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【映画評書き起こし】宇多丸、『人魚姫』を語る!(2017.1.21放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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「映画館では、今も新作映画が公開されている。
 一体、誰が映画を見張るのか?
 一体、誰が映画をウォッチするのか?
 映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる――
 その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告する映画評論コーナーでございます。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『人魚姫』

(BGM:邓超『無敵』が流れる)

これ、劇中で歌う場面が出てくるチャウ・シンチーが作ったオリジナルの歌。この歌う場面がまたくっだらねえんだよな(笑)。『少林サッカー』『西遊記 はじまりのはじまり』などで知られるチャウ・シンチー監督が人間界と人魚界、異なる世界に住む男女のロマンスを描いたファンタジー作品。主人公の人魚姫 シャンシャン役をオーディションで12万人の中からチャウ・シンチーに大抜擢された新人女優リン・ユンが演じているということでございます。

ということで、チャウ・シンチー最新作。この映画をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。ありがとうございます。ただし、メールの量は少なめ。これね、しょうがなくて。都内で2館でしかやっていないんですよね。やっているところが非常に少ないので、メールの量は残念ながら少なめなんですが。

賛否の比率は「褒め」が6割、「まあまあ」が3割、「ダメ」が1割。「ベタでくだらないギャグが満載」「いつものチャウ・シンチー印でよかった」「ヒロインの女優さんがかわいい」「作品のメッセージも意外と考えさせられた」などが主な褒める声。否定的な意見は「話が雑」「残虐な場面が思ったより多く、引いた」などだった。まあね、チャウ・シンチーは結構それ、やりますけどね。

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「マイトガイ」さん。「中国の広州で仕事をしているものです。私が『人魚姫』を見たのは昨年の2月です。中国の旧正月映画の1本として公開され、すさまじい観客動員となったのはみなさん、ご承知だと思います」。後ほども言おうと思ったんだけど、現在、アジア映画歴代興行収入1位です。そんな勢いなんですね。全世界的にもたしか去年の映画公開9位とかじゃないのかな? 『X-Men』よりも入ってますみたいな、そういうことですよね。「少し混雑が落ち着いたタイミングでシネコンに足を運ぶと、子供から老人まで幅広い観客で席が埋まっていました。上映が始まると、始終笑い声があふれていました」。これはもう、ベスト観賞環境でしょうね。はっきり言ってね。

「金儲けが全ての主人公がこれまで抱いていた価値観を振り捨てるくだりに『ドラゴン怒りの鉄拳』のテーマ曲が実に上手く使われていて泣けました。心が揺さぶられるシーンの後にはご褒美もありました。VFXをギャグのツールとして見事に使いこなすなど、褒めたい点はたくさんあるのですが、特にチャウ・シンチーの女優の使い方に拍手したいです。ヒロインのジェリー・リン(リン・ユン)のかわいさと、清純派を脱ぎ捨てて悪女を演じたキティ・チャンのエロさにやられました。しかし、これほどの映画公開で1年もかかるとは。日本での中華圏映画上映の機会が減っているのは残念」ということですね。いまもね、先週の『疾風スプリンター』と、この『人魚姫』と、ジョニー・トーの『ホワイト・バレット』が同時に公開されているけど、どれも公開規模は決して広くないというあたりね、残念なあたりですけどね。でも、チャウ・シンチー映画を見る環境としては最高でしょうね。これ(中国広州で観るという体験)ね。マイトガイさんでした。

一方、ダメだったという方。ラジネーム「気晴らし」さん。「タマフルの中で“付き合い”という単語が流行っている気がしますが──」。これは三角絞めさん用語ですね。“付き合いで見に行きました”という。「私もこの映画を例に漏れず、付き合いでウォッチしました。『人魚姫』なんて大昔のディズニー・アニメかよ?っていう感じですし、どう考えたってありきたりなストーリーを予見させる素材だからです。そんなナーメテール私がウォッチした結果です。結論から言いますと、つまらないとは言いませんが、個人的にはあんまり乗れませんでした」。まあ、チャウ・シンチー映画はクセがありますからね。あんまり必要ないセリフが多いみたいなね。要は、ストーリーの本筋と関係ないギャグが多いんじゃないか? みたいな指摘。

「……登場人物の行動が基本的に観客を置いてけぼりにします」。これもだから、ストーリーと関係ないギャグがいっぱい入ってきたりするんでね。「ドラマの雑さは枚挙にいとまがありません」などなど、いろいろ指摘していただきました。ただ、「嫌いにはなれない」みたいな、そんなテンションもうかがえるメールでございました。

はい。というわけで『人魚姫』、私もとにかく2館しかやっていないんで。新宿のシネマートと……でもなんとなく僕は気分的に、チャウ・シンチーの映画を見るならっていう感じで、楽天地シネマズ錦糸町。錦糸町気分で行ってまいりました。2回、見てまいりました。

アジア映画歴代興行収入1位。さすがアジアの喜劇王チャウ・シンチーと。本人が出演しなくなった……いままでは主演もしていたんだけど、前作から主演しなくなった『西遊記 はじまりのはじまり』、2013年の作品。こちらは当コーナーでも2014年12月6日に扱いましたが。でも、本人が出演しなくなった『西遊記』以降もですね、ある意味さらに……ヒットはさらに拡大しているわけですから。スーパーヒットメイカーとしての立ち位置を、失速させるどころか、さらに強固にしているということですね。大したもんだということなんですけども。なのに、この日本での極端な冷遇ぶりは一体? という感じですよね。

まあ、『シネマハスラー』時代の2008年に扱った前々作『ミラクル7号』あたりから、なんか日本での公開規模があんまりね、小さくなってきたという感じがしちゃいますけどね。その前作の『西遊記』の時もそうでしたけど、結構3D上映用のギミック演出も多かったりするのに、東京ではそもそも3D版の上映がなかったりとかですね。あと、今回の『人魚姫(原題:美人魚)』、パンフレットさえ作られていないという状態ですね。ということで、非常に残念なんですが……まあとにかくいま最もアジアの大衆の心を掴む映画を作る男というのは間違いないチャウ・シンチー。前作『西遊記 はじまりのはじまり』は、その時の評の中でも言いましたけど、中国では「恋愛経典」とまで言われてクラシック化しているチャウ・シンチー製作・主演の1994年・95年に二部作で作られた『チャイニーズ・オデッセイ』。これは西遊記が元になっていますけども、『チャイニーズ・オデッセイ』に対する、チャウ・シンチー自身によるセルフアンサー的な作品だったと。

つまり、自らが出演しないで監督に専念しますよというキャリアの一大転換ポイントなわけですね、『西遊記 はじまりのはじまり』は。そこで改めて、自らの代表作のひとつである『チャイニーズ・オデッセイ』というのに立ち返ってみせたかのような一作だったわけですけども。で、今回の『人魚姫』も、基本的には『西遊記 はじまりのはじまり』以降のシフト、というので来ているというのがまず言えると思いますね。ちなみに僕、個人的にはというか、どう考えても、邦題は『チャウ・シンチーの西遊記』とか、『チャウ・シンチーの人魚姫』でいいだろ?って思うんですけどね。っていうか、すべき。『人魚姫』だけだと、ちょっとこの映画の感じが全然伝わらないんじゃないかな?っていう感じがしちゃいますけどね。

とにかく、まずこの『西遊記』と同じく、誰もが知る古典的物語をベースにしているものであると。今回は言うまでもなく、アンデルセンの『人魚姫』。要は、人間の男に恋してしまったがゆえに、非常に大きな自己犠牲を払うことになる、人ならぬ少女の悲恋の話。で、この「悲恋」っていうのがまさに、さっき言った『チャイニーズ・オデッセイ』から『西遊記 はじまりのはじまり』というこのラインにも連なる、チャウ・シンチーの得意なテーマでもある、というのはあるんですけど。で、その誰もが知る『人魚姫』的な物語の骨格というのをベースに、これ以上ないほどベタベタでコテコテな……ただ、「ベタベタでコテコテ」って言うんだけど、同時にそれっていうのは、基本的にサイレント映画的なんですよね。

あんまりセリフに頼らないというか。動きとか顔とか、あるいは設定というか。ある人物が何かしようとするのが、こういう仕掛けで上手くいかない、というのが連続するとか、そういう風にサイレント映画的であるという意味で……まあ正しく「古典的」でもある、まあくっだらない——これは褒めてますよ——心底くっだらねえギャグと、これもやっぱり娯楽映画の根源に非常に忠実なアクション描写と、あとやっぱり、さっき言ったようなベタベタ・コテコテな二昔前ぐらいの牧歌的なギャグが連発されているそのムードを、根こそぎ破壊するような、ドギツいショック描写。

さらにはそこに、作品によっては仏教的、アジア的哲学……『カンフーハッスル』とか『西遊記 はじまりのはじまり』は完全にそういう(仏教的、アジア的な)哲学であるとか、今回の『人魚姫』であれば「エコロジー」であるとか、あるいは、これをいま中国で大々的にヒットする映画としてやるのは非常に勇気があることだと思うけど、資本主義浸透以降の拝金主義批判であるとか……あるいは、こうとも読めるよね、「少数民族迫害問題」……みたいな。そういうところに向けたヘビーなメッセージに至るまで、要はチャウ・シンチーが、娯楽映画というものを通じて、観客、大衆に伝えたいと考えていること、要素全てが……これ、チャウ・シンチー映画の特徴なんですけども、その全ての要素が「同時に」、しかも何重にも折り重なった形で、これでもか! とばかりに連続して提示されていくというね。

だから我々観客は、基本的には吹き出したり、あきれ笑いしたりして、「くっだらねえ!」とかってゲラゲラッて笑ったかと思えば、その直後にギョッとさせられたり、あるいはドン引きするぐらいのショック描写があったり、とかみたいな感じでね。で、最終的には「でも、なんかとてもいい話を見たな」という。意外なまでに深い感慨を……「あれ? なんか結構、すっげーくだらねえギャグばっかの連発だったのに、なんか最後、すごく立派なものを見た感じがする」っていうような感慨を抱いて映画館を後にする、というような。いままでクドクド言ってきたことを一言でまとめれば、「いつも通りのチャウ・シンチー映画です!」(笑)ということですよね。

たとえばね、かつての香港映画の猥雑さ。言ってみれば、ダーティーさですよね。っていうのを、「どれだけ中国という国がリッチになろうとも、意地でも俺は、その香港映画の猥雑さ、ダーティーさを継承する!」と言わんばかりに、脂っこく、ギラギラした……例えば、美術であるとかね、あるいはここですよね。人の顔のチョイスですよね。きったねえ顔のおばさんとか、きったねえ顔のおじさんとか、バカな面したガキとか。もう、「よくこれ、選んできたな。うわー、なんか大昔から中国にいた感じ!」みたいな。たとえば今回で言えば、冒頭。これがびっくりするんだけど、結局本筋と全くなんの関係もないインチキUMA博物館のシーンがあるわけ。本当にくだらないだけのシーンね(笑)。で、出てくるいろんな人たちの顔であるとか、美術であるとか、ほとんどもう、はっきり言ってホイ兄弟ですよ。ホイ兄弟の映画みたいな。『Mr.Boo! ミスター・ブー』っていう感じの冒頭の場面。しかも、本筋と関係ねえみたいなのとか。

あるいは、ポスト・タランティーノ的と言っていいと思うけど、ああいうサンプリング/DJ的な選曲センスを、アジアン・サブカルチャー的なところに置き換えたような、意表を突く既存の音楽の使い方ですね。前回の『西遊記』だと『Gメン’75』のテーマが流れるとかありましたけど。今回で言えば、先ほどのメールにもあった通り、『ドラゴン怒りの鉄拳』。しかもエコロジーメッセージに乗せて『ドラゴン怒りの鉄拳』が乗ると、「ああ、これは本当に怒っているんだ」っていう感じがするとか。あと、ある場面で唐突に流れる『ゲッターロボ』のテーマ。時々やっぱりね、日本のサブカルチャーが入ってくるあたりがチャウ・シンチーですね。あと、エンディングテーマの『射雕英雄伝』という香港の武侠ドラマのテーマ曲であるとかね。

まあ、そういう選曲センスであるとか。あとは何より、最初は一種の「醜女」ですよね。ちょっと見た目はアレな人として、それこそちょっとブスとか、顔がボツボツしていたりとかさ。『少林サッカー』とかでもありましたけど。最初は一種の醜女として画面に現れたヒロインが、次第にその本質的な美しさを露わにしていくかのように見せる、というチャウ・シンチー一流の女優の輝かせ方という点で、たとえば今回で言えば新星、12万人のオーディションを勝ち抜いたリン・ユンさん。ちょっと星野真里さん似というか、非常にかわいらしいんですけど、この主人公のシャンシャン役が、本当にむちゃくちゃかわいいというね。ちょっとスー・チー似だったりして、チャウ・シンチー好みだなという感じがする美少女だったりしますよね。

あるいは、さっきのメールにもあった通り、たとえば『ミラクル7号』では超かわいい女教師を演じていたキティ・チャンが、今回は非常に冷たい美女として悪役に徹していたりする、っていうのもなかなかグッと来るあたりだったりして。そういう風に女優の見せ方がバッチリだったりとか。あとは、きっちりと何度も何度も出てくるゲロ・ウンコネタとか。とにかく、あらゆる意味で、チャウ・シンチー節っていうのは本当に健在だという作品でございます。前作『西遊記 はじまりのはじまり』の、「空虚王子」っていう顔を白く塗った役、覚えてますかね? あれを演じて爆笑を……たぶん『西遊記 はじまりのはじまり』でいちばん笑いをかっさらっていった空虚王子役の台湾のスーパースター、ショウ・ルオさんという方が、今回もですね、言ってみればケンタウルスのタコ版みたいな感じの「タコ兄」というキャラクターで。特に中盤の「鉄板焼き」シーンでの顔芸で、まあ持っていく持っていく、っていうね。本当にくだらないシーンなんですよ。もう本当にひどいんだけど。まあ、そのへんも楽しいしですね。

あと、途中で『西遊記』の沙悟浄と三蔵法師を演じた2人のコンビによる、警察の取り調べのシーンがあるんですけど。そこで「(人魚っていうのは)半分人間で半分魚なんだよ」って言われて、絵を描いてみせるんだけど、全然話が通じないっていう(ギャグがある)。これ、一部で、日本の漫画『ONE PIECE』のギャグのパクリじゃないか?っていう疑惑みたいなことが言われていて。まあ、ひょっとしたらチャウ・シンチーのことだから『ONE PIECE』ぐらい読んでいても当然かもしれないんですけど。ただ、今回の取り調べシーンのギャグは、やっぱりちゃんと映画的な「間」のギャグ感もちゃんと入っているんで……見事に爆笑をかっさらう場面であるとかですね。

あと、たとえば前作『西遊記』のオープニングのあの水辺の村のセット、本当にすごかったですよね。あのセットに続いて今回も、人魚たちがひそかに住処にしている難破船があるんですね。難破船の中の巨大セットがあって。ここはちょっと、その水辺とその周りにいろいろと鉄っぽいガラクタが並んで、そこに異形の者たちが集っている感じで、僕はちょっと『バットマン リターンズ』のペンギンの隠れ家のセットを連想したんですけども。その人魚たちの隠れ家のセット。いろいろとアトラクション的な仕掛けがあちこちにあるわけですね。それが前半で、ある意味ギミックというか、ふざけた感じで見せられるんだけど、それがクライマックスの逃走劇では、ちゃんと活劇用の仕掛けとしてもう1回、別の感じで生かされたりとか。そのあたりもさすが、毎回毎回チャウ・シンチーよくやるなっていうあたりだし。

あと、先ほど(リスナーメールにあった)「不必要なセリフ」……要はギャグシーンで本筋から外れるセリフが多いのも事実だけど、結構肝心なところの……たとえば悲恋にまつわる会話をしているところとかは、実はチャウ・シンチーの映画って、常に表現が直接的じゃないんですよね。言葉上言っていることそのまんまを示しているんじゃない、その向こう側に、間接的になにか事の本質を暗示するというか。、そういうセリフの使い方をいつもチャウ・シンチーはしていて。要は、意外とセリフっていうのに対して繊細な扱いを実はしているっていうあたりとか、やっぱりちゃんと「映画の楽しさってこういうことだよね」っていうのを、チャウ・シンチーは、すごく体感としてわかっている人だというのが(伝わってくるので)、毎回信頼できるなと思って見られるあたりでございます。

あえて言えば、今回の『人魚姫』に関してはですね、映画が始まってしばらくは、正直、わかりやすく感情移入できる……つまり、観客にとってお話の入り口となるキャラクターが1人もいないまま、結構お話が進むんですよね。しかも、冒頭にさっき言ったインチキUMA博物館の、なんにも本筋と関係ないシーンまで付くため、今回の『人魚姫』に限って言えば、始まって結構しばらく、「えっ、これ何の話? どの方向で見ていればいいわけ?」っていう感じで、そういうちょっと居心地の悪さを一定時間感じるであろうというのは否めないかなという風に思います。

もちろん、人魚姫もさることながら、その片方の相手となる、オリジナルの『人魚姫』でいえば人間の王子にあたる、ダン・チャオ演じる成り上がりの青年実業家。キャラクターとして、本来は感情移入しづらいキャラクターなわけですよね。なんだけど、そのキャラクターが、とはいえ人魚であるシャンシャンと触れ合ううちに、元から金持ちだった人じゃないため、元は貧しい出自だった自分みたいなのも思い出したりとかで、要は虚飾ではない本来の自分を取り戻していくわけですね、物語上。で、この「虚飾ではない本来の自分を取り戻す」っていうのを、これがチャウ・シンチー映画なんですよね。もうぬけぬけとっていう感じなんですけど。序盤で「この人のヒゲ、なんだろうな? 嘘くせえな」って思って見ていたら、それが付けヒゲだったと。で、その付けヒゲが取れる……つまり、付けヒゲが取れる=虚飾ではない本来の自分が露わになるという、これ以上ないほど視覚的な表現、変化として見せるというね。

で、その後に、ちょっとこれもどうかと思うほど無邪気で丸腰な遊園地でのデートシーンがあるわけですよ。もう遊園地の遊具で「うわーい! うわーっ!」って遊んでいるところを、ちょっとどうかと思うぐらい丸腰で見せるというデートシーンが展開されるに至って、我々観客も当初全く、「こいつ、感情移入できないでしょ?」って思っていたこのキャラクターに——これは人魚シャンシャン側の心情変化と同じなんだけど——いつしか、なんか「許せてきてしまう」というこのあたり。僕はこれはやっぱり、チャウ・シンチー喜劇ならではの力技に、「持っていかれる」ということなんだと思うんですけどね。

またクライマックス、これぞチャウ・シンチーっていうね、本当にもう……そこがマイナスになってしまった人もいるようですけども、本当に容赦ないバイオレンス描写。『西遊記』もすごかったですけどね。この間、改めて見直したけど、ひどい。悟空、悪すぎ(笑)。まあ今回も非常にドン引きな、容赦ないバイオレンス描写があるわけですけど。で、主人公が追い込まれて……で、今回はね、主人公が追い込まれたところで話が終わってしまう。まあこれ、『人魚姫』だからしょうがないんですね。『人魚姫』ってやっぱり悲劇だし。人魚側が人間側に勝っちゃったら、『アバター』みたいな話になっちゃうので、そんなわけにもいかないんでしょうがないんだけど……いつものチャウ・シンチー映画だったら、こうやって主人公たちがもう追い込まれて追い込まれて、これはひどい!ってなったところから、さらにもう一大逆転あって、大カタルシスみたいなのがあるところを、今回は割と本気でしんみりしたまま終わってしまうため、いつもよりは若干……それでも普通の映画よりはかなり満漢全席的にいろいろ詰め込んでもらっておいて、こんなことを言うのは贅沢なのかもしれないけど……ちょっと物足りなさが残る、というのはあるかもしれないなと思います。

でも、とはいえやっぱりですね、たとえばクライマックス。人間に追い込まれて傷ついた人魚シャンシャン。もう本当にドン引きの……「ちょっと血が出ている」とかじゃないんですよ。もうボロッボロ。ちょっとドン引きぐらいのボロッボロになった人魚シャンシャンを、自らも、文字通り矢面に立ちながら、しかも、すごい悲壮感あふれる場面なのに、でもそこにもちゃんと笑い要素を……ケツに矢が刺さって「アアッ!」みたいなのを(笑)。だからいま、泣かせようとしているのか、笑わせようとしてるのかなんなのかっていう、このチャウ・シンチー感。それをしながら、海に帰そうとするっていうこのいちばん泣かせる場面。その中にも笑いも出てくるし、その瞬間に、僕はここでグッと来ちゃうんだよね。海面に、主観ショット的にグーッと寄っていくカメラワーク。このカメラワークだけで……「ああっ! すぐそこに帰したい」っていう(登場人物の気持ちが伝わる)、この「カメラワークだけで泣かせる」感じとか。

あるいは、後日譚がつくんですけども、その後日譚で、ある人物が、名前を呼ばれてやってくる。その歩き方。背中からの歩き方だけで、観客に全てを、「ああ、こういうことか」と悟らせる。さっきから言っているけど、実はセリフで説明しているところはそんなになくて、ある動きであるとか、そういうのでちゃんと見せるというあたり。別に難しいことをやっているわけじゃないんだけど、チャウ・シンチーのたしかな、まさに「映画的な語り口」っていうのに、やっぱりドスンと感動させられるなということだと思いますね。

まあ今回の『人魚姫』ね、『西遊記』もちょっとその気はあったんだけど、いくらなんでもCGがチープすぎるんじゃないか? とかね。ぶっちゃけ、クオリティは前作よりも明らかに後退していると思うんですけど。そういうのもあるんだけど、ただそれすらチャウ・シンチー的には、「いやいや、映画っていうのは……少なくとも俺の考える、俺の作る娯楽映画っていうのにおいては、リアルとかそこじゃないんだ」っていうね。「CGとかだったらCGをCGっぽく、作り物っぽく見せる方がいいんだ」っていう、ある意味堂々たる確信に基づいているんじゃないか?……と、ラストショットを見る頃には思えてくるぐらい、「ああ、これはこれでいいのかな。むしろこれがいいのかな」っていう感じがしてくるぐらいですね。で、ひょっとしたらたぶんチャウ・シンチーは、本当にそう考えている可能性もある。だからこそのアジア・ナンバーワン・ヒットというかね。アジア人の観客、特に中国の観客の琴線を鷲掴みにする何かがあるはずなんですよね。

ということで、結論はやっぱり、チャウ・シンチーの映画は非常に楽しいな!ということだと思います。チャウ・シンチーのキャリアのなかでこれ(『人魚姫』)がどのくらいの位置に行くか?っていうのはちょっと微妙なところかもしれないけど、相変わらずやっぱり健在でございます。非常に楽しい。公開館数が2館しかないですけど、やっぱりお子様がいる方とかは、子供とかをもっと連れて行くといいと思うよ。たとえばさっき言ったタコ兄の鉄板焼き屋のシーン。もう子供はたぶん、映画館の中でのたうち回って笑うはずだと思いますよ。ということで、本当に楽しい作品でございました。2館だけで公開というのはもったいないと思います。ぜひぜひ劇場でご覧ください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『沈黙 -サイレンス-』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

(以下、ガチャ回しパートにて)……あのー、チャウ・シンチーの映画ね、ぜひ中国語圏というか、そういうネイティブなところで見てみたいですよね。たぶん言葉はわからなくても、普通にこっちもわかるはずだし。そういう最高の環境でも見直してみたいなんていう風に思いました。

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