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【映画評書き起こし】宇多丸、『僕のワンダフル・ライフ』を語る!(2017.10.7放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:

映画館ではいまも新作映画が公開されている。いったい誰が映画を見張るのか。いったい誰が映画をウォッチするのか。映画ウォッチ超人シネマンディアス宇多丸がいま立ち上がる。その名も、週間映画時評ムービーウォッチ「ワン」

……全然いま、鳴き声は上手くなかったですけど。それこそ、この後も出てきますけど、(『僕のワンダフル・ライフ』ラッセ・ハルストレム監督の代表作)『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』の主人公の男の子が、犬の鳴き声がすごく上手い。それをすごく、嫌がらせみたいにしつこく繰り返す、っていうくだりが(『マイライフ~』の)後半に出てきて、あれめっちゃ嫌だった! あの場面。はい(笑)。

毎週土曜夜10時からTBSラジオをキーステーションに生放送でお送りしている『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』。ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『僕のワンダフル・ライフ』

(曲が流れる)

『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『HACHI 約束の犬』などで知られるラッセ・ハルストレム監督のドッグムービー最新作。飼い主の少年と再びめぐり会うため、生まれ変わりを繰り返す犬の奮闘を描いたドラマ。主人公の犬ベイリーの声を担当するのはディズニーアニメ『アナと雪の女王』でオラフの声を演じたジョシュ・ギャッド。その他、デニス・クエイド、ブリット・ロバートソンらが出演ということでございます。ということで、『僕のワンダフル・ライフ』をもう見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。


●リスナーの感想は「とにかく泣いた!」

メールの量は、普通よりちょっと少なめ。まあ、そうですか。(この番組にメールなどが)ドサッと来るタイプの映画はありますけど、そういう傾向ではなかったのかもしれないですけどね。賛否の比率では「賛」、褒める人が6割。否定的意見が残り4割。「犬好きなので、とにかく泣いた」「犬は好きじゃないけど、とにかく泣いた」「犬を飼ったことがある人なら心が救われるはず。見るべき」など感動したという人からの賞賛メールが目立つ。一方、「話がつまらない」「犬がしゃべりすぎ」「人間の理想を犬に押し付けていて不快」「犬が嫌いだから」……(笑)。オバQじゃないんだから! などの声もチラホラということでございます。

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「すきやばし太郎」さん。23才男性。「気持ち悪いかもしれませんが、自分のオールタイムベストは『わさお』です。めちゃくちゃな話でしょ? と問われても折れる気はありません。あののんびりしたトーンや泣かせにかかる名俳優たち。そしてわさおのがんばっていないように見えるたたずまい。年に1回見返しても『すごいな』と感心してしまいます」。こういうのいいですよね。自分にとってやっぱり大事な1本、っていうのは絶対にいいですよ。「……つまり、『僕のワンダフル・ライフ』はチラシが置かれた時に、『これは見なければ!』というアンテナがピーンと反応しました。しかも『HACHI 約束の犬』の監督と知ってなおさら期待度が高まりました」。ラッセ・ハルストレム=『HACHI』の監督、という認識(笑)。

……そして見た感想は今年のベストムービーだと確信しました。『少し偶然が多すぎないかな?』『筋が通っていないよ』などなど、おかしいところが多すぎますが、そこがいいじゃない! 粗を探して批判する人生なんて面白くない。むしろ飽きさせない映画作りに感心しました。犬目線に重きを置いて、カメラワークから犬の本音まで『あったらいいな』を実現させてしまう大胆さ。犬の撮り方ひとつ取っても慣れているなと思わせてくれます。ダイナミックさと人間ドラマ。あえてたとえるなら、犬版『Mr.ビーン』でした。邦題がちょっと恥ずかしかったけど、個人的には大傑作でした。ちなみに自分は戌年生まれの犬苦手です」。えっ、えっ、えっ!? 俺、いままで読んできて、絶対に愛犬家だと思っていたのに……あ、そうなんだ。それで『わさお』(笑)。すごいね。面白いですねー! 大変こういうのはいいですね。

一方、ダメだったという方。「青い韋駄天」さん。「宇多丸さん、こんばんは。『僕のワンダフル・ライフ』を吹き替え版で見てきました。久しぶりに最高に胸くそ悪い映画を見た気分でした。この映画、個人的に何から何まで好きになれませんでした。まず、なんと言っても予告編以上の展開がなにも怒らないストーリー。私たち人間は犬は無邪気だからイタズラをすると思っているし、それを許せるのだと思います。しかし、それがなんらかの意図のもとに行われた行動だとしたら、それはもはやイタズラではありません。テロです」と(笑)。まあ、要はその犬の意志が感じられると、犬のそのワチャワチャみたいなのがかわいく感じられなくなっちゃってくるということかな。

まあ、いろいろとあって、「……間違いなく今年見た映画の中でいちばん不快な映画でした。自分も犬を飼っていた身として、かわいがって育てている犬にとって自分は踏み台程度の存在で、大して大事に考えていてくれなかったのかとしたら、これほど悲しいことはない」って、これは途中の話ね。だからメインの男の子に関してはあれなんだけど、途中の人生ならぬ犬生の間の飼い主の話。まあ、それはたしかにね。考えだしたらありますけどね。はい。ということで『僕のワンダフル・ライフ』、私もまさにTOHOシネマズ錦糸町で吹き替え版を……吹き替え版がすごい力が入っているということで見てまいりましたし、あとバルト9で普通に2回、見てまいりました。

多作家ラッセ・ハルストレム監督フィルモグラフィー

当番組でなんと、ラッセ・ハルストレム監督作を扱うのはこれがはじめてということでね。本当にもう大ベテランなんですけどね。『HACHI 約束の犬』、2009年の作品ですけど、これ、当然ハチ公物語のハリウッド版の映画化で、リチャード・ギア主演版ということで、公開当時、さんざんこの番組では、(リチャード・ギアのモノマネで)「ハチィ~、ハチィ~」って(笑)、しまお(まほ)さんとかと連発しまくっていたのに……たしか、シネマハスラー時代で賽の目には入っていたけど、当たらなかったんですよね。あとそれ以外だと、4作前に当たる2011年の『砂漠でサーモン・フィッシング』。これもたぶん、賽の目には入っていたんですよね。でもやっぱり当たらなかった、という感じだったと思うんですけど。とにかく、ラッセ・ハルストレムさん。スウェーデンの方ですね。奥さんはちなみに、同じスウェーデン出身の、女優のレナ・オリンさんです。

とにかく、1975年にもう監督デビューしていて、以来ずーっと、結構比較的コンスタントに新作を撮り続けてきた人なので。とにかく多作なんですよ。すごい多いんですね。過去にね。で、代表作はやっぱり、たとえば1993年『ギルバート・グレイプ』とか、99年の『サイダーハウス・ルール』とか、あとは『ショコラ』とかね、このあたり。そしてなんと言っても、やっぱり彼の名を世界的なレベルで一気に高めたのはやっぱり、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』という1985年の作品。日本では88年に公開ですが。ちなみに今週、玉さん(玉袋筋太郎)、時代劇研究家の春日(太一)さんと飲んでいて、春日さんはラッセ・ハルストレムにすごい思い入れがあって、実はスタローン級に思い入れがあるって。そこまでですか!?っていう。それぐらいだとおっしゃってましたけどね。

で、まあそのラッセ・ハルストレムさん。最近になって、久々にスウェーデンに戻って撮った『ヒプノティスト 催眠』なんていうシリアス・サスペンス物をやったりもしているけど……ただまあ、メイン路線はやっぱり明らかに、得意としているのは、ちょっとコメディ風味の人間ドラマ、という感じだと思いますね。アドリブを生かした、非常に風通しのいい俳優演出に定評がある、という風に言われております。俳優からすごく好かれる監督さんですね。で、今回の『僕のワンダフル・ライフ』を含めて、基本的には人の脚本で映画を作る人ではあるんですね。で、あるんだけど、それでもやっぱり、こうやってずっと長年ラッセ・ハルストレムの映画を見てくると、うっすらと共通する作風というかテーマ性のようなものは、あると僕は思っています。

監督のテーマは「無垢な視点から人生の流転を描く」こと

僕なりにそれを端的に表現するならばですね、こういうことですね。ある無垢(イノセント)な存在……彼らはあまりにも純粋すぎて、その物語世界の中では正常とされるような、「普通の大人」の、人間的な社会規範からは時に外れた振る舞いをするぐらいなんだけども……とにかくそういった無垢(イノセント)な存在の視線を通して、時に結構ヘビーだったり、実は結構悲劇的だったりもする「人生の流転」を描くという、こういう感じ。なので、作品自体は今回の『僕のワンダフル・ライフ』もそうですけど、一見ハートウォーミングみたいなパッケージングをしているんだけど、実は劇中で起こったことそのものは結構エグかったり。あと、「かならずしもストレートな美談って、これは言えないんじゃないかな?」みたいな、結構アンビバレントな気持ちになるような時があるのが、ラッセ・ハルストレムだと思う。

少なくとも、世評も高いような、つまり上手く行っているような作品では、いつも割とこんなような物語を選んで、作品、映画を撮っているように見える。もしくは、今回の『僕のワンダフル・ライフ』なんかは割とそっちの順番だと思うんだけど、要は「こういう話だったらラッセ・ハルストレムが得意だろう」っていう風に、企画を振られ続けている。なので、一貫したフィルモグラフィーの感じがあるっていう、そういうような感じの人だと思いますよね、ラッセ・ハルストレム。覚えていてくださいね。僕がいま言ったことをね……つまり、それこそが「犬」なんですよ。無垢(イノセント)な存在。で、イノセントすぎて社会規範からは時に外れた振る舞いをする。まあ、動物なんで(笑)。先ほどのメールでもあった、めちゃくちゃやったりするっていうのもだから、動物なんで。人間の規範とは合っていないんで、っていうことなんだけども、全く無垢というか、悪気がなくやっているイノセントな存在から見た、意外にヘビーだったり悲劇的だったりする人生の流転、ということ。

「今作は3本目の犬映画」

で、ラッセ・ハルストレムさん、今回の『僕のワンダフル・ライフ』についても、パンフレットのインタビューなどでも、「これは私にとって3本目の犬の映画だ」なんてことをおっしゃっているわけです。これは要は、さっき言った代表作中の代表作、まあ名作と言っていいでしょうね、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』と、あと間違いなく「『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』の……」ってその「ドッグ」、特にタイトルの「ドッグ感」ありきで来たオファーであろう(笑)『HACHI 約束の犬』と、今回の『僕のワンダフル・ライフ』の3本、っていうことなんだけど。で、実際に先週ガチャの候補に入っている時点で僕も、「またラッセ・ハルストレム、犬の映画?」なんて言い方をしてしまいましたけど。ただ、冷静に考えると、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は別に、犬がメインの映画じゃないよね?っていうことなんだよね(笑)。

もちろん犬の話題はいっぱい出てくるんだけど。むしろ『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』においては、さっき言った無垢(イノセント)な存在っていうのは、主人公の少年イングマルが、さっき言った犬的な位置づけと言っていいと思うんですよね。つまり、まだイノセントすぎて、時折ちょっと動物的に見える瞬間すらあるという、そういう存在。で、「いまは不在の最愛の誰か」に対して、一途な思いを抱き続けている、っていうか、その思いに執着し続けている、というあたりも、ちょっと『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』の主人公イングマルくんは、犬的なというか、そういう感じだと思う。まあ、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』の場合はそれがお母さんで、『HACHI』とか『ワンダフル・ライフ』は飼い主である、ということなんですけどね。

はい。ということで、いずれにせよ今回の『僕のワンダフル・ライフ』は、その犬物であるのと同時に、序盤は少年物でもある、ということで、ラッセ・ハルストレムのフィルモグラフィー上の、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』と『HACHI』にいちばん近い、連なる作品、という言い方は間違っていないかなという風に思います。で、まずこの『僕のワンダフル・ライフ』、2011年にアメリカで出てめちゃくちゃ売れた、ベストセラーになった原作小説があるわけです。『A Dog’s Purpose』。まあ、「ある犬の目的」ですよね。日本語訳も新潮文庫から出ていますけども。で、今回の映画化にあたって、著者のW・ブルース・キャメロンさん自身と、この話を書くきっかけとなったという、現妻であるキャスリン・ミションさん本人が共同脚本として参加している、ということもあって……実は割と大きな改変もしているんです。

原作小説の映画化としては非常に順当なバランス

たとえば、誰がいつ、どういう形で死ぬ、とかそういうところの改変を含んでいたりとか。あと、物語中で最もはっきりと悪役的なキャラクターがいるんですけど……これ、映画でも出てきますけども、その悪役的なキャラクターの悪さが、映画版だとややというか、結構ソフトに中和されています。小説だと、もっとダークな、救いのないキャラクター。で、僕はこの改変によって、ちょっと一長一短あるなという風には思っています。映画版はソフトになったことで、割と万人にちゃんと優しい映画になっている、というのもあるけど、同時にちょっと、世界のダークさを見つめるっていうところでは、甘くなったというところはあるかなとも思います。まあ、一長一短あるとは思ってますけどね。

とにかくそういう、いくつかの大きな改変を含みつつ……基本的には原作の構造とかテイストを忠実に継承した上で、よりはっきりと、「映画的なカタルシスを生む」方向で演出が加えられているという。たとえば、非常に説明ナレーションが多い映画ではあるんですけど、最終的にはやっぱりある「動き」が全てを物語る。いちばん大事なところはやっぱり、動きで表現している、というあたりも含めて、小説の映画化という意味では、非常に順当なバランスだと思います、原作小説と読み比べると。ちなみに本作の公開前に、これは向こうのアメリカの芸能ニュースサイトのリーク映像から、ちょっと動物虐待疑惑が持ち上がって、炎上しちゃってボイコット運動が起きたりして。で、プレミア上映が中止になったりとか、いろいろな事件があったりしたんですけど、製作サイドはすぐに虐待の事実を否定して、「出た映像は悪意に満ちた再編集によるものだ」という風に反論して、次第に事態は鎮火していった、というような経緯があったということは付け加えておきたいと思います。

「犬エクスプロイテーション映画」とはなにか

まあとにかく、この邦題『僕のワンダフル・ライフ』……僕は(邦題として)結構悪くないなと思っています。「ワン」が入っているあたりで悪くないな、と思いますけども。脈々と続く動物映画、わけても犬映画の系譜。まあね、犬ちゃん映画、ワンちゃん映画ありますよね。もっとはっきり言えば、こういうことですよね。「犬エクスプロイテーション映画」っていうことですよね。「犬ポルノ」なんて言い方もしていますけどね(笑)。とにかく賢くてきゃわいいワンちゃんが出ているだけで、「はきゅーん!」ってなってしまう(笑)。そして、なんなら劇中でその子が死んじゃったりするような展開があった日にはもう、脊髄反射的に鼻汁を垂らして号泣してしまうという……そんな僕のような観客から(笑)涙と金を搾り取るために機能特化した、犬エクスプロイテーション映画。

ちなみに、僕自身の犬に対するスタンスを言っておくと、僕は子供の時からマンション住まいだったんで、実は1回も犬は飼えなかったんです。それだけに、犬を飼うことに対する憧れがめっちゃ、ずーっと強い。久住昌之さんの漫画で、『とうとうロボが来た!!』っていう漫画があるんですね。少年がずっと犬を飼いたくて……っていう。(自分は)あの少年のテンションのまま、大人になった。だから「犬っていいよなー。犬、いいよなー」って。で、知り合いの人の犬とかをかわいがったりしたことはあるんだけど、でも、ちょっとやっぱり犬を触るのは慣れていない感じ。「犬ア↑コガレ」みたいな感じですよね(笑)。なんで、僕はやっぱり、ちょっと犬には弱いところは実際にあります。

で、とにかくその犬エクスプロイテーション映画という一大ジャンルの、強力最新型であることは否定しようもない。非常に機能特化しているんですよね、この『僕のワンダフル・ライフ』。で、ただ言うまでもないけど、「ジャンル映画だからダメ」なんてことは当然ないですよね。ジャンル映画だからバカにするなんて、そんな態度は映画ファンとして当然あり得ないわけで。たとえば犬映画でも、比較的最近ので言えば、僕はあちこちで、それこそ『映画カウンセリング』の単行本の中でも推していますけども。『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』。これは2008年の作品。これもまあ、アメリカのベストセラーエッセイの映画化ですけど、これなんかとっても大人なバランスの、もう絶対に大好きな一本ですね。結構ずっと大好きな一本だったりしますし。『マーリー』、みなさん絶対にナメないで見ていただきたいけども。

犬主観、犬回想、犬主観ナレーション

あと、これは完全に犬エクスプロイテーションジャンルへのアンチというか、嫌がらせ的カウンターの意図で作られた作品なので、これはネットのレビューとかを見ると真面目な愛犬家のみなさまが怒り狂ってらっしゃって(笑)、それも当然だと思うんだけど、2015年作品で日本では今年公開された、『トッド・ソロンズの子犬物語』。やっぱり本当に意地悪でね、最低!っていう……これ、褒めてますけども。最低!っていう楽しさでしたしね。ちなみに、犬エクスプロイテーション映画に対する完全にカウンター的な作品としては、週刊プレイボーイの高橋ヨシキさんによる今回の『僕のワンダフル・ライフ』レビューでも比較対象として挙げられていた、『バクステール』というね。これも実は、犬の主観ナレーションで進むとか、あと飼い主が次々と変わるオムニバス構造、っていう部分だけに関して言えば、『僕のワンダフル・ライフ』と共通しているというか。ちょっと裏表構造みたいなところがあるかもしれませんけどね。88年の作品ですけどね、『バクステール』。

とにかく、今回の『僕のワンダフル・ライフ』は、『HACHI 約束の犬』で割と大胆に犬主観と犬回想(笑)を取り入れてみせたラッセ・ハルストレムが、さらに大胆に、全編犬の主観描写、特に犬主観ナレーションを導入してみたと。これはまあ、元の小説がそうなので、これは忠実な作りではあるんだけど……ただこの、やっぱり映画でやると、犬主観ナレーションは――はっきり言って動物の擬人化表現ですよね――その中でもかなり、際どいやり方なのは間違いなくて。実際、これを無定見に垂れ流したがゆえに、いきなりもう見るに堪えないものになっちゃっている犬映画はまあ、山ほどあるわけです。僕も全然、犬が出ていればなんでもいいっていうわけじゃなくて、「なんだよ、このクソみてえな擬人化よお!」みたいなのはいっぱいあるんですけど……特に日本映画にそういうの、多い気もするんですが。

ただ、本作の犬主観ナレーションに関しては、作り手ができるだけ、要は「犬ができると思われる範囲の思考表現」に止めようと意識しているがゆえに……たとえば、頭の中で主人公の犬は考えているんだけど、犬同士であっても意志の疎通はできない。つまり、「言語能力」ではやっぱりないんだ、っていう範囲に、そのラインを守っていたりするがゆえに、まあ危うい一線をギリギリ踏み越えないまま、「基本的には概ね」見事にタイトロープを渡ってみせているな、という風には思えます。「基本的には概ね」ね。後ほど言いますけど、ちょっと踏み越えているな、というところもなくはないんだけど。ただ、この『僕のワンダフル・ライフ』、その犬主観ナレーションだけでもまあ非常に際どいところに加えて、先ほどから言っている通り、根本設定として、犬が輪廻転生する。生まれ変わる。なおかつ、前の人生ならぬ「犬生」の記憶を累積的に引き継いでいる、っていう、二重に嘘っぽい、フィクショナルな設定を持ち込んでいて。

ねえ。『君の名は』がさ、何重にもそのフィクショナルな設定を持ち込みすぎて、ちょっとどうなんだ?っていうのと同じように、正直、ちょっとまともに考え出すと、若干白けてくるところは、なくはないわけです。特に後者ね。「記憶を累積的に受け継ぐ」ってこれ、前世から記憶が累積していったら、じゃあなんで「今回のここ」から始まっているんだよ?っていう問題もあるし。そして、この映画のエンディング後も転生が続くんだとしたら、それってむしろバッドエンディングじゃね? 煉獄だろ、それ!っていうさ。そんな感じがしたりとか……まあ、ラストであのベイリーの魂が、まさしく「成仏」したって考えれば、まあまあ、そこは勝手に忖度できなくはないけども。

輪廻転生という設定を緩急の妙へと繋げる

で、じゃあなんで元の小説からしてこんなね、非常にまともに考えれば、かなり無理がある危険な設定をいくつも持ち込んでいるか?っていえば……それはやっぱり、先ほどのメールにもあったけど、愛犬家が考える、愛犬家の願望というか、愛犬家の涙腺を刺激する構造を、この(物語自体の)作りが持っているから、っていうことですよね。まず単純にやっぱり、感情移入していた犬のキャラクターが死ぬところっていうのは、まあ普通の映画でも、泣きやすいところじゃないですか。それがこれ、今回は、この(物語の)構造上、何回も出てくるわけですよ(笑)。まあ、ここが非常にエクスプロイテーション的だと言われる所以でもあるとは思うんだけど。しかもそこには、死によって分かたれてしまった飼い主への思いっていうのがずっと通底している。つまり、やっぱり犬を亡くしたことのある愛犬家の方にとっては、ちょっと願望の成就であると同時に、すごくギューッと切なくなるような構造がある。

とはいえ、ここはさすがラッセ・ハルストレムというか、たとえば犬が死ぬところで、周りの人間までギャーギャー泣き叫んだりとか、そういう演出はしていないですよね。あと、やたらと悲しい音楽で盛り上げるとか、そういう演出はしていないです。演出でちゃんと、バランスで、やっていることのベタ感とのバランスはきっちりと取っているんで……ここはやっぱりラッセ・ハルストレム、手練ですよ。下手なことはしていない。で、さらにそれだけじゃなくて、この輪廻転生設定、エンターテイメントとして、たとえば物語のモードがどんどん変わっていくオムニバス形式ならではのテンポの良さというか、エンターテイメントとしての緩急の妙っていうのかな? 1時間40分の中で、いくつも、いろんなモードがあって飽きないみたいな、そういう効果もある。

特に本作では、最初ノスタルジックな1950年代アメリカから、60年代。あのサム&デイヴの曲が流れて……とか、曲で表現されているんですよね。60年代から次、70年代。これはシカゴが舞台っていう設定らしいけど、70年代クライムアクション風な感じになったりとか。あるいはさらに変わって、80年代ポップカルチャーの香り……しかも、80年代の中でも、80年代中盤の黒人ポップカルチャーの、あの服装の、ジェリーカールの感じとかね。「ああ、この感じ! あったあった!」みたいな感じとか。そして最後は、ちょっと若干ダークな第三幕の展開があってからの、再びノスタルジックな場面に戻る、というようなこの終盤まで、次々と物語のトーン、そして映画としてのタッチ……画面の撮り方とか、そういうのからも変わっていく、ということで、端的に言って、飽きさせない、というのもありますし。

個人的にはですね、時間的にはわずか10分程度なんだけど、その中にある、「言葉が通じないバディ物」の醍醐味が詰まった、70年代のこのパート。ここで僕はもう、図らずも大号泣をしてしまいまして。ジョン・オーティス演じる警官カルロスの孤独さ。あの、「ベイリー改めエリーよ、戻るならこの人のところに戻ってあげてくれよ!」って(観客としては思いたくもなると)いう……で、その一時のエリーとの時間。ここだけで僕ね、この10分で、5億点出ているぐらいなんですけどね。もう死ぬかと思うぐらい、ここで泣いちゃいました。どっちかって言うと、カルロスの孤独に思いを馳せて。まあ、そんな緩急がつくという、物語上の効果がある。

一見ハートウォーミングだが、起こっていることは凄くヘビー

プラス、ここ。輪廻転生っていうこの設定ルール。ド頭から、ここは割とブラックジョーク風に……要するに、最初に生まれてすぐ、1回保健所に連れて行かれて、「はい、おしまい!」みたいな。ちょっとギャグっぽくやるわけですよ。これを最初に示すために、「ああ、輪廻転生の話なのね。記憶は受け継がれるのね」っていう設定ルールがわかるだけではなくて、要は、「いつ、どのような形で死を招く事態が訪れるか、この映画はわからねえな」って思うわけですよ。観客にも予想がつかないわけです。なので、それゆえのスリリングさが、実は全編に薄ーく、不吉に……常に死の予感が漂っているんですよ。なので、たとえば前半1時間。イーサンという少年の少年期。要は、微笑ましい「少年と犬」のジュブナイル物、みたいな感じなんだけど、でもここもずーっと、なにか不吉な予感……たとえば、お父さんの暗い性格の感じとか、不吉さがずっと、実は見た目以上に通底しているし。

で、事実、その微笑ましい「少年と犬」パートで起こったエピソードが、まさにお父さんの人生を暗転させる、まあひとつのきっかけにもなっているわけですから……あるいはもちろん、中盤で待っている、ある巨大な悲劇も然り。つまり、人生の流転のヘビーさっていうのは……一見、ハートウォーミングなパッケージにしているんだけど、実は起こっていることはすごくヘビーだっていうこれ、完全にやっぱり、ラッセ・ハルストレムの十八番のバランスだと思いますね。だから、見た目のパッケージングとか、起こっているなんか演出上の雰囲気よりはずっとヘビーだし、よく考えれば、そんなに甘い美談でもない。でも、それでもやっぱり人生には価値があるんじゃないか?……というこのバランスが、ラッセ・ハルストレム(の作風であると自分は考える)。正直、そのデニス・クエイドが登場して以降の、終盤ね。犬心理の描き方、擬人度が、ちょっと僕の感覚からすると、一線を越え始めるんです、正直。

ちょっと、さっきまでの犬感からは外れているぞ、って思う。もうちょっと抑制していればな……とも思うけど。ただ、それだとちょっとね、地味な終わり方になっちゃうかもな、というのもありますけどね。ただ、それでも、ある「動き」……結局いろいろとセリフで犬の心理を説明する映画なんだけど、結局最後はある「アクション」で、飼い主と犬との変わらぬ絆、っていうのをポンと示すという、映画的なカタルシス、演出を見せられると、やっぱり僕は「ああ、これが映画だ。映画の見せ方だ」って……小説にはあのアクションの見せ方はないですから、やっぱりグッと泣いてしまうところもある。

中盤のカルロスのパートだけでも全然見る価値あり!

犬たちの演技、すさまじいですね。もちろん表情とかは一部CGとかで調整しているのかなとも思いますけど。マーク・フォーブスさんというアニマルトレーナー、本当にすさまじい仕事をしていると思う。特に、冷静に考えて、4匹の違う犬種をそれぞれ、実は中に1匹のひとつの筋が通った魂があるんだ、って見せるって、これ人間の役者につける演出としても、結構難しいですよ。なのに、なんかそういう風にちゃんと見えている、っていうあたり、本当にすごいんじゃないかと思いました。ということで、言いたいことはなくはないですけど、犬エクスプロイテーション映画、ひとつのジャンル映画として非常に僕は……このジャンル映画としての出来は、十分に高い作品だと思いますし。特にこの中盤の、カルロスのパート。ここだけでももう、全然見る価値……見てよかったと思える。本当にあそこだけ繰り返し……もう、いま泣いてますけども(笑)、ぐらいの作品でございました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は、1960年代のNASAで有人宇宙飛行計画を実現させた女性職員たちの活躍を描く『ドリーム』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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