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【映画評書き起こし】宇多丸、『シンクロナイズドモンスター』を語る!(2017.11.18放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

 

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。

番組公式ホームページの方では、みやーんさんによる評の書き起こしがいっぱい載っておりますので、そちらも参考にしていただきたいと思います。先週の『ブレードランナー2049』評に私、さらに勝手にいろいろと補足を付け足しております。「なんでタルコフスキータッチが導き出されたのか?」っていう私なりの仮説とか、そういうのとかね。なのでぜひぜひそちらも追って読んでいただければと思います。ということで、今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『シンクロナイズドモンスター』

(曲が流れる)

『プラダを着た悪魔』『レ・ミゼラブル』などの女優、アン・ハサウェイが主演と製作総指揮を務めた異色のモンスター映画。仕事をなくして毎晩泥酔、同棲していた彼氏にもフラれた主人公グロリアが生まれ故郷に帰ったちょうどその頃、韓国のソウルでは謎の大怪獣が出現。なんとその怪獣の身体を操作しているのは自分(グロリア)らしいということが判明し……。監督は『エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる』や『ブラック・ハッカー』などなどのナチョ・ビガロンドさんということでございます。ということでこの『シンクロナイズドモンスター』を見てきたよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。

■リスナーの感想は、6割が「褒め」

メールの量は、やや少なめ。まあね、公開規模とか、あといま超大作というか注目作が本当に大渋滞を起こしている中で、こういう小品となると少ないのはしょうがないかもしれませんが。賛否の比率は「賛」、褒めている方が6割。「否」の感想は2割ぐらい。残りがその中間ということでございます。褒めている方は「こんな話と思わなかった。最後まで展開が読めない」「バカ映画と見せかけていろいろと深刻な問題を扱っている」「アン・ハサウェイがダメかわいい」。ダメかわいいって本当にそうですよね。などが、主な褒める意見。否定的な意見としては、「怪獣周りの描写はさすがにリアリティーがなさすぎ」「悪役的な役回りに救いがなさすぎ」「特撮シーンが思ったよりも少なすぎ」(笑)。「なんだよ、怪獣映画じゃねえじゃねえか!」みたいなね、そんなあたりの意見がございました。

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「よたこ」さん。「こんばんは、宇多丸師匠。はじめてメールします。『シンクロナイズドモンスター』、見てきました。あのアン・ハサウェイがダメ女でモンスターとシンクロ。どうなる、世界? どうする、アン? そんな楽しげなノリに誘われて見に行ったのですが……思っていたのとは全然違う映画でした。けど、面白い。私にとっては儲けものです。特に心に刺さったのが、中盤以降に敵役に転じてしまう人。物理的な暴力や束縛ではなく、従わざるをえない心理的な状況を組み立てていくあの嫌らしさ、おぞましさ。グロリアともども絶望的な気持ちに追い込まれた後のラスト。もう理屈なんてよくわからんけど、『やったー!』感が最高!」と。非常にカタルシスがあったということでございます。総じて女性はね、「スカッとしました」という意見が多かった。

一方、「ポテ巻」さん。「ダメダメハサウェイはめちゃかわいいけど、ダメダメムービーすぎてイライラしました。とにかく、とあるキャラクターのゲロカス野郎がひどすぎます。『こういうやつ、いるわー』では済ませられないクソな言動。こいつもハサウェイ同様に悲しいやつなんだから、彼女と同じく優しい目で語ってやらないと、単なるワガママ中年男としか見えませんよ」と。まあ、あんまりピンと来なかったということでございます。

■アイデア一発でカマしてくるナチョ・ビガロンド監督作品

ということで、『シンクロナイズドモンスター』を私もバルト9で2回、見てまいりました。脚本、監督はナチョ・ビガロンドさん。当然この番組のこのコーナーで扱うのははじめての方ですけどもね。スペインの方で、俳優としても活動されているような方。ご自分の作品に、自分も俳優として出てきたりするような方で、スペインの人。フィルモグラフィーね、どんな映画をいままで撮っているのかな?って見てみたら、この方の長編デビュー作『TIME CRIMES タイムクライムス』っていう2008年の映画があって。これ、DVDの表記は「イグナシオ・ビガロンド」ってなっているんですけども、まあ、「ナチョ・ビガロンド」さんです。(「ナチョ(Nacho)」は「イグナシオ(Ignacio)」の略称・愛称)。

なんでこれを見たのか?っていうと、「デビッド・クローネンバーグでハリウッドリメイク決定!」っていう売り文句で。それに惹かれて観たんですよね、確か。まあ非常にクセの強い、ダークなタイムループ物なんですけども……で、だいぶ前に見た、その『TIME CRIMES タイムクライムス』の人だ、って思い出したりしてですね。で、このタイミングで、日本で見られるナチョ・ビガロンドさんの作品を改めて一通り見てみたんですけど……たしかに、今回の『シンクロナイズドモンスター』も非常に奇抜な発想というか、そういうのが売りになっていますけども。まずは非常に突飛な、奇想と呼ぶのが相応しいような、アイデア一発でまずカマしてくるタイプの作品群ではあるんですよね。

たとえば、2014年のイライジャ・ウッド主演『ブラック・ハッカー』。これ、原題は『Open Windows』ってタイトルなんですけども。これなんか、奇想っぷりがすごいですよ。なんと全編がノートパソコンのデスクトップ上で……要はデスクトップ上に開いた、様々な複数のウィンドウの中で、それをカメラが追っていくことで展開するという――だから基本的にはデスクトップ上からカメラが動かないっていう――で、展開される、変形ソリッド・シチュエーション・スリラー。まあ、『ソウ』とかそういうタイプのソリッド・シチュエーション・スリラーね。まあなかなか、よくこんなことを実際に映画にするな、っていうやつだったりとかなんですけども。

ただまあ、そういう突飛な発想、突飛な奇想の向こうにある……たとえば僕が見た中では、ナチョ・ビガロンドさんの映画は全部これが共通してあるんですけど、途中で「豹変する」人物っていうのがかならず出てくる。ある人物が、最初に思っていたのとは違うふうに、豹変する。で、それを通して、人間の多面性だとか、あるいは「他者」――やっぱり他人同士なわけですから――他者とのコミュニケーションの不可能性というか、それの恐ろしさみたいな(ものを描いたりする)。そういうような感じで、割とその突飛な発想の向こう側に、 ヘビーな人間ドラマが実は中心にドシンとある。だから、描きたいのは人間ドラマの方なのだな、という風に思いますね。ナチョ・ビガロンドさん。

特に、その奇想SF的な、スケールのデカい……本来だったらこっちがメインになるような、ハリウッド大作とかだったらこっちがメインになるようなスケールのデカい奇想SF的な設定の方は、あくまでも人間ドラマの背景というか、一種メタファー的なものにすぎない、というようなバランスが、今回の『シンクロナイズドモンスター』にいちばん近いところという意味で、2011年の『エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる』というこの作品なんか、コメディータッチということも含めて、今回の『シンクロナイズドモンスター』のバランスに非常に近いな、という風に思いましたけどね。

■影響を受けたのは、なんと松本人志監督作!

ちなみに今回の『シンクロナイズドモンスター』なんですけども、ナチョ・ビガロンドさん、いろんなインタビューで答えているところによれば、このアイデアのインスパイア元。要するに、ある人物と怪獣の動きがシンクロしてしまうというアイデアのインスパイア元はなんと、あの松本人志さんの『大日本人』。松本人志さん監督の劇場用映画第一弾、2007年『大日本人』を見て、アイデアのインスパイアを得たと。ビガロンドさんは、それどころか、こんなことをインタビューで言っています。「松本人志は世界で最も大好きな映画監督なんだ」とまでおっしゃっているというね。ねえ。つい思わず、「マジで!?」って(笑)、「あっ、マジ?」ってなる感じもありますけども。

ただなるほど、そう考えると、もちろん『大日本人』……たとえば、怪獣が現れる時に雷鳴がババーン!ってなって、っていうのは今回の描写でもそう(『大日本人』と重なるあたり)ですし。あとビガロンドさん、直接は言及していないんですけど、たとえば一見無関係な事象同士……しかも、世界の割と大きな事象と、主人公の小さな行動が、まさしくシンクロするっていう意味で、2009年の第二作目『しんぼる』もちょっと入っているな、と思いますね。ビガロンドさん、ここまでファンだと言うなら、『しんぼる』も見ていないわけがないと思うんで……だから『大日本人』+『しんぼる』な感じ、と考えると、「ああ、なるほどな」っていうところはあると思います。

ただですね、僕はやっぱり松本人志さんとビガロンドさんは、とは言えやっぱり違う作家性を持っているなと思っていて。やっぱりナチョ・ビガロンドさんの場合は、さっきから言っているように、そういう奇抜なアイデアみたいなのは、あくまでもその向こうにある人間ドラマの背景、なんならメタファー的なものでしかない、というね。特に今回の『シンクロナイズドモンスター』は、よりその傾向が強い作品だな、ということは言えると思います。

■“ダメかわいい”路線で演じきったアン・ハサウェイ

アン・ハサウェイ演じる、主人公のグロリアという女性がいるわけですね。彼女は、アン・ハサウェイがこれまでに演じた役柄で言うと、これは町山さんとかも指摘しているのかな? 2008年の『レイチェルの結婚』。

これ、シネマハスラー時代の2009年5月4日に、この番組でも評しましたね。ジョナサン・デミ監督の素晴らしい作品でした。『レイチェルの結婚』の主人公キム……ちなみに、この『レイチェルの結婚』のキム役で、アン・ハサウェイはアカデミー賞主演女優賞にノミネートされているわけです。で、その『レイチェルの結婚』のキム役を、ちょっとだけライトにしたような……キムはもう、病院で治療していたりするような人なんで、かなり重度でしたけども。まあ今回もやっぱり、アルコール依存の気があるキャラクター。そして、酔って問題を多々起こしてきたと思しき人、ということですね。で、アン・ハサウェイに関してはみんな(リスナーの感想メールでも)「ダメかわいい、ダメかわいい」って……まさしくそのダメかわいい、僕も図らずも自分でノートに、「ダメかわいい」って書いていたんですけども(笑)。

まあ、あえての髪ボサボサ。で、あとたぶんですけど、下半身を割とボリュームアップするような体型づくりをしてきたんじゃないですかね? すっごいかわいいし、別にデブとかじゃないんだけど、下半身がちょっと重そうな感じの体型と、それがちょっと強調されるようなパンツの履きこなしとかをしていて。これがまたいいんですよね。あのケツがデカい感じがいいなと。で、重そうに座る感じとか、とってもいいなと思っていて。で、とにかくそんなグロリアさん。彼女がですね、こちらはバリバリ稼いでいるらしい、要は非常に「しっかりした」彼氏……でも、自分がしっかりしている分、ちょっと弱者とか敗者に対する視線の冷たさとか、なんなら彼女に対して、常にモラハラ気味な感じのスタンスになっちゃってもいるティムという彼氏に、ついに愛想を尽かされて、故郷に帰ることになると。

で、その故郷に帰ると、実家なんだけど、いまはどうやら両親とか姉弟……お姉さんがいらっしゃるようだけど、お姉さんとかももう引っ越ししていて、まあ事実上いまは完全に空き家状態。家具とかも全くない、空き家状態の実家に帰ってくる。で、がらんどうの部屋で……このがらんどうの部屋で、アン・ハサウェイ演じる主人公グロリアが、なかなか快適な寝床を確保できない、っていう天丼ギャグ。なんか「そこはあんまり笑えなかった」っていうメールもありましたけど、僕はあそこ、クスッていう感じで……毎回ちゃんと寝れない、みたいな天丼ギャグ、なかなか楽しいなと思って見ていたんですけど。

ただこの、最初は非常にがらんどうだった部屋に、次第に様々な物が、この後に持ち込まれていくわけです。で、その物が持ち込まれていくに従って、グロリアは、実は地元のそういうある磁場に、やっぱり絡め取られているということでもある、というような……そういう部屋の様子とか、美術面での演出が、この『シンクロナイズドモンスター』は、全編に渡って非常に冴え渡っている。これが僕は特徴だという風にも思います。後ほどもちょっとその美術の話をすると思いますが、ぜひ部屋のインテリアを使った演出に注目していただきたいという。

アダルトチルドレンなアラサー女の帰郷物語

で、ですね、このグロリアさん、実は人生的、キャリア的に完全に行き詰まっての、ほとんど都落ち的な帰郷なわけですけども、とは言え表面的には、都会暮らしの非常に洗練された美女であることには変わりはない。つまり、田舎街を歩いていると、ちょっと場違いというか、ちょっと浮いているぐらい、おしゃれだったりきれいだったりする人。だからそのグロリアさんと、地元でバーに入り浸って、まあ「くすぶっている」っていう言い方はどうかわからないけど、でもやっぱり田舎の男たちだな、というような地元にいる男たちとが、微妙な緊張感を内にはらみつつ……やっぱり、なんか緊張感はあるわけですよね。親しくはなるんだけど、緊張感ははらみつつ、距離を縮めていくという。

で、この構図は、この番組で扱った中で言うと、2013年3月11日に評しました、シャーリーズ・セロン主演の『ヤング≒アダルト』という作品。僕は大好きな作品ですけど、『ヤング≒アダルト』あたりを彷彿とさせるような、言わば「アダルトチルドレンなアラサー女性の帰郷」物というか。アダルトチルドレンな、大人になりきれないところがある、もしくは人生にちょっと限界を感じたりとか、ちょっと煮え切らないところを抱えたようなアラサー女性が故郷に帰って……っていう話。『ヤング≒アダルト』を彷彿とさせるような、そういう人間ドラマ。これがまあ、今回の映画『シンクロナイズドモンスター』の、完全にメインなわけです。っていうか、そここそが面白いところなんですね。

だからあの、もちろんですけど怪獣はメインじゃないですよ(笑)。それはわかるでしょう?っていう。『パシフィック・リム』みたいな映画ではないですからね。アダルトチルドレンなアラサー女性の帰郷物、という人間ドラマがメインの話。で、ここでたとえば、久しぶりに故郷に帰ってきて、お金もあんまりなさそうなグロリアに、なにかと世話を焼くオスカーというキャラクターがいるわけです。これ、ジェイソン・サダイキスさんが演じています。このジェイソン・サダイキスさんの演技力というか、これが非常にキーとなっている作品でもありますよね。このオスカーというキャラクターが非常に大きい。

まあ、幼馴染でバーのオーナー……ただ、グロリアとは幼馴染なんだけど、それほど親しくはない。どころか、少なくともグロリア側にとっては……昔はね、一緒に育ってはきたけど、で、「ああ、オスカー」ってわかる程度ではあるけど、グロリア側にとっては、さほど重要な存在ではなかったらしいというのを、序盤、2人が出会ってすぐの、ここは思わず笑っちゃうようなすれ違い会話っていうか、いわゆる気まず会話っていうかね、「うわっ、気まずい!」っていうとある会話で、まあ笑い話みたいに見せておくわけです。ところがやっぱり、この2人の、お互いにかける視線の重みの差というのが後になって響いてくる、とかね。これ、非常にやっぱり脚本が上手くできているな、と思いますし。もちろん、アン・ハサウェイとジェイソン・サダイキスさん、芸達者同士の演技力もあって、非常に実はここ、周到な演出が重ねられているあたりだと思いますけども。

■部屋をうまく活かした美術演出

とにかくまあ、このオスカーという人はバーをやっている。で、その彼がやっているバー。彼のお店の作り自体が、彼の内心のコンプレックスを……たとえば、「こっちは古臭いから。まあ、バーだからさ。まあ、そんなね……まあ、バーですから」みたいなことをいろいろと言うんだけど。要はやっぱり田舎のバーで、彼ができるいちばん垢抜けた状態を作った、みたいなのが表面の状態で。で、その奥には、別の部屋があるわけですね。いまは使っていない空間っていうのがあって、そこは彼の中の、秘めた、要は古いタイプの男性性っていうか……要は地元の田舎の男たち、元からいる田舎の男たちの本性部分、っていうのを象徴しているあたりが、その部屋の作りというか。

しかも、アン・ハサウェイ演じるグロリアが来たことによって、再びその蓋を開けてしまう、っていうか……これとかもやっぱり、部屋というものを使った美術演出が、とっても丁寧な作品だという風に思いますね。スーザン・チャンさんというこの美術の方、非常にがんばったんじゃないでしょうか。ちなみにその、オスカーの秘めた内面っていうのに関しては、後半、彼が暮らしている部屋、その様子をグロリアがはじめて目の当たりにする場面でも、これはさりげないショックをすごくね、あんまりドーン!っていう感じじゃなく、でも「あっ……」っていう。部屋だけでそのキャラクターの内面というものを、物言わずして不穏な感じを演出するあたり。これ、非常に見事だと思います。本当に部屋演出が素晴らしい。

で、とにかく表面上は微笑ましく、キャッキャキャッキャやっているわけです。地元の男たちとグロリアは親しくなって、まあ仲良くはやっているわけです。表面上は微笑ましい。ただ、どこかやっぱり、なにか危うさ、脆さ、緊張感をはらんだ関係性、距離を保ちながら、グロリアと、オスカーとその友人たちはキャッキャキャッキャとやっているわけですね。ちなみにその友人のうちの1人……友人っていうか、結果的には子分みたいになっちゃっていましたけど、オースティン・ストウェルさん演じるジョエルっていう人。このオースティン・ストウェルさんはこれ、気弱そうなイケメンで、「俺、どっかでこの人、見たことあるな」って思ったら、あれでしたね。この番組では2016年1月31日に評しました、スピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』で、ソ連側に人質になった青年です。オースティン・ストウェルさん、なかなかいい役者さんでございます。

で、まあそんな感じのリアルな人間ドラマに、怪獣と……しかもね、海をへだてた韓国で出現した怪獣とシンクロするという、非常に現実離れした設定っていうのを、このリアルな人間ドラマの中に、自然に染み込ませていくっていうのがね。普通はね、「あっ、私の動きと一致しているんだ!」なんてことを、自然に気付く流れを作るだけでも一苦労だと思うんだけど、非常に手順が的確というか、無理なく染み込ませていく。これ、なかなか技がないとできないストーリーテリングだな、という風に思ったりしました。

■様々なメタファーとして読み解き可能な物語

で、この「怪獣とシンクロ」という設定。誰もがこの作品のフックだと思うこの設定なんですけど、もちろん様々なメタファー、たとえとして読んでいくことが可能だと思うんですよね。

たとえばね、その怪獣とシンクロする場所。アン・ハサウェイたちが暮らしている街の、怪獣とシンクロする特定の場所があるわけですけど、それは幼い頃に体験したトラウマと結びつく、いまは遊具がいっぱい並んでいる、「公園」がその場じゃないですか。つまり、要はやっぱり大人になりきれない大人、アダルトチルドレン2人が、ままならない人生に対する不満や怨念を、無責任に発散するのか? それとも、それらと向き合って大人としての責任を自覚するのか? という、対称的な道を選ぶ。要は、その(その場所に象徴される)子供時代とどう決別するのか、しないのか?っていう、成長をめぐる物語、という風にももちろん、読むことができますよね。場所が公園だったりして。

あるいは、これいろんな人の読みが面白くて。たとえば、『週刊金曜日』に載っている斎藤円華さんの評だと、「ソウル」──これ、韓国のソウルが舞台になったのは、本当は怪獣映画の本場日本を舞台にしたかったけど、いろいろと日本は面倒くさくて実現が難しく、韓国にしたんだけど──この斎藤円華さんの読みが面白い。「ソウル(Seoul)」っていうのは「魂(Soul)」とダブルミーニングだっていう。これ、面白いですよね。こういう読みもできるし。あと、もちろんパンフに載っている町山智浩さんが書いている文章の、ネットにおけるヘイターたちの、自分たちの鬱憤みたいなものをそういうところで無責任に外側に出す、ということのメタファーという、もちろんそうとも読めますし。

あと、『スプーン』っていう雑誌の記事だと、「グロリア(Gloria)」っていうのは「名声(Glory)」。で、名声を得たアン・ハサウェイに立ちふさがるのは「オスカー(アカデミー賞)」だっていう……こういう読みまでしていて、なんかとにかく、いろんな深読みができて面白い作品なんですよね。これ、読みに関してはオープンな作品だと思います。

個人的には、日本で言う「セカイ系」的なるものに対する批評性……つまり、セカイ系的な特権的立場、要するに「世界の命運を握っているのは僕と君だ」みたいなね、そういうセカイ系的な特権的立場に、しかし甘えたり耽溺することの危険性という。つまり、世界の命運を握っているのはたとえ僕と君……世界に選ばれし2人だとしても、それでもやっぱり、「他者」同士であることには変わりないだろう?っていう、非常に釘を刺すような視点が刺激的だな、という風に思ったりしました。まあこれは僕の完全に個人的な読みですけどね。

■やがて物語はどんどんヘビーな展開に

そんな感じで、いろんな読みができたりして面白いな、というのもありつつ……だんだん親しくなっていった主人公たちは、しかしとあるきっかけで、先ほどから言っているちょっと危ういバランスを、一気に崩してしまう。一言でいえば、「おっさんの嫉妬は本当にタチが悪い」ってことですけど(笑)。こうしてこの『シンクロナイズドモンスター』は、コメディーだと思ってずっと見続けていたら、どんどんどんどんヘビーな展開に……要は、知人間で行われるDVとか、パワハラとか、モラハラを描く、かなりヘビーな展開になっていきます。フェミニズム的なメッセージを含んだ、非常にヘビーな展開になっていくという。ここがやっぱり、いちばん見応えがあるあたりだと思いますね。ジェイソン・サダイキスさんの見事な演技も相まって、非常に見応えがあるあたりだと思います。

で、まあその進退窮まった彼女が、最終的に見つけた起死回生、一発逆転の奇手、それがクライマックスになっているんですけども……これね、僕がよく言う「見る/見られる関係の逆転」。映画っていうのは、こっちが見ていると思ったら、その見ていた存在に見返される、深淵から見返される、その逆転現象が起こる瞬間っていうのが、映画におけるいちばんスリリングな瞬間のひとつですよ、っていうのを僕、よく言っていますけども。まさにそれが、(この『シンクロナイズドモンスター』でも)クライマックスの構造として用意されていて。また、当然その、いわゆる「男ざまあ!」的なカタルシスもありますし。

あと、やっぱり先ほど言ったように、怪獣とのシンクロという設定自体を、インターネット……特に、ヘイターたちが多くいるようなネット文化のメタファーとして見るならば、やっぱり、好き放題書き込んでいる人の目の前に、ドーン!って逆襲が来るというか、直接やられるとお前ら、弱いだろ?っていうような、そういう図式としても取ることができるクライマックスのカタルシスは、もちろんあるわけです。

ただですね、これは僕、ここ(クライマックス周辺)を見ていて、やっぱりこの怪獣とのシンクロ設定、その理屈は……結局最後に真相らしきものがぼんやりとは示されるけど、だからってなんで怪獣とシンクロしているのかとか、なんでソウルなのかとか、非常にちょっとそこはこじつけというか、薄ぼんやりとごまかしているような感じの描き方しかしていないわけです。

で、これね、別にいいんですよ、薄ぼんやりとしていても。たとえば『パンズ・ラビリンス』とか、『怪物はささやく』とか、ああいう作品におけるモンスターっていうのは、「これはメタファーです」っていうのが、劇中でもはっきりとしている。ああいう作品なら、全然ここは(モンスターが存在したり出現したりすることの理屈が薄ぼんやりしていても)モヤらないんですよ。「なんで怪獣なの?」「いや、メタファーです。幻想です」とか(作品としての答えがはっきりしている)。なんだけど、この『シンクロナイズドモンスター』に関しては、さっきから「メタファー的な読みはいろいろとできる」って言ってきたけど、少なくとも劇中では、メタファーじゃないですよね。現実に人死に多数のことが起きている。劇中では現実の深刻な出来事なので、やっぱりクライマックスを始め、ロジックを全く有耶無耶にしたままなのは、正直ちょっとモヤるっていうか。

「いや、だって人がいっぱい現実に死んでいるのに、それではなんか(お話的な落とし前が)済んでない気がするんだけど……」みたいな。「あれっ、この話、済んでるの、これ?」っていうのをちょっと僕はね、やっぱりモヤっちゃったというか。で、その結果的に、やっぱり怪獣とシンクロっていうのが、なんて言うか、「ためにする設定」っていうか……やっぱりその、突飛な設定から逆算してこのテーマを無理矢理導き出しただけで(あまり深くは考えてないんじゃないか?という感じもしてしまう)。やっぱりちょっとここはモヤってしまいましたね。あと、終盤に行くにつれて、だんだんとキャラの描き方が一面化していくとか、ちょっとそういう食い足りなさみたいなところが残る部分は、正直ありました。

■ナチョ・ビガロンド監督、次回作もチェックしたくなる

ただですね、大部分を占める人間ドラマの部分は非常に見応え十分でしたし、さっきから言っている部屋の美術を使った演出であるとか、非常にきめ細やかな演出と質の高い演技で、見応え十分の作品なのは間違いないと思います。少なくともナチョ・ビガロンド監督、今度から新作が出たらかならずチェックしようかな、と思う程度には、僕は見ておいてよかった作品だと思います。非常にユニークな作品ですし、見終わった後にいろいろと、それぞれの立場で話し合うのも楽しい作品だと思いますので、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート 起こし>

そうか。イグナシオ・ビガロンドの略称っていうか、愛称的な表現でナチョ・ビガロンドっていうのか。通称的な、っていうことなのかな。

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