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【映画評書き起こし】宇多丸、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』を語る!(2016.12.3放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル
「映画館では、今も新作映画が公開されている。
 一体、誰が映画を見張るのか?
 一体、誰が映画をウォッチするのか?
 映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる――
 その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

宇多丸:
ここから夜11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告しつつ──

先週の『この世界の片隅に』評、絶賛評をさせていただきましたけども、ちょっとそこにひとつ訂正がありまして。もう、みやーんさんによる公式書き起こし、ホームページに上がっている書き起こしでは訂正させていただいておりますが、評の中で主人公のすずが「昭和元年生まれ」という風に私、言っておりますが、これはあたった資料が間違っておりまして。正しくは1年早い「大正14年生まれ」でございました。改めてお詫びして訂正いたします──


といったようなこともやりつつ、監視結果報告していく映画評論コーナーです。今週扱う映画は、先週「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画……『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』

(BGM:テーマ曲が流れる)


こんな音楽、出てきたっけ? あ、主題歌? そんなの流れてないよね? 別に劇中で……イメージソング? まあいいや、そんなのはね。リー・チャイルドの小説『ジャック・リーチャー』シリーズを実写映画化した2013年日本公開の映画『アウトロー(原題:Jack Reacher)』の続編です。トム・クルーズ演じる元アメリカのエリート秘密捜査官ジャック・リーチャーが元同僚のターナー少佐に会うため軍を訪れると――元同僚っていうか、自分の元のポストに就いている人っていうことだよね――訪れると、いろいろあったということですね。ターナー役を演じるのは『アベンジャーズ』シリーズにも出演しているコビー・スマルダーズさん。監督は『ラストサムライ』などのエドワード・ズウィックさんです。

ということで、この作品をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』、メールの量は……普通。そして賛否の比率は「褒め」が全体の半分。「まあまあ」と「ダメ」が残り半分ぐらい。「前作の『アウトロー』とはテイストが違う」というのが共通する感想で、その上で、「これはこれで面白かった」という人と、「凡庸になった。こんなの『ジャック・リーチャー』じゃない!」という人に分かれた。


「これって寅さんだよね?」という意見も多数。アクション版寅さんね。また、映画の出来はともかくみんなトム・クルーズが大好きなようで、いつもより筆の走りがいいという。愉快なメールが多かったということでございます。代表的なところをご紹介いたしましょう……

ラジオネーム「ブラック企業に10年目」さん。「自分の感想は、バリ最高の花マルです! 開始5分で事件をひとつ解決するリーチャー。女にはめっぽう弱いリーチャー。『あなたの娘』と言われて目が泳ぐリーチャー。超優秀なのにちょっとしたドジで泡食っちゃうリーチャー。特に今回はトムの顔芸が豊富だった気がします。言葉ではなく、拳と表情で語るこの男、ずっと見ていたいと思わせてくれます。今回、ひとつ確信したことがあります。この映画はシリーズ化確定でしょう。なぜなら、リーチャーが娘の件を疑い始めた時の奇妙な間。あれはおそらく『誰との間の子?』と過去の自分と対面していたからに他なりません。貴様、心当たりがひとつやふたつじゃないな? よって次回からはヒロインと娘役に旬の女優をとっかえひっかえし、米国産ドタバタ陰謀コメディーとして量産が可能なのです。ということで、日本人なら誰もが知っているあるの人に似ていませんか? フーテンの寅さんだ! ジャック・リーチャーは米国産寅さんだったのだ!」ということでございますね。まあ、女に弱いって、通りすがりの女は、前作でもちゃんと通りすがりの女と寝ているところから最初、始まりますから。だから、童貞じゃないですよ、リーチャーは。それは『アマルフィ(女神の報酬)」』とは違うところですからね。これね。


ダメだったという方。ラジオネーム「サム・ペキングー」さん。19才、男。「結論から申しますと、(監督のエドワード・)ズウィックはギルティ! まごうことなき今年のワーストワン! 原作は未読ですが、前作『Jack Reacher(邦題:アウトロー)』は僕のフェイバリット・ムービーのかなり上位に来る映画なのです。師匠の言葉を引用させていただくと、”反時代的な作品”。そこが気に入っていたんです。ツボだったんです。どストライクだったんです。それが、今回はどうですか? なんであんなにカメラをグラグラ、グチャグチャ動かすんですか? 『ボーン……』シリーズなら許せますよ。でも、これってジャック・リーチャーでしょ? ズウィック被告はなにを考えているんですか? また、ジャック・リーチャーという男はもっと強固なキャラクターだと思っていました。というか、そうあるべきです。事件が起きたらさっそうと現れ、体を張って解決し、またどこかへ消える。『用心棒』や『マッドマックス』と同じ匂いを感じるんです」。まあ、要するに西部劇なんですけどね。「……なのに、2作目で! まだ2作目なのに! 娘かもしれないという少女とかいう輩が出てきて、リーチャー先輩の心が揺らぐなんて! そんなのはね、やるなら4作目か5作目でやってくださいよ! 次回以降、本作はなかったことにしてシリーズを続けてほしいものです」というね。シリーズは続けてほしいというご意見でございました。

はい、ということでみなさん、ジャック・リーチャー愛、トム・クルーズ愛にあふれるメール、ありがとうございました。

私も、やっぱりジャック・リーチャーシリーズともなるとですね、あんまり僕、試写に行くの好きじゃないんですけど、これはちょっと試写に駆けつけたぐらいでございます。試写に行かせていただきました。あとTOHOシネマズ六本木とみゆき座で結局計3回見てしまいました、ということでございます。とにかく、しつこいぐらい「みんな大好きジャック・リーチャー」なんてこの番組で繰り返しておりますけども。もっと正確に言うと、こういうことですね。「この番組は、トム・クルーズ演じるジャック・リーチャーシリーズを断固支持する!」という意思表明なわけですよね。裏を返せば、そんなことをいちいち声高に主張しなければいけないぐらい、ともすればナメた見方をされかねないタイプの作品ではあるということですね。で、実際にそう見られるなりの理由もあるというシリーズでございます。

特に今回の映画2作目『NEVER GO BACK』に関してはね、これ、私の意見というか結論もちょっと入っておりますが、我々トム・クルーズ=ジャック・リーチャー支持者的にも、「まあ、まあ……今回ね。まあ、まあ、まあ……」となる部分がなくはない……なくはないが! 少なくとも前作『アウトロー(原題:Jack Reacher)』の良さもわかってないような輩に、わかったような顔でナメた口を聞かれたりするとね……「ああ、なんか『ジャック・リーチャーNEVER GO BACK』、アレらしいじゃない?」なんてことを言われたりすると、「オイッ! 俺たちはこのシリーズを断固として肯定するっ! 支持する! 全然好きなんだよ! 言わんとしていることはわかるけど、こっちは全然好きなんだよ!」というね。そういってね、猛然と擁護したくなってしまう。そんなテンションでございます。みなさんお分かりの通り、今回は完全にクソ贔屓回です(笑)。

とにかくまあ、トム・クルーズによるジャック・リーチャーシリーズの第一弾。小説で言うと9作目なんですけども、映画版では第一弾の前作。邦題『アウトロー』。元はね、シンプルに『Jack Reacher』ですけども。2012年の作品。この番組では2013年2月16日に取り上げさせていただきましたけども。事前にちょっと芳しくない評価みたいなのを私、ちょっと耳にしてしまったせいもあり、僕自身、ガチャで当てる前まではちょっと半笑い感。映画館で、隣りにいた英語圏から来たカップルが予告編を見て、「He’s too old!」っつってバカにして笑っていたなんてエピソードも含めて、ちょっと半笑い的に行っちゃったっていうのを、実際の『アウトロー』という作品を見て、大反省して。「ダメだな、俺は!」っていうね。

この『アウトロー』と、たとえば『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、そして『ミッション:インポッシブル』の特に近作2作ぐらいですかね? 僕はもう、映画人としてのトム・クルーズへの信頼とリスペクトが、ちょっともう揺るぎないものになりつつあるのね。もう、スタローン級になりつつあるというね。人によっては、これでもうピンと来なくなっているっていう可能性がありますけども(笑)。まあ本当に信頼感があるということですね。で、要はこのジャック・リーチャーシリーズ、改めて概要を言っておけば、要は『ミッション:インポッシブル』、つまりイーサン・ハントシリーズですね。イーサン・ハントシリーズに対する明らかなカウンターとして、トム・クルーズがあえてイーサン・ハントシリーズ、『ミッション:インポッシブル』と全く正反対のカウンター。むしろアンチ的なシリーズとして立ち上げた。それがジャック・リーチャーシリーズなわけですね。

要は、イマドキ風アクションエンターテイメントの流れ。とにかくド派手な見せ場を足し算していく。スペクタクルのインフレ傾向とか、最新テクノロジー志向。なにかと言うとハッキングだ、コンピューターが出てきてナントカだとかっていうのからは完全に背を向けて。一言で言えば、やっぱり70年代クライムアクション風ということですね。イコール、現代が舞台の西部劇という本質もそこにはあるわけですけど、まあ70年代クライムアクション風の、地味で、地に足の着いた、この言い方は語弊があるようだけれども、『アウトロー』評でも言いましたけど、でも俺はこれは合っていると思うんだよね。「全編が面白すぎない感じ」。ねえ。昔の70年代のアクション映画とかって、見せ場なんてクライマックスの1ヶ所とか、あって2ヶ所とか、そんなもんだったりして、「全編が面白すぎない感じ」。そのテンションっていうのをあえて狙って作っている。これが前作の『アウトロー』だったわけですね。

で、トム・クルーズ主演作としては実はかなり低予算で撮られている作品でもあるんだけど、それも要はその、70年代の渋い犯罪アクション映画風の作りという、そのコンセプトの一部なんじゃないかな? と思うぐらい。低予算でやること自体がコンセプトっていうことなんじゃないかな? と思うぐらいです。つまり、さっき言った英語圏の観客が「He’s too old!」っつって、トム・クルーズをちょっとバカにしたような感じで言っていましたけども。その「He’s too old!」と言われる自分っていうそのパブリック・イメージもちゃんと折り込み済みの、あえてのアナクロな作りのシリーズだっていうことなんですね。なんせね、70年代クライムアクション風……ロバート・デュヴァルが出てくるんですからね。そりゃあもう、70年代犯罪アクションだなっていう感じですよね。

クライマックスなんて本当、(ロバート・デュヴァル主演の)『組織』なんて映画をちょっと思い出したりなんかしましたけども。そしてこのアナクロっていうのはジャック・リーチャーというキャラクターの本質そのものですよね。アナクロ。とにかく、アナクロ。アンチ・テクノロジーだし。で、切れ者すぎるというね。非常に切れ者なんだけど、切れ者すぎることも含めて、その言動は周囲の人間たち、世の中から常に浮いているという。どこか浮き上がっているというキャラクターですね。戦い方、ファイティングスタイルもキーシ・アクション・メソッド(Keysi Fighting Method)っつってね、本当に生々しい、痛い格闘アクション――今回も非常に全開でしたけども――というスタイルでやると。

とにかくそのジャック・リーチャーの周りから浮いている感じっていうのが、まずそのトム・クルーズのスーパースターゆえの浮世離れ感とも非常にフィットしていると。もうすでに伝説化、アイコン化しつつあるようなスター感ともフィットしているし、あと、ここがさらに前作『アウトロー』の大きな魅力だったわけですけど、主人公ジャック・リーチャーと周囲とのいまいち噛み合わないギクシャクしたやり取り。まあ、彼があまりにも切れ者すぎて、世間とは違うルールと、違う思考回路の速度で動いているため、周りからすると「会話、噛み合わねえ……えっ?」っていう感じの行動を取るというね。その噛み合わないギクシャクした感じっていうのが、絶妙にオフビートなユーモア感っていうか。露骨な笑わせじゃなくて、なんか「おかしみ」があるっていうね。思わず笑っちゃう場面が多数な作品でしたよね。


たとえばリーチャーの行動じゃないけど、あの車屋の店員がね、ジャック・リーチャーが「チーン!」って鳴らした店の呼び鈴を、こうやってフッて指で止めるっていう(その仕草のオフビートなユーモア感)。あれは演じた彼のアドリブらしいんだけど。あと、あれらしいよ。風呂場での爆笑ドタバタ格闘シーン、あるじゃないですか。あそこ、最初のプランと変えて、トム・クルーズが実際の浴室の現場を見て、「これ、絶対にドタバタギャグに使える。ここはギャグにしよう」っていう、トム・クルーズのアイデアでそういう風にしていったらしいですけどね。はい。そんなのもあったりして、そこも非常に魅力でしたし。

よく、原作のジャック・リーチャーは非常に体格が大きい、(身長)195センチの大男っていうんで、全然トム・クルーズの体格と違うじゃないか、なんて言われたけど、映画ではそのトム・クルーズの身長が低いことが、むしろプラスに働いていると思います。要するに、ジャック・リーチャーは世間からは浮いている。傍目には、今回も言われてましたけど、「ただのホームレスじゃねえか」っていう。要するに、まさにギンティ小林さんが言うところの「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした」じゃないけども、身長が低い分、世間的には取るに足らない男に見える。今回ね、最初に警官といろいろやり取りがあって。「お前、何者だ?」って言われて。あれ、字幕がちょっと「サプライズだったろ?」っていう、この訳し方はどうかと思うんだけども。要は、「お前にとっては取るに足らない男さ」って、そんなことを言う。あの感じですよね。そう見えるあたりが、身長差なんかもプラスに生きていたりする。


あとですね、まだ前作『アウトロー』の話をしていますけども、さっき言ったような70年代アクション映画風のムードを最高にロマンティックに際立てている、撮影が本当に見事でしたね。キャレブ・デシャネル。特にナイトシーンの艶っぽさ、色気。本当に素晴らしかったですし。あと、改めて見直してみても、たとえばジム・ビセルさんという方のプロダクションデザインとか、あと音楽もよかった。ジョー・クレイマーさんの音楽とかも、ばっちりその70年代アクション映画風のムードっていうのにハマっていたりとかですね。まあ、キャスティングとか演技も本当に申し分なくて。諸々含めてやっぱり、脚本・監督のクリストファー・マッカリー。あいつはわかっている男だったね! できる男だったね! ということが言えると思います。


そしてなにより、そのクリストファー・マッカリーさん。脚本家としては活躍していましたけども。その2012年の『アウトロー』の前に、唯一の監督作。2000年の『誘拐犯』から――これもやっぱり70年代風、特に(サム・)ペキンパー風な反時代的アクションでしたけど――以来、12年ぶりに監督をクリストファー・マッカリー、抜擢したトム・クルーズがやっぱり慧眼ですよね。ということで、好き嫌いは分かれつつも、我々のごとき熱狂的なファンを生んだ前作っていうことですね。入江悠監督とかもね、その年の1位に選んでいたりしましたね。

で、僕もその評の中で「あとシリーズで9作見たい」なんてことを言っていましたけど、その意味で、今回のようにちゃんと2作目が作られて、「あ、シリーズ化する意思があるんだ」っていうのは非常に喜ばしいあたりだと思います。ただその、前作の監督・脚本のクリストファー・マッカリーさんはあまりにも優秀すぎて、『アウトロー』の手腕を買われて、今度はトム・クルーズの、本当にメインの方。メインルート、本筋、本丸の方である『ミッション:インポッシブル』の脚本・監督に抜擢されて。そして、そこでもまたまた『ローグ・ネイション』というぶっちぎりのシリーズ最高傑作を作り上げてしまった。で、あまりにもよかったんでしょうね。やっぱりね。『ミッション:インポッシブル』としては初めて連続して6作目も監督することになったと。


ということで、ジャック・リーチャーシリーズの方は残念ながら脚本・監督は交代になったと。で、呼ばれてきたのが今回の『NEVER GO BACK』ではエドワード・ズウィックさん。トム・クルーズとは『ラストサムライ』で2003年に組んでいるという。で、僕最初にこのエドワード・ズウィックさんって聞いた時に、正直、これ本当失礼なんだけど、「エドワード・ズウィック~?」って言っちゃった。っていうのは、エドワード・ズウィックさんね、適度に社会派っぽい硬派さを含むエンターテイメント作品を、まあ、アクションなんかも含めて得意にしてきた方ですけど。ぶっちゃけ監督作はね、どれも悪い作品じゃないんですよ。常に、だいたい70点、75点ぐらいをマークっていう感じで、。ただ、ぶっちゃけあんまり面白みがないっていうか、何年かたつと完全に、たとえば絵面とかを忘れちゃうぐらいの作品が多いんですよ。

悪くはないんです。全然悪くはない。見るたびに、「ああ、まあまあ、いい映画なんじゃない?」っていう感じなんだけど……ということで、その意味で、まあ『ラストサムライ』はね、日本人としては正直言いたいことが山ほど出てきちゃう映画だったけど、そのぶんちょっと珍味として突出した部分がある。そういう意味では特殊だったかもしれないけど、いずれにしてもですね、「エドワード・ズウィックさんか~」っていうのがあって。で、トム・クルーズを含め製作陣はですね、監督の色とか意向を最大限に尊重する体制。これはいい意味でできているということなんでしょうけどね。撮影とか美術とか編集、音楽まで、制作シフトが、前作から割と総とっかえになっているわけですよ。たぶん、エドワード・ズウィックさんのシフトになっているわけですよ。な、ため、それ自体が悪いわけではもちろんないんだけど、やっぱり1作目の『アウトロー』とはかなり異なる感触の作品に仕上がっていることはたしかだと思います。

たとえば、もう画面の質感とか撮り方からして、もうまるで違うということは、特に前作ファンの方ははっきりと感じられると思う。さっきのメールにあった通り。それもそもはず、今回の撮影監督オリバー・ウッドさん。さっきのメールにあった通りです。よりによって、『ボーン……』シリーズ3作を手がけている人なわけですね。前作『アウトロー』が本当にここぞ!っていうところでしか手持ちカメラを使っていなかったのとは対照的に、今回の『NEVER GO BACK』は、アクションシーンでのカットも割と細かく割っていたりで、要は、前作の70年代風ルックっていうところからは一旦離れて、ぶっちゃけゼロ年代前半風っていうか。はっきり言うと、普通にちょっと前の流行りっていう感じに寄っちゃっているわけですよ。今回は悪い意味で全体、(あえての狙いではない方向で)ちょっと古いバランスっていうことになっちゃっているっていうね。なので、前作にハマった人ほど肩透かし感があるのは、これは否定できないあたりだと思います。

お話的にもですね、そのリーチャーの娘かも? という少女。この少女を演じてるダニカ・ヤロシュさんという方の、全く美少女感ゼロっていうあたりは、これはさすがのリーチャーバランスっていうか。さすがのリーチャークオリティー(笑)っていう感じで、いいキャスティングだとは思うんですけど、そのサマンサっていう少女の出番や役割を、原作小説から大幅に増やして。それ以外にも小説からのアレンジがすごく多くて、前作以上に、もうほとんど元の原型を留めてないぐらいされているんですけど。

要は、言わば疑似家族のロードムービー的な側面を非常に強めたということで、たとえば旅を通じて父性に目覚める。つまり、真の意味でちゃんと大人になる主人公っていうのは、トム・クルーズがこれまで演じてきたいろんな役柄とも結構重なるあたりで。特に『宇宙戦争』とかと重なるあたりだし。なにより、ジャック・リーチャーというキャラクターとしては結構これ、異例の事態でもあって。というのは、これも先ほどメールにあった通りなんですけど、要はもっと後でやる方の話なんですね。前作の『アウトロー』の原作は9作目『One Shot』だったのに対して、今回は18作目。一応最新作が原作なんですよ。しかも、本当はその1個前の『61時間』っていうのを映画化する予定だった。で、ターナー少佐っていうのはここで登場するキャラクター、電話でだけ話すキャラクターだったんだけど、それが雪のサウスダコタでの撮影が非常に困難だと判断され、今回の1個先の話にしたということがあって。


ということで、とにかくね、本来は決して成長・変化しないキャラクターであるはずのジャック・リーチャー――これはもう原作のリー・チャイルドさんが言っていることですけど――揺るがないはずのリーチャーにあえて、反則技的に揺さぶりをかける。そういう設定なわけですね。娘かもしれない人が現れて……っていう。つまり、映画だと2作目でもうそんな反則技的なことをやっちゃっている。2人の強く賢い女性に挟まれてタジタジになるジャック・リーチャーっていうのを、いきなり2作目でやっちゃっている。で、さっきのメールにあった通りですね。「そんなのはもうちょっと後でやってくれ!」っていう。そういうことをやるとどうなるか?っていうと、要は「単に普通のアクション映画」に近づいちゃうんですよ。つまり、ジャック・リーチャーというキャラクターの、言っちゃえば異常性、コミュニケーション不能感が後退してしまっているため、普通のアクション映画に近づいちゃっている。


なので、そもそも原作選びとその映画化の際のデベロップメントの方向がちょっとどうだったのかな?っていう感じはあるかなと思います。もちろん、ジャック・リーチャーシリーズに僕らが求める、オフビートな外しの笑いみたいなのは全編にあるんです。たとえばあのね、軍の拘置所から脱出する際の、あの「黒のセダン」ネタなんてのは面白かったですけど。ただ、個人的には僕、ジャック・リーチャーならではのおかしみがいちばん出るのって、彼があまりにも切れ者でなんでも先回りして行動しすぎちゃって、答えが出すぎちゃっていて、さっき言ったように周囲の人間はちょっと虚を突かれてしまう。最初は「はあ? なに言ってんの?」って感じになって、直後に彼の正しさがわかって「なんだかなあ……」っていう感じなるっていう、そういう展開のオフビートなおかしみっていうのが、やっぱりジャック・リーチャーならではのものだと思うんだけど。


その意味で、今回の『NEVER GO BACK』は、オープニングはまさにそういった、「俺たちが見たいジャック・リーチャー」にきっちり応えてくれています。その、オープニングで「みんなが見たいリーチャー」に応えてあげるっていうのはこれ、当然作り手側の計算でもあると思いますが。ただ、それ以降ですね、今回割とジャック・リーチャーさん、後手に回ることが多いんですよね。で、それもこれも、連れて逃げている少女のサマンサが、いちいち追っ手に位置がバレるような、もう初歩的なポカをしでかしまくる。しかも、それは映画オリジナル展開なんで、ちょっとやっぱり見ていてイライラするあたりですし。やっぱり映画オリジナルで足されたクライマックスの舞台となるニューオリンズに移ってから、呑気にホテルに何度も戻ってきて、「ただいまー」「行ってきまーす」「ただいまー」みたいなことをやっていて。ねえ。最初、リーチャーが1人で出かけたのとか、劇中でもそのターナーさんに散々怒られてましたけど。「お前、何しに行ったの?」っていうね、散々怒られてましたけどね(笑)。


ということで、前作に比べるとなんかちょっとリーチャーさんの切れ者感が全く堪能できないということだと思いますね。あと、たとえば埠頭での銃撃戦。オイルに火がついてドカーン! とかはジャック・リーチャーシリーズではあんまりやってほしくないタイプの、それこそちょっと(悪い意味で)「古い」見せ場の作り方だなとか、いろいろ言いたいことはあるんですね。ただ、ただ! この、「面白すぎない感じ」もいまとなっては貴重なプログラムピクチャー感であって、それはまあ、作り手の狙いでもあるっていうのは、(このシリーズの特色として)あながち冗談ではない。あながち贔屓目だけではないという風には思います。

まあコビー・スマルダーズさんのターナー少佐とか、あと前作だとジェイ・コートニーにあたる主人公の鏡像的なライバルのパトリック・ヒューシンガーさんね。アクションを演じるこの2人組とかは相当よかったですし。シチュエーションごとに味わいの異なる格闘シーンとかもいいですし。そしてなにより、やっぱりみなさんおっしゃる通り、アクション版寅さんとしてね、これ、映画版だと特にそうなっているんですよ。原作小説だと、普通にターナーとこの人(リーチャーは)、寝てますからね。ヤッてますから。やっぱりあえてこう、つかず離れずの感じが映画版の感じですね。


まあ、今回去っていくリーチャー……毎回去っていくんだけど、今回は特にやっぱり、なまじ家族的な絆ができちゃった人たちとの別れなため、そこで僕は改めて、『NEVER GO BACK』(決して戻らない)っていうタイトルを、こうやって親指を上げて(ヒッチハイクして)去っていくリーチャーの姿に重ねると、「ああっ……」って。僕、やっぱりちょっと、そこでホロリと来てしまったりしました。そしてなによりトム・クルーズ。心情説明セリフみたいなのを実は今回、ほとんどしていなくて。もう表情だけで、特にエンディング近くなんかは全部そこでニュアンスを表現していて、本当に見事な役者だと思います。


ということで、やっぱり僕はこのシリーズ、そしてトム・クルーズを断固擁護、支持することに変わりはございません。かならず3作目以降もよろしくお願いいたします! 『ミッション:インポッシブル』が「2」で終わっていたら、それはキツいシリーズってことになってしまっていたじゃないですか。だから、ちゃんと続けてください。お願いします、トム・クルーズさん! 応援しておりまーす!


(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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