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【映画評書き起こし】宇多丸、『ワイルド・スピード ICE BREAK』を語る!(2017.5.6放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:

ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。

今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ワイルド・スピード ICE BREAK』

(曲が流れる)

ヴィン・ディーゼル、ドウェイン・ジョンソンらが共演する大ヒット人気カーアクション『ワイルド・スピード』シリーズの第八作。謎の女ハッカー「サイファー」の策略により――これだけ読んでもすっごいバカっぽい(笑)――主人公ドミニクが仲間を裏切り、ファミリーたちの間に亀裂が走る。ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソンらおなじみのメンバーに加え、ジェイソン・ステイサムも前作に続き出演。更に、シャーリーズ・セロン、カート・ラッセル、クリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッドも参戦していると。カート・ラッセルは前作からかな? ミスター・ノーバディね。監督は結構ベテランなんですけど、『ストレイト・アウタ・コンプトン』でまた一気に名を上げたF・ゲイリー・グレイさん、ということでございます。

はい。ということで『ワイルド・スピード ICE BREAK』を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、ちょっと多め。まあ、みんなやっぱり『ワイルド・スピード』シリーズ大好きっていうことなんですかね。ちょっと多めということでございます。

賛否の比率は7割が褒め。2割が賛否入り混じり。残りわずかの人が完全否定といった感じでございます。まあ、7割は褒め。要するに、『ワイルド・スピード』をわざわざ見に行っているような人は、基本『ワイルド・スピード』が好きだということだと思いますけどね。「何も考えずに楽しめた」「前作からの仕切り直しとしてはある意味100点のバカ映画っぷり」「今年ナンバーワンでいいです」などテンション高めの楽しそうなメールが目立った。ネガティブな意見としては「尻すぼみだ」とか「ジェイソン・ステイサムのキャラ(デッカード・ショウ)の扱いはそれでいいの?」のほぼ2点のみといったところでございます。代表的なところをご紹介いたしましょう……。

「毛だらけ猫パンチ」さんのメールでございます。「実はウォッチ報告をするのははじめてです。『ワイルド・スピード』最新作とあって『ぜひ、これは』と思い、メールしました。『毛が生えたやつは基本的に悪。たくさん生えていればいるほど悪人』というわかりやすいハゲ礼賛ロジックにて展開する本作……」(笑)。たしかにね、さっきもちょろっと言いましたけど、スキンヘッドがメインキャラに3人もいて。で、たしかに毛が長いやつほど……ロン毛のキャラは、ああ、たしかに。毛を束ねていたりなんかするともう、もう悪だ。ああ、たしかにね。「……ハゲ礼賛ロジックにて展開する本作。私は女で長毛のサラサラヘアーなので座りの悪さは半端なかったです。今世紀最大の『細けえことはいいんだよ』映画。一作目の走り屋臭プンプンのマニアック作品の時から比べ、脚本はより練られ洗練されていました」。で、いろいろ書いていただいて。

「……ジェイソン・ステイサムにぞっこんな女子の心を鷲掴みにする乙女ゲーム的サービスに感動に打ち震える有様です。思えば第一作目。女友達を誘ったところ、『車の話など面白くない。イケメン成分が足りぬ。ハゲはどうでもよい』などさんざんにこき下ろされて、『走り屋なんて赤城山にゴロゴロいるでしょ? あいつらにパンくずでも与えてその様子を見ればいいじゃない』と言われて立ち去られたのが嘘のよう。いや、きっと2000年の第一作公開より積み上げてきた(途中数作欠席)ヴィン・ディーゼルの毛のない頭から放たれる男のフェロモンが十数年を経てようやく世間に理解されるように結実したものなのです。長かった……」というね。ずっとファンだったと。

「……親戚のヤンチャな子供が幸せな結婚と堅実な就職先を選んで家を建てたかのような喜びを感じます。これは1人の走り屋の人生だと思えば、親友の死を乗り越えて、八面六臂の大活躍をするドミニクの勇姿に胸が熱くなります。ダッジ・チャージャーをあんな寒いところに持っていって、果たしてエンジンの圧縮は大丈夫なのか? ちゃんと寒冷地仕様にできるのか?」。すごいですね。この方、もともとゼロヨンレーサーということで。それで車にお詳しいということです。「……細かいことが気になるのが私の悪い癖。そういう人は『カーグラフィックTV』でも見てればいいんです」。一応、寒冷地仕様カスタムみたいなの、していたけどね。そこまでしてダッジ・チャージャーに乗りたいのか?っていうね(笑)。ありましたけども。

「……最初は大黒埠頭でパラパラを練習していたバニングの人や、1998年ごろ日本の各地で行われていた非合法ゼロヨンなどを見て、日本の走り屋文化にインスパイアされたという触れ込みでしたが、立派なエンターテイメント作品として続いてくれて感無量です」というね。そう。走り屋物っていうところからちょっとシフトしたというのはありますけどね。ありがとうございます。走り屋、元ゼロヨンレーサーの女性からいただきました。

一方、ラジオネーム「ぬれせんべい」さん。29才男性。「『ワイルド・スピード』、ウォッチしてまいりました。カーアクションは設定も少しひねりがあり、多少無理はあっても突っ込む気にさせない感じが楽しかったんですが、ストーリー部分には大いに不満があります。特にジェイソン・ステイサム周辺に引っかかるところが多く、前作であれだけすごい檻に入れられていたのに、今回いきなり普通の囚人と同じところにいて、しかも謎の理屈で即ファミリー化には開いた口がふさがりませんでした。あいつ、ハンを殺したんですけど……そんなやつまで仲間ってありえませんよ。今回もブライアンの名前を都合よく使ってファミリー感を出してましたけど、ブライアンは作中では死んでいないのに……」。

ねえ。ポール・ウォーカー演じるブライアンは……ポール・ウォーカーさんが亡くなってしまっても、『SKY MISSION』の、話の中では亡くなっていないんだけど。「……作中で死んだ人間との扱いに差がありすぎて、明らかにバランスがおかしいと思います。『SKY MISSION』の感動すらぶち壊す駄作だ!」という言い切りでございました。

ということで『ワイルド・スピード ICE BREAK』、私もTOHOシネマズ日劇で字幕2D、そしてT・ジョイPRINCE品川でIMAX字幕3D。2回見てまいりました。IMAX3Dは、この間の『キングコング: 髑髏島の巨神』もそう(その作品仕様のアレンジ)だったんですけど、オープニングのIMAXのカウントダウンのところも、今回『ワイルド・スピード』仕様になっていて。それがすごいね、ブオーン、ブオーン、ブオーン!って、すごいガン上がりの仕様になっていました。それがすごい楽しかったですけどね。ということで、『ワイルド・スピード ICE BREAK』。これが日本題で、原題は『The Fate of the Furious』、または『Fast & Furious 8』ということでございます。八作目。

で、このシリーズ。特に四作目。日本題で言うと『ワイルド・スピード MAX』での仕切り直しが功を奏してV字回復。それまでちょっとシリーズ的に「ああ、これでもう打ち止めかな? 尻すぼみかな?」と思っていたら、四作目からまさかのV字回復をして、いま絶好調という、非常に稀有なシリーズではないかと思います。このあたり、三作目から参加した脚本のクリス・モーガンさんと『EURO MISSION』までの監督だったジャスティン・リンさん、このコンビの功績が非常に大きいんじゃないかということでござます。当コーナーでは先週ね、「ここのところ全作『ワイルド・スピード』のガチャが当っていて」みたいなことを言っちゃったんだけど、それは僕の勘違いで。これまでは2011年10月15日に5作目の『ワイルド・スピード MEGA MAX』と、2015年5月7日に7作目、今回の前作にあたる『SKY MISSION』を取り上げているということですね。つまり、その間の『EURO MISSION』だけガチャが当たっていなかったのを私、忘れてしまっていたんですが。




でもまあ、このシリーズ中で、現状8作ある中で、この『MEGA MAX』と『SKY MISSION』の2作をいままで取り上げているっていうのは、これはなかなかいい2作を取り上げているなと思います。というのは5作目『MEGA MAX』は、大きく言って2つポイントがあって。過去作のメイン出演者をオールスター的に総集合させて、「とにかく全員ファミリー化」していくという要素がひとつと、もうひとつは、それまでは「ストリートレースを舞台にした潜入捜査物」だったこのシリーズを、チーム強奪物、いわゆるケイパー物、それも「車を使って考えうる限りの大がかりな=大バカなスタントアクションを追求したケイパー物」へとシフトチェンジした。この2つのポイントで、それ以降のシリーズの方向性を完全に確立したという意味で、この『MEGA MAX』が非常に重要であったと。

僕は作品単体の完成度で言えば、8作品ある中で、『ワイルド・スピード』の中では、『MEGA MAX』が単体としては最高傑作だという風に思っていますけどね。で、ー『MEGA MAX』は非常にいい作品だったし……前作の『SKY MISSION』はもうなにしろ、シリーズの集大成中の集大成的な作品でもありましたし。なんと言っても、完成前に不慮の死を遂げてしまったポール・ウォーカーさん。シリーズを通してメインキャラクターであったブライアンを演じていたポール・ウォーカーさんが亡くなってしまった。そのポール・ウォーカーさんへの、本当に愛にあふれた……「映画史に残る」という言い方をよくするけど、本当にこの言い方が全然大げさじゃない、ラストの追悼シークエンスがあるということで。ここだけでもう100億点級っていうのもあって、要するに『SKY MISSION』っていうのは非常に特別な一作だった、というわけですよね。なので、この2つを取り上げているっていうのは結構よかったんじゃないかと思うんですけど。

で、当然ですね、『SKY MISSION』評の終わりにも僕、言ったんですけど。あまりにもこの『SKY MISSION』の終わり方が特別すぎて、ちょっとこの後が難しいぐらいじゃないかな? と。もちろん『SKY MISSION』のその特別さっていうのを超えるのはなかなか、そもそも不可能な話なんだけども。それでも続けるとしたらさあ、どうするのか? ということで、シリーズ最新作。まあ、これが本当に最終章!な三部作のまずは一作目、ということらしいんですけども。ちなみに、本当は『SKY MISSION』の時点で、ヴィン・ディーゼルはインタビューとかで――ヴィン・ディーゼルは言うまでもなく『ワイルド・スピード』の主演スターであり、プロデューサーであり……まあ、ミスター『ワイルド・スピード』ですね――ヴィン・ディーゼルが、その『SKY MISSION』の時点で、「これが新しい三部作の1個目だ」っていう言い方をしていたんだけど。

まあ結果『SKY MISSION』が、ポール・ウォーカーが亡くなったこともあって、ちょっと特殊な一本となったので、ここからもう1回、三部作仕切り直しで最終章だということで、今回の『ICE BREAK』、どういう風になっているのか? というとですね、まずさっきも言ったようにですね、「オールスター的にどんどん総集合して、とにかく全員ファミリー化」って言いました。「ファミリー化」っていうのも、とにかく敵も味方もひっくるめて、最終的にどんどんどんどん、ヴィン・ディーゼル演じるドミニクを擬似的な家父長、擬似的なお父さんとするような、ファミリーの一員になっていく、取り込まれていく、みたいなこのシリーズの特性っていうのがあってですね。

このシリーズの特性というか、同じくヴィン・ディーゼル主演で、ついこの間公開されたばかりの『トリプルX:再起動』。「ザンダー」のシリーズがありますけども、これも全く同じように……この間の『トリプルX:再起動』も、たとえばドニー・イェンとかトニー・ジャー――トニー・ジャーは『SKY MISSION』にも出ていましたけど――が、主人公のザンダーに対して、一応敵対的な立場として登場するわけです。なんだけど、もう『トリプルX:再起動』に至っては、敵対者として登場してすぐに、もうほぼほぼ仲間になっちゃう。ほぼほぼファミリー化しちゃっていて。一応、全編小競り合いみたいなのは続くんだけど、もうそれはほとんどいちゃつき合いというかね(笑)。「これっていま、争い合う必要あるかな?」っていう、いちゃつき合いみたいなものになっていて。ある意味、全編が既に打ち上げ状態になっている(笑)という、そんな感じだったんですけど。

なので、そういう「みんな大好き!」イズム。「みんな仲間! みんな大好き!」イズムは、もはや映画人としてのヴィン・ディーゼルの一種の作家性なんじゃないかな? ヴィン・ディーゼルっていうのはそういう映画を作る人なんだっていう風に思って見た方がいいのかな?っていう、そんぐらいの気持ちになってくるんですけどね。ということで、とにかくそうやって『ワイルド・スピード』は、シリーズを重ねるごとに、一応表面上は前は敵対的関係にあったような者同士も、どんどんどんどん家族化していくと。それこそ、ポール・ウォーカー演じるブライアンだって、最初はドミニクを追う、ドミニクを捜査する側。潜入捜査官だったわけですし、当然ドウェイン・ジョンソン演じるホブスもFBIとして、本来はドミニクを追っかけて逮捕するという(『ルパン三世』の)銭形的な役だったわけですけどね。いつの間にか銭形が完全にルパンファミリーになっているみたいな、まあそんな感じなんですけど。

ということを含め、『ワイルド・スピード』シリーズ。これは前の評でも言いましたけど、過去作にあった様々な要素を一種ちょっと後出しジャンケン的に……つまり、やや強引にでも、たとえば「あれ? 設定そんなでしたっけ?」みたいな、シレッと設定を変えてきてでも、過去作にあったいろんな要素を再利用、再解釈して出していくっていうのが、少なくとも4作目、さっき言った『ワイルド・スピード MAX』での仕切り直し以降、この『ワイルド・スピード』というシリーズのひとつの醍醐味だと思うんですよね。後出しジャンケン的に「あ、そいつをここでこうやって出すんだ!……でも、こいつこんなキャラだっけ?」とか(笑)。でもまあ、「あっ、ここで出るんだ。わーい!」っていう、これはひとつのシリーズの醍醐味になっている。

で、次はどんな後出しジャンケンをしてくるのか?(笑)、これがひとつの楽しみになっているぐらいだったと思うんですけど、今回の『ICE BREAK』。8作目では、その傾向にさらに拍車がかかって。まず、ストーリー説明でもかならず出るように、今回はドミニク(ドム)がファミリーを裏切るっていうんですけどね。ただ、そこに関して言えばまず、これはドムの真意ではない、「ああ、脅迫されているんだな」っていうことは、脅迫がなんでされているかを知らされる前からまあでも、「ああ、なんか脅迫なんだろうな」っていうのは観客には伝わっているし……観客に伝わっているだけじゃなくて、他のメンバーが「ドミニクが裏切った!」って言うんだけど、「真意ではなかろう」っていうことに関しては、別に最初から最後まで、そこまで疑っているわけじゃないっていうか(笑)。別に疑っていないので。

そこは、実はファミリー感にさしたる影響をそんなに与えてはいなくてですね。どころかですね、先ほどのメールにもあった通り、なんと前々作のラストで登場し、ドミニクファミリーの非常に重要な一員であったハン。これ、サン・カンさんっていう人が演じていて。ジャスティン・リン監督体制を象徴する素晴らしいキャラクター。アジア系で、いわゆるアジア人キャラクターのステレオタイプにはまらないかっこよさを体現しているという意味で、ハリウッド映画の登場人物としても非常に貴重だったと思うし、キャラクターとしてもすごく僕は好きなキャラクターでしたね。後に『TOKYO DRIFT』でなぜ東京にいたのか?っていうことに関して、非常に『EURO MISSION』の結末で、すごく切ない真相が語られるっていうあたりとかね、非常に好きなキャラクターで。

僕はそのハンがすごい好きなだけに……そのハンを、役柄上非常に冷酷に殺した、ジェイソン・ステイサム演じるショウ兄弟の兄、デッカード・ショウというキャラクターがいるわけです。一種、これはシリーズ最強の敵!みたいな雰囲気で現れるわけですね。『SKY MISSION』でも、要するに物語上の、『SKY MISSION』の中で直接戦う敵とは別に、シリーズ最強の敵としてこいつはいますよ、ぐらいの感じでずっといるわけですよ、ジェイソン・ステイサムね。なんだけど、今回なんと『ICE BREAK』で、「敵の敵は味方」っていうね……いや、それはそうかもしれないけど……(笑)、割りとあっさりこっちチームに入っちゃう。で、最初ね、一応みんなね、「いや、こいつだけは……」みたいにブースカ言ってるんだけど、なんかそのうちにね、お互いにディス合戦みたいなのをしていくうちに、「こいつゥ~!」「おまえ~!」みたいにね(笑)、なってきちゃってですね。

これ、いや、たしかにね、今回の『ICE BREAK』、序盤の非常に楽しい見せ場があって。要するにドウェイン・ジョンソン演じるホブス元捜査官が刑務所にブチ込まれて。あれもまあ、非常に理不尽な話なんですけどね。政府に言われてやったことで、たまたまミッションを失敗したらなんでムショに入れられなきゃいけないのかよくわかんないですけど、ムショにブチ込まれて。で、その向かいが――まあ、ミスター・ノーバディの粋なはからいなんでしょうね――向かいがジェイソン・ステイサムがいて。で、こう甘噛みディス合戦なわけですよ。お互い、いかにひどいことを言い合うか。これはもう、ある意味ペッティングなんですけどね(笑)。これをピーピーピーピー、こう、やっていてですね。からの、そこから大脱走シークエンスが始まる。それも、それぞれに非常に対照的なファイティングスタイル。

ドウェイン・ジョンソンはやっぱりものすごいストロングスタイルっていうか、パワースタイルで、ドーン、ドーン!って力まかせに行く感じで。一方ジェイソン・ステイサムはちょっとパルクールアクションみたいなね。ポンポンポンって壁を三角跳びしたりとかですね。そういうのがあって、非常に対照的なスタイルでの大脱走シークエンスとかですね、もちろん楽しいは楽しいですよ。めちゃめちゃ楽しいんですよ。ですし、もちろんジェイソン・ステイサムもね、またそういうちょっとスラップスティックコメディー要素含めのアクション演技はいちばんお得意な、十八番なわけですよ。やっぱりそれは。なので、役柄として非常にオイシイっていうところも含めて、今回の『ICE BREAK』この一本だけを見ている分には、ジェイソン・ステイサムがチームに合流するのも、そこまで違和感はない。この一本だけを見る分には別に問題がないと思うんだけど。

やっぱり、シリーズのファンとして、その「ハンの死」っていうのを重く受け止めている、特に僕みたいなハン・ファンは、「こいつ、ハンを……」って。しかも、ジゼルみたいに、どさくさで死んじゃったとかじゃなくてね、直接殺しているんだよ?っていうのもあるから。後出しジャンケンにしても、さすがにちょっとこれは無理が出すぎじゃないかな?という風にも感じなくもなかったですし……いや、そうじゃなくて、デッカード・ショウ、彼もまた自分の家族のために戦った結果なのだから、そういう意味ではドミニクと同じで……ドミニクはまさにそういう理屈で、「いや、お互い家族のために戦ったんだよな!」じゃないけど、そこで通じ合ったみたいな感じの理屈を、一応通そうとはしていますけど……。

いやいやいや! あの『EURO MISSION』における悪役、ショウ兄弟の弟、ルーク・エヴァンス演じるオーウェン・ショウさん。その弟の復讐のためにハンを殺したんですよね? ジェイソン・ステイサムはね。でも、そのオーウェン・ショウさん、別に死んだわけじゃないし……っていうか、今回の『ICE BREAK』終盤に、「えっ、実はなんの問題もないんじゃないの? じゃあ」っていう(笑)、「はっ? えっ、復讐? へっ!? えっ、えっ? なにが問題だったんだっけ?」みたいな、驚愕の展開が終盤に待っていたりしてですね。とにかく『ワイルド・スピード』のひとつの醍醐味である、「後出しジャンケン的みんな仲良しイズム」のインフレが、ちょっと今回、行くところまで行ったなと。臨界点を迎えたなと。ここから先に行くともうギャグだぞ、というところにちょっと行っているのは間違いないと思いますね。

あとそれと、ちょっと表裏一体の話なんですけど、前からちょっとこのキャラクターは、あまりにも都合よく扱われすぎなんじゃないか? という感じが僕はしていたあるキャラクター。具体的には主人公ドミニクの絶対的なパートナーとして、レティという、ミシェル・ロドリゲス演じる女性がいるんだけど、そのレティがいない間にお付き合いしていた、まあ”つなぎの相手”(笑)。ブラジルの警察官のエレナというキャラクターがですね……もちろん、物語を盛り上げるための機能っていうのは、僕だってそれは理解できますよ。それは理解できますけど、あまりにもあっさり……お話上も、そして画面上からも、姿を消してしまうのに、何か薄情さというか(を感じる)。先ほどのメールにもあった通り、物語上は死んではいないブライアンの重たい扱いに比べると、いちばんひどい死に方っていうか、「お前のせいじゃない?」っていう、ドミニクはかなり責任を感じてもおかしくない状況になっているのに、うーん、あっさり風味……っていうね。

これはやっぱり、さっきから言っている「みんな仲良し、みんなファミリー」っていう『ワイルド・スピード』のイズムの、ちょっとご都合主義的な側面が、これによって余計に際立っちゃっているんじゃないかな?っていうのは僕は感じざるを得なかったですね。ご都合主義と言えば、まあここ数作特に顕著になってきた傾向として、たとえばハッカー。コンピューターをハッキングするハッカー。「ハッカーって、どんだけ万能な人たちなの?」(笑)っていうのが今回、さらに極端になっていて。もうなんでもできるじゃん!っていうのがあったりとか。あと、スタントアクションシーンの大がかり度、荒唐無稽度、言っちゃえばスラップスティック度って言ってもいいあたりがどんどん高まるにつれ、「そもそも何のために、こんな大変なことをこの登場人物たちはやっていたんだっけ?」(笑)っていう風に、お話的な必然性とアクションシーンの……とにかく必然感はどんどん希薄に、見えづらくなって。

僕、今回「えっ? これはええと、何のためにこれをやっているんだっけ?」って何度もわからなくなって。まあ、ただね、そんなことはおそらく、脚本のクリス・モーガンさんを始め製作陣も、そういうことは100も承知でもちろんやっていることなんでしょうが。その分、たとえばその間の理屈はすっ飛ばして、みんな仲良く景気良く、ドッカンドッカンやろう!っていう祝祭感みたいなものはまあ、際立ったとは言えるかもしれない。特に中盤、ニューヨークでロケをした、この劇中では「ゾンビタイム」っていう……要するにシャーリーズ・セロン演じる天才ハッカー・サイファー(笑)がですね、そこらへんに駐車してある車をハッキングして、自在に操ってですね、町中がもうドッカンドッカン……雨あられの如く、大量の車がバッコンバッコン降ってくる。

そして、『ワイルド・スピード』っていうのは、そういうのをできるだけ極力CGに頼らず、本当に車をドッカンドッカン高いところから落っことしたりして撮っているということで、ひたすらスラップスティックな破壊行為があるというその描写はまあ、シーンとして日中なこともあって……たとえばオープニングの鉄球(を使った逃走劇)のシーンとかもいいんだけど、あれはやっぱり暗がりの場面で、車列がバーッとなっているのとか、ちょっと『トランスフォーマー』っぽい見栄えなところもあったりして。それに比べてニューヨークのシーンは、日中なこともあって、非常にそれがはっきりと、「ああ、これは本当にやっているんだ」っていうのがわかりますし。このシリーズの偉いところのひとつである、さっきから言っている極力CGに頼らずに実際にスタントで作った……つまり、実際に重みというか、実際にこのバカなことをやっているんだ、っていう感じがビンビンに伝わることをやっている。

それによって、「画で驚かせる」っていうことに毎回ちゃんとトライしているんで。本作で、そのいちばん偉い部分がよく出ているのは、このニューヨークのゾンビタイムシーンじゃないかなと思います。ただ、やっていることとしては、お話上の必然という意味では、「えっ、なんでここまでする必要あるの?」っていう(笑)。っていうか、「こんなことができるんだったらもう何でもできるよね?」ってなりますよね。あと、もちろん冒頭のレースシーン、キューバ。しかもこれ、キューバ全面ロケっていうのはハリウッド映画としては非常に画期的なことだったりしますよね。キューバロケしてのレースシーンも、もちろん『ワイルド・スピード』らしさっていうのはまさにレースシーン……土地土地のお国柄っていうのを反映した公道レースだと。しかも、毎回国々の素敵なかわい子ちゃんがスターターをやるというね。ちなみに『TOKYO DRIFT』でスターターをやっていたのは妻夫木(聡)くんでしたからね。日本のかわい子ちゃんは妻夫木くん(笑)っていうことなのかわかりませんけどね。はい。

で、ちゃんとこのレースシーンは、勝ち方に一応のロジックがあったりとか。だし、メインストーリーとあんまり関係ない展開に一瞬見えるんだけど、ちゃんと、要はドミニクのみんな仲良しイズムっていうのも、実際にドミニクはそれに従って行動しているんだっていうのを事前に見せるという意味でも、まあ今回の『ICE BREAK』のオープニングとしては、非常に筋が通っているあたりだったんじゃないかと思いますし。そのへんもすごく楽しいあたりだと思います。

あとですね、そのみんな仲良しイズム。これはひょっとしたら『ワイルド・スピード』だけじゃなくて、キャラ同士の関係性萌えっていうのが実はメインになっているってこれ、世界的なエンターテイメントの潮流かもしれません。もう本当に、キャラ同士の萌えのところをクローズアップして、ストーリーの整合性とかはどんどんどんどん、割りとどうでもよくなっていくっていう、世界的潮流とひょっとしたらすごくシンクロした結果のこの『ワイルド・スピード』のみんな仲良しイズムの中で……少なくともこの『ICE BREAK』の中ではしっかり、強烈な敵対関係を全うしているシャーリーズ・セロン演じるサイファー。これ、やっぱりシャーリーズ・セロンはね、さすがの演技力といか役の作り込みというか。

髪型の感じとか服装の感じとか、あと絶対にまばたきをしない――まばたき、たぶん映画全体でも1ヶ所ぐらいしかしていないですけど――演技とかも含めて、非常に説得力のある佇まいを作り上げていて。要は“最強の敵”感というか。「こいつだけは簡単には折れねえだろうな。こいつにはそういう人間味的な……こいつはファミリーはねえな」っていう感じをちゃんときっちり出していたあたりもね、さすがだったと思います。今回監督のF・ゲイリー・グレイさん。『ストレイト・アウタ・コンプトン』で非常に大ヒットを飛ばしましたけど。まあ、もともとはキャリアの長い職人監督さんで。特に、カースタントが見せ場のケイパー物という意味で『ミニミニ大作戦』のリメイクも撮っているし。あと、ヴィン・ディーゼルと『ブルドッグ』っていうので組んでいて。要するに、今回のドミニクがちょっと裏切るっていう、ヴィン・ディーゼルのダークな表情を出すっていうところで、『ブルドッグ』で1回それをやっているんで。そういう意味でヴィン・ディーゼルが信頼を置いているっていうのもわかるし。




あと、『完全なる報復』とかね、そういうちょっと、人を脅迫したりする演出とかが割りと得意というのもあって。まあ、こんなのお手の物の職人監督で、そういう意味では非常に手堅く……こんだけバカな話を、バカっぽくなく、ちゃんと職人として手堅くまとめているなという風にも思いました。さすがだと思います。あと、今回のメインキャストとも全員仕事済みでもあって、すでにファミリー化しているという。そういう意味で、これだけバカな話なのに、ちゃんとまとめているというのは本当にさすがだなという風に思います。ただまあ、今回の『ICE BREAK』はですね、シャーリーズ・セロン演じるラスボスとの直接対決が全然まだ済んでいないし、ちょっとまだ話の途中感が非常にあるというか。ある意味、今回の一作だけでは満足させきらない作りでもあるかとは思いますので。

まあ、おそらくは次の……結末はね、いろいろとメンバーたちが、最終的にどう散っていくかで、結末はまだいいとして、三部作の間の二部作がこれ、結構勝負だと思います。次が正念場だなという。あと、『ワイルド・スピード』シリーズとして、今回『ICE BREAK』でこれがなくて不満だったのは、「タイマン勝負シーン」。これが無かったので、ちゃんときっちりこれを入れてきてくれるかどうかですね。まあ、この次も含め、引き続き『ワイルド・スピード』シリーズ、楽しみになるような三部作の仕切り直し一作目でございました。ぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ノー・エスケープ 自由への国境』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

(以下、補足部分)

すいません。先ほどリスナーメールを読む時に僕、「(大黒埠頭を)おおぐろふとう」って読み方をしちゃたんですけど、「だいこくふとう」っていうんですね。走り屋さんには非常に有名な場所ということで。読み間違いでございました。申し訳ございません。

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