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放送中

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  • コラム

第44回放送『長崎県・五島列島』

コンシェルジュ沓掛博光の旅しま専科
遠藤周作原作の「沈黙」の舞台のひとつと言われる五島列島の中通島に立つ世界文化遺産候補の頭ヶ島天主堂

遠藤周作原作の「沈黙」の舞台のひとつと言われる五島列島の中通島に立つ世界文化遺産候補の頭ヶ島天主堂

 遠藤周作原作の「沈黙」が刊行されてから51年目の今年、ついに映画化され、先週の21日から全国で公開がはじまった。巨匠マーティン・スコセッシ監督による大作で、キリシタン弾圧下の長崎を舞台に物語は展開する。その舞台の一部でもある東シナ海に浮かぶ五島列島を訪ねてみた。

上五島町には現在も多くのキリスト教信者が暮らし、島内のあちこちに十字架をたてた墓が見られる

上五島町には現在も多くのキリスト教信者が暮らし、島内のあちこちに十字架をたてた墓が見られる

 五島列島は長崎市の西、100キロの海上に浮かぶおよそ140の島々からなるが、人の住む主な島は福江島(五島市)、久賀島(同)、奈留島(同)、若松島(新上五島町)、中通島(同)の5つの島で総称して五島列島と呼ぶ。映画ではポルトガル人宣教師の活動と弾圧を軸に展開し、その信仰を表に出さない潜伏キリシタンを救うため「五島」へも渡っている。五島列島にはそうした潜伏キリシタンの足跡と明治時代に入って解禁後に建てられた教会が点在している。長崎県は五島列島をはじめ県内に点在するこうしたキリシタンに関する史跡や地域を「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界文化遺産候補に挙げている。今回はこのうちの上五島町(かみごとうちょう)にある候補の教会や特産の椿をベースにしたこの島の魅力ポイントを紹介しよう。
 上五島町は若松島(わかまつじま)と中通島(なかどおりじま)の二つの島からなり若松大橋で結ばれているが、候補のキリシタン関連遺産は中通島にある。

移住して来た潜伏キリシタンは無人島の頭ヶ島を切り開き、石造りの頭ヶ島天主堂を建てた

移住して来た潜伏キリシタンは無人島の頭ヶ島を切り開き、石造りの頭ヶ島天主堂を建てた

 中通島へは長崎市の長崎港から高速船がでており、およそ1時間40分で島の東側の玄関口、鯛ノ浦港に着く。ここから車で約20分、島の東北側に、橋で結ばれた頭ヶ島(かしらがしま)があり、ここに遺産候補のひとつ頭ヶ島の集落がある。集落の奥には山を背にした谷間に頭ヶ島天主堂が立つ。この集落は迫害を逃れて幕末期に鯛ノ浦から移住した潜伏キリシタンが住みついたところで、当時は無人の島を自力で開拓し、協力しながら信仰を守り、解禁後の明治20年に木造教会を建て、23年後に現在見る石造りの教会を完成させた。目の前に浮かぶロクロ島から切り出した砂岩を信者達が積み上げて作った天主堂は重厚な外観を見せているが、内部に入ると、船底を思わせる折り上げ天井が全体を広くおおい、縦と横の柱の間には島の特産の椿の白い花で飾り、“花の御堂”とも呼ばれ、曲線を描く窓辺と共に優雅な雰囲気をかもしだしている。設計は大工の出身ながら修行を重ねて独自の工夫により日本の風土と歴史に根付いた教会建築の第一人者になった上五島町生まれの鉄川与助による。いつ訪れても堂内では信者が静かに祈りを捧げており、今も篤い信仰の心は生き続けている。天主堂は国の重要文化財に指定されている。

信者ひとりひとりがレンガを肩に背負って運び、明治43年に完成した青砂ヶ浦天主堂

信者ひとりひとりがレンガを肩に背負って運び、明治43年に完成した青砂ヶ浦天主堂

 ここからさらに車で20分ほど北上し、左手に奈摩湾を見ながら進むと右手の丘の上に海を望むようにして立つ天主堂が見えてくる。ここが青砂ヶ浦(あおさがうら)天主堂で、こちらはレンガ造り。残された写真を見ると、信者一人ひとりが背にレンガをのせ、担ぎ上げている姿を伝えている。正面にアーチを設け、その上にステンドグラスの長窓と丸窓をつけ、瓦屋根のトップに十字架を置いている。入り口の右手に立つ聖母の像と共に、全体的に欧州などで見られるような伝統的な教会の造りになっている。内部はこうもり天井と呼ぶ、コウモリが羽を広げたように上に向かって大きく湾曲した作りで、鉄川与助が神父の指導を受けながら設計し、明治43年に完成した。世界遺産の候補ではないが、国の重要文化財に指定されている。

椿の実を石臼でつぶし、蒸したあと、圧搾機を使いながらも自分の力で搾りだす椿油作り

椿の実を石臼でつぶし、蒸したあと、圧搾機を使いながらも自分の力で搾りだす椿油作り

 教会群から島の観光へと転じればまず、目に入るのが至る所に枝を広げる椿の木。この島にはおよそ700万本が植えられているという。すべてヤブツバキで、冬から春にかけて赤い花を咲かせ、島全体を彩る。実からは椿油が採れるので昔から各集落には精油所があり、島民の生活を支えていた。現在も食用や化粧品などに幅広く利用されている。
 青砂ヶ浦天主堂からさらに車で15分ほど北へ進んだ新上五島町振興公社運営のつばき体験工房では椿油作りが体験できる。椿は20~30年かけて成長してようやく実が採れ、その一粒からは油がなんと0.3グラムしか取れないと言う。大さじいっぱいの椿油を採るのに45粒が必要という計算になる。ここでは、1キロの実を使い、最終的には250~300ミリリットルの油を搾りだす。まず、始めに実を石臼の中で杵で押しつぶようにつぶし、殻を割って白い実を細かくする。30分ほどしたらこれをせいろに移し、10分ほど蒸し、蒸し上がった実を濾紙に入れて圧搾機で搾りだす。これは中々力のいる作業で、力の掛け方で搾り出る油の量が微妙に違ってくるから参加者は必死に、青筋立ててがんばっている。絞られた油は黄色帯びており、濾紙で濾して使用する。体験時間はおよそ1時間で、料金は材料費込みで大人が2390円。搾りたてを嗅いでみると独特の香りがたち、生の油が採れたという実感が湧く。

椿油を製造工程の中で使い、のど越しと腰の良さで知られる「五島手延べうどん」。大鍋で茹でてそのまま食べる地獄炊きがおいしい

椿油を製造工程の中で使い、のど越しと腰の良さで知られる「五島手延べうどん」。大鍋で茹でてそのまま食べる地獄炊きがおいしい

 味覚ではこの椿油を使って打つ「五島手延べうどん」がおいしい。うどんはかつて遣唐使が寄港したことから中国大陸から伝えられたとも言われ、これに特産の椿油を麺と麺がつかないように塗ったのが五島うどんの特色で、中通島の中央西側近くにある船崎(ふなさき)地区がその発祥地と伝えられている。この五島うどんの島独特の食べ方は“地獄炊き”と言う食べ方で、鉄鍋などに入れてうどんを茹で、そのまますくって、アゴ(トビウオ)でとった出汁のきいた熱い汁で食べるもの。うどんのもちもちした食感とのど越しのよさがうまさを引き出している。家庭でもお店でもいつも食べられている人気のうどん。新上五島町を訪ねたら1度は食べてみたい島の味。お土産にもいい。

問い合わせ:新上五島町観光商工課
      ℡0959-42-3851
交通   :長崎港より高速船で1時間40分。鯛ノ浦で下船