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「追悼トム・ペティ〜トム・ペティとラジオと」

ジェーン・スー 生活は踊る

10月2日に亡くなった【トム・ペティ】の音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる「ラジオ」をキーワードにした追悼企画。

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※以下、番組内容書き起こし by みやーん(文字起こし職人)

【高橋芳朗】
本日のテーマはこちらです。「追悼トム・ペティ〜トム・ペティとラジオと」。10月2日(日本時間3日)、アメリカのロックミュージシャンであるトム・ペティが心臓発作で亡くなりました。66歳でした。

【ジェーン・スー】
まだ若いよねぇ。

【高橋芳朗】
若いですよね。今日はそんなトム・ペティの名曲を「ラジオ」をキーワードに紹介したいと思いますが、まずはトム・ペティがどんなアーティストなのか、簡単に説明しましょう。トム・ペティは1950年生まれ、フロリダの出身です。そして1976年に「トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ」としてデビュー。ブルース・スプリングスティーンなどと並ぶアメリカの国民的ロックスターとして名を馳せています。

【ジェーン・スー】
うん。

【高橋芳朗】
で、このトム・ペティやブルース・スプリングスティーンのようなアメリカンロックはよく「ハートランドロック」なんて呼ばれることがあります。「ハートランド」は文字通りアメリカの中央、つまりアメリカ中西部を指す言葉なんですけど、アメリカ中西部がハートランドと呼ばれるのはそういう地理的な理由だけではなく、第一次産業や第二次産業に従事している労働者が多いこのエリアはアメリカの昔ながらの価値観を体現している土地でもあるんですよ。まさにハートランド、「アメリカの心」ということですね。

【ジェーン・スー】
はい。

【高橋芳朗】
要するにハートランドロックというのはざっくり言うと、中西部などで暮らしているような保守的なブルーカラーのアメリカンライフを歌ったロック、という感じでしょうか。

【ジェーン・スー】
「白人の」だよね。

【高橋芳朗】
そうそう。あるいは、そういうブルーカラー層に支持されているようなロック、といいますか。アメリカの大統領選ではこの中西部の票が選挙のゆくえを左右するから、ハートランドロックのアーティストの曲をキャンペーンソングに使う候補が非常に多いんですよね。実際、トム・ペティの曲もジョージ・W・ブッシュやヒラリー・クリントンが使っていました。

【ジェーン・スー】
うんうん。

【高橋芳朗】
ただ、こうやって紹介するとトム・ペティに保守的でマッチョなイメージを抱く方もいるかもしれませんが、むしろ彼はそういうステレオタイプなアメリカンロッカー像とは一線を画す、反骨精神あふれるアーティストです。ブッシュがトム・ペティの曲を大統領選のキャンペーンに無断で使ったときも「てめえの片棒なんてかついでられっか!」と猛抗議したりして。

【ジェーン・スー】
はい。

【高橋芳朗】
あと、トム・ペティのトレードマークということでは片方の口元をゆがめたニヒルな笑顔を思い浮かべる方も多いと思うんですけど、そういう斜に構えたロック兄ちゃん然としたたたずまいがかっこよかったなと。そこからくるイメージもあるのかもしれませんが、最後まで老けこまなかったというか、個人的にはずっと現役感があったアーティストという印象ですね。

【ジェーン・スー】
「こういうアメリカもある」ということを教えてくれたアーティストですね。

【高橋芳朗】
そうですね。そういった意味ではやっぱりブルース・スプリングスティーンと共通するところがあるのかもしれないです。そんなわけで、最初にお伝えした通り今日はトム・ペティの作品を「ラジオ」をキーワードに3曲紹介したいと思います。まず前半は、映画の劇中でラジオから流れるトム・ペティの曲を2曲。いずれもカーラジオからトム・ペティの曲が流れてきて、運転手がそれに合わせて一緒に歌うという共通点があります。で、どちらの映画もオスカーを獲ってる名作中の名作です。

【ジェーン・スー】
ではよろしくお願いします。

【高橋芳朗】
最初はジョナサン・デミ監督によるサイコスリラーの傑作『羊たちの沈黙』から「American Girl」を聴いてもらいましょう。きっと覚えている方も多いと思いますが、連続殺人犯に拉致されることになるブロンドヘアの女の子がその直前に車を運転しながらラジオから流れてくる曲に合わせて歌うシーンがあるんですけど、あの曲がトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「American Girl」です。「American Girl」はカリフォルニアの青空のもとでハイウェイをかっ飛ばしながら聴くと気持ち良さそうな爽快な曲だから、ああいう『羊たちの沈黙』の不吉なシーンで流れるのは妙なインパクトがありました。

M1 American Girl / Tom Petty & The Heartbreakers

【高橋芳朗】
このシーンで車を運転してる女の子が歌ってるサビの部分は「大丈夫、気楽にいこう。この夜を乗り越えるんだ」という歌詞なんですけど、結果的にこのコはシリアルキラーに誘拐されて夜を乗り越えることができなかったから、ちょっとシニカルな意味が込められた引用だったわけですね。ジョナサン・デミは2015年の『幸せをつかむ歌』でもメリル・ストリープに「American Girl」を歌わせていたから、きっと特別な思い入れがあるんでしょう。

【ジェーン・スー】
はい。

【高橋芳朗】
続いてはキャメロン・クロウ監督、トム・クルーズ主演の映画『ザ・エージェント』からトム・ペティのソロ名義のヒット曲で「Free Fallin’」を聴いてもらいましょう。この映画でトム・クルーズは大手スポーツエージェンシーの腕利きエージェント、ジェリーを演じているんですけど、ジェリーはある日突然会社から解雇されてしまうんですね。で、そんな逆境に立たされたなかで彼は心機一転フリーランスのエージェントになるわけですが、いろいろな障壁を乗り越えてようやく仕事が軌道に乗り始めたというシーンで、この「Free Fallin’」が流れます。これがもうめちゃくちゃ感動的なシーンで、トム・クルーズは車を運転しているんだけど、仕事がうまくいき始めてすごくハイになってるんですよ。

【ジェーン・スー】
うんうん。

【高橋芳朗】
彼はカーラジオをつけて、そんないまの自分の心情を代弁してくれるような曲が流れているラジオステーションを探すんです。まず最初に流れてくるのは、ローリング・ストーンズの「Bitch」。ただ、曲に合わせて軽く歌い出すんだけど、どうもしっくりこない。ちょっとイケイケすぎるなと。で、ザッピングすると今度はノスタルジックなカントリーソングが聞こえてくるんです。メリリー・ラッシュの「Angel Of The Morning」。ジェリーはまた曲に合わせて歌おうとするんだけど、やっぱりこれも違う。これはこれで甘すぎると。

【ジェーン・スー】
うん。

【高橋芳朗】
で、さらにステーションを変えたときに流れてくるのがトム・ペティの「Free Fallin’」なんですよ。そして、トム・クルーズは「これこそがいまの俺の歌だ!」とばかりに大声で「Free Fallin’」を歌い出すわけです。「Free Fallin’」のサビは「俺は自由なんだ。自由になりたかったんだ」という歌詞なんですけど、それが新しい人生を踏み出したトム・クルーズ演じるジェリーの高揚感を見事に表現していた名場面/名選曲でした。このあたりは元『Rolling Stone』誌の記者だったキャメロン・クロウの面目躍如といえるんじゃないでしょうか。

M2 Free Fallin’ / Tom Petty

【ジェーン・スー】
いい曲だー。

【高橋芳朗】
うん、しみじみいい曲。ちなみに、キャメロン・クロウはオーランド・ブルームが主演を務めた2005年の『エリザベスタウン』でもトム・ペティの曲を数曲使っています。まあ、少々強引に聞こえるかもしれませんが、カーラジオから流れてくるトム・ペティの曲に合わせて歌うシーンがアメリカ映画界の名監督、しかも音楽映画を何本か撮っているようなロックに精通している監督によって2回も撮られているということは、やっぱり彼の音楽がアメリカで暮らす人々の生活に根ざした歌、アメリカの心の歌だったのだなという気がしますね。

【ジェーン・スー】
うんうん。

【高橋芳朗】
では、最後の曲。これは必ずしもトム・ペティの代表曲とは言えないんですけど、ラジオに関連した曲ということで「The Last DJ」、2002年の作品を聴いてもらいたいと思います。先ほどトム・ペティを「反骨のロッカー」みたいに紹介しましたが、この曲はまさに彼の反骨精神を象徴するメッセージソングです。均質化が進んで、個性を失いつつあるアメリカのラジオ業界を痛烈に批判した曲ですね。

【ジェーン・スー】
うんうん。

【高橋芳朗】
歌詞の大意を読みますね。「あのDJは会社の言いなりになんてならない。お偉いさんたちは彼のことが気に食わないんだ。かけろと言った曲をかけないし、奴らの都合の悪いことをしゃべるから。好きな曲をかけて、言いたいことを言うDJが去っていく。選択の自由が失われいく。人間の声が失われいく。最後のDJが去っていく」ーーこんな感じの内容になっています。幸いこのTBSラジオではかけたい曲をかけさせてもらっているし、しゃべりたいこともしゃべらせてもらっていますけど、でもトム・ペティのことを思い浮かべると「The Last DJ」を思い出して、信念を持って曲をかけることの大切さを忘れないようにしたいなと、身の引き締まる思いがします。

M3 The Last DJ / Tom Petty & The Heartbreakers

【高橋芳朗】
僕らもAIがラストDJにならないようにがんばらなくちゃいけませんね。

【ジェーン・スー】
本当だよね。トム・ペティ、「The Last Human Voice」って歌ってたよ。

【高橋芳朗】
というわけで、「ラジオ」をキーワードにしてトム・ペティの名曲を3曲聴いてもらいました。日本におけるトム・ペティの評価が本国アメリカでの名声に見合ったものかというと、まったく及ばないというか本当に寂しい限りなんですけど、実はいまをときめくテイラー・スウィフトがトム・ペティからめちゃくちゃ影響を受けてるんですよ。

【ジェーン・スー】
あーっ、それすっごいわかりやすい!

【高橋芳朗】
そもそもテイラー・スウィフトは「Free Fallin’」が弾きたくてギターを手に取ったそうですからね。で、デビューした後も「American Girl」をカバーしていたりする。さらにいうと、自分が指針としているソングライティングの象徴的な存在として真っ先にトム・ペティを挙げているんです。そんなこともあるので、彼女のファンの若い人たちもぜひこの機会にトム・ペティを聴いてもらいたいですね。

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当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア(稀にかかる邦楽はディレクター選曲)。