きょうは、すい臓の中にできる石、すい石のお話です。すい臓の病気、慢性すい炎の患者さんの6割以上がもっているもので、石をそのままにしておくと、治療が極めて難しい、すい臓がんのリスクにも繋がります。このすい石については、なるべく身体に負担をかけない、保険適用の治療法が出てきています。森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)の「日本全国8時です」12月19日の放送で、医学ジャーナリスト・松井宏夫さんが解説しました。
★「暗黒の臓器」怖いすい臓の病気
すい臓と言えば、「暗黒の臓器」と言われ、やはり怖いのは、がんです。身体の中心部の胃の後ろにあり、肝臓、十二指腸など、多くの臓器に囲まれていて、検査で見つけるのも難しい。その上、特有の症状がないので、早期発見が難しく、気づいた時には、転移している。 そのため、がんになってしまうと、悪性度は極めて高く、5年生存率は8%程と、他のがんに比べると、手ごわいがんです。
★すい臓がんにつながるリスク「慢性膵炎」
すい臓がんに繋がるのが、慢性すい炎という病気です。すい臓がんのリスクが高くなる要因は、糖尿病、喫煙、遺伝などもありますが、特に慢性すい炎は、すい臓がんの発症率が、4から6倍、高まります。慢性すい炎は、炎症を繰り返し、組織がゆっくりと壊れ、機能しなくなる病気です。それは、すい臓が自らを繰り返し溶かし続ける、自己消化が起こるからです。
すい臓は、食べのもの消化を助ける、消化酵素を作る工場と言われています。消化酵素は唾液や胃液も作っていますが、すい臓は中でも一番強力な消化酵素を作ります。消化酵素は、すい液という液体に含まれて、すい臓の中央にある管=すい菅を通り、隣の十二指腸に送り出されます。通常は、すい臓の中で、消化酵素が活性化することはなく消化能力をもちません。ところが、慢性すい炎の人は、すい臓の中で、消化酵素が活性化して、すい臓自身を溶かしてしまいます。
★すい炎悪化の要因「すい石」
その、慢性すい炎の原因でもあり、特徴的な症状が、すい臓の結石、すい石です。患者の6割以上は、すい管の中にすい石をもっていて、すい液の流れを止めています。そのままだとすい管内の圧力が高まり、消化酵素が活性化するので、自分自身を溶かす、自己消化が、ますます進んでしまいます。そして、すい臓がんのリスクも高まってしまいます。そこですい石を取り除く必要があるのですが、条件が悪い場合、以前は大変でした。すい石が2~3ミリの場合は、内視鏡治療で、掻き出すことができますが、5ミリ以上で大きなものや、硬いもの、場所が悪い場合は、開腹手術となりました。
★すい石を衝撃波で砕く!
それが、最近では手術しない治療がでています。体の外から、衝撃波を当てて、すい石を砕く、「対外衝撃波結石破砕療法」です。衝撃波はジェット機や爆発などでも発生しますが、圧力の変化によって生じる超音波です。すでに、尿路結石などに使われているものが、すい石にも新しく適用となり、2年前から保険適用にもなっています。患者さんは。衝撃波を生み出す特殊な装置の上に、寝ているだけです。すい石の場所によって、うつぶせの場合も、仰向けの場合もあります。
装置から、衝撃波を1度に「ドンっ!」と起こして砕くのではなく、1回の治療で数千発の衝撃波を、平均6回程に分けて、砕いていきます。石だけに焦点を当てて衝撃波を当てるので、治療後も、痛みは特にありません。
大きさや場所にもよりますが、1度にかかる時間は、大体1時間以内。元は、5ミリ以上の大きかったすい石が、2~3ミリまでに砕かれていきます。そこまで砕かれると、すい液で外に流れていきますが、流れない場合は内視鏡で取り除いていきます。これで、4人に3人は完全に石がなくなります。石を取り除くことで、ある程度、慢性すい炎の進行を止めることができます。石を取り除き、痛みを収めることが、生活改善で重要な1つとなります。消化酵素が本来の場所で、働きますので、消化がよくなります。
★すい炎の治療で重要なのはお酒
薬物治療や生活改善の対症療法で、進行を食い止める治療をしていくことになります。その際、慢性すい炎で、もう1つ注意したいことは、お酒=アルコールです。アルコールが活性酸素を増やし、すい臓の中を酸性にしてしまうので、消化酵素がすい臓内で活性化してしまう、と考えられています。男女差はありますが、男性の場合、慢性すい炎の8割近くがアルコールによるものです。女性の場合でも、アルコールが原因の人が、3割います。
一般的に、1日にビール中瓶4本・日本酒にして4合弱を10年間以上取り続けると、リスクが極めて高まるといわれています。2013年から、5年間かけて、慢性すい炎の追跡調査が行われています。慢性すい炎が進行する人、回復する人はどこが違うのか。ここまででわかったことは、「酒を減らすのではなく、酒を断つことが重要」ということ。飲酒量を減らしたとしても酒を飲み続ける限り、治療の効果は薄くなってしまいます。
★やっぱり早期発見が重要
そして、そもそも何より、重要なのが、早期発見です。慢性すい炎は、早い段階であれば、治る可能性があることもわかっています。慢性すい炎の検査では、血液検査を行って疑いがあると、CT検査を行います。そして、患者自身気づくことができるのは、みぞおち、背中の痛みの出始めです。慢性すい炎の進行の原因となる、すい石など、心配の芽は、直ぐに取りましょう。それが、治療が難しい、すい臓がんのリスクを減らすことに繋がります。