキャラクター描写に……主人公たちの内面の変化とか成長を示すドラマ描写にもなっているんですよね。レースにどうやって勝ったか? どうやって負けたか?っていうところが、イコール、ドラマ描写でもあるという。で、世の中にはスポーツ映画と称していながら、題材になっている競技そのものをきちんと描いていないとか、競技の部分とドラマ部分とか完全に分離しちゃっているという、そういうレベルのスポーツ映画が山ほどある中で、僕は非常に正しいスポーツ映画の作りをちゃんとやっているなという風に思います。

なので、さっき言ったような人間ドラマパートのある種の軽さとか、ちょっと類型的に見えるような部分も、映画全体として見るとそれほどマイナスには感じられない。要するに、競技パートのほうに実はドラマの「芯」があるからっていうことなんですね。むしろ、さっき言ったラブコメっぽいパートっていうのはオマケの部分で、本当のドラマの芯の部分は、レース部分にあるから、そんなに問題じゃない気がするんですよね。しかも、それら一見ライトなラブコメ描写に見えるようなところもですね――まあ本当にそうでしかないところもあるんだけど――たとえば、僕がすごい好きなシーンで、ヒロインが決定的に主人公に恋してしまう瞬間っていうのを捉えた場面がある。非常にロマンチックな……トラックで練習をしているだけなんですけど、そこのトラックでの、言わば「ランデブー」シーンというか。あそこみたいに、要は実はちゃんと、常に「自転車」を絡めて人間関係っていうのを描こうとしている。ライバル同士の関係も、なにか2人が話す時は自転車を介して恋の鞘当てっていうのをやるようにちゃんとなっていたりすると。そこが本当にさすがだなと思うあたりですし。

あと、いまヒロインって言いましたけど、ワン・ルオダンさん演じるシーヤオっていうヒロインのキャラクター造形が僕、この作品非常に好ましいと感じました。というのは、なんでこのヒロインのことを主人公たちが好きになってしまうかと言えば、もちろんかわいいからっていうのもあるけど、それ以上に、彼女が誰よりもアスリートとしての不屈の精神を持っているということに、アスリートとしての彼らが本気で尊敬を抱いているから、っていう描き方になっている。で、ちゃんとそのことを示す、終盤近く、彼女がいろいろあってセカンドキャリアを始めるというそのシーンで、本当に僕、大げさなタッチで描かれない分、すごく感動してしまいました。女の人が、要するにヒーローの夢をただ単に一歩引いたところから応援するっていう構図ではなくて、主人公側こそがヒロインの夢のあり方みたいなものに鼓舞されるし尊敬するという、この主人公・ヒロイン像の置き方にすごく僕は好ましく感動を覚えました。

あるいはその前のところ、主人公が彼女に示す自己犠牲なんだけど、あの「前向きな自己犠牲」みたいなのって、意外と娯楽作品だとありそうでなかった感じで、僕そこもすごい好感を持ったりとかっていう感じだと思いますね。とはいえ、なんと言っても圧巻なのはそれぞれのレースシーンであることに変わりはないと思います。エンドロールで、いかにも香港映画という感じですね。俳優たちのスタントなしの危険な奮闘ぶりっていうのを見せるんだけど、それを見せるまでもなく、実際にその俳優陣が、トレーニングと肉体改造と、実際に現地でのロケを行って撮ったからこその、本当の「リアル」とは違うかも知れないけど、レースシーンの映像的な説得力みたいなもの。これは本当に実際に見ていただくのがいちばんかなという風に思うんですけど。いいと思います。

要所要所にですね、アナウンサー解説という形で説明をいろいろと適度に入れつつ、さっき言ったように競技としてのロジックと、どのキャラクターがどこでどう考え、どう動くのか?っていうドラマ的な描写部分っていうのを、非常にわかりやすく示す。これは決して簡単なことじゃないと思うんですよね。自転車ロードレースっていうのを整理して見せるのは、簡単じゃないと思うんだけど、娯楽映画として上手く整理して見せてくれているなという風に思います。

あと、香港映画なんだけど、メインの舞台は台湾で。かと思えば、普通に韓国に舞台が移ったりとか。そもそも主要キャラクターとして、先ほども紹介の時に言いましたが韓国のグループSUPER JUNIORの……一時期僕、SUPER JUNIORの『Devil』っていう曲が好きすぎて、1日に何度もミュージックビデオを繰り返し見ていたぐらい好きなんですけど。そのSUPER JUNIORのチェ・シウォンさんという方が普通にいて。チェ・シウォンさんはもともと何か国語もしゃべれるという方だったんですけど。彼は英語も韓国語も、香港映画だから広東語もしゃべるみたいな感じで、彼自身が体現するその品というか、「できる子」感っていうのも半端ないんだけど。とにかく、そんな感じで全体に「普通にグローバル」っていうかさ。アジア全体を股にかける「普通にグローバル」な感じが生む、ある種の風通しの良さ感。これも本作っていうか、ダンテ・ラムが体現する、香港映画としてのなにか魅力みたいな、そんな部分なんじゃないかな? という風に思いました。

メッセージ的にも、目先の勝ち負けを決定的なものとして捉えない、やっぱりオープンな着地になっているのが、僕は本当に「ああ、気持ちいい終わり方だな」という風に思いましたね。ラスト、たとえば主人公はたしかに世界レベルのレースに上がっていくという、上昇志向のラストに見えるんだけど、そんな彼らをラスト、ちょっと引いたカメラで、大勢いる選手たちの中に捉えて見せるわけです。つまり主人公は彼らだけではない。同じ物語が全ての選手たちにあるよっていう視点ですよね。それと、いまはただ1人、自分を成長させるために黙々とトレーニングに励んでいるという、主人公の親友役の、ショーン・ドウさん演じるティエンの姿が並列させて描かれる。

つまり、いかにも少年漫画的な、勝ち気な主人公の話に……一見、子供っぽい話かな?って見せかけて、実はそうではない。誰もが誰かの「アシスト」たりうるし、誰もが誰かの「アシスト」を必要としているという、そういう非常に大人な着地に至っているというところも含めてですね……でも、あくまでもアシストはアシストだから、最後に一歩踏み出して踏ん張らなきゃいけないのは自分だけだよっていう、ダンテ・ラム的な厳しさが残っていることも含めて、僕は非常に万人に開かれた、申し分ないスポーツ・エンターテイメント映画だと思いました。まあ、垢抜けないところとかね、「うわっ……この調子でいったらキツい」(笑)っていうところもあるのは事実なんだけど。たまにはこんなベタベタ・ド直球な娯楽作品もよろしいんじゃないでしょうか? 非常に私、見てよかったです。ぜひ劇場でご覧ください。『疾風スプリンター』でした。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『人魚姫』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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