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【映画評書き起こし】宇多丸、『コウノトリ大作戦!』を語る!(2016.11.19放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

20161119 コウノトリ大作戦!

「映画館では、今も新作映画が公開されている。
一体、誰が映画を見張るのか?
一体、誰が映画をウォッチするのか?
映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる――
その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

宇多丸:
ここから夜11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーでございます。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画……『コウノトリ大作戦!』!

(BGM:テーマ曲が流れる)

コウノトリが宅配会社を営む世界で、次期社長を約束されたコウノトリと、身寄りのない天涯孤独な少女のコンビが赤ちゃんを届ける旅の顛末を描く。監督は『寝取られ男のラブ♂バカンス』『ネイバーズ』シリーズなどのニコラス・ストーラーさんと、ディズニー・ピクサーの短編『マジシャン・プレスト』でアカデミー賞のノミネートされたダグ・スウィートランドさん。製作・総指揮は『くもりときどきミートボール』などなどでおなじみクリストファー・ミラーとフィル・ロードということでございます。ということで、『コウノトリ大作戦!』。もうこの映画を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>の方々からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。

メールの量は、少ない! まあ、これはやむ無しですね。公開規模がもうすでにあんまり大きくないのと、本当に吹き替えしか、しかも早い時間しかやっていないんですよね。僕も結構今週ね、見るのに苦労したぐらいでしたけど。なんですが、賛否の比率は「賛」が6割、「否(よくなかった)」という方とその中間が4割ぐらい。「テンポのよいギャグがいい。特に狼の組体操が最高」「赤ちゃんがかわいいし、メッセージも真っ当」「大人が見ても楽しめる」などが主な褒めの意見。対して否定的な意見はほぼ一点。「設定に乗れない。この世界では、いままで子供はどうやって生まれていたのか?」というもの。この一点、バーン!っていうことでございます。代表的なところをご紹介いたしましょう……。

(メール紹介中略)

……はい。ありがとうございました。ということで、『コウノトリ大作戦!』。私も新宿ピカデリーで吹き替え版を2回、見てまいりました。というのは、オリジナル英語版が日本公開1週目にはちょいちょいやっていたらしいんですけど、それを先週、ガチャが当たってから見に行った私は間に合わなくてですね。吹き替え版しか見れなかった。で、これは後ほど言いますけども、吹き替え版の出来も決して悪くない。全然いいと思いますけども、詳しくは後で言いますが、この作品に関しては、オリジナル英語版を見られていないというのは評する側として「ああ、これは痛いぞ」というタイプの作品であったと思います。なので、吹き替え版しか見られていないことをお詫びしておきたいと思います。すいませんでした。ちょっと見るのが遅かった。

ということでね、とにかく英語版は公開されているにしても、基本吹き替え版ばっかり劇場にかけられている。つまり、完全に児童向け作品というイメージから、なんとな〜くナメてかかっている人が多かろうと思うんですね。まあ、何の情報もない段階だったら、僕も間違いなくそういう風に思っている。僕も含めてなんですけど、ナメてかかっている人が多いと思われるんですが、その点でやっぱり思い出すのは本作の製作総指揮にも名を連ねているフィル・ロード&クリストファー・ミラーさんコンビの出世作『くもりときどきミートボール』。これ、『シネマハスラー』時代の2009年10月3日に評しております。で、僕はその年、2009年度のベスト8位に選ぶという超高評価を下したわけですが。2作目はね、ちょっとアレな出来でしたけど、この1作目。やっぱり当時はサイコロでしたけども、当たった時に「ええ〜?」って。みんなそんな感じだったんですね。「他に見るの、あるんじゃないの?」なんてことを言ってましたしね。

あるいは、同じくフィル・ロード&クリストファー・ミラーコンビ。やはり大傑作の『LEGOムービー』。こちら、2014年4月に扱いました。あれも日本公開時の扱いはやはり似たようなものだったと思います。なんとなくナメた空気だけど……というね。なんなら、さっきから言っているフィルさんとクリストファーのコンビの実写コメディー『21ジャンプストリート』。そして続編の『22ジャンプストリート』に至っては、日本では限定的に、まともな劇場公開すらされていないということなんですから、非常に冷遇されている。とにかく、たとえば『くもりときどきミートボール』ですね、当たった時は「えっ、なにこれ? よく知らないんだけど。褒めている人もいるらしいけどね。いいの、これ?」なんて感じだったんですけど……あの時、サイコロで当てといて本当によかった!

いまの時点から振り返ってみれば、結構な歴史的転換点だったとも言えるような作品をほぼリアルタイムで見て、ちゃんと評価できたということを本当に誇りに思うというか。本当によかった!という作品なわけですよね。で、今回の『コウノトリ大作戦!(原題:Storks)』。これもまさにそれだと思います。ぶっちゃけ、まあ『くもりときどきミートボール』とかさっき言った『LEGOムービー』級の圧倒的な大傑作か? と言われると、詳しくは後で言うけど、正直そこまでの完成度というわけではないところもある。けれどもですね、見たら見たで当然と言うべきか、むちゃくちゃ面白いです。と、同時に、それだけではなくてですね、ここが重要だと思うんですけど、大きく言えばアメリカ製3DCGアニメーション界、つまり世界レベルで言う劇場用アニメーションの現行メインストリームの今後を占う、実は非常に重要な作品であるという風に私、断言させていただきたいと思います。

ということでこれ、せっかくランダムに作品を選ぶコーナーなんだからね、こういうのを拾っておくのも大事だっていうことですね。要は、確実にベスト入り! みたいなね。『この世界の片隅に』みたいなのとかばっかりとか、あるいは確実にワースト入り! とかね(笑)。そういうのばっかりじゃなくて、こういうのを拾っておくのは本当に大事。というのもですね。先ほど言いました、「今後のアメリカ製3DCGアニメーション界の今後を占う作品だ」と。どういうことか? この作品を見た人はわかると思いますけど、最初に出る映画会社のロゴ、クレジットね。ワーナー・アニメーション・グループ。通常のワーナーの「WB」じゃなくて、「WAG」。「Warner Animation Group」というちょっと見慣れない感じのロゴが出たと思うんですけど。要は、ワーナー・ブラザーズのアニメ部門なわけですけどね。

これ、2013年にワーナー・ブラザーズのアニメ部門の体制が一新されてこのロゴになったという。まあ、比較的新しめのロゴなわけです。新体制で、どういう新体制になったか? というと、要はわかりやすく言うと、こういうことですね。ピクサーにおける、みなさん聞いたことありますかね? 「ブレイントラスト(Brain Trust)」っていう、要するに全作品に関してご意見番的な影響を及ぼすトップクリエイターたち。それぞれ誰がどうかかわっていようと、かならず作品のクオリティーをチェックして意見を言うというような。もちろん、ジョン・ラセターもそうですし、ブラッド・バードとか、そういう人たちも入っていますね。という、ブレイントラストというピクサーのトップクリエイターグループと、よく似た感じのトップグループ。ワーナー・アニメーション・グループの全作品にご意見番的な責任を負う、トップグループ。こっちの通称は「シンクタンク(Think Tank)」という仮通称がついているらしいんだけど、そういったグループをワーナー側でも立ち上げたと。

で、先ほどから名前をあげているフィル・ロード、クリストファー・ミラーさんのコンビであるとかですね、同じく製作・総指揮に名前を連ねているグレン・フィカーラさん。ジョン・レクアさんという方。あるいは、ジャレッド・スターンさんという方。そして今回の『コウノトリ大作戦!』の脚本、共同監督を務めているニコラス・ストーラーさん。これらの人が、さっきから言っているワーナー・アニメーション・グループのシンクタンク、そのトップグループメンバーになった、それに選ばれたという、そういうことなんですね。で、さっきから言っている『LEGOムービー』——これ、本当に大傑作でしたけどね——『LEGOムービー』がこの体制での第一弾作品だった。で、今回の『コウノトリ大作戦!』が第二弾ということなんですね。

特に今回の『コウノトリ大作戦!』は、ワーナー・アニメーション・グループとしてのカラーを模索し、確立するにあたって、非常に、改めてちょっと攻めた体制というか、「うちは今後、こういう体制で行くぞ!」っていうのが、ものすごくわかりやすく出た作品になっているということだと思います。今回の脚本・監督を手がけたニコラス・ストーラーさん。もともとはジャド・アパトー一派、要するに現代アメリカコメディーの第一線で、完全に大人向けの実写映画を主に撮ってきた作り手の方なわけですね。『ザ・マペッツ』っていうね、マペットのカーミットとか出てくる『ザ・マペッツ』の脚本・製作総指揮とかもやっていたりするけど、その『ザ・マペッツ』も、割と大人向け実写コメディーと共通するテーマを、しかも、(一連の大人向け実写コメディーと)同じくジェイソン・シーゲルと組んだりして、しっかり忍び込ませているというような、そういうどっちかって言うと大人な資質の作家なわけですね。

で、先ほど名前をあげたシンクタンクに名を連ねているグレン・フィカーラさん、ジョン・レクアさんとかもやっぱり、大人向け実写コメディーを撮っているような人たちだというところも共通していると。で、当然そのニコラス・ストーラーさんは、3DCGアニメなんかは初挑戦なわけですけども、アニメーションとしての基本的な技術的な部分は、共同監督のダグ・スウィートランドさん……この方は短編(『マジシャン・プレスト』)でアカデミー賞にノミネートされたと先ほど言いましたけど、要はピクサーの名作群をことごとく手がけてきた名アニメーターなわけですよ。『君の名は。』評の中で、「いいアニメ作品っていうのはトップアニメーターを取り合って、どう座組みを決めるかだ」って言いましたけど、まさにそういう人ね。ダグ・スウィートランドさん。

とか、あるいは今回のアニメ製作を直接手がけているのはソニー・ピクチャーズ・イメージワークスという会社なんですね。これ、『くもりときどきミートボール』もまさにこの会社の作品ですけど、(そういう感じで)技術的な部分は3DCGに慣れている人たちに任せつつ……でも、僕がいま言っているこの時点で、ピクサーのベテランとソニーの現在の製作チームが組んでいるという、ちょっと面白い座組みなわけですよ。で、技術的な部分はそこに任せつつ、ニコラス・ストーラーさんとかはですね、コメディー演出。特に、役者のアドリブを活かした、実写コメディーの脚本とか演出術、あるいはストーリーテリングっていうのをアニメーション側に取り入れる、フィードバックする。そういうのをこれからのワーナー・アニメーション・グループならではの強みとして確立すべく、シンクタンクに呼ばれてきたメンツであろうということが言えるわけですね。

ということで、一言で言えば非常にハイブリッドな座組みなんですよね。ワーナー・アニメーション・グループっていうのは。それこそ、『君の名は。』がハイブリッドな座組みで成功したように、非常にハイブリッドな座組み。かつ、そういう新しい体制ゆえの、非常にお金がかかった大作でありながら、風通しのよさ。たとえば、監督なんかも(インタビューなどで)言っていますけども、これ、他の大手のピクサーとかの3DCGアニメだったらこのギャグは通らない、みたいなものが通る、というような風通しのよさ。そういうものがワーナー・アニメーション・グループの今後打ち出そうとしているカラーであり、その最初の本格的な一手が、今回の『コウノトリ大作戦!』であろうということなわけです。『LEGOムービー』はちょっとね、いろんな意味で特殊すぎる作品なので。いわゆるファミリー向け、一般的な作りの作品としては『コウノトリ大作戦!』であろうということですね。

で、僕的には今回の『コウノトリ大作戦!』、なにがうれしいっていうとですね、今回の新しい体制の作り手たち、シンクタンクのみなさんを含め、こういうことですね。「ワーナーアニメの伝統」、その継承っていうのを。大変しっかりと意識されているな! というあたり、本当にうれしくなるところでございます。言うまでもなく、要するに『ルーニー・テューンズ』『メリー・メロディーズ』……バックス・バニーであるとかダフィー・ダックであるとか(が出てくる)、そういうやつですよ。その珠玉の傑作、名作群ですよね。(黄金期は)1940年代だったりしますからね。ざっくり言えば、まあナンセンス、スラップスティックの極みっていうことですね。ディズニーとかと比較すると、もうナンセンス、スラップスティック。暴力、パロディー、メタギャグ、なんでもありというね、本当に大実験場。アニメーションでできることの大実験が繰り広げられる。そういうのがワーナーアニメの名作群の特徴なわけですけど。

たとえば、今回の『コウノトリ大作戦!』。コウノトリが赤ちゃんを運んでくる。厳密には、コウノトリじゃなくてコウノトリ目コウノトリ科のシュバシコウ。朱色のくちばしのコウノトリっていうことらしいですけども。それが、赤ちゃんを運んでくるというヨーロッパ由来の伝承ね。屋根の上に巣を作るからっていうことらしいですけども。ヨーロッパ由来の伝承、もちろんみなさんご存知でしょうね。コウノトリが赤ちゃんを運んでくる。それを、「オートメーション化された工場業務」っていう風に(パロディ化する)。で、その工場業務の中でのドタバタとして描くっていうこの発想は、おそらくというかたぶん、いや間違いなく、1946年、ワーナーアニメーションのクラシック、ボブ・クランペットさんという方が監督されたクラシック、日本タイトル『赤ちゃん配達便(原題:Baby Bottleneck)』っていう、この短編から大いにインスパイアされているはず。いや、されていないとおかしい! もし仮に「そんなの知らない」と言うなら嘘か不勉強だ!(笑)っていうぐらい、本当に素晴らしいワーナーアニメのクラシックなので、ぜひ見てください。

いま、もうたぶん、1946年の作品ですからさすがに著作権フリーで、ネットとかで普通に動画で丸ごと見れたりするので、本当にぜひ見ていただきたいんですけど。とにかく最高な短編がございまして。もう1回、言いますよ。『赤ちゃん配達便(原題:Baby Bottleneck)』。これ、ぜひ見ていただきたいんですけども。明らかにそこからインスパイアされているということで、ワーナーアニメのギャグの伝統を今回の『コウノトリ大作戦!』は非常に意識的に受け継いでいる。たとえばですね、ガーッと動いている機械の非常停止ボタンはどこだ? 非常停止ボタンは!?ってやると、よりによって非常停止ボタンが猛回転する歯車の奥にあるっていう(笑)。「なんでだよ!」っていうこの感じであるとかですね。

あるいは、最初の方で「鳥にはガラスが見えないから、ガラスにぶつかっちゃうんだ」っていう前フリをしておいて、後の方の場面でわざわざ、つまりそれ自体ギャグとしての過剰なご都合主義的展開で、わざわざ主人公のコウノトリに、ガラス工場を突っ切らせると。しかも、それを「突っ切れるか? 右だ! 左だ!」って避けてゆくような、サスペンス・アクション的に機能させるのではなく、全部にいちいち当たる(笑)というね。「左!(ドーン!)」「右!(ドーン!)」っていう。わざわざ全部に顔をブチ当てるという、スラップスティックなギャグ用の見せ場というのがあったりとかですね。あと、先ほどからもうメールでみなさんが書いていることですね。もう中盤の笑いをかっさらっていく、「狼たちの組体操」! これは多くは言いません。「組体操、ナントカカントカ!」であるとかですね。

あるいは本作、僕はもう最高に爆笑しましたけど。ペンギンたちとの「サイレント格闘」シーン、などなど、とにかく全編に渡ってもう「ワーナーアニメ的」としか言いようがないギャグ。つまり、こういうことだと思いますけどね……「知恵を絞りに絞って徹底的にバカをやる」。それも、アニメならではのバカをやる。だからつまり、アニメーションの根源的な楽しさにもあふれた、バカバカしいギャグ。頭をひねって(作り出されたような)、「ああ、ここまで考えるかね」っていうようなギャグが全編に渡って炸裂しまくっていて。その時点で僕はもう、楽しくて楽しくてしょうがないっていうことで。ワーナーアニメ、昔から大好きなんで。もちろん、子供たちはずっと大好きですけども。

ただですね、こういういかにもワーナー的なギャグ。面白くすればするほど、とある危険も生じてきます。つまりですね、先ほど「もともと珠玉の傑作群」なんてことを言いました。1940年代から作られている。それらはテックス・エイヴリーなんていう天才アニメーターとかがやっているんだけど、短編なわけです。短編だからいくらムチャクチャやっても、すぐに終わるからいいんですけど、これ、長編の映画となるとですね。ともすると物語そのものの枠組みごと破壊してしまうおそれもあるわけですね。こういうワーナー的なというか、メタギャグみたいなのは危ない。それこそ、(ワーナーアニメ的なギャグの影響を明らかに受けた)この間の実写版『デッドプール』は、そこをうまくいい塩梅にバランスを保って、物語性も保っていましたけど。とにかくそういう、ワーナーギャグ的な面白さを振り切ってしまうと、長編映画としては危険なわけです。映画として破綻してしまう可能性がある。

たとえばですね、さっきから言っているワーナー・アニメーション・グループ体制になる前の、「ワーナー・ブラザーズ・フィーチャー・アニメーション」という名前だった時代の最後の長編作品『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』。2003年。こういうね、すごい作品があるんです。これ、さすが『グレムリン2』のジョー・ダンテと言うべきでしょうか、ジョー・ダンテ監督だけあって、ワーナーアニメの伝統を正しく受け継いで、とにかくやりたい放題。メタギャグあり、引用あり、パロディーありで、僕らはもちろん拍手喝采の最高な1本なんです。ぜひ見ていただきたい。『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』。なんだけど、とにかく話としてはどんどん壊れていくということで、どんどんエンターテイメントとしてのポピュラリティー的なことからは、ぶっちゃけ遠ざかっていく。「普通の人は、引く」っていうことですね(笑)。はい。

で、今回のワーナー・アニメーション・グループ新体制は、もう絶対にそのことも踏まえた上で……つまり、「俺たち、武器はワーナー的な伝統だけど、やりすぎると危ない」っていうのを重々わかった上で、だからこそ、それこそ実写の大人向けコメディーを基本撮っているような作家たち……たとえば、ニコラス・ストーラーさんであったりとかを呼んできて、ストーリーとかキャラクター演出の芯を通してもらうという、そういう戦略であるわけですよ。つまり、笑いとストーリー、キャラクター描写、ひいては長編映画にふさわしい、ある程度の重みをもったテーマ性っていうのの両立ができる人材として、このニコラス・ストーラーさんであったりとか、グレン・フィカーラさん、ジョン・レクアさんっていう人が呼ばれてきているということだと思うんですね。

で、実際、今回の『コウノトリ大作戦!』は、ニコラス・ストーラーさんの過去作と完全に通じるストーリー性、テーマ性を持っているという風に私は思っています。たとえば、これはひょっとしたらジャド・アパトー一派のコメディー全体に共通することかもしれないけど、こういうことですよね。いい歳して大人になりきれない、大人としての責任から逃げてきた大人が、ついに大人になること、その責任を受け入れる。そういう話。今回で言えば、やっぱり赤ん坊というのに対する責任っていうか、愛情を抱くということを含めて、そういう大人としての責任を受け入れる話であり……同時にそれは、これは本当にニコラス・ストーラーさんの作品全体に本当に通じているなというテーマなんだけど、もともと他人同士だった誰か……それは男女でもいいですし、赤ん坊でもいいんですよ。もともと知らない同士だった誰かと、いろいろありつつも信頼関係をなんとか築き上げ、寄り添いあうことを受け入れる。

さっき言った「大人の責任を受け入れる」っていうのがつまり、(ニコラス・ストーラーの作品では)他者との信頼関係を受け入れる、つまり、新たに、もしくは改めて、誰かと「家族になる」……広義の意味で、「ファミリーになる」ことを受け入れる。そういう話を毎回、ニコラス・ストーラーさんは描いている。で、そういう話として、たとえば2012年の『憧れのウェディング・ベル』。これね、エミリー・ブラントが出ていてね。苦いんだ。苦い! 「ラブコメ」っていうにはあまりに苦い作品であるとか、まあ『ネイバーズ』。最近、続編もありましたけども。そういう、実はものすごくほろ苦〜い大人の映画を作ってきたニコラス・ストーラーさん。

あるいは、脚本を手がけた『ザ・マペッツ』の2作もちょっとそういうところもあるし。そして今回の『コウノトリ大作戦!』。ニコラス・ストーラー作品は本当に一貫していて。なので、さっきから言っているように、たとえばいかにもワーナー的なスラップスティック、ナンセンスギャグは、あくまでも、物語を破壊しつくすほどにはやらない。その手前で、あくまでも抑えられ……僕とかはだから、『ルーニー・テューンズ』好きとしては、「ちょっとおとなしいな」って感じるところもあるんだけど。それはあくまでストーリーを壊さない程度に抑えて、こういうことですよね。メインのストーリーは、家族がいない者たちの話ですよね。家族って、広義の意味でいいですけど。主人公の名前が「ジュニア」。なのに、彼には家族も仲間もいない。ものすごく孤独な主人公であるっていうのが非常に皮肉であると。そして彼ら、主人公のジュニアを含め、家族がいなかった者たちがついにそれを発見する。あるいは再発見するという、まあ普遍的に感情移入できるストーリーが主軸としてボーンと通っているっていうことですよね。

まあ、「赤ちゃん賛歌」「生命賛歌」っていう、ともするとバランス的にはきわどいことにもなりかねない、いわゆる“善きこと”メッセージもですね、たとえば赤ちゃんに関しては、血縁主義というか、母親の愛だの本能だのっていう……まあ「本能としての母性」をギャグにしている場面もありましたけど、あれはほら、大真面目にやっているわけじゃないじゃない、あれはギャグだからさ。とにかく、「母の愛」とか「本能」とか血縁主義的な、そういうありがちだけど、ちょっとヤダ味が実はあるぞっていうような落とし所を、おそらくは完全に意識的に作り手たちがきっちり避けたことで、たとえばそれこそラスト。大団円で世界中に赤ん坊が届けられましたっていうその届けた先。普通の家族だけじゃなくて、たとえば明らかに同性婚のカップルのところにも届けられているし、あるいはシングルっていうか、1人の人のところにも届けられる。そういう、家族っていうもののあり方の多様性(を認める)っていうところに、血縁というところと切り離して赤ちゃんというものを描いているので、嫌味なく着地することもできている。より普遍性を獲得しているとも言えると思います。

ただ、それはちょっと諸刃の剣でもあって。本作、先ほどから「否」の意見として一点に集中しているというところ。これ、僕は否定できないと思います。まさにその根本の部分。大本の設定の部分でぶっちゃけ、いくらなんでも飲み込みづらい、納得しづらいというね、大きな欠陥もこれ、あるのは否定できないと思います。もう、一言でいえばこういうことですよね……見始めた人は誰もが思うと思います……「えっ、この世界観の中ではじゃあ、コウノトリが昔は赤ん坊を運んでいました。いまは運ぶのをやめて宅配便をやっています。っていうことは、いまは赤ちゃんはどうやって産まれているの? もしくは、産まれていないの?」っていう。産まれていないなら、『トゥモロー・ワールド』みたいなことなの? 赤ちゃんが産まれない世界みたいなことなの?っていう。

そのあたりがですね、非常にうやむやなままに。ねえ。セックスでも産まれるのか? よくわかんないですよね。非常にうやむやなまま終始してしまうため、それこそクライマックスで赤ちゃん工場が再開されて、「赤ちゃんが産まれてきた! わーっ!」っていうのを、「あら、素敵!」って思う人もいるかもしれないけど、僕は「えっ、マズくない? マズくない? 生命の冒涜、大丈夫?」みたいな(笑)。「バイオ? バイオ? バイオ?」みたいな風に思ってしまったり。すごくモヤモヤがね、どうしても残る作りになっちゃっていると思います。ということですね。

とかね、手紙がいっぱい届いていて、それが放置されていて。その手紙でワーッ!って子供たちが産まれるっていうんだけど、あの手紙は何年放置されていたの?っていう。ものすごく長い間放置されていたら、もう出していた人がいないっていうことだってあり得るわけだしさ。これ、どうなっているの? いろいろ考えると、すごいノイズになっていまう。これも間違いなく、大きな詰め不足っていうか欠陥だと思いますし。そことも絡みますが、悪役の工場長みたいなのがいるんだけど。人として最低……じゃなく“鳥として最低”(笑)っていうのはあるんだけど、もっとはっきり決定的な不正とか非道を働いたっていう結果でないと……要は彼は業績を上げるために赤ちゃんを運ぶ仕事を止めていただけの人なのに、ちょっとこの……まあ、“鳥としては最低”なんですよ。なんだけど、ちょっとこれ、どうなんだ? この結末に値するほどの悪なのか?っていう風に思わざるを得なかったり。

あと、あの人間の方の男の子。ネイトくんっていう弟をほしがっている男の話があって。たしかに僕もね、僕は一人っ子ですけど、子供の頃は母から聞くとね、架空の弟、「ソウスケ」っていう弟を(想像上で)作って遊んでいて、母を泣かせたらしいですけど(笑)。ただね、僕はね、彼のエピソードで、「結局一人っ子は寂しいもんだ」みたいな結論を当たり前のように言われると、ちょっとイラッと来るんですよ。彼には言ってやりたい。そして全国の一人っ子に言ってやりたい。「おい、お前。あと2、3年すれば、『イエーイ! 一人っ子、イエーイ!』だから!」っていうね(笑)。あと、それとは別にクライマックス。さっき言った『赤ちゃん配達便(原題:Baby Bottleneck)』のクライマックスのごとき工場アクションをもう1個見せてくれるかな? という期待があったので。ちょっとあの工場の、あそこでもう1回、もう一追っかけアクション、ドタバタがあったりすると、満点だったんですけどね。ということだったと思います。

惜しいところもあると思います。欠陥もあると思います。ただまあ、見て損はない、めちゃめちゃ面白い場面がいっぱいありますし。なにより今後のワーナー・アニメーション・グループ、動向を見守るという意味で今回の『コウノトリ大作戦!』、「俺、リアルタイムで見てたけど」って自慢できる作品だと思いますので。見る価値が非常にある作品だと思います。『この世界の片隅に』もいいけど、『コウノトリ大作戦!』もぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は、タマフル・クラウドファンディング*により、『この世界の片隅に』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

*……『この世界の片隅に』を見てブチ上がった番組スタッフ4名(Dミノワダ、構成作家古川、番組アドバイザーせのちん、橋本名誉P)が自腹で積み立てた資金4万円を宇多丸のかわりにカプセル代金として支払う新システム。一万円札の裏には付箋で名前が貼り付けてあり、宇多丸が引いたのは構成作家・古川のもの。残りの3万は出資者たちに返金されていった。

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