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【映画評書き起こし】宇多丸、『夜は短し歩けよ乙女』を語る!(2017.4.29放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)をガチで回して決まったこの映画……『夜は短し歩けよ乙女』

(ASIAN KUNG-FU GENERATION 『荒野を歩け』が流れる)

人気小説家・森見登美彦の同名小説をアニメーション映画化。好奇心旺盛で酒好きの”黒髪の乙女”と、彼女に恋心を抱く大学生の”先輩”が、京都の四季を背景に様々な人物たちとシュールでコミカルな騒動に巻き込まれていく。監督は同じ森見登美彦原作の『四畳半神話大系』や、映画『マインド・ゲーム』を手掛けた湯浅政明。主演の先輩の声を星野源──大活躍でございます──星野源くんが演じているのも話題になりました。ということで、この『夜は短し歩けよ乙女』を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。

メールの量は、多め。ああ、そうですか。よかったですね。これ、いろんな意味でね、注目作でございます。賛否の比率は「賛」。褒めている人が6割ぐらい。否定的意見と中間意見が残り4割ぐらいといったところでございます。「自由奔放なアニメーションにぶっ飛ばされた」「大学生活の楽しさや甘酸っぱさがいっぱい」「湯浅監督のテレビシリーズ『四畳半神話大系』のファンだったので今回も楽しめた」など、刺さる人にはかなり刺さっている様子。一方、否定派は「いくらなんでも詰め込みすぎ」といった意見や、あと原作のファンの方は「原作からの改変に納得がいかない」という意見も目立ったということでございます。

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「メザシのユウジ」さん。「宇多丸さん、こんばんは。東京に住んでいるメザシのユウジといいます。『夜は短し歩けよ乙女』、見てきました。見ている間、最初から最後までニコニコと笑顔になってしまう映画でした。僕は湯浅監督作品から感じられる自由な空気がとても好きなのですが、今回もかわいらしくてドラッギーな感じの映像が自由に、まさに黒髪の乙女のようにズンズン展開していく感じがとても心地よく感じられました。それと同時に、世の男たちの自己肯定意識の低さを指摘されている気持ちにもなりました。

なぜ黒髪の乙女のようにどんどん歩いていかないのか? 黒髪の乙女は様々な人と出会い、その人たちのために行動していくことで自分の世界が広がっていきます。先輩が妄想の中で叫んでいた『このまま一生孤独でいい者は前に出ろ!』というセリフには爆笑しましたが、誰も孤独なままでよいなんてことはなく、また自分で勝手に孤独と思い込んでいるだけで、周りの人との縁が自分を解放してくれる。そんなことが個性的なキャラクターやめくるめく映像から伝わってきました。繰り返し見ても新しい発見のありそうな、今年ベスト級の1本だと思います」という大絶賛メールでございました。

一方、微妙だったという方。代表的なところをご紹介いたしましょう。「サエグサ」さん。「湯浅監督が大好きで、前売り券も2枚買って万全の体制で臨みました」。だから結構ね、打つ気で行ったと。「……正直、微妙でした。90分という短い尺に収めるため、ストーリーを一夜の出来事にしてしまうという度胸と大胆さは買いたい。しかし、そのせいで主人公・乙女の心情の変化が希薄になってしまった感があります。一夜の出来事ということは、先輩のあんな汚いブツを見た数時間後にああいう結末を迎えるということなんですよね。とても信じられません」。まああの、「おともだちパンチ」する場面は、(自分がパンチを食らわせた相手が)先輩とわかってやっているかどうか、わからない感じもしますけどね。チンコがね……まあ、その話はいいや(笑)。「……一夜の出来事にしてしまう度胸と大胆さよりも、原作ファンに人気のエピソードだろうとバッサリとカットする度胸と大胆さがほしかった。京都が舞台なのに、京都らしさが描かれていない点もマイナスです」というようなご意見でございました。

ということで、私も『夜は短し歩けよ乙女』……先週の紹介でね、さんざっぱら「命短し」って言っちゃって。要するに、(題名の元ネタである)『ゴンドラの唄』とついつい間違っちゃう。「命短し恋せよ」ってついつい言っちゃうっていうね、というようなミスはありましたけども……『夜は短し歩けよ乙女』。私もTOHOシネマズ新宿で2回と、あと渋谷HUMAXシネマで、計3回、見てまいりました。で、僕が見た回はどの回も満席でしたね。すげー入っていますね、今回ね。おそらく原作小説ファンと、あとアニメ版の『四畳半神話大系』ファンと、ひょっとしたら星野源くんファンとか、まあ諸々全部が渾然一体となったような感じの集客なのかもしれないですけども、とにかく入っていましたね。

特にね、渋谷HUMAXシネマはですね、売店で、オフィシャルガイドとかと一緒に、劇中で出てくる『ラ・タ・タ・タム』っていう絵本……見た方ならわかる通り、劇中に出てくる実在の絵本まで、売店で売られていて。「これ、いいな! 気がきいてるな!」っていう。映画館側の、作品に対する愛情が感じられて、すごくいいなと思いましたけどね。ということで、この作品はいろんな切り口があると思います。原作ファンからの切り口であるとかね。もちろん声優さんも、花澤香菜さんとかいろいろと出ていますから、そういう切り口もあると思いますけども。僕的にはというか、この番組的にはやっぱり、まずは何はさておき、あの天才・湯浅政明さんの、何と劇場用長編映画の監督作としては13年ぶりの新作!というね、この部分ですよね。何しろね。


しかも、この『夜は短し歩けよ乙女』に続いて、来月には——まあ完成順としては逆らしいんですけども——もう1本、最新監督作。こちらは完全オリジナルストーリーによる『夜明け告げるルーのうた』という作品まで、連続で公開が控えている。13年間、長編映画なかった人が、いきなり月に1本ずつボンボンッ!ってやるというね。もういきなりどうなってんの?っていう勢いで。ファンとしては本当に夢のような事態が現実化しているということですね。それこそね、13年前の、湯浅政明さん長編映画初監督作にして、まあ見た誰もがぶっ飛ぶ、もう驚異的・歴史的大傑作『マインド・ゲーム』。2004年の作品、ありました。

僕も、もちろんリアルタイムで見て本当にぶっ飛ばされて。たとえば、「2000年代日本映画ベスト」企画みたいな、そういうのを選んでくださいって言ったら、もうかならず当然『マインド・ゲーム』を入れますし。とにかく事あるごとに「大好き大好き! すごいすごい!」と言い続けてきたわけですけども。特に、いまから4年前になってしまうんですが、2012年3月にですね、新宿バルト9でやりました、何度目かのタマフル映画祭。この番組主催の映画祭で、まさにその『マインド・ゲーム』と、あとね、りんたろう監督『カムイの剣』の二本立てという、我ながら素晴らしいにも程があるプログラムで上映をしましたね。

しかもですね、上映の合間に、映画ライターの岡本敦史さんとご一緒に、なんと湯浅政明監督ご自身に登壇いただいて、ちょっとだけお話をうかがうという、そんな機会がありました。もう、かれこれ4年前になってしまうんですけども。で、その時に湯浅政明さん、おっしゃっていたのが、「ちょうど映画の企画がまた1個ポシャったばっかりです(笑)」みたいなことを言っていて。「結構準備していたんだけど、また無しになりました」みたいなことを、諦め半分顔でおっしゃられていてですね。それを聞く側、ファンとしては、「これほどの天才でも、なかなかそんな映画を撮れないぐらい、難しいものなんだなぁ」ということを改めて思ったりなんかしていたので……まあ今回の新作映画ラッシュは、本当にもう、予想だにしない喜びということでございます。

とはいえもちろん、この間も湯浅政明さん、アニメ界において、様々な形で優れた作品を絶えず発表し、評価も受けてきたんですね。映画は撮っていなくても。このムービーウォッチメンのコーナーで扱った作品の中で言えばですね、2014年5月3日に扱った『クレヨンしんちゃん』の劇場版……湯浅さんはもちろん、『クレヨンしんちゃん』のアニメ版の、結構最初期からずっと深く関わられていることは有名な話でございますが……『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』、2014年5月3日に(このコーナーで時評を)やりました。の、絵コンテとか、あとクライマックスの設定、作画とかもやられているんですね。で、特にそのクライマックス。とにかくもう、世にもアホらしい——これ、褒めてますよ。今日はやたらと「これ、褒めてますからね」って出てきますから(笑)——世にもアホらしい巨大ロボバトル。俺、ラスボスのアホらしさとしては、マシュマロマンを完全に超えたと思いますけどね(笑)。とにかくアホらしいにも程があるラスボス戦とかですね、もう本当に最高!としか言いようがない仕事を見せていただきましたし。

近年でもね、これはテレビシリーズですけど、松本大洋の漫画の映像化としてこれ以上のものってあるかな?っていう、ある意味松本大洋映像化の決定版じゃないか?っていう感じだった『ピンポン THE ANIMATION』っていう2014年のテレビシリーズ。こちらもまあ、非常に高い評価を受けていましたし。来年には、Netflixオリジナルでなんと『デビルマン(DEVILMAN crybaby)』を……しかも、(名作中の名作として知られる原作漫画の)最初から最後まできっちりやる、ということがすでにアナウンス済みでもあったりなんかして。あるいは、『アドベンチャー・タイム』っていう、アメリカの子供向けテレビアニメシリーズを手掛けられていて。で、その中の1個のエピソードが、アニー賞という、アニメの非常に権威ある賞にノミネートされたりとか、海外からの評価も非常に高かったりして。要は映画は撮れていなくても、非常に全然まあ、湯浅さん、引き続き絶好調。むしろ調子が右肩上がりではあった、ということは言えると思います。

で、この間の13年間のキャリアの中でも、特に大きかったろうと思われるのが……たとえば対世間的な波及力、ブレイクポイントとして非常に大きかったと思われるのが、今回の『夜は短し歩けよ乙女』と同じ原作者、同じ制作シフトで作られた……というより、要はまずこっち側の成功があったから、今回のアニメ版『夜は短し』も同じシフトで作られた、ということであろうというのが……フジの深夜の『ノイタミナ』枠で放映されておりました『四畳半神話大系』、2010年のテレビアニメシリーズ。この番組でも、たぶん(その放送を)やっている時に、まあとにかく湯浅さんファンですから、「『四畳半神話大系』、超面白い!」みたいなことを言ったりしていないかな? 言ってますよね?……という、シリーズがございます。



とにかく、湯浅政明さんのアニメの特色……言葉で表現するのは難しいんですけど、もうとにかく自由闊達、縦横無尽。で、僕はこういうことだと思うんですよね。とにかく手加減抜きでアートでアヴァンギャルド。もう結構、アートでアヴァンギャルドでシュールなのに、それがそのまんま、エンターテイメント性と“直結している”。つまり、「アートでアヴァンギャルド、“なのに”、エンターテイメントでもある」とかじゃないんですよ。「アートでアヴァンギャルドとエンターテイメント性が、“両立している”」でもなくて。湯浅さんの場合は、アートでアヴァンギャルドであることそのものが……「ああ、アートって、楽しいんだな!」っていう風に、アート性とかアヴァンギャルド性とかシュール性みたいなものが、そのまま、エンターテイメント性に“直結している”というのが、湯浅さんのアニメの良さだと思うんですけど。

で、最終的に、これは先ほどのメールの感じとも僕、近いことを感じております……「風通しがいい」っていうね。その(湯浅政明作品の持つ)「風通しがいい」資質と、森見登美彦さんの原作小説のテイスト……森見さんの小説もやっぱり、シュールだったりアートだったりアヴァンギャルドだったりするんだけど、たとえばそういうちょっと小難しい物言いとかが、そのままエンターテイメント性にもなっている、みたいなところで……要は最高の相性の良さ、化学反応を見せて、大成功した。で、広く人気、評価を集めたという。それまでの湯浅さんのコアなファンとかを超えて、支持を広げた、ということだったと思います。

で、その成功を受けて、同じく森見登美彦の「京都学生物」、同じ世界観の中で展開されるシリーズの中でも、特に高い人気を誇ると言われる『夜は短し歩けよ乙女』。アニメ化の話も、テレビシリーズの『四畳半神話大系』が成功した直後から、なんとなくはあったらしいんですよね。それ故に、『四畳半神話大系』のDVD、ブルーレイ。私も当然買っておりますが、その映像特典として、テレビ未放映エピソード、地面潜水艇シリーズっていうのが何個か入っているんですけど……その中でも、DVD・ブルーレイ3巻に収録されている『「地面潜航挺、女湯へ」〜閨房調査団桃色探索〜』というエピソードがあって。これが特に、『夜は短し』につながる要素、要は「李白さん」が出てきたりとか、後はまさに「パンツ総番長」の話が出てきたり……パンツを履き替えないで云々、っていうような話が出てきたりとかして。明らかにちょっと、『夜は短し』に向けて助走をつけているな、という感じの短編が入っていたりするんですが。

まあ、それもでも、何度か企画が立ち消えて……みたいなところで、ここに来てようやく実現、ということらしいんですけどね。ちなみに、原作小説は2006年に刊行されてベストセラー、以来ずっとロングセラーになっているような小説なので、当然のように、実写化の話も何度か浮上したということらしいんですね。で、これは完全に僕の想像ですけど、2006年に出てベストセラー、ロングセラーになって実写化、っていうことはたぶん、中島哲也さんとかに話が行ったんだろうな……っていうね。『嫌われ松子の一生』とかそんぐらいのタイミングと考えるとね、(きっと話が)行ったんだろうなって感じ、想像しちゃいますけどね。まあ、それは置いていて……。

いずれにせよ、今回のアニメ版。原作小説のカバーイラストを描かれている中村佑介さんが……要するに、すでにキャラクターのビジュアルイメージみたいなのを、小説のカバーイラストの段階で作り上げている中村佑介さんが、アニメ版のキャラクター原案もやっていることも含めて……やっぱりアニメ版の『四畳半神話大系』の成功以降は、ちょっと他の作り方は考えづらいっていうか、今回の『夜は短し』も同じシフトでの ……つまり、当然湯浅政明さん監督、脚本はヨーロッパ企画の上田誠さんであるとか、あるいは、もちろんアジカン、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの主題歌だとか、そういう完全に『四畳半神話大系』を踏まえた作りの映像化っていうのが、まあやっぱり多くのファンの望みだった、と言っても間違いじゃないんじゃないかなと思います。

ということで、当然のごとく今回の劇場版も、『四畳半神話大系』とクロスオーバーする要素が非常にいっぱい仕込まれていまして。(『四畳半』を)見ていない人にいちいち説明するのも面倒くさいんで飛ばしますけども、いっぱい仕込まれておりますので。今回のが気に入った方は、逆にさかのぼって『四畳半神話大系』を見るとめちゃめちゃ楽しめるんじゃないですかね。ということで、ついに実現したアニメ版『夜は短し歩けよ乙女』、どうだったか? というとですね……もうちょっとね、バカみたいな感想しか出てこないんですけど……とにかく何もかもが超カオス!なんですけど、まさにその超カオス!な感じこそが、とにかくものすごく、楽しい〜! ワクワクする〜!っていうね。

でね、その「楽しい! ワクワクする!」っていう感じ……それはたとえば、アニメーション作品として、躍動感があふれていて楽しい、ワクワクする、アニメーション作品ならではのイマジネーションが広がっていて楽しい、ワクワクするっていう、それはもちろんそうなんですけど、同時にそれが……これは湯浅政明さんの作品を見るといつも結構共通して思うことなんですけど、作品として、アニメとして、時にシュールだったり、抽象的だったり、かと思えば、心底くだらねえギャグが満載だったり——「くだらねえ」っていうのは褒めてますよ(笑)——ギャグの連発だったり。

そういう、アニメーションならではの躍動感とか自由さみたいなのが、物語のテーマ的な風通しの良さ、もともとこの『夜は短し歩けよ乙女』という小説が持っている風通しの良さとシンクロすることで、最終的にはやっぱり湯浅作品、いつも見終わった後に……『マインド・ゲーム』然り、『四畳半神話大系』然りですね、最終的に現実のこの世界も……アニメの中の世界がそうやって自由闊達で、「いいな! ワクワクする!」っていうだけじゃなくて、「自分が生きている、現実のこの世界も、やぱり実は、ものすごく楽しくてワクワクする場所なのかも?!」と、改めて思えてくる。たとえば『夜は短し歩けよ乙女』を見た後は、今夜は家に閉じこもってゲームばっかりやってないで、久しぶりに夜、遊びに出かけちゃおうかな? 飲みに行っちゃおうかな? いろんな人がいるところに冒険しに出かけてみようかな?って、そんな気持ちになる。要するに、実人生にちゃんとフィードバックする勇気をもらえるというか、元気をもらえる。これはやっぱり湯浅政明作品、毎回そうだと思うんですよね。

特に今回のアニメ版『夜は短し歩けよ乙女』はですね、原作小説が、先ほどのメールにもあった通りですね、四季が移り変わっていく、1年を通しての4つのエピソード。春、夏、秋、冬のエピソードがオムニバス的に分かれているというのを、もう時空のねじれをものともせずにですね、なんと力技で一夜の、全部一晩に起こったことにしてしまっているため、それぞれに描かれる祝祭的高揚感……1個1個のエピソードが、それぞれ違う祝祭的高揚感を描いているんだけど、それがより凝縮されて……こういうことだと思うんですね。要は、誰でもさ、「まるで1年のような一夜」っていうかね、「あれ、全部一晩に起こったことなんだ」っていうぐらい、なんかすごいいろんなことが起こった一夜、いろんな体験が凝縮された一夜って、みなさんもあると思うし。一方で、「まるで一夜のような1年」っていうか、「あの1年、あっという間だったな。いろんなことありすぎて、あっという間だったな」って。どっちも言っていることは同じで。

いずれにせよ、人生の中でも特別に「濃い」ひと時。ゆえに、時間感覚がちょっと普通じゃなくなっちゃっているような……一晩が1年に感じられたり、1年が一晩に感じられるような、夢のような、そんな特別な時期を、観客にも改めて体感させてくれるという、そういう作りになっている。この(エピソードやディテールの)全てがね、93分に収まっているというだけでも結構ね、驚く感じですし。なので、(劇中で)時計を見て、時間感覚っていうのはそれぞれに違うんだっていうのを見せる場面は、非常に実は大事なんですね。黒髪の乙女にとっては、これは本当は現実には1年かもしれないけど、一晩のように感じられたのかもしれないし。ある人にとっては、その一晩のことが1年に感じられるかもしれないし、ということです。どっちにしろ「濃い」体験ということです。その高揚感が、より凝縮されている。

たとえば、最初の春パートですね。まさしくこれね、僕の以前からの持論である……もう完全に僕の持論の映像化ですよ。「人生でいちばん幸せな瞬間、それは“ハシゴ”している時だ!」っていう(笑)。これを完全映像化したパートですね。本当に多幸感にあふれているし。あと、僕はさっきのメールで「京都感が出ていない」という意見がありましたけど、そうかな?って思っていて。あの京都の、木屋町とか先斗町とかあのへんの、ごちゃごちゃ入り組んで飲み屋がいっぱいあって、みんな飲み歩いていて。で、古い物もあれば新しい物もあるっていう感じ。なんか僕はね、何度となく(そのあたりに)ライブにも行っていますし、「ああ、あそこ、あそこ」みたいな感じで、僕は逆に「っぽいな」って思って見ていましたけどね。

とにかく「ハシゴの高揚感」、これ、春のパート。同様に夏のパート。古本市なんですけど……これ、要はこういうことです。古本もさることながら、「“巨大な文化的アーカイブ”を前にした時のワクワク」ですよね。だからその、ズラーッといっぱいビデオが並んでいるところでもなんでもいいんですけど、「おおーっ! あっ、ああっ! 見たことないやつがこんなにある!」っていう、そのワクワク感。と、同時に「歴史がそこに積まれているんだ」っていう、崇高な気分がちょっと入るとかですね。

あるいは、秋パート。学園祭がワクワクして楽しいのは言わずもがなですが、それもですね、京大という……いま、大学もどんどん変質してきた、たとえば早稲田も昔はそうだったけど、そういう匂いがだいぶなくなってきちゃったなかで……京大という、かろうじてそういう匂いが残っているかもしれない、という幻想を残している大学。つまり、昔ながらの大学自治(イズムが生きている)がゆえの、「治外法権」感。大学の中だけはアナーキーっていう、その感じ。そんなの、楽しくないわけない!っていう空間だし。大学という「本来は日常的な光景が、その時だけは非日常化する」祭りの醍醐味というこの感じも、当然、ものすごくアガりますし。

しまいには、冬パート。風邪をひいて寝込んでいるっていうね、一見すごい静かな、静的な話なんだけど、これもさっき言った「日常的な光景が非日常化する」っていう……たとえば熱でうなされることもそうだし。あるいは、「風邪をひいてるから休みます」っていうのがすでにもう、「日常の非日常化」ですから。これもまたひとつの祭り、「ああ、そういえば風邪もワクワクだ」っていうね。(見方として)フレッシュなんだけど、言われてみれば普遍的なワクワク感みたいなものも、ちゃんと凝縮して描いているという。

ということで、一見まさしく夢を見ているように、脈絡なく連なっていく、転がっていくこの4つのお話が、最終的にその黒髪の乙女っていうのを通して、人と人とのご縁がつながっていく……全てはバタフライ・エフェクトのごとく関わり合っているのだっていうね。まあ『マインド・ゲーム』とか『四畳半神話大系』とも通じる、湯浅政明作品的な、とっても風通しのいい……要は、「世界の肯定」へと着地していく。なんて言うとね、なんかご立派な感じに聞こえるかもしれませんが。はっきり言って今回、さすが湯浅政明作品と言うべきか、個々の場面というか、1個1個の画面でやっていることは、いつも以上にしょうもないです(笑)。本当にしょうもない! 結構下ネタ多めの、しょうもないギャグのつるべ打ちでございます。

いちいち全てのディテールに触れるのはちょっと不可能なので、ポンポンと言っていきますけども。たとえばね、「詭弁論部」ですよね。詭弁論部、俺、入りたかったよ! っていうか俺、コンバットRECとか高橋ヨシキさんと、現にいまも詭弁論部にいるかもしれないですけど(笑)。現役生かもしれないですけど。その詭弁論部伝統の「詭弁踊り」、ついに映像化された詭弁踊りが、やはりアホらしいにも程があるっていうね(笑)。あの動きとか楽しいですしね。目当ての古本をゲットするために、途中、火鍋食い競争をするんだけど、四角い肉塊を飲み込む際の、いまどき珍しいぐらいのアニメ的デフォルメも楽しいし。辛いものを食いすぎてすぐに唇がタラコ状、とか、とにかくバカすぎるっていう(笑)。褒めてますけどね。あのへんももう、本当に最高ですし。

夏パートね。あの『四畳半神話大系』の「小津」を思わせる、古本市の神様の子供が、ボーンとぶつかって、ソフトクリームをくっつけられるっていうのは原作小説にもある展開だけど、それが(今回の映画では)わざわざ股間にバーン!ってくっついて、そそり立っているっていう(笑)。それもくだらなさを増していますし。で、そこで児童虐待を疑う古本屋のおじさんの顔のアップがしばらく続くだけで……笑っちゃうっていう(笑)。あのおじさんの声とかも、またたまんないですよね。最高ですよね。

あと、アホらしさの極めつけといえば、秋パート。学園祭のパートで、映画版オリジナルのアレンジとして、ミュージカル化されたゲリラ演劇『偏屈王』。まずあの『四畳半神話大系』の、映画部の城ヶ崎先輩っていうののエピソードを舞台化しているのを見せられる……というこの重層構造にクラクラさせられるのも楽しいし、そこでやおらセリフが歌になるところで、ちょっと無理がある言葉の詰め込み方で始まるあたり、「日本語ミュージカルあるある」っていうか(笑)、やっぱりすんごいおかしいな!っていう感じで。ミュージカルパートになると、あえて画がやたらと平板になるのも妙におかしいし。

一方で冬パート。先輩の内的葛藤。たとえば、議会場で先輩の(内なる心同士の)声が言い合っているという場面。画はほとんど動いてないのに、星野源くんの「声芸」だけで、ものすごいおかしくなっているあたりもいいし、そこからさらにですね、妄想がバーッと広がっていって、もうまさにこれは湯浅アニメの醍醐味である、大アクションシーンが始まっていくあたりもね。もう圧巻というか、(湯浅作品十八番の)ドラッギーな感覚全開で、「いったい何なんだこれは?」っていうね(笑)。素晴らしいあれじゃないでしょうかね。声優としての星野くんも、見事なハマりっぷりでしたし。あと、やっぱり花澤香菜さんが素晴らしいですね。この黒髪の乙女っていう、言っちゃえばちょっとクレイジーだし、わざとらしくかわいく演じると、すごくいけ好かない子にも見えかねないキャラクターを、本当に嫌味なくスッと、説得力を持って声一発で持っていっていて、さすがだと思いました。

全体に夢を見ている感じ……夢を思い出すのが好きな人、「昨日、こんな夢を見たな」を思い出すのが好きな人とか、あるいは、「後から振り返ると夢のようだった」、凝縮されていたあの一時期、みたいな思い出を持っている人であれば、その感じが、93分にグーッと凝縮されている感じだと思っていただければいいと思います。湯浅政明さんにしか作れない、オリジナルかつフレッシュかつ普遍的な映画。アートでありアヴァンギャルドであり、でもそれがそのままエンターテイメントな、またまたとんでもない傑作が出てしまった。でも(やっぱり実際やってることは)本当にくだらない!という……褒めてます!(笑) と、いうことだと思います。来月公開の『夜明け告げるルーのうた』。こちらも本当に楽しみだし、絶対にガチャで当てたいと思います。ぜひぜひ、劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ワイルド・スピード ICE BREAK』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパートでの追記>

『夜は短し歩けよ乙女』、言及しきれなかったですけども、大島ミチルさんの音楽もよかったしね。作画も素晴らしかったし。本当にもう、いろいろ素晴らしかったと思います!

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