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【映画評書き起こし】宇多丸、『散歩する侵略者』を語る!(2017.9.16放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を今、すごく具合が悪いながらも──なんで具合が悪いかはこれ、放送前のコーナー、「低み」を参照してください──

投稿コーナー「低み」音声↓

──ともあれ、監視結果を報告するという映画評論コーナーです。

今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『散歩する侵略者』

(曲が流れる)

劇作家で、昨年には番組にもゲスト出演して頂いた、前川知大さん率いる「劇団イキウメ」の人気舞台を映画化。数日間、失踪していた夫が妻の元へ戻ったところ、まるで別人のように記憶を失っていた。そして街には不穏な予兆が現れ始める。監督は『トウキョウソナタ』『リアル~完全なる首長竜の日~』『クリーピー 偽りの隣人』などの黒沢清。主演は長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己などなどということでございます。ということで、『散歩する侵略者』をもう見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。



メールの量は、「普通よりちょっと多め」。賛否の比率でいうと、「賛」が6割から7割。残りが普通、もしくは否定的意見だったということでございます。「設定に引きつけられるし、見た後にもいろいろと考えさせられた」「不気味で不穏。なのにどこかユーモアも感じられた」「主演たちの演技がよい。チョイ役の人たちまで含めて全部いい」などが主に褒める意見。一方、「設定は面白い。が、映像的な安っぽさがその面白さを消している」とか「リアリティーの基準が曖昧で見ていて戸惑ってしまった」とか「黒沢清映画としては平凡」といった批判の声もありました。

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「野菜」さん。「自分は黒沢監督の母校、立教大学で演劇をやっている大学生です。『俺が見ないでどうする!』と居ても立ってもいられず、映画館に行ってきました。感想は、もう最高すぎる。今年ベスト。500億兆点。幸せたっぷりで映画館を出ると、黒沢映画特有の、目の前がいままでと違って見える感覚を覚え、『ああ、映画を見たな』という満腹感に襲われました。演劇をやっているから思うのでしょうが、黒沢映画はとても演劇的な要素を持っていると思います。虚構の空間で<物語>という虚構を描くのが演劇だとすると、非現実的な映像を作り込む黒沢映画はとても類似しています。

いきなり影を落としたりする照明の演出も然り。なんだか舞台上ではできない演劇的なことを映像化しているようで心地よい。そういう意味でも、イキウメの舞台を映画化した本作は、黒沢映画との相性がゾワゾワするくらいよくて、はじめから終わりまで『たまんねえな、おい!』と言いたくなるシーンばかり。素晴らしかったです」。たしかにね、そうだよね。不自然に照明がガーッと変わったり。前回の『クリーピー』で言うと、川口春奈さんが大学で質問をされるところの、照明がどんどんどんどん変わっていって……って。まあ演劇的と言えるかもしれないですね。

一方、ダメだったという方。「将来の終わり」さん。「本作、きっぱりとダメでした。主な批判ポイントは以下です。ヒステリックにすぎる長澤まさみの(役柄の)せいで、舞台版の夫婦関係修復エピソードが台無し。愛も台無し。結局、こいつ何だったの? という厚生省の方々。『ブルークリスマス』オマージュ(?)のせいでアクションにブレが出て、テーマが散漫に。メタファーとしての宇宙人が侵略シーンで台無し。役者陣は本当にいい仕事をしていたのでかわいそう」というような。この方、映画感想ブログとかも書かれているようなんですが。というご意見でございました。みなさん、ありがとうございます。

ということで『散歩する侵略者』、私もこのガチャが当たる前にもすでに、実は一足早く見ていて、丸の内TOEIで見てまいりました。それも合わせて計3回、見ております。はい。私、黒沢清監督作品、以前から大ファンであることは公言しております。このコーナーで黒沢清作品を取り上げるのは、2013年6月15日『リアル~完全なる首長竜の日~』、これを最初に取り上げて。2016年6月25日『クリーピー 偽りの隣人』を取り上げて。今回が3回目ということなんですけども。まあ、私自身も90年代からずっと、『地獄の警備員』をリアルタイムで劇場で見て以来の大ファンですけどもね。

で、特に去年取り上げた『クリーピー』は、黒沢清映画独特の強烈なクセと、誰でもわかる面白さというか、大衆性が、非常に高いレベルで一致した、新たな代表作とも言える大傑作だったんじゃないかなと思います。で、さらに、黒沢監督の新作であるというだけでなく、今回の『散歩する侵略者』は、先ほども言いました、以前番組にもお招きいたしました前川知大さん率いる「イキウメ」という劇団の舞台、および前川さん自身による小説版、というのが原作となっているわけです。イキウメの舞台の映画化といえば、当コーナーではやはり去年、4月30日に取り上げました、入江悠監督の、これ前川さん自身も脚本で参加してらっしゃいます、『太陽』という、これまた素晴らしい一作がございましたが。


今回の『散歩する侵略者』は、個人的には実は、はじめてイキウメの舞台を見たのが、この『散歩する侵略者』だったんですね。2005年に初演があって、小説版は2007年に出ているんですけど、僕が拝見したのは、2011年にシアタートラムでやった再演版。こちらを拝見した。というのは、前川知大さんがタマフルリスナーでいらっしゃって、番組にご連絡をいただいて、「ぜひ見に来てほしい」ということでお誘いいただいて……という。で、見て、この番組でも2011年当時、その舞台版の『散歩する侵略者』を見た衝撃を、オープニングトークとかでたぶん僕、語っていたと思うんですけど。

まあ、わりと最初は何の予備知識もなく、どんな舞台かも知らずに行ったので、要は「概念」を奪っていく侵略者、というSF的発想の面白さ……現代日本の日常を舞台に、サラッとSFを成り立たせている、ということにもすごくやられてしまいましたし。何よりも、異なる場面同士を「重ねて」描き出すというか、言ってみれば、ずーっとオーバーラップした状態で、異なる場所、時間を表現するという、そういう演出方法を取っているわけですね。そういう、演劇・舞台ならではの演出・語り口に、ものすごく感銘を受けました。ちなみに今回、映画版でも医者役で……舞台版では桜井という、今回長谷川博己さんが演じているジャーナリスト役をしていた浜田信也さんとか、あとスピンオフドラマが実はこれ、WOWOWの方で『予兆(散歩する侵略者)』っていうのがやっているんですけど、そちらにもイキウメの安井順平さんが出演されたりしていますけども。

で、当時その衝撃を語った、この番組のオープニングで話した時点で、「映画にそのまま置き換えることはできない演出の仕方である。全部がずーっと、異なる時間と場所がオーバーラップして語られるような演出は、そのままでは置き換えられない。つまり、非常に純演劇的な表現で、だからこそ素晴らしい」というような話をしたと思うんですけども。で、黒沢清監督は、まさにその僕が見ていた2011年の再演版『散歩する侵略者』の、その時に販売されていた台本に、前川知大さんとの対談という形で出られていて。もともとは小説版の方から入ったということらしいんですけども。ともあれ黒沢清監督は、だから僕と同じシアタートラムの『散歩する侵略者』を見ていたらしいんですけど。

まあ、黒沢さんもずっとイキウメのファンで、『散歩する侵略者』を映画化するというアイデアも、2007年に小説を読んで以来、ずっと温めていたということなんですね。ということで、僕的にはまたしても大好きな作家同士がクロスし合うという……「誰得? 俺得!」な作品なわけですね。で、実際にどうだったか? と言うとですね、さっき言った通り、黒沢清監督自身がずっとイキウメのファンだったということも大きいんでしょう、結構、これまでにないレベルで……もちろん、黒沢さんは原作がある映画もね――『クリーピー』だってそうですけど――あったんだけど、これまでにないレベルで、原作の色も濃いというか。非常に、言ってみれば「コラボ感」が非常に強いというか。ちゃんとイキウメの舞台感が一定量ガツンとあって、それと黒沢映画のテイストというのが混ざっているというか、非常に、コラボ感があるバランスになっていると思います。

で、その結果というべきか、黒沢監督作品、フィルモグラフィーの中でも、間違いなくトップクラスに……まあ、『クリーピー』の時も「作家性と大衆性が高いレベルで両立している作品」という風に言いましたけど、ある意味『クリーピー』以上に、非常にわかりやすくエンターテイメントしているというか。黒沢清作品としてはちょっとした新境地というぐらい、非常にオープンな出来というか。要するに、わかりづらいところが1ヶ所もない作品と言えるのではないかと思います。まずね、冒頭。アバンタイトルで、ちょっとやりすぎなぐらいド派手な「つかみ」の事件が起こるわけですね。インタビューで監督は、「とにかく侵略物SFでいうと『マーズ・アタック!』が大好きで。『マーズ・アタック!』のド頭のつかみが大好きで、そういうド派手なつかみを頭に置きたかった」みたいなことをおっしゃっているんですけど。

その、つかみの画。交通ルールを知らない宇宙人のせいで、大きなトラックがドーン! と横転して、積み荷がゴーン! と転がりだしてしまっているのが、ずっと無頓着に移動を続けている宇宙人の、その後ろに見えている、というこの画は、僕、個人的には、後ほども名前を出すと思いますけど、ジョン・カーペンターの『スターマン』という映画があって。『スターマン』はわりと友好的な宇宙人なんですけど、交通ルールを知らないせいで、車を運転していて、ドーン!って。で、積み荷が転がって……っていう。僕は『スターマン』の1シーンを思い出しましたけどね。はい。

まあとにかくド派手なつかみ。で、先ほどちょっとね、音楽も流れていましたけども。音楽も『スター・ウォーズ』のジャワスのテーマっぽいっていうのかな? なんかコミカルな音楽も相まって、非常にキャッチーにワクワクさせてくれるオープニングがあるわけですね。で、お話としては、舞台版『散歩する侵略者』、小説版『散歩する侵略者』から、登場人物とかエピソードを大幅に整理しております。で、その映画の中に入りきらなかったような要素は、先ほどもチラッといいましたけど、WOWOWでいま、オンデマンドで先に見れるんですけど、スピンオフドラマ『予兆』っていう方に入ってます。いまんところ2話までしか見れないんだけど。要するに、<家族>の概念をなくしちゃった人が、家にいるお父さんとかを「幽霊だ」っていう風に思っちゃうという、そういう描写とかはね、そっちに入っている。これ、東出昌大さんが、映画の方も出ていますけど、映画版とはまた違う……こっちは宇宙人として出てくるんですけど、非常に怖くて変(笑)なのがこちらで。

で、この『予兆』の方は、どっちかって言うと、高橋洋さんが脚本を手がけてらっしゃることもあって、非常によりストレートにホラーなアプローチなので。いつもの黒沢清映画っぽいのは、むしろこっちの『予兆』の方だと思いますけどね。で、まあとにかく今回の映画では、ストーリーを舞台版、小説版からシンプルに整理して、大きく言って2つのストーリーラインに、登場人物とかも整理してあって。まずは、長澤まさみ・松田龍平さんの加瀬夫婦の話。この「夫の姿をした宇宙人と次第に心が通じ合っていく」という話がまさに、さっき言ったジョン・カーペンターの『スターマン』風だな、という風に思いました。特に終盤、一緒に車で移動とかしだしたりすると、「ああ、いよいよ『スターマン』っぽいな」という風に思ったりして見ていましたけど。

と、同時に、そのいったん壊れてしまった夫婦の、結果として非常に儚くささやかな、そして非常に変則的な、再生の物語。決定的な欠落を通して、ようやく再生、したのに……という、この感じとかがね。非常に実は、黒沢清的なアプローチとも言える。特に『岸辺の旅』という作品に非常に近い味わいの、こっちの加瀬夫婦のストーリー、夫婦の話があると。で、一方、長谷川博己さん演じるジャーナリストと、若い男女宇宙人の逃避行。言ってみればこっちは「活劇」パートというか。こっちは侵略宇宙人物、かつちょっとバディ物という意味で、『ヒドゥン』とかね。『ヒドゥン』は特に、宇宙人が体を乗っ取って、人間の体の仕組みを上手く動かせていない感じとか、あと、人間の体の方がうっかり死んじゃう感じ(笑)とかが、ちょっと『ヒドゥン』っぽかったり。


あと、だんだんと地球人サイドが宇宙人サイドに……地球人よりも宇宙人サイドの方に、心情的にも肩入れしていくSFバディ物っていう意味では、『第9地区』とかね。そんなものも連想しましたけども。とにかく、活劇的な、非常にこっちは黒沢清映画ならではのアレンジが多いパートなんですけども。まあ、大きく言ってこの、2つのストーリーラインにシンプルに整理されていて。で、黒沢清作品の中でも、先ほどから言っているように、非常にわかりやすい作りだと思います。お話上わかんなくなるところは1ヶ所もないはず。まあ、普段どんだけわかりづらくなる瞬間があるのか(笑)――それが魅力だったりもするんだけど――ということですよね。

で、面白いのは、たとえば宇宙人がまさにね、この話自体のいちばんユニークなところですけど、「概念」を奪うと。たとえば、「<家族>ってなあに?」「家族っていうのはこうでこうで……」って説明して。「はい、じゃあその<家族>っていうやつを頭に思い浮かべて。思い浮かべて……それ、もらうよ。(ポン!)」って。で、取ると地球人側は、<家族>という概念がまるごとごっそり抜け落ちてしまう。で、「ああ、これが<家族>か。なるほど」と。こういう面白いSF設定なんですけど。

この、概念を奪うシーン。基本的にはコミカルな会話劇なわけです。たとえばその、家族ってなんなんだよ?っていうことを、ちゃんと言葉にして説明させてからの、っていうことなんで。ロジックを重ねていく、コミカルな会話劇としての面白さ。で、この映画版の『散歩する侵略者』でも、そのコミカルな会話劇の部分は、言っちゃえばわりとそのまま「演劇的」に見せるというか。会話をそのままワンカットで(見せたり)、普通にフラットな見せ方というか。そんなにサイズとかも変わった撮り方ではない。そんなに引きでもなく、そんなに寄りでもなくっていうか。普通な感じで、演劇的に見せるわけです。そのやり取りが面白いんですね。

個人的にツボだったのはアンジャッシュの児嶋さん……これ、児嶋さんは、俳優としての抜擢は、『トウキョウソナタ』で、やっぱり黒沢清さんが俳優ではじめて抜擢して、それ以来、あちこちの映画で大活躍されるようになって……というアンジャッシュ児嶋さん演じる刑事が、<自分>と他人の違いの概念を奪われる、っていう場面なんだけど。その概念を奪われる前から、とっくに混乱しきっている感じ(笑)。おそらくその前から、女子高生に乗り移った宇宙人に、何個かもう概念を抜かれているからあんなおかしな感じなんだろうけど。もう最初の時点でもう、「自分は……自分は自分だよ! 自分は自分だ!」みたいな(笑)。なんかちょっとおかしな感じになっているのが、非常にツボで笑ってしまいましたが。

まあとにかくそんな感じで、言っちゃえば演劇的な見せ方で、概念を巡る会話をフラットに見せておいて……で、宇宙人が「それ、もらうよ」と言って、本当にその概念を奪う。その瞬間のくだりになると、たとえば満島真之介さん演じる引きこもりの青年。まあ、満島真之介さんの顔がすごくてね。顔がヤバい、顔が強い(笑)っていうその引きこもり青年から、<所有>の概念を奪うっていう場面で。普通にのんびりした日本の家屋の風景で、会話をしているわけですよ。で、噛み合わない会話でおかしいんですけど。そこでまさに奪う瞬間。黒沢清映画! という感じで、カメラがクッと引いたかと思ったら、そこでペットボトルに挿した風車が、やおらクルクルクルッと回って。とにかく不穏な感じで風が吹き出す、っていうのはもう、黒沢清映画の真骨頂ですから。で、カタカタッと(風車が)なる。

ちなみに、その満島真之介さん演じる引きこもり青年が「真ちゃん!」って追いかけてくる。そうすると、道端で追いかけてくると、その追いかけてきた瞬間、またそこに置いてあった……要するに、わざとですけど、要所要所に風車が置いてあって。追いかけてきた瞬間に、またこの風車がカタカタカタッて回りだして。しかも風車っていうのは、その後ね、長谷川博己さんたちの活劇パートの方で、車に乗っている時。巨大な風車が回っているところを通りますよね。つまり、いちばん小さな単位の概念の侵略(の場面で小さな風車が回るところを見せておいて)から、大きな風車を見せることで、そこで交わされている会話も込みで、実は事態はとんでもなく大きくなっている、ということを画的に暗示するという、まさに黒沢清映画的演出があると。

あるいは、先ほどメールにもありました。人物の顔に突然影がかかって。で、今回その奪う時に、何ヶ所かの場面で、画面にフレアが走る。光がフーッと……J・J・エイブラムス映画でおなじみのフレアが(笑)フーッと走る、といった具合に……とにかくこんな風に、会話劇な面白さをわりと演劇的に捉えた演出と、映画的……わけても黒沢清映画的なスリリングで不穏な演出、というのが、この概念奪いシーンでは、絶妙なバランスで混ざり合っていて。要するに演劇的な部分、会話的な部分は、イキウメ要素。で、バッと奪う瞬間の演出は、黒沢清演出というので、見事にそれが共存しているというか。そこまでを演劇的にフラットに見せている分、ガッと(映画的に)来るところはより怖さが増すわけですから。そのイキウメ要素がしっかりあることが非常に効果的な、コラボ感あふれるシーンになっているな、という風に思います。

で、ですね、まあこの奪うシーン。特に、序盤で長澤まさみさんの妹役で出てくる前田敦子さん。ねえ、前田敦子さん、黒沢清映画といえば『Seventh Code』という荒唐無稽な大活劇が素晴らしかったですけども。前田敦子さん演じる妹、素晴らしいですね。前田さん、本当に上手いっすね。最初のね、概念を奪われる前の、もう好奇心の塊っていう感じで、ちょっと馴れ馴れしくなんでも寄ってくる感じ、からの、あのいきなり豹変してよそよそしくなる感じの……「怖っ! あっちゃん、怖っ!」っていう感じのね。どっちかって言うと、あっちの方があっちゃんっぽいっていう感じもしなくもないけど(笑)。素晴らしかったです。

それでいて、この概念を奪われた後の人々が、どこか解放されたようでもあるというあたり。黒沢清作品で言うと、非常にちょっと『CURE』っぽい。実際、コメディー版『CURE』、っていう言い方をしてもいいぐらいだという風に思っています。もちろん、日常に潜むちょっとした違和が、次第に広がっていって、気がつくと取り返しがつかない領域に行ってしまい、特にそれが最終的には世界の崩壊っていうところまで行ってしまう……しかもなんとなく、「なんならこのまま世界が崩壊してもいいんじゃね?」ぐらいの感じ、そこに一抹の解放感がある、というような感じ。まあ『カリスマ』とか『回路』とか、黒沢清監督らしいお話と言えるんじゃないでしょうかね。



あと、黒沢清監督らしいと言えば、笹野高史さん率いる政府の追っ手が銃で武装しているんですけど、持っている銃がベレッタM12っていう、なんて言うのかな? ちょっとこういう場面で(現在の世界を舞台にサブマシンガンを出すとしたら)、普通だったらヘッケラー&コックとかそういうのが出てくるところで、ベレッタM12って!っていう。あの丸っこい形の寓話性というか、『カサンドラ・クロス』オマージュかわかりませんけども、そのチョイスとかも「うわっ、黒沢清っぽい!」って。明らかにこだわりのチョイスだったりするわけですね。ちなみに加瀬夫婦が、その追っ手たちから逃げるというくだり。長澤まさみさんが走ってくる画のところで、バッグを持った女性が通り過ぎるところの、非常に気持ち悪いジャンプカットとか。

またそれと同じような画が繰り返されたと思ったら、後ろにまたバッグを持った女性が、フッと奥に現れたりとか、非常に気持ち悪いことをやっていて。これ、本当にどういう意図なのか監督にいずれ聞いてみたい気もするような(笑)変な撮り方をいっぱいしています。それでもやっぱり、今回の『散歩する侵略者』が、最後までキャッチーさを損なわないのは、やっぱり特に、役者陣の魅力、華の部分が大きいと思います。まず加瀬夫婦サイド……まあ松田龍平さんのかわいさというか、もともと宇宙人っぽい感じありますけども(笑)。あの、犬に噛まれて公園で顔をジャブジャブ洗って、シャツで顔を拭くところのかわいさ! これは面倒みちゃうな~!っていうかわいさ(笑)。それも素晴らしいですし。

今回、でも誰が素晴らしいって、先ほどのメールではちょっと批判的な方もいらっしゃいましたが、僕はやっぱり長澤まさみ。終始本当に不機嫌なんですけど、そういう「ツンデレ系長澤まさみ」路線の、最高峰だと思いましたよね。(監督からは)「杉村春子風に」っていう指定でやったらしいですけどね。特にあの、「あぁもぅイヤんなっちゃうなぁ!」っていうね。俺も横で長澤まさみに「あぁもぅイヤんなっちゃうなぁ!」って言われながら世界の終わりを迎えたい!(笑)っていうね。最高にキュートだったですね。

あとその、活劇サイドを担う長谷川博己さんたちの……長谷川博己さんの、絶妙な投げやり感で見事に魅力的なアウトローキャラクターを成り立たせているのも本当に素晴らしかったですし。あと、彼とバディ化していく高杉真宙さんという方との、そのバディ化していく過程。最後の方のやり取りとか、いいですね。「衛星で狙っているんだよ」「おおっ、すげえな!」「すげえだろ? 人類ナメんなよ」って。いいですよね。あのくだりとかよかったですし。あと、女子高生役の恒松祐里さんの、身体能力ですよね。アンジャッシュ児嶋さんの刑事を絞め上げるところの、マジで強そうな体の伸びの感じ。「余裕です」みたいな感じは、すっごいかっこよかったですしね。

でね、クライマックスも『ミッション:インポッシブル3』ばりのチュドーン!っていうあれ(上空からの爆撃シーン)があってからの……あそこからの、長谷川博己さん演じる桜井というキャラクターの行動の解釈が、ちょっと分かれるあたりが面白いっていうかね。宇宙人に乗っ取られての行動にはほぼほぼ見えるんだけど、ひょっとしたら、彼の自発性もはっきりある風にも見えるという。もう完全にバディとして一体化している感じ? 完全に一緒になっている感じが、燃えるし、萌える!っていうあたりですよね。あと、オチのね、あるオチ。最後に宇宙人が奪う概念のオチ。これ、舞台版を見ていない人は、結構これは「あっ、そう来るか!」って思うであろう、本当に素晴らしいアイデアだという風に思いますけども。

しかも今回の映画版は、その舞台版にない、後日譚がついているわけですね。で、これまさに後日譚の部分は、「決定的な喪失を通してはじめて成就する、悲しいラブストーリー」ということで、非常に黒沢清的でありつつ……ただし、いつになくストレートな感動が残るラストですよね。だから、そこをもって黒沢清映画っぽくない感じがして不満というか、物足りなく感じる方もいるかもしれませんが……これ俺、黒沢清作品の入り口として結構いいんじゃないかな?っていうかね。こんなに開けた、オープンなスタンスの作品も、(黒沢清先品としては)なかなかないんじゃないかと思いますし。文句なしに面白いので……いろんな感じの「面白さ」が味わえる、非常に楽しい作品ですので。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『エイリアン:コヴェナント』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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