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【映画評書き起こし】宇多丸、『ザ・コンサルタント』を語る!(2017.2.11放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーでございます。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ザ・コンサルタント』

(BGM:テーマ曲が流れる)

ベン・アフレックが謎の会計士を演じたサスペンス・アクション。会計士として働くクリスチャン・ウルフには世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、なおかつ凄腕のスナイパーという裏の顔があった。そんなウルフにある日、大企業の財務調査の依頼が舞い込んだことから異変が訪れる。共演は『マイレージ、マイライフ』のアナ・ケンドリック、『セッション』のJ・K・シモンズら。監督は『ウォーリアー』『ジェーン』などを手がけたギャビン・オコナーということでございます。『ジェーン』は去年公開されたナタリー・ポートマン主演の西部劇で、僕、これだけは見逃していて。ちょっと本当に申し訳ないんですけどね。

ということで、『ザ・コンサルタント』を見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のみなさんからの監視報告(感想)メール、いただいております。ありがとうございます。

で、メールの量は普通ということなんですが、ただし賛否の比率は「賛」が8割。残りの2割が「まあまあ」とか「ダメだった」という意見ということで、非常に褒めている方が多いという比率になっております。「“ナメてた相手が殺人マシーンだった”系譜の新たな傑作。むしろ、ナメてた映画が思ったよりも変な映画だったという感じ」「ベン・アフレックの当たり役」「様々なパズルのピースが次々とハマっていく快感」など絶賛の声が多く並んだ。

ただ、主人公が抱える高機能自閉症の描き方については、意見が分かれた。実際に障害を抱える方や、身近にそういう人がいたという人の間でも意見は真っ二つ。「自閉症を丁寧にフェアに扱っている」「希望と優しさがあり、思わず泣いてしまった」という声もあれば、「実際の高機能自閉症患者はここまで恵まれていない」とか「(劇中の描写の)虐待とも言える教育で矯正されただけで、不快に感じた」という声も……ということでございます。

ということで、代表的なところをご紹介しましょう。「ハリバット」さん。「『ザ・コンサルタント』、見ました。最高です。5億点です。冒頭の主観視点の現場映像だけで『これはいい作品だろう』と思いましたが、個人的にはこの作品が傑作たる要件を満たしたのは、主人公およびそれに関係するある人物のキャラ付けが自閉症・神経症患者であるということです。というのも私自身、数年前に重度の強迫神経症を患い、非常に辛い思いをしたからです。主人公の母親のくだりは辛すぎて、初回はまともに見れませんでした。幸運にも自分は治すことができましたが、先天的に患っている主人公はそのまま大人になり、やはりと言うべきか、特殊な人生を送っています。途中から完全に肩入れモードで鑑賞していましたので、得意分野だと饒舌になる様子や、倒した敵にかならずヘッドショットを決める強迫行動など……」。それは強迫行動っていうか、プロ(としての)行動なんだと思うんだけども、まあまあ。

「……そして、主人公やその仲間のある人物も、ともに父親が守っていたのが印象的です。その守り方や育て方はまるで違うものですが、親の愛が痛いほど伝わり、そこでも号泣。作品を通して作り手がこういった疾患を持つ人々を暗に肯定してくれているようで感動しました。それでは、私のような人間以外には楽しめないのか? というと、そんなことはありません。ギンティ小林さん命名の『ナメてた相手が実は殺人マシーンでした物』として見ても最高です。ただし、ジョン・リスゴーが出た時点で、この作品のサスペンス性は一気に落ちるのが否めないのは事実です」っていうね。まあ、「曲者!」って言うことですかね。「……なによりもベン・アフレックが素晴らしい。『ゴーン・ガール』に続く名演で彼の代表作だと思います。傑作です」というね、声もいただきました。

一方、こんなご意見もございました。「あざらしおーじ」さん。「細かいところは諸々気になりましたが、エンタメ映画としてはそれなりに楽しめる作品だと思います。しかし、私はこの映画でどうしても許せないことがあります。それは自閉症である主人公の描き方です。幼少期にはコミュニケーションが難しいレベルの自閉症だった主人公が、父親のスパルタ教育を経て軍人になり、高い戦闘能力などを身につけ、さらに超有能な会計士になり、超人的に強くてかっこいい暗殺者になる。作品としては障害を抱えていても素晴らしい才能があり、それは開花すると素晴らしい人間になれるということを伝えたかったのかもしれませんが、この描き方は『障害は抑えつけて叩き直せば素晴らしい人間になるんだ』としか見えない。それはつまり、障害がアイデンティティーであることの否定であり、個性としては排除することが正義だという風に取れます。私は物心ついた頃からADHDや自閉症を抱える人と多く関わってきました。それゆえに、この作品の自閉症のキャラクターの描き方には不快感を隠せません。役者の演技が下手とかそんなこと以上に、作品のテーマに深く傷つきました」というご意見でございました。

さあ、ということで『ザ・コンサルタント』。私もガチャが当たる前に先週、バルト9で1回見て、さらにT・ジョイPRINCE品川でも見てまいりました。原題『The Accountant』。まあ、「会計士」っていうことですね。またまたこれね、ネタバレしないで真の魅力を伝えるのがなかなか難しい作品なんですよね。ネタバレゼロというわけにはちょっといかないのかな? とも思いますが。まあ、「職業:会計コンサルタント/本業:腕利きの殺し屋」っていう宣伝コピーなどからもわかる通り、基本的には例によってと言うべきか、先ほども出ました、『映画秘宝』のギンティ小林さん命名、「ナメてた相手が殺人マシーンでした物」のアクション映画。ジャンルムービーであることは間違いないのですが。

なので、何も難しいことはないはずなんですが、実際にそういうようなジャンル映画として……「なんで、ただの会計士が? なんでただの会計士が殺せないんだよ?」「っていうか、なんでただの会計士に、全員、こんなことにされているんだ!?」っていう……で、観客が「ざまあ!」っていう、そういうカタルシスが味わえるところもちゃんと用意はされているんですが。本作、見た方ならわかると思いますが、お話としていちばん大事なところは実は、その敵が「うわっ!」ってなって、「ざまあ!」っていう、そういうところじゃなかったんだって。「えっ、本当はそういう話だったの?」「えっ、そっちメインの話?」という風にですね、当初のジャンルムービー的なところから期待されるものから、どんどん主軸がスライドしていく。で、最終的に「真の物語」。本当はこれが言いたかった、という物語が姿を現していくという、一風変わった作りがあって。そこにこそ、この作品特有の、独自の魅力がある。

そしてその真のストーリー、「本当に描きたかったのはそこだった」っていうのが最終的に明らかになる時に……たしかに最初に期待していたものとは全く違う。「ナメてた相手が……」っていうのでスカッとして、「ざまあ!」っていう感じで、スカッとして帰ろうっていう期待とは全く違うんだけど、なんか違う種類の感動というか。「あっ、こんな余韻を胸に映画館を出るとは思わなかったな」っていうタイプの映画なんですね。なので僕は総論として、とても面白い、いい映画なのは間違いないけども、実はかなり変わった作品でもあるというのは、まず未見の方にお伝えしておきたいあたりでございます。だから、『イコライザー』みたいな感じ……たしかに『イコライザー』みたいなところもあるんだけど、でも全然違いますというあたり、一応言っておきたいという風に思います。

ということで、まずは極力大きなネタバレはしないようにしながら、この『ザ・コンサルタント』という映画独特の魅力というのをお伝えしていこうと思いますが、まずはやっぱりなんと言ってもこの作品特有の魅力ね。ベン・アフレック演じる主人公の会計士。クリスチャン・ウルフという名前で呼ばれておりますが、そのキャラクター造形がやっぱり——この言い方は許してください。エンターテイメントだから——すごく「面白い」っていうことですね。もちろん、扱われているのは劇中で本人が説明する用語で言う「高機能自閉症」。で、本作はその主人公の会計士の「現在」っていうのに、時折、その自らの生い立ちの回想であるとか、たまに関係者の回想なども交えて、過去のタイムラインっていうのがフラッシュバック形式で挟み込まれることによって……まさに劇中、象徴的に何度も言葉でも物としても出てきますけども、パズルのようにいろんなことが当てはまって、次第に事の真相が明らかになっていくという、いわゆるミステリー的な構成になっているわけですけども。

で、そこで描かれる少年時代の主人公。その自閉症の症状が、先ほどメールにもありましたけど、少年時代はやっぱりかなり重そうなんですよね。(映画の)冒頭でも心配されている通り、将来1人で普通に社会生活を送るのは正直、難しいんじゃないか?っていう風にどうしても見えてしまうレベルで、結構重そうに見える。たとえば、ちょっとした光や音に過敏に反応してしまうというようなことも言われているし。実際にその少年時代のところの登場シーンでも、あるきっかけで少年時代の主人公はパニック状態になってしまうわけですね。ただ、そこで彼に手を差し伸べるのが……自分自身、彼と同じか、ひょっとしたらそれ以上に症状が重そうなというかね。社会の中では恐らく弱者、異物として生きていくしかないのであろう、あるキャラクターが、彼に手を……しかも結構必死で、手を差し伸べるという。このあたりが、実はさっき言った本作の「真のテーマ」っていうところに最終的にはまたつながっていく。関係してくる、というあたりの描写が、冒頭で実は出てくるんですけど。

とにかく、結構自閉症が大変そうな少年期っていうのが描かれて。そこから、成人した姿にポーンと移る。ベン・アフレック演じる現在の主人公の姿にシーンが移ってみると、「あれっ?」っていう感じで、一見ごく普通の社会人として会計士を務めているように見えるわけですね。まあ、小さな会計事務所。あんまりお金を持ってなさそうな顧客だから、そんなに大きな会計事務所じゃなさそうだけど、まあ普通に会話も一応できているように見えるし……っていう感じなんだけど、ただこれ、見ているとここ。成人したクリスチャン・ウルフの登場シーンが、これ非常に上手くて。この会計士の場面が。

まず、口調としてはもちろん普通なんだけど、人との会話の「機微」的なところを完全に欠いているという感じですよね。たとえば、おばあさんが「このネックレス、どう? これっていい?」(と聞いたのに答えて曰く)「別に興味ないですね」みたいな。そういう、機微を完全に欠いているというのを示して、「ああ、やっぱりちょっと普通ではないな」っていうのをさり気なく見せつつ、でも同時にその老夫婦。お金がなくてちょっと困っている。どうやって資金繰りすればいいんだ?っていう時に、さり気なく節税方向に導いてあげて。で、ここでの暗黙での「こうしなさいよ」っていう伝え方とかが、やっぱりベン・アフレックならではのユーモア感っていうのがにじみ出ていて、とってもいいんですけど。

ここで、ちゃんと会計士として非常に優秀であるということはもちろんのことながら、「あ、ちゃんといいやつなんじゃん」っていうことがまず伝わるようになっていると。でもやっぱり、それ以外の用件でない会話になると、やっぱり異様にそっけなくなるのね。「一緒にご飯食べない?」「はい、おつかれ(バタン!)」みたいな(笑)、そういうようなことになる。つまり、このキャラクターの多面性……もっと言えばまあ、「普通じゃなさ」ですよね。「やっぱりちょっとこの人、普通じゃない」っていうのも端的に、会話の端々で伝えた上で、同時に観客には、「でもこいつ、絶対に悪い人じゃない」っていう風に無条件で確信させる。いきなりちゃんと感情移入させる作りにもなっているというですね。これはやっぱり、非常に複雑な設定にしては、娯楽映画の主人公にもちゃんとなっていて、非常に見事な……この最初の会計事務所の場面だけでもう、的確に伝わっているということで、非常に上手いなという風に思います。

で、そこから案の定と言うべきか、やっぱりどこか病的なものを感じさせるような勢いで、完全に統御された彼のプライベートライフ描写が始まるわけですね。まあ恐らくね、ものすごいゴミ屋敷か、ものすごい潔癖か、どっちかだろうなと思って見ていると、まあ潔癖方向なわけですよ。しかもそのプライベートライフ描写は、あとでもう1回反復して見せる。そしてその反復して見せた時に、「前と違う」ということで主人公の中の大きな内面的変化……はっきり言うと、内面的な動揺であり、もっと言えば崩壊の危機的描写となるというのの伏線ともなっていて、ここも非常に上手いあたりなんですけども。その、完全にコントロールされた1人の暮らしというのがある。潔癖方向のね。

で、それによって実は、内なる何かを必死で押さえ込んでいるのではないか? という危うさ。そしてもちろん、人生としての孤独さ。要するに、必死で……傍から見るとちょっと変かもしれないけど、こうやって必死で普通の人として生きているんだ!っていう、彼の人生の背負ってきたものの重さ、孤独さを感じさせるっていう点で、ここの部分はやっぱりさっき言っていた『イコライザー』。同じくナメてた相手が殺人マシーンでした系譜の傑作。先週扱った『マグニフィセント・セブン』のアントワン・フークアさんが監督した『イコライザー』をすごく連想させるあたりではあるんですけども。

とにかくこの『ザ・コンサルタント』ですね、決定的に僕、これを初回で見ていて、「なにこの映画! おもしれー!」ってなるひとつの決定的な大きなポイントは、まさにここ、彼のプライベートライフでございまして。さっきも言ったように、少年時代はちょっとした光や音にさえ過敏に反応していた主人公が、なぜ一応は、一見普通の社会的コミュニケーションはとれるようになったのか?っていうと、それは父親に、常軌を逸したスパルタ的訓練を施されてきたから。まあ、先ほどのメールにもあった通り、はっきり言えば児童虐待です。児童虐待レベルでスパルタ訓練を施されてきた。

ただ僕は、さっきのメールの方とはちょっと違った印象というか、決してそれが肯定的に描かれているとは全く思えなくて。その結果、彼は要するに闇社会でしか生きられない人になっちゃっているわけだから。たしかに一見、スーパーマン的能力は身につけているけども、もう「冥府魔道」に追い込まれちゃったわけで(※宇多丸註:『子連れ狼』を踏まえた表現です、念のため)。あの施設で暮らしていれば、少なくとも平穏な日々だったわけですから。だからあれは決して肯定的に描かれているわけではないのでは?っていう意味で、そこはそんな不快という風には思わなかった。むしろ、父親っていうのが実はいちばんのサイコパスだったっていうあたりが非常に不気味な描写なんですけども。

ということで、訓練でなんとか社会に適合を、無理やりさせられたんだっていうことが、徐々に回想で明らかになっていくわけだけど。で、ここですよ。主人公が仕事を終えてきて、1人で家に帰ってきました。プライベートライフ。その、父親からのスパルタ的訓練の延長線上でついた習慣なんでしょうか? たった1人で必要最小限の……食器なんかももう必要最小限で静かに暮らしている、完璧に統御された生活サイクルの中で静かに暮らしているこの主人公……でも実は、夜は、夜な夜なこんなことをやっている。部屋を真っ暗にして、まずストロボを焚くわけですよ。強烈なストロボを。もう見ている側も「わーっ、ちょっとおかしくなっちゃう!(パンパンパン!)」って勢いで焚く。そして、タイマーをかけて、こんな曲を大音量でかけ始める!

(BGM:The Quemist『Stompbox』が流れる)

これ、大音量っていうのは、いまみなさんがラジオで聞いている音量じゃない。映画館だともうちょっと「うわーっ!」っていう音量で、ザ・ケミストっていうイギリスのロックバンドの『Stompbox』っていう曲なんですけども。こういう、もう激ラウドなロックを大音量でかけながら、彼が何をしているか?っていうと、やおら木の棒を取り出して、弁慶の泣きどころ、向こう脛を、ゴーリ、ゴーリ、ゴーリ……と、じっくりじっくり鍛えだす、という描写があるわけです。要は、痛みも含めて外部からの刺激に慣れるための訓練っていうことなのかもしれませんけども……とにかくここ、猛烈に、変態っぽい!(笑)わけですよ。「こいつ、やっぱヤベーだろ!」ってなる場面で。つまりこれは映画的には最高です!っていうね。

で、まあ、先ほどのメールに対しての、僕からの意見ですけども。つまり彼はやっぱり、こんな異常な訓練をして、ようやく平静を保っているわけで。これはやっぱり(こんなやり方で)平静を保っている分、病的だろうっていう。決して彼の現在を全肯定しているとはとても思えない。そういう描写として、僕はここはすごくよかったと思いますし。映画的にもあまりにも異様で……非常に、これを入れたことが、この映画の大成功のポイントだと思いますね。さっき言った通り、後にこの儀式が映画の中で反復されるんだけど、ついに破綻してしまうという場面で、もともと「ヤベー、こいつ!」っていうのがついに破綻することで、彼の中の堤防が決壊したという感じが、より切迫したものとして伝わってくるという、非常に名場面じゃないでしょうか。

一方では、彼が会計士として才能を発揮する場面があるわけですね。不正会計を見抜くという。ここはいわゆる「変人天才物」。ありますよね? 天才数学者物とか。『イミテーション・ゲーム』でもなんでもいいですけど、変人天才物としての楽しさもここはあるというね。この映画、ナメてた相手が殺人マシーン物っていうだけじゃなくて、変人天才物の面白さもある。で、そこに絡んでくる、本作でいうとヒロイン的な位置づけのアナ・ケンドリック。そのアナ・ケンドリック演じるヒロインはヒロインで、彼女は彼女で、人付き合いがスムーズとは言いがたい。彼女は彼女で、ちょっと空気が読めないコミュニケーションをするところがあるという、その理系女子っぷりと、ベン・アフレック特有の……役柄としてはめちゃめちゃキレるんだけど、ベン・アフレック特有の、あのヌボーッとしたでくのぼう感っていうのが、いい感じでスウィングしてる。アナ・ケンドリックも、なんか野暮天感っていうか… …特に登場シーン。最初にテーブルに突っ伏して寝ているところの……もう、あそこたまらんですね。「ダメだ、こいつ! かわいい〜」っていうこの感じがね、最高っていう。

まあ、この2人のスウィングしている感じが非常に絶妙に、オフビートな、外したユーモア感というのを醸し出していてですね、見ていて本当に微笑ましいというか。「あ、ナイスカップルじゃん」と自然に思えてくるというあたり、非常にいいと思います。この彼女と主人公の会話っていうのはしかも、決して直接的な触れ方はしていないけど、しかし、実は作品全体にとって大きな意味を持つ本質的なテーマに、しっかりと実は触れている会話で。しかも、物語的な伏線にもなっているという意味でとても重要だし、会話の脚本としても、シーンとしても、とっても丁寧に作り上げられていて。この2人の会話シーンはとても素晴らしかったと思います。

事程左様にと言うべきか、この『ザ・コンサルタント』という作品は、もちろん、『ザ・レイド』でおなじみインドネシアの格闘技「シラット」を駆使した格闘アクションシーン。まあ、この(シラットを学ぶ)少年時代の主人公と弟が訓練を受けるシーンだけはちょっと、映画のトーンとして、ここだけ浮き上がっちゃっているなという風には思いましたけど。あとはまあ、先ほどのメールにもあった通りね、常にヘッドショットでとどめを入れる『ジョン・ウィック』同様のガンファイト。これは要するにプロとしてかならずとどめを刺すっていう、そういうことだと思うけども。そういうアクションシーンもそりゃあ見応え十二分なんだけど……ただ、最終的にこの映画、印象に残るのはどっちかって言うとね、会話シーンを中心とした、人間ドラマの方だと僕は思います。と、それを支える役者陣の本当に繊細な演技と、それを捉える繊細な演出っていうことですね。

ちょっと役柄がどういう役柄っていうのは伏せますけども、ジョン・バーンサルさん。『ウォーキング・デッド』とか、映画でいうと『フューリー』とかでも非常に印象的でしたけど、ジョン・バーンサルさんね。「ああ、この人はこんなに繊細ないい演技をするんだ、やっぱ」っていう感じでございましたね。で、今回この脚本を書いているビル・ドゥビュークさんという方はですね、他の作品でいうと『ジャッジ 裁かれる判事』。これ、ロバート・デュヴァルがアカデミー助演男優賞にノミネートされましたけど。とか、自分の経験を活かして書いた『The Headhunter’s Calling』——これは日本未公開ですけども——とかを書いている人なんだけど。で、この『The Accountant』っていう脚本自体は、前からいろいろと企画があって。メル・ギブソン主演、コーエン兄弟監督とか、そういう企画もあったみたいなんだけど、結局(監督は)今回のギャビン・オコナーさんになりました。

で、当コーナーではギャビン・オコナーさん作品を扱うのははじめてですけど、本作、今回の『ザ・コンサルタント』を彼のフィルモグラフィー上に並べてみると、非常に面白いことが浮かび上がるというか……こっからちょっとだけネタバレ要素、ちょっと多めになるかもしれません、お断りしておきますね……特に、このギャビン・オコナーさん自身が共同脚本も手掛けた場合は、つまりこういうことですね。「強力なカリスマ性とか影響力を持つ父親を中心に、兄弟同士がぶつかり合い、葛藤する」。こういう話が多いんですね。まあ2011年の『ウォーリアー』、素晴らしい格闘技映画でしたけど、その『ウォーリアー』然り、『プライド&グローリー』、これは汚職警官物でしたね、この『プライド&グローリー』然りですね。今回の『ザ・コンサルタント』も、脚本はさっき言ったように別の人なんです。ビル・ドゥビュークさんなんだけど、演出する上で脚本に手を加えるうちに、どんどん元からあった兄弟とか親子の要素がどんどんどんどん強調されて、最終的に「あれ? これ、『ウォーリアー』にすごく近くない?」と、途中でギャビン・オコナーさんも気づいたっていうぐらい、実は『ウォーリアー』のアクション映画版みたいなバランスになっているわけですね。

ちなみに、脚本のビル・ドゥビュークさん。さっき言った『ジャッジ 裁かれる判事』っていう映画も実は、さっきと同じ構造を……「強力なカリスマ性、影響力を持つ父を中心に、兄弟同士がぶつかり合い、葛藤する」話なんですよ。ということで、資質として合っていたのかもしれませんけどもね。あと、ギャビン・オコナーさんの監督作品、2004年の『ミラクル』っていうアイスホッケーの実話をベースにした映画ですけども。これも脚本は別の人なんだけど、カート・ラッセル演じるホッケーの監督が何度もしつこく、「もう1回だ、もう1回だ!」って訓練を続けさせるシーン。これは今回の、さっき言ったシラット訓練シーンにもつながる、やっぱりちょっと狂気にも似た影響力、カリスマ性を持つ父権的な存在みたいなのが出てくる話っていうところで一致しているということで。ギャビン・オコナーさん、先週のアントワン・フークアさん以上に、職人監督的位置づけで仕事は続けているんだけど、はっきりと作家性もある人ということで、面白いなという風に思いました。

今回も結局、やっぱりアクション映画としてのジャンル的枠組みをはみ出して、彼の作家的なテーマ性の方が最後に強くなってしまう。どうしてもそっちが前に出ちゃうっていうところが、いびつなところでもあり、そしてやっぱり、この映画特有の魅力でもあるという風に思いました。最終的にね、ネタバレしないように言いますが、主人公を取り巻く人物関係が明らかになる。つまり、オープニングの少年時代と呼応する場面になるわけですけど。ここで、まあちょっとテーマ的なことをざっくり言えば、やっぱり社会での異端者というか。社会の中では異物として、そして弱者として生きていくしかないような存在同士が、実は寄り添って生きている。手をつなぎあって生きていこうじゃないかっていう……実は最後に、すごく優しい余韻を残す映画だなって。「俺たちだって、ここでこうやって生きている」っていうかね。なんかそういうのがすごくいいなという風に思ってしまいました。

なので、なぜヒロインと主人公が響き合うのか?っていえば、単なる恋愛じゃなくて、そういう意味での「同志」なんですよね。お互いに、社会の中ではちょっと生きづらく生きてきた者同士ということで。だからこそ、主人公はある大きな贈り物をして。そしてその贈り物をしたということを示すような、こういうエンディング曲が流れる。

(BGM:Sean Rowe『To Leave Something Behind』が流れる)

これはショーン・ロウさんという方の『To Leave Something Behind』。「何かを残していくよ」っていうことで。最後にこんな曲が流れる映画なんですよ。で、すごくしんみり終わっていくっていう、こんなジーンとして終わる映画なの!?っていうことですね。映画ってね、もちろん「ああ、思っていた通りの方向で面白かった!」っていう面白さもあるけども、なんか結構ネットとかの感想で「思っていたのと違ったから、つまんない」っていう意見をたまに見るんだけど。でも映画にはですね、「思っていたのと違った。けど……というより、思っていたのと違った、“だから”面白かった!」っていうことがよくあって。これはやっぱり『ザ・コンサルタント』は、まさにその典型じゃないでしょうか。

細く長く愛される一作になる気がします。もちろん、続編希望!ですし。ギャビン・オコナー監督、今後新作が日本でやったらかならず、このコーナーでもガチャに入れたいと思います。ベン・アフレック、やはり私もそう思います。新たな代表作ができたんじゃないでしょうか。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ドクター・ストレンジ』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!