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放送中

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  • コラム

第50回放送『小笠原諸島 父島』

コンシェルジュ沓掛博光の旅しま専科
白砂とコバルトブルーの海が印象的な小笠原諸島、南島の扇池のビーチ

白砂とコバルトブルーの海が印象的な小笠原諸島、南島の扇池のビーチ

 東京から南へおよそ1000キロの海上に小笠原諸島がある。都心が2度だった2月中旬、訪れた小笠原はおよそ20度。この気温の10倍の違いが、小笠原に他にはない魅力を生み出している。冬から春にかけて集まるザトウクジラのウオッチングもそのひとつ。今週はクジラが群れる小笠原の父島を紹介しよう。

昨年にデビューした3代目となるおがさわら丸。東京の竹芝桟橋と父島の二見港を24時間で結ぶ

昨年にデビューした3代目となるおがさわら丸。東京の竹芝桟橋と父島の二見港を24時間で結ぶ

 小笠原諸島は全部で4つの列島からできている。北から聟(むこ)島、父島、母島、硫黄列島と続き、この他に最近、噴火により拡張して話題となった西之島など全部で30の島々からなる。このうち一般の人が住む島は父島と母島の2島のみ(有人島ではほかに硫黄島と南鳥島がある)で、手付かずの自然が高い評価を受け、2011年には聟島、父島、母島の各列島と硫黄列島の一部及び西之島が世界自然遺産に登録された。本土と小笠原諸島を結ぶアクセスは船便しかなく、東京の竹芝桟橋から父島の二見(ふたみ)港とを昨年デビューした3代目おがさわら丸(1万1035トン)が6日間ごとに片道24時間かけて運行している。竹芝桟橋を午前11時に出港し、翌日の同11時に着く。24時間寄港地なしでの船旅。父島に到着すると“海路はるばるやって来た”ことを実感する。天候にもよるが揺れることがあるので、船旅に不慣れな人は予め船酔い止めを飲んでおいた方がいい。
 上陸した二見港の客船待合所横には歓迎するようにザトウクジラのオブジェが立つ。今回はこのザトウクジラのウオッチングからスタートしよう。

パープルな色彩の家々が立ち並ぶ父島の町並み。強い日差しに映えて南の島らしい明るさがただよう

パープルな色彩の家々が立ち並ぶ父島の町並み。強い日差しに映えて南の島らしい明るさがただよう

 父島は小笠原諸島の中心で人口はおよそ2000人。周囲52Km、車で巡れば2時間ほどで回れるこぢんまりとした島だ。小笠原丸が発着する二見港前の湾岸道路を行けばわずか2~3Kmの間に飲食店や宿泊施設、ホエールウオッチングやダイビングなどのツアーを受け付けている旅行会社から小笠原村役場、警察署、東京都小笠原支庁など諸官庁まで並ぶ。クリームやピンクなどパープルな色彩を使った家が多く、日差しに映えて通りはハワイを思わせるような明るさ。宿は民宿やペンションを中心におよそ60軒。父島も含め各島々は世界遺産に加え、国立公園や林野庁の森林生態系保護地域に指定されており、公認ガイドの同行がなければ入れないところが多いので、ガイドの説明を聞きながら小笠原の自然を楽しみたい。ホエールウオッチングではクジラ保護のために自主ルールが実施されており、ザトウクジラには100m以内、マッコウクジラには50m以内には船の方からは近づかないなどのルールがある。ガイドまたは船長がこれらのルールを守りながら案内している。

小笠原諸島周辺は5月上旬までザトウクジラが群れ、ホエールウオッチングが楽しめる。沖合に去っていく尾びれが海上に見られた

小笠原諸島周辺は5月上旬までザトウクジラが群れ、ホエールウオッチングが楽しめる。沖合に去っていく尾びれが海上に見られた

 今がベストシーズンのザトウクジラは北のベーリング海などから出産、子育て、交尾のためにこの南の小笠原諸島にやってくる。体長が13~14mほどあり、長い胸びれを海面に叩いたり、ブリーチングと呼ばれる海面上をジャンプしたりなどホエールウオッチングに人気のクジラ。毎年5月上旬までそうした行動が見られる。
 訪れた時は2月中旬で、この時点では30頭くらいが回遊しているとガイドは言う。二見港から小型船に乗り、早速その海域に出発。今回は海の状況から、船で20分ほどの父島の真下にある南島近くを訪れた。乗船した10人は全員が大人。それでもクジラが見られることに胸おどらせ、船べりに身を乗り出して海上に目をこらす。と、その時ガイドが「右、2時の方向にブロー」の声。時計の針が指す2時あたりの方角にクジラが呼吸のために鼻から出した息が白くなって見える潮吹きで、これはクジラがそこにいるシグナル。船を近づけ、今か今かとかたずをのむ思いで待つこと数分。「出たー」の大声でそちらに目をやると波間に背びれが見え、それから水にぬれて光る大きな背中が現れた。船内は「わぁー、すごい」、「大きい」と歓声があがる。その声に応えるようにザトウクジラは尾びれを見せ「また、いらっしゃい」と言わんばかりに海中深く潜っていく。ホエールウオッチングは大人を童心に帰らせてくれる心なごむアクティビティだ。

全島が石灰岩でできた南島。国立公園特別保護地区に指定され、貴重な動植物と美しいビーチとの出合いが人気を呼んでいる

全島が石灰岩でできた南島。国立公園特別保護地区に指定され、貴重な動植物と美しいビーチとの出合いが人気を呼んでいる

 このザトウクジラが泳ぐ海域近くに浮かぶ南島(みなみじま)は南北1.8キロと小さな島。むろん無人島で、隆起サンゴによって生まれ、ラピエと呼ばれる尖った石灰岩が島全体を覆っている。全域が国立公園の特別保護地区に指定され、林野庁の森林生態系保護地域でもあり、東京都自然環境保全促進地区にも指定されている。この言わば手付かずの自然の宝庫を守るため上陸には東京都認定のガイドの同行が必要で、しかも滞在時間は2時間、1日最大で100人までというルールがあり、なおかつ、外来種が島に持ち込まれないよう乗船前に港で靴底をたわしで洗うという入念な準備をする。
 島へは鮫池と呼ばれる波穏やかな入江に船を入れ、桟橋のないごつごつとしたラピエに舳先をつけて上陸する。島内の道は石を敷いたところのみ歩行可能で、その他は立ち入り禁止となっている。歩きはじめた道の両側にはオナガミズナギドリが6月に巣作りのために掘った穴が見られ、肉厚の緑の葉をたくさんつけたクサトべラが一面に茂っている。その先のラピエの急な崖を登ると眼下に扇形の白い砂浜とコバルトブルーの入江が美しい扇池が見える。入江の口はアーチ型をした奇岩で、その間を沖合から波が押し寄せ、岩に砕けて白く泡立ち、ビーチに広がる。奇岩の灰色と海のコバルトブルーに砂浜の白。大自然に広がる色彩の妙が小笠原諸島を代表する絶景を作り出している。砂浜の丘陵寄りにはたくさんの貝殻も見られる。ガイドによればこれはヒロヘソカタマイマイというカタツムリの一種で、1000年ほど前の半化石の状態という。1000年前のものが目の前に無造作に散在しているのに驚く。この浜ではアオウミガメがゴールデンウィークから夏にかけて産卵する。こうした半化石の貝殻が散る風景や亀の産卵の話を聞くと南島が貴重な自然の宝庫であることを実感する。

父島の森林には小笠原にしか生息しない固有種が多い。木性シダのマルハチもそのひとつで、葉を空に向けて大きく広げている

父島の森林には小笠原にしか生息しない固有種が多い。木性シダのマルハチもそのひとつで、葉を空に向けて大きく広げている

 陸上での見どころは父島内を巡る都道に沿って点在している。夕日が美しい三日月山展望台(ウェザーステーション)や海景が美しい長崎、小笠原諸島の固有種が棲む初寝山サンクチュアリなどがある。長崎からは目の前にお隣の兄島が見え、父島との間を通る兄島瀬戸を泳ぐクジラを発見したりする。一帯には黄色の花をつけたハイビスカスの仲間のテリハハマボウが見られる。この花は夕方になると赤くなって落下する不思議な花で、島の人はイチビ(1日)と呼ぶ。父島の東海岸寄りのほぼ中央に標高220mの初寝山があり、その麓の森林が小笠原諸島の固有のハトであるアカガシラカラスバトのサンクチュアリになっており、運が良ければ頭部がややピンク色し、首から胸にかけて緑と紫が混じり合ったような光沢のある美しい姿を見ることができる。森林内にはこのほか、やはり小笠原固有種の地面へ無数の気根を延し、まるでタコの足のようなタコノキや葉の取れた跡が逆さの八の字に見える大きい木性シダのマルハチ、あるいはどうやってこの島にたどりつき、水たまりまで行けたのか分からない不思議な小型のオガサワラアメンボなどここでしかお目にかかれない希少な生物と出合うことができる。サンクチュアリに入るにはやはり資格のあるガイドの同行と靴底洗い、ズボンについた種子などの除去が必要。

島魚のオナガダイの塩焼き。白身の淡泊な味に島の塩がよく合う

島魚のオナガダイの塩焼き。白身の淡泊な味に島の塩がよく合う

 父島の味覚では、当然のことながら海の幸が中心になる。よく食べられるのが伊豆七島などでも見かけるサワラなど白身の魚を醤油に漬けて、辛子を添えて食べる島寿司。小笠原ならではの味覚ではアオウミガメを使った料理。煮物や洋風にカメバーグにしたりして味わう。このほか、島魚として尾の長いオナガダイの塩焼きなど季節によって沿岸で獲れた魚をだす。フルーツでは今のシーズンはスターフルーツで、これから夏にかけては香り高いパッションフルーツがおいしい。サトウキビからつくる小笠原の地酒とも言えるラム酒に加えて楽しむのもいい。

問い合わせ:小笠原村観光局℡03-5776-2422
交通   :東京港竹芝桟橋より船
      (2等和室、片道2万3210円)、父島二見港下船。