お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

人はなぜタワーをつくるのか?

森本毅郎 スタンバイ!

忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」
(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」。全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

月尾嘉男

解説は東大名誉教授の月尾嘉男

3月30日(木)は「人はなぜタワーをつくるのか?」

★東京・上野で「バベルの塔」展が開催

今年(2017年)4月18日から7月2日まで東京・上野公園にある東京都美術館で「ボイマンス美術館所蔵ブリューゲル『バベルの塔』展」という展覧会が開かれます。その題名にもあるように、目玉作品は16世紀のオランダの画家ピーテル・ブリューゲルの有名な「バベルの塔」です。

ブリューゲルはバベルの塔を主題とした作品を3種類描いたとされていますが、ひとつは象牙に描いた小品で現在は残っておらず、板に描いた2枚の油絵が残っており、そのうちオランダのロッテルダムにあるボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館にある1枚が今回24年ぶりに日本で展示されることになります。大きさは縦60cm、横75cm。40インチのテレビほどの小さな作品ですが、精密に描かれているので、じっくり鑑賞する価値があります。

この絵のバベルの塔は海岸に建設されていますが、建設資材を運搬してくる多数の帆船や、工事現場の足場なども克明に描かれ、驚くべきこに現場で作業をしている無数の人々が胡麻粒ほどの大きさで描かれています。展覧会場で十分に接近して見られないかもしれませんが、細部を注意してご覧になると、奥深い絵だということが分かると思います。

バベルの塔は、旧約聖書の「創世記」の第11章に出てくる話です。当時の人々は同じ言葉を話しており、「町と塔を造って、塔の先端を天まで届かせ有名になろう」と煉瓦を焼いてアスファルトで固めて、高い塔を造り始めます。それを眺めた神が、人間が同じ言葉を話しているために、このような傲慢な考えを抱くようになったので、お互いの言葉を通じないようにして、人々がばらばらになるようにしたという内容です。

その結果、現在まで世界で多数の言葉が使われるようになったのですが、「バベル」とはヘブライ語で「混乱」という意味です。したがって、バベルの塔は人間が傲慢な気持を持つ事を戒める象徴となっているのですが、高い塔を建てたいという欲求は歴史的に延々と続いています。それは世界の様々な民族や宗教で神は天に存在すると考えられており、そこへ接近したいという願望が原動力になっているからです。

★高い塔をつくらせる原動力は

最初は「宗教心」を示すために高い建物を建てる活動が世界各地で出現します。日本の五重塔をはじめ仏教圏には仏舎利塔として高い塔が建っていますし、中世以後のキリスト教は教会に高い尖った塔を建てる競争をしてきました。12世紀の最高の高さはフランスのシャルトル大聖堂の34mでしたが、13世紀になるとフランスのボーヴェ大聖堂の48m、14世紀になるとイタリアのミラノ大聖堂の109mに伸び、それ以後、現在まで残っているものでは、ドイツのウルム大聖堂(161.5m)、イングランドのリンカン大聖堂(160m)、ドイツのケルン大聖堂(157.4m)など、160m級の教会の塔が数多く存在しています。ウルム大聖堂は1377年から建設を開始して、完成が1890年とされていますから500年以上。ケルン大聖堂は2度焼失し、現在の建物は1248年から建設が始まり、1880年に完成しましたから、632年かけて建設したことになり、宗教心の強さを感じます。   

次に原動力となったのが「権力」。人々は権力を誇示するために高い塔を建てるようになります。イタリアの中世にはサンジミニアーノに約70の塔(現存しているのは14)、ボローニアに約180(現存は約20)の塔が建っていたといわれますが、これらは貴族が自分の権力を誇示するために競争で建てたものです。

★タワーは国の経済力を映す

その次に登場したのが、これも権力の一種かもしれませんが、「経済力」を誇示する目的で建てられた塔です。それは宗教関係の建物ではなく、ビジネス関係の建物オフィスビルです。20世紀の経済力1位はアメリカですが、それを象徴する統計があります。1975年までに建ったオフィスビルを高い順番に並べると、1位がシカゴのシアーズタワーで442m、2位がニューヨークのマンハッタンにあるエンパイアステートビルで381m、3位がシカゴのエーオンセンターの346m。以下10位まですべてアメリカに建っていました。

ところが、それ以後2000年までに完成したオフィスビルでは、1位がマレーシアのクアラルンプールにあるペトロナスタワーで452m、2位が中国・上海の上海金茂大厦(ジンマオタワー)で421m、3位が中国の広州中心広場で386mとなり、10位のうちの7本が中国、1本がマレーシア、2本は中東となっています。これは世界の経済の中心がアジアに移ってきたことを象徴しています。

アジアの中の日本はどうかといいますと、1993年に完成した横浜ランドマークタワーの296mが最高で、蚊帳の外という状態です。これは地震国であるという制約もありますが、高層建築だけで考えれば、アメリカから日本の上空を通過して中国から中近東に経済の中心が移っていったという感じです。

★タワーも中国が席巻

それでは21世紀になってから造られた建物ではどうかというと、
1位がドバイに立つブルジュ・ハリファ(828m)、2位が中国・上海にある上海中心(632m)、3位がサウジアラビアのメッカにあるアブラージュ・アル・ベイト・タワーズ(601m)となっています。10位までの内訳は中国が5本、中近東が2本、韓国が1本、台湾が1本、アメリカが1本という状況で、世界の経済力を反映しています。

かつて人間は宗教心から神の存在する天空に到達したいと上空を目指しましたが、すでに地表から100km以上の宇宙に到達した人は延べ1200人以上になっています。ほとんどの宇宙飛行士は宇宙空間を物理的空間と理解していますが、アポロ15号で月面着陸をした後、宇宙で神に出会ったと信じて牧師となり、ノアの箱舟の探索に取組んだジェームズ・アーウィンのような人も登場しています。

この科学技術万能の時代に人間とそれ以上の存在との関係を考えるためにも、ブリューゲルの「バベルの塔」をご覧になったらどうかと思います。東京では東京都美術館で2017年4月18日から7月2日まで公開。大坂の国立国際美術館でも7月18日から10月15日まで展示されます。

月尾嘉男の日本全国8時です(リンクは放送後1週間のみ有効ですhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20170330080000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)