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がんになる前に乳房を切除する~遺伝性乳がん治療について

森本毅郎 スタンバイ!

9月25日(月)の「現場にアタック」は、特別企画、ゲストに毎日新聞外信部長、小倉孝保さんをお迎えして、お話を伺いました。テーマは「遺伝性乳がんの予防切除」について。アンジェリーナ・ジョリーさんの手術以来、注目されているこの問題について、取材し本を出版されたということなので、詳しく伺いました。

▼外信部長がなぜ遺伝性の乳がんを取材?

アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーさんの告白がきっかけでした。2013年5月に彼女は、自分が遺伝子検査の結果、乳がんや卵巣がんになりやすいことがわかったため、左右の乳房を予防的に切除したと明らかにしました。私は当時、イギリスにいたのですが、予防切除について調べたところ、イギリスではごく一般的に予防切除が実施されていることがわかりました。

また、アンジーの告白の20年以上前に、世界に先駆けて乳房を予防切除したウェンディ・ワトソンという女性がいることがわかりました。私がウェンディに連絡したところ、彼女は乳房を予防切除した仲間に呼びかけて、啓発のためのセミヌードのカレンダーを作成しているところでした。そうした活動に興味を持って取材を進める中、遺伝性疾患や予防的な対応に関心を深めていったのです。

 

▼世界初の予防切除を受けたウェンディさん

遺伝性の乳がんがあることが知られていなかった時代に、「乳がんは遺伝するのでは」と自分で考えて、医学界を動かした女性です。遺伝性乳がんの予防切除のパイオニアで、イギリスだけではなく、世界中で予防切除への理解を広めたと言ってもいい女性です。

 

▼ウェンディさんの先見の明

乳がんになるリスクがある遺伝子は、1994年に見つかりました。それに対し、ウェンディが、乳がんが遺伝するのではと直感したのは、1971年、ウェンディが、まだ16歳の頃でした。

ウェンディは、母と祖母を乳がん、卵巣がんで亡くしています。そのため、ウェンディは、自分も遺伝で乳がんになるのではないかと悩み始めました。そこで、かかりつけ医に、遺伝の悩みを打ち明けたんですが、その医師は、「物事をそう単純に考えるものではありません。がんは遺伝しません」と答えたんです。これはこの医師が悪いのではなく、これが当時の医学の水準でした。その後も、ウェンディは、毎年検診を受けるたびに遺伝について質問しましたが、「がんは遺伝しません」と決まって答えられるだけでした。

 

▼医学会を突き動かしたウェンディさん

1991年、ウェンディが36歳の時、パブで親戚にばったり出会うんですが、そこで、はとこが乳がんになり、さらにその姉は乳がんで死亡、そして、その母と叔母も、乳がんだったと聞かされたんです。ウェンディが動き出したのはそこからで、自分の家系図を作って、乳がんになった人をチェックして、それを医師に突きつけました。それでようやく、医師が、乳がんが遺伝する可能性に気づき、ウェンディの説得によって、1992年、世界初と言われる予防切除を行ったわけです。1992年だから、乳がんの遺伝子が見つかる2年前のことでした。

 

▼国や世界を突き動かしたウェンディさん

ウェンディさんは実に行動的で、その後、自分と同じように乳がんの不安に悩む女性が多いことを知り、そうした女性たちの相談に乗り、政府を説得して、遺伝カウンセリングから遺伝子検査、予防切除、さらには乳房再建までを、税金で対応できるよう環境を整えるなど、女性たちの悩みを解消する活動をしました。ウェンディの前には何度も大きな壁が立ちはだかりますが、その都度、彼女は明るく、前向きに、時に奇想天外な方法でそれを乗り越えます。その間に様々な人との出会いがあり、英国のダイアナ元妃は亡くなる前年、ウェンディの活動をたたえて、彼女の活動を支援する手紙を書いています。

 

▼現在はどこまで医学が進んだか

乳がんのリスクがある遺伝子は1994年、1995年に相次いで見つかっています。「BRCA1」「BECA2」と呼ばれる遺伝子です。本来、これらの遺伝子は傷ついた遺伝子を修復する役割を持ったがん抑制遺伝子です。しかし、この遺伝子に生まれつき変異(異常)があると、遺伝子を修復することができず、乳がん・卵巣がんの発症リスクを高めることがわかっています。

 

▼全てが遺伝し、全てが発症するわけではない

もちろん、すべての乳がんが遺伝というわけではないですし、遺伝したからといって確実にがんになるわけではありません。日本では乳がんになる女性は、11人に1人程度ですが、その中で、遺伝性のものは、10人から20人に1人、つまり、遺伝性のものは、乳がん全体の5〜10%程度です。ただ、乳がんのリスクがある遺伝子が、子供に遺伝する確率は、50%程度あり、その遺伝子を持っている人が実際に乳がんを発症する確率は50〜80%程度です。

 

▼日本の遺伝性乳がんへの対応は

残念なのは、遺伝性乳がん・卵巣がんへの対応では、日本はイギリスに遅れています。遺伝子検査や予防切除が保険適用されないため、女性たちは遺伝を疑っていても、なかなか遺伝子検査を受けられない状況にあります。ただ、アンジーの告白を受けて、予防切除できる病院は増えつつあります。また、女性の中から様々な動きが生まれつつあり、遺伝性乳がん・卵巣がんの当事者たちの会も設立されましたので、検査など、理解が広がってほしいです。