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【映画評書き起こし】宇多丸、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』を語る!(2017.8.5放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

20170805_06

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』

(テーマ曲が流れる)

あ、先週の『パワーレンジャー』に続いて音楽がブライアン・タイラーさん。同じですね。はい。1932年のホラー映画『ミイラ再生』のリブート作にして、往年のモンスター映画を甦らせる「ダーク・ユニバース」の一作目となるアクション・アドベンチャー。2000年の眠りから目覚めた古代エジプトの王女アマネットに呪われた男、ニック・モートンのスリリングな冒険を描く。主役を演じるのは――この番組でトム・クルーズ総選挙をやって、第一位の作品は『コラテラル』でした――みんな大好き、トム・クルーズ。そして王女アマネット役を、『キングスマン』で素晴らしい殺し屋役をやっていたソフィア・ブテラ。物語の鍵を握るジキル博士役をラッセル・クロウが演じている。監督はアレックス・カーツマン。クリストファー・マッカリーなども脚本に参加しているということでございます。

ということでこの『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』をもう見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は多め。まあ、トム・クルーズ総選挙をやった直後というのもあるかもしれませんね。トム出演作だったらということでね。賛否の比率は「褒め」が全体の3割、4割ぐらい。逆に否定的意見が全体の5割以上と、久しぶりにネガティブな感想が好意的意見を上回る結果となりました。「主演のトムとソフィア・ブテラ以外は全部ダメ」「ユニバース化を意識しすぎていて脚本がガタガタ」「なにをしたいのかがわからない」など厳しい意見が多かった。逆に褒める意見では、「ダーク・ユニバースの出発点としては及第点。この先が楽しみ」「トムは相変わらず最高」などなどです。どちらの陣営からも、つまり要するに作品を否定する側からも、トムは愛されている様子は伝わってきたということでございます。

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「サム・ペキングー」さん。「『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』、公開日に居ても立ってもいられず見てきました。結論から申しますと、めちゃんこ楽しかったー! ユニバーサルのロゴから地球を回って登場するダーク・ユニバースのロゴにテンションアゲアゲ! 俺たちのトム・クルーズ兄貴は楽しそうに楽しいアクションをバンバン見せてくれるし、ラッセル・クロウ兄さんも楽しそうにこれから広がるダーク・ユニバースのあれこれをチラつかせてくれるし。(女王アマネットを演じる)ソフィア・ブテラ姉さんも楽しそうに異様なフェロモンを出しまくって、ヒロインのジェニーを演じていたアナベル・ウォーリスなんていたっけ? と思わせるほど映画全体を掌握してくれました。

とにかく『楽しい』という言葉が似合う。そんでもって、モンスターホラー映画としてちゃんとびっくりするし、怖い。正統派娯楽活劇を見た気がします。ということで、ダーク・ユニバースという連続ドラマの第一話といった具合なので、一本の映画としての満足度はあまり高くない気もしますが、『早く続きが見たいよ!』と期待値ビンビンにさせてくれる時点で成功ではないでしょうか?」という、サム・ペキングーさんのご意見。

一方、ダメだったという方。「西山コタツ」さん。「史上最も続きの気にならないユニバース作品が始まってしまったな、とぼんやり思います。この映画ではいったい何が行われていて、何を楽しみ、何を面白がればいいのか、何もわからないまま映画が終わってしまいました。モンスター映画でもアドベンチャー映画でもホラー映画でもアクション映画でもなく、ただひたすら話を広げるだけの風呂敷映画にそろそろ観客はNOを突きつけた方がいいと思います」。まあ、「一話のための一話はどうなんだ?」っていうことなんですかね。はい。ということでメール、みなさんありがとうございます。

『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』、私もTOHOシネマズ日劇で字幕2D。で、ちょっと吹き替えに行く時間が今週はなくてですね、T・ジョイPRINCE品川でIMAX字幕3Dでも見てまいりました。やっぱりIMAX字幕3Dは、画面の迫力はさすがといったところでしたけど。ただ、どちらも僕が行った2回は、夏休み超大作にしては、ちょっと寂しい入りだったかもしれませんね。

ということで、モンスターホラー映画の古典、1932年、ボリス・カーロフ主演の『ミイラ再生(原題:『The Mummy』)』。これの、カウントの仕方にもよるけどまあ3度目のリメイクというか、リブートということですね。1959年、イギリス・ハマー・フィルムの、クリストファー・リー版『ミイラの幽霊』っていうね、これはイムホテップじゃなくてカリスっていう名前になっていたりとか、ちょっとアクション派ミイラになっていたりとかね。ですが、みなさんが割とご存知なのは……同じくユニバーサルによるリブートという意味では2作目、1999年の『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』という作品がございました。ブレンダン・フレイザー主演で、モンスターホラーというよりは、モロに『インディ・ジョーンズ』フォロワーですね。『インディ・ジョーンズ』的な、コメディー風味の冒険活劇方向に振り切ったというシリーズですね。まあ、スピンオフも含めてシリーズ化されましたが、あれはあれでやっぱり面白かった作品ですよね。



で、その『ハムナプトラ』シリーズも、あとスピンオフの『スコーピオン・キング』シリーズも含めて、全部製作しているショーン・ダニエルさんという方が……このショーン・ダニエルさん、同じく古典的モンスターのリメイク物としては、2010年に『ウルフマン』とかね、こんなのもやっていたりしますけどね、『狼男』。その、ミイラ大好きショーン・ダニエルさんが、『ワイルド・スピード』シリーズのクリス・モーガンであるとか、あるいは今回最終的に監督も務めることになったアレックス・カーツマンさん。この人は、『トランスフォーマー』『スター・トレック』、あと『グランド・イリュージョン』二作とか、テレビだとJ・J・エイブラムスとの『エイリアス』とか、『FRINGE/フリンジ』とか。要するに、リブートとかそういう、シリーズ物みたいなものを多く手がけてらっしゃる業界の方という感じですかね。脚本も書かれていますけども。アレックス・カーツマンさん。この3人で、またまた『ミイラ』を再生するというお話。



で、まあこの今回の2017年版『ミイラ』リブートね、大きな特徴が2つございまして。まずはやっぱり、先ほどの紹介でも言いました。ユニバーサル映画が権利を持っている古典的モンスターキャラクターたちを、まあ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の大成功以降、目下ビッグバジェットエンターテイメント映画の一大トレンドである、いわゆる共通世界観物シリーズですね。DCエクステンデッド・ユニバース、ゴジラやキングコングのモンスターバースみたいな感じで、非常にいまトレンドになっている、共通世界観物シリーズとして仕切り直す試み。その第一弾ということですね。

まあ、この後にハビエル・バルデムがフランケンシュタインの怪物を演じるやつであるとか、ジョニー・デップが透明人間をやるよとか、一堂に会して写真を撮っているのなんか見るとね、やっぱりちょっとね、「おおっ、すげえメンツだな!」ってね、多少上がるところありますけどもね。今回の『ザ・マミー』も、ご覧になった方ならお分かりの通り、先ほどのメールにもありました、ユニバーサル映画の「パパパ、パー、パパパー♪」って地球のロゴがグルーッと回って、地球の裏側の影の部分に入って、「DARK UNIVERSE」、ドヤーッ!っていうね(笑)感じで始まるという。で、ですね、そのダーク・ユニバースの第一作であるという件。これがまずひとつ。そしてもうひとつ。この『ミイラ再生』の何度目かのリブートである今回の『ザ・マミー』、もうひとつの特徴は、ミイラ役が女性になった、ということですね。

まあ、ミイラ物は『ミイラ再生』とかもそうですけど、古代エジプトで、禁じられた恋に走ったがために生きながらにミイラにされた男が、現代に蘇った後も、その恋人の再生に執着しているという、ちょっと色恋沙汰要素が入ってくるあたりが、ミイラ物の大きな特徴のひとつと言えると思うんですけど。今回はそのミイラになるのが、先ほどから言っているソフィア・ブテラさん。『キングスマン』の、あのガゼルというね、足が義足でシャキーン!ってやるという、すごいかっこいい女殺し屋。あれで非常に映画界でも大ブレイクした、もともとはダンサーの方ですね。ソフィア・ブテラさんが演じる、アマネットという女性になっていると。

で、今回の主人公である、トム・クルーズ演じるニック・モートンというのがですね、『ハムナプトラ』におけるブレンダン・フレイザーをちょっと受け継いだような、要はインディ・ジョーンズ型の陽性アドベンチャーヒーローでありつつも、同時に、さっきから言っている、これまでの『ミイラ再生』などにおけるヒロイン的な役回り……ミイラに見初められ、追いかけられ、なんなら魅入られ、操られる時もあるというような、そういうキャラクターになっている。だから今回の「ヒロイン」はトム・クルーズでもあるというね、そういうことなんですよね。

で、このニック・モートンというキャラクター。トム・クルーズが、主に主演作で得意とする二大路線があると思うんですけど。ひとつは完全無欠のヒーロー。『ミッション:インポッシブル』であるとか『ジャック・リーチャー』(日本公開タイトルは『アウトロー』)でもいいですけど、完全無欠のヒーローと、もうひとつ、トム・クルーズが得意としている路線……最初はちょっとチャラめな、なんならちょっと嫌な生意気ボーイだったのが、成長して……という話。この二大路線のうち、後者の要素もあるわけですね。最初はちょっとチャラめな生意気ボーイだったのが成長して、という。そういう要素もある役なので、これはハマればもう、超バッチリな話であるはずなんですよね。で、まあつい先日、当番組でもトム・クルーズ総選挙を開催したほどの、私はトム・シンパでございます。


なので、これから言うお話は多少心苦しい部分もあるんですが……結論を言えば、今回の『ザ・マミー』は、正直、ちょっと単体の作品としての出来は、擁護しきれないほど明らかな失敗作なのではないか、と私は思います。ただですね、これ誤解してほしくないのは、ひとつひとつの要素は決して悪くないんです。1個1個の要素を取り出してみると、「あれ? よく考えてみれば悪くないのかもな」って思えるぐらい、1個1個の要素は悪くない。さっきから言っているソフィア・ブテラさん演じるアマネット。ちょっとトビー・フーパー監督の『スペース・バンパイア』的な、相手の精を吸い尽くす系のセクシー女性モンスター系として、身のこなしから何から、本当にかっこいいですし。非常に美しいし、かっこいいし、惚れ惚れしてしまいますし。だからその、ソフィア・ブテラ演じるアマネットを見ているだけで眼福、というところもあるんですよ。

あるし、もちろんトム・クルーズも、いつもながら、本当に全身全霊で観客にサービスしまくってくれているんですよ。そこは全くブレてないです。トム・クルーズ、本当にいつも以上の全身全霊。たとえば、トム史上おそらく最大級にマッチョに仕上がったボディを、「どうだい? 俺のマッチョなボディ、かっこいいだろ?」って見せびらかすのではなく、メル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』における「ハリウッド」(というキャラクター)ばりに、単なる全裸ギャグとして使うこの贅沢さ(笑)。ねえ。もう全裸でこう、股間を隠して……完全にハリウッドのあれ(と同じ路線のギャグ)でしたよね。まあ、その贅沢なギャグ感であるとか。これももう、体当たりですし。

相棒である、ジェイク・ジョンソン演じるクリス・ヴェイルというキャラクターとの、ワチャワチャしたやり取り。特に中盤以降、ジョン・ランディスの『狼男アメリカン』オマージュなのかな?っていうね……要するに、もう死んじゃった友達がずっと一緒にいて、いろんなことを言ってくるという、『狼男アメリカン』を彷彿とさせる、ちょっと悪趣味込みのツッコミ合戦みたいな。こういうところがたぶん、(脚本にクレジットされている)クリストファー・マッカリー、たぶんトム・クルーズが自分で連れてきて、こういうところでキャラクターを膨らませたんだろうなと思える、非常に楽しい場面もありますし。

あとはまあ、たとえば大見せ場。アクション的な見せ場だって、特にやっぱりこの『ザ・マミー』のアクションシーンとしては白眉でしょう、中盤の、落下する飛行機内部のところね。あそこ、要するにああいう油圧で回転するセット。『2001年宇宙の旅』的なと言いますか、回転する巨大セットと、もうひとつ、実際に飛行機を使って無重力状態を作り出しての撮影を組み合わせて撮ったというね。で、そんでもって64回テイクを重ねたという(笑)。で、スタッフたちがみんなもう、グルグルグルグル回るあれで、他の人たちがみんなヘロヘロになっているんだけど、トム・クルーズとヒロインのアナベル・ウォーリスだけはピンピンしていたという(笑)。まあ、この2人はすごく訓練を積んでいたので。というまあ、非常に、何気にめちゃめちゃ大掛かりなアクションシーンであるとか。

あと、たとえば序盤。イラクで銃撃戦になって、ビルの屋上に立てこもるんだけど、周りを取り囲まれちゃって。で、そこでミサイルがボーン!って爆撃があってというところで、主人公たち2人を屋上に乗せたまま、ビルがグーッと崩落していくシーンとかですね。あれもすごい見せ場でしょうね。しかもあれ、パンフによれば、建物をセットごと崩落させているんですけど、リグ(建物を建てている骨組み)をガシッと戻すと、建物もすぐに元通りになるっていう仕掛けがあるんだって。メイキングとかでその元通りになるところが見たいわ!っていう感じの。でも、あそこも非常にやっぱり、「おおっ、すげえ、すげえ!」っていう見せ場ですよね。思い出してみると。はい。

とにかくですね、すごい見せ場はちゃんといくつかありますし。あと、ユニバース化を見据えた、ラストにある展開もあるんですが、僕は「ああ、なるほど。そう来たか。トム・クルーズ主演でミイラって、こういうことか!」みたいなアイデア。なるほどなっていう部分もありますし。そういう風に、ひとつひとつの要素を取り出せば決して悪くはない。むしろ1個1個は結構がんばっているわけです。の、はずなのに……という。その全てがですね、これほど見事に噛み合っていない、という例もちょっと珍しいんじゃないかな?っていうぐらいだと思います。ひとつひとつの要素を取り出してよく見れば大変がんばっていることはわかるんだけど、映画全体として見ると、ピントが全く合っていないので、なんだかよくわからないことになっちゃっている、という感じだと思いますね。

いちばんの難点はですね、観客に伝えるべき、物語上だったり設定上の情報を、伝える順番とかやり方など含めて、上手く伝えられていない、伝わりきっていないという部分。これが多々見られる。これがですね、いちばんの難点だと思いますね。まず、ちょっと出だしからして僕は、「ちょっと大丈夫? この映画……」って、出だしからしてちょっと躓いちゃったんですけど。まず最初、中世のイギリス。現代のロンドンの地下にあるところで、十字軍の遠征から帰ってきた騎士団が、何かをやっているというシーンから始まるんですけど。で、その同じ場所。現代のロンドンの地下、というところにシーンが飛ぶわけです。これは別にいいですよね。オープニングとしては。太古にこういうことが実はあった、そして現代、同じところへ飛ぶ。これは全然いいですよ。いいんだけど、その直後。そこにやってきたラッセル・クロウのナレーションで、今度は古代エジプトでのアマネットのエピソードにもう1回飛ぶわけです。

つまり、時代も場所も違う「昔、実はこんなことがあって……」っていう、要するに物語の設定の発端を作るエピソードが、しかも現代のエピソードにいったん戻ってから、割とすぐまた続いてしまうというですね。これ……普通に、下手じゃない?(笑)。スマートじゃないな、なんなんだこの昔の話にもう1回戻る感じ、しかも微妙に全然違うみたいなのって……と思ってしまう。で、そこから舞台は現代のイラクになり、主人公である、トム・クルーズ演じるニック・モートンの冒険シーンに移っていくんですけど、このニック・モートンのキャラクターが、どういう人で、なにを考えて行動している人なのか?っていうのが、いまいち伝わりづらいところが多々あるというのも、この『ザ・マミー』という映画を、トータルでやっぱり「つまらなく」感じさせてしまう、大きな一因であるという風に私は思いますね。

このニック・モートンというキャラクターは、大きく言って3つの要素が同時にあるキャラクターだと僕は思います。ひとつは、さっきから言っているように、「モンスターに見初められ、追い回され、時には魅入られて操られることもあるという、一種受動的な存在」。であると同時に、やっぱりトム・クルーズですから、「主体的に状況を切り開いていくヒーロー」的人物でもある、と。非常に矛盾する、相反する2つの要素をすでに持っているわけですね。なおかつ、さっきも言ったようにトム・クルーズ十八番の、「最初はただチャラい、ちょっと嫌なやつだった人が、次第に人間的に成長していく」という、こういう部分も持っているキャラクターでもあると。で、もちろんこの3つが上手くハマれば、非常に、エンターテイメントなんだけど厚み、深みがある、魅力的なキャラクターにもなり得ていたかもしれないとは思うんですが、残念ながら今回の『ザ・マミー』、出来上がった作品では、それらの要素がほぼほぼ噛み合わないまま……要するに観客は、彼の行動とか、トム・クルーズの演技からそれを推し量るしかないわけで……単によくわからない、ぼんやりしたキャラクターにしか見えずに終わってしまっているのではないでしょうか。

たとえば、この3つ目の、「最初はただチャラいちょっと嫌なやつだったのが、次第に人間的に成長していく」という要素ですね。これね、映画の中盤でこのアナベル・ウォーリス演じるヒロインのジェニーさんが……ちなみに、ご多分に漏れず、このジェニーさんを演じるアナベル・ウォーリスさんの、演技とかアクションとか自体は全然いいんです。めちゃめちゃいいんです。いいんですが、彼女が割と唐突に、「あなたは一見ただのチャラ男に見える、盗人かもしれないけど、実は善の部分があるのよ」みたいなことを、中盤で、結構唐突に言い出すわけですよ。で、「あなたの中には善があるのよ」と言う場面を見てはじめて、「ああ、トム・クルーズでいうとそういう役だったんだ」って、僕はそこではじめて確信できた(笑)。なんかその、どういうキャラクターなのかわからないまま見ていたんで、「あっ、そっちの方のキャラなのね」と。

これね、クリス・プラットが演じていれば、別に出てきた瞬間にわかると思うんですよね(笑)。「チャラいけど芯はある、みたいなやつだよね」と。ただトム・クルーズだと、「今回は完全無欠系? それとも、あとからいい人になる系?」って……というのは、そこまで割と、「主体的に状況を切り開いていくヒロイックな活躍」みたいなのを見せる場面も、結構あって。で、やっぱりトム・クルーズのアクションもすごいしっかりしていますから、「あれ? ええと、完全無欠系? 最初からヒーロー系?」とも見えてしまうので。どうもこの主人公キャラの位置づけとか、あと、本当は何を考えて行動しているのか? 何が本当にしたくて行動しているキャラクターなのか?っていうのが、ちょっとわかりづらいんですよね。この途中で「あなたは善の人だから」という説明で、「つまり、ここまではそうじゃない、っていう人なんだ」っていう(ことがようやくはっきりする)。これが非常にわかりづらくて、僕は非常に見ていて混乱しましたね。

あとですね、それに加えて、彼はさっきから言っているように、ミイラに魅入られ操られたりもする存在。時折、「幻視」をするわけですね。ちなみにこの、女性ミイラに魅入られる存在って考えると、さっき言ったクリス・プラットではちょっと演じられない。やっぱりトム・クルーズの、あの美形があってこそというのがあるから、そこはいいんですけど。まあ、時折幻視すると。なんですけど、たとえばね、こんな場面があったのを覚えてますかね? ロンドンの夜の裏道で、暗がりで、向こうから来るミイラと初遭遇か? というくだりで、まあネズミの大群にワーッと襲われて、キャーッ!ってニックが倒れて、「助けてくれ!」なんてなって。で、そうすると、なんか車のライトみたいなのがワーッと来たかと思ったら、パッと気づくと公道みたいなところにいて、ヒロインに手を引っ張られている、という場面に移るというところがある。

つまり、っていうことは、直前に見たあのネズミのあれは、幻視なのかな? きっとそうなんだろうけど……って思うんだけど、あまりにもその、ネズミに襲われるくだりと、そのライトみたいなのが近づいてくるカットがあって、公道でヒロインが手を引っ張っている、というこのつながりが、あまりにもあっさりと、次のヒロインとの会話シーンとかエピソードに流れていってしまうため、「ん? いまのは幻視だったっていうことかな?」みたいな。「ああっ、幻視だった!」みたいなことも言わないんで、なんかよくわからない感じに、現状の作品ではなっちゃっている。事程左様にですね、観客側が「まあたぶん、いまのはこういうことだったんでしょうね」っていう風に、いちいち忖度していかないとよくわからない展開が、非常に多いわけです。

で、それが極に達するのがクライマックス。主人公ニックが、ある非常に大胆な行動に出る。で、そこでの彼の心理の動きとか流れが、またものすごーく伝わりづらいわけです。「ヒロインを救うためにこの大胆な行動を取ったのかな?」と思って見ていると、さっき言ったようなヒロインの、「あなたの中には実は善の要素があるのよ」っていう回想が入ったりするので。で、ハッと我に返ったりする描写があるので。「えっ?っていうことは、いまの大胆な行動は、悪に魅入られた状態? 善じゃない状態でやった選択、だったの? ん? うん? よくわかんないんだけど……」みたいな(笑)。観客として非常に混乱させられる、感情の流れの伝え方が……というのがあったりしますね。

しかも、そもそもの「何をどうしたらこうなる」という作品内ルール。たとえば、「こうすると死者を生き返らせる力を得ることも、できるかもしれないですよ」というようなルールも、全くちゃんと伝えられていないまま……つまり観客が事後的に「うん、まあなんか、そういうことだったみたいね」みたいな、事後忖度(笑)していかないと、全く何が起こったのかわからない作りになっていて。そういうまま話が進むので、はっきり言ってしまえば、お話全体に対する感情移入がそもそもしづらい。全部がどうでもいい感じに見えてきちゃう、という感じだと思います。

これはもう、脚本がもともとガタガタだということだと思いますね。これ、書いてらっしゃる方も多かったですが。あと、キャラクターでいうと、ラッセル・クロウ演じるジキルさん。当然、ジキルっていうことですから「ジキルとハイド」なんですけど。MCUで言うニック・フューリー、みんなを集める役であり、同時にハルクも入っている、みたいな感じのキャラクターですけども。まずこのジキル……要するに善人サイドであるはずなんですけど、ハイドに変身する前の時点でこのジキルさんは、主人公ニックに、「お前、最終的に殺すから」みたいなことを冷徹に言い放ったりするわけです。で、なおかつハイドに変身してからも、ハルクほど別に見た目がそれほど極端に変わるわけじゃないので……要はあんまり変わったように見えないというか、単にヤクが切れて暴れている、ヤク中の患者にしか見えない、という風にですね(笑)。

これ、トム・クルーズとラッセル・クロウがバトルって、結構な映画的事件なのに……間のセリフで、ラッセル・クロウが演じるジキルが、ニックに「お前、若いからって調子に乗るなよ!」って言うんですけど、そこでまたね、「えっ? あ、このニックっていうキャラは、“若い”キャラなの? トム・クルーズの方が年上なんですけど?」みたいな(笑)。「ああ、若い(という設定のキャラクターだった)んだ」みたいな。ここもまた非常にノイズになっていたりね。あと、アクションの見せ場はたくさんあるし、凝っているはずなのに、なかなか記憶に残らない。サラッと流れて行っちゃうのも、単純に監督としてのアレックス・カーツマンさんの力量の限界なのかな?っていう気もします。

ケレン味あるキメ画みたいな、そういう決定打に欠ける。たとえば、地下鉄の線路で、ザーッと電車が走っていて。で、背中に壁がある状態で、トム・クルーズがいて、ヒロインのアナベル・ウォーリスがいて、向こう側にゾンビがいる。逃げ場がないし、トム・クルーズも直接ゾンビに手が出せないような、この狭い空間での戦い。「面白くなりそうだ。これはさすがに面白くなりそうな配置だ!」って思って、パッと画面が変わったらですね。次のショットでもう列車が行っちゃっているんですよね(笑)。もったいなっ! つまんなっ!(笑)っていうね。あと、ラストね。ダーク・ユニバースのシリーズ化に向けて、たしかに「こう来るか!」っていうね。日本のある名作漫画を思わせるある着地で、ああ、なるほどと思わせるんだけど、マスクを取らないんだな。顔を最後にダーン!って見せて行くとかさ、そういうのがないから。

で、しかも最後この主人公たちが向かっていく先が、まあピラミッドなんですけど、なんで向かっていっているのか、っていう文脈的な説明も別にないので……うん、別にこの続き、興味ないかなー、なにに続いていくのかよくわかんねーし、みたいな感じで(笑)。第一弾としては、これはかなりキツいんじゃないでしょうか。トム・クルーズ主演作としても久々に、「これはちょっと……」っていう感じだったと思います。ただ、ニックの右往左往ぶりのかわいさを楽しむ、という感じで、応援上映は向いているかもしれない(笑)という感じですね。はい。なんかこの作品全体のちょっと足りないところも、忖度も含めて応援して。「説明足りてないよー!」とかね(笑)、応援してあげたい気もします。ということでぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ジョン・ウィック:チャプター2』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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