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放送中

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  • コラム

第53回放送『城崎温泉』

コンシェルジュ沓掛博光の旅しま専科
温泉街を流れる大谿川に沿ってこぢんまりした宿が立ち並ぶ城崎温泉

温泉街を流れる大谿川に沿ってこぢんまりした宿が立ち並ぶ城崎温泉

 温泉街の真ん中を川が流れ、石橋を渡った両岸に柳並木が続く。下駄の音も軽やかに浴衣姿の女性たちが外湯を巡る―。山陰の名湯、城崎温泉はいつ訪れても温泉情緒にあふれている。春間近の城崎温泉と“但馬の小京都”と言われる出石の町を紹介しよう。

大師山頂から眺めた温泉街。すぐそばを円山川が流れ、その奥に日本海が広がる。自然豊かな温泉地であることが一目でわかる

大師山頂から眺めた温泉街。すぐそばを円山川が流れ、その奥に日本海が広がる。自然豊かな温泉地であることが一目でわかる

 城崎温泉は京都から山陰本線の特急でおよそ2時間25分、円山川(まるやまがわ)が日本海に注ぐ河口近くに湯煙を上げている。その発見は1300年前と古く、円山川の支流大谿(おおたに)川に沿って約80軒の宿が立つ。名湯と情緒あふれるたたずまいは多くの文人にも愛され、志賀直哉の名作「城の崎にて」でその名は広く知られるようになった。傷ついたコウノトリが体を浸して癒やしているところを見て温泉が発見されたとの伝説や今からおよそ1300年前の養老年間(720年前後)に道智上人(どうちしょうにん)が千日祈願の後に温泉湧出をみたという仏縁による説がある。上人はこの地に温泉寺を開き、現在も温泉街の一番奥の山際に薬師堂があり、近くに源泉が湧く。薬師堂そばから城崎温泉ロープウエイに乗ればその中間の温泉寺駅に本堂と多宝塔が立ち、大師山頂駅まで行くと奥の院がある。ここは標高231mの大師山頂で、眼下に城崎温泉が望まれる。温泉街の通りに沿って宿が立ち並び、その右手上方に円山川その左手奥に日本海が広がり、山と川、近くに海と大自然に囲まれた温泉地であることがよくわかる。

城崎温泉の楽しみは外湯巡り。浴衣に下駄をはいて、カラコロと歩く姿は城崎温泉の名物

城崎温泉の楽しみは外湯巡り。浴衣に下駄をはいて、カラコロと歩く姿は城崎温泉の名物

 城崎温泉の特色のひとつに外湯巡りがある。これは温泉街に点在する7か所の外湯に入りながら心身を癒やす城崎独特の温泉の楽しみ方。城崎温泉は平安時代から湯治で広く親しまれていたが、江戸時代にはさらに盛んになり、量の限られた湯を多くの湯治客が楽しめるように、各宿に内湯は置かず、外湯を共同の風呂として利用。内湯が各宿に登場したのは昭和25年以降と比較的新しいが、外湯文化を守ろうと各内湯はこぢんまりとし、広い湯船は外湯で楽しんでくださいという精神は変わらない。泉質は食塩泉で、筋肉痛や打ち身、消化器病などに効く。

外湯は全部で7か所。写真はそのひとつ、皇族ゆかりの伝説が残る「御所の湯」

外湯は全部で7か所。写真はそのひとつ、皇族ゆかりの伝説が残る「御所の湯」

 この外湯は平成12年にオープンした山陰本線城崎温泉駅に隣接する「さとの湯」から温泉街の最奥にある「鴻の湯(こうのゆ)」まで7か所。駅を背に直進した突き当たりに、源泉からお地蔵様が現れたという「地蔵湯」、大谿川沿いに「柳湯」、その先に江戸時代の温泉医学の第一人者香川修徳が城崎の湯を「海内第一泉(日本一の温泉)」と評価したことから名付けられた温泉街の中央にある「一の湯」、丸太を組んだガラス屋根が明るい露天風呂のある皇族ゆかりの「御所の湯」、庭園風呂が人気の上智上人との縁にちなむ「まんだら湯」とあり、それぞれ広々とした湯船や露天風呂に特色がある。各外湯には玄関に下足番がおり、湯から上がって外に出るときは宿泊客の浴衣を見てはいてきた宿の下駄をそろえるという昔ながらのおもてなしも気分を寛がせてくれる。下駄の音もからころと浴衣姿で次の外湯へというのも城崎温泉の楽しみ方。ここでは町全体が旅館で通りは廊下、かく宿は客室で外湯は浴場と見立て、町中でお客を迎えてきた。だから浴衣での外湯巡りがこの町では似合うのだ。
 なお、外湯利用は宿泊客は無料で、日帰りの入浴は600円~800円。湯めぐりがすべてできる1日入浴券は1200円。

文豪志賀直哉は城崎温泉で滞在した時のことを後にまとめて「城の崎にて」を発表。ゆかりの宿、三木屋にはその後に宿泊した部屋がある

文豪志賀直哉は城崎温泉で滞在した時のことを後にまとめて「城の崎にて」を発表。ゆかりの宿、三木屋にはその後に宿泊した部屋がある

 城崎温泉が広く知られるようになったのは文豪志賀直哉の「城の崎にて」からと言われる。志賀直哉は大正2年に東京で事故に遭い、その療養のために、当時日露戦争の傷病兵が収容されていた城崎温泉に滞在。三木屋に逗留し、見聞したことを後にまとめたのがこの作品である。現在で10代目になる当主の片岡大介さんによると志賀直哉は、現在の建物の向かい、今は駐車場になっているところにあった本館に3週間ほど逗留していたと言う。その当時の写真を見ると確かに2階の部屋は玄関の脇にあり、あの有名な蜂の死骸の描写が思い浮かんでくる。その後たびたび訪れた志賀直哉は現在の建物の2階の26号室に宿泊したと言う。ここからは明るい縁側の窓越しに緑の庭園が見下ろせ、「城の崎にて」とは趣を異にしている。室内には志賀直哉からの葉書も飾られ、志賀直哉ファンの利用が多いと言う。JR西日本では豪華列車「瑞風」のツアーでこの宿を訪ね、志賀直哉にまつわる話と室内見学を予定している。

“但馬の小京都”と呼ばれる出石の町のシンボル出石城の石垣と櫓。櫓と手前の登城橋は町の人々の寄付によって再建された

“但馬の小京都”と呼ばれる出石の町のシンボル出石城の石垣と櫓。櫓と手前の登城橋は町の人々の寄付によって再建された

 城崎温泉から車でおよそ30分、電車なら京都寄りに少し戻った豊岡駅で下車しバスで30分のところに“但馬の小京都”と言われる出石の町がある。江戸時代には5万8千石の城下町として栄え、今も城跡を中心にして当時の区割りを残した町並みが続く。
 城主は江戸時代に小出、松平、仙石と3代替わるが、最後は明治期までは仙石家7代が治めていた。その城跡は石垣を残すのみとなっていたが、昭和43年に東西に隅櫓が、平成6年に登城門が造られ、当時はなかったが便宜を図って橋も架けられた。建築費はすべて町民の寄付で賄ったというから町の人々の城へ寄せる熱い思いを物語っているようだ。
登城橋を渡って、再建された登城門から入り、石垣に沿って行くと左手に本丸跡に立つ西の隅櫓が見え、櫓近くからは眼下に城下と円山川に注ぐ出石川が見える。ここから東の隅櫓を通って城の外に出るが、周辺にはソメイヨシノが多く植えられ、古城を包むように咲き誇り、4月30日まで桜まつりも開催される。

出石の味と言えば、出石そば。出石焼きの白磁の小皿に盛られて出てくる

出石の味と言えば、出石そば。出石焼きの白磁の小皿に盛られて出てくる

 城を背に歩き出すとすぐ目の前に石垣の上に大きな時計台が立つ。これは辰鼓楼といい、かつての大手門の脇の石垣の上に明治4年に建てられ、当時は太鼓を打って時を告げていたというが、10年後に大時計が寄贈されてからは日本最古の時計として親しまれ、午前8時と午後1時には太鼓の音で時刻も告げている。直線ではなく、ゆるやかにカーブして道の見通しを遮るように造られた城下の道を歩くとあちらこちらに格子窓に卯建(うだつ)を上げた古い商家や民家を見る。一帯は平成19年に国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されており、明治9年の大火に遭うものの、後に再建された江戸期の様式を継承した民家などがかつての城下町のたたずまいを今に伝えている。そうした中で目立って多いのがお蕎麦屋さんである。出石そばと呼ばれ、白磁の出石焼きの小皿に盛ったそばをだし汁につけて食べる。およそ50軒が文字通り軒を連ね、昼時にはどこも列ができるほどの賑わいを見せている。だし汁に、タマゴ、ネギ、とろろなどがつき、小皿5枚で1人前が標準だが、成人男子なら10枚ぐらいはいける。のどごしのよさと腰のある打ち方がここのそばの特色。これは、7代続いた城主仙石氏が信州上田から出石に移封(いほう)された時にそば職人も共に移り住み、この地に伝えたのが始まりという。
 城の町出石にはこのほか、明治34年  に開館した近畿地方で最古の芝居小屋、出石永楽館もあり、畳表を敷いた客席や手動の回り舞台など古き良き時代の芝居の香りが漂っている。江戸歌舞伎や落語など今も現役で活躍中。

世界の冒険家植村直己のエベレスト遠征や北極点犬ぞり単独行などの装備品、遺品などを展示している植村直己冒険館

世界の冒険家植村直己のエベレスト遠征や北極点犬ぞり単独行などの装備品、遺品などを展示している植村直己冒険館

 出石の町中から郊外に向かうと、山陰本線の江原駅からバスで10分のところに世界中の人々から愛され、今も多くの人に希望と勇気を与え続けている冒険家、植村直己の植村直己冒険館がある。世界で初めてエベレストやモンブランなど五大陸の最高峰の登頂に成功し、犬ぞりによる北極点到達など人跡未踏の記録を樹立したが、1984年、冬のマッキンリーの登頂に成功したものの、下山途中で帰らぬ人となった。冒険館ではこの植村の功績を伝えようと、エベレスト遠征や北極点犬ぞり単独行などの装備品200点のほか、当時の映像や素顔を伝える植村の残した言葉なども展示。冒険家植村の人となりを正確に伝えている。
 また、江原駅近くには、高級な木製ハンガーを製造、販売して最近注目の中田工芸の本社と工場がある。すべて北欧のブナ材を使用して服に優しい、型崩れを防ぐハンガーを製造。お値段は普及品から高級品まで2000円から3万円クラスが主体。最近では“服=福がかかる”と結婚式の引き出物にも人気とか。JR西日本の豪華列車瑞風でも各客室にこのハンガーが置かれる予定になっている。

問い合わせ:城崎温泉は城崎温泉観光協会
      ℡0796-32-3663
      出石町は但馬國(たじまのくに)出石観光協会
      ℡0796-52-4806
交通   :山陰本線城崎温泉駅下車。
      出石へは同豊岡駅下車、バスで30分