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情報社会の虚実

森本毅郎 スタンバイ!

忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」。全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

月尾嘉男

解説は東大名誉教授の月尾嘉男

11月23日(木)は「情報社会の虚実

 

★イギリスの投資家ネイサン・ロスチャイルド

現在は情報社会の真っ最中ですが、そこで発生している新しい動向をご紹介したいと思います。情報は一般に独占すると利益があり、共有すると利益の代わりに名誉を得られるという性質があります。

前者の大変有名な歴史的事例は、イギリスの投資家ネイサン・ロスチャイルドが1815年のワーテルローの戦いのときに大儲けをしたことです。ナポレオンが指揮するフランス軍とイギリスのウェリントン将軍が指揮するイギリス・オランダ・プロイセン連合軍が戦った天下分け目の決戦がベルギーのワーテルローでの戦いで、もし連合軍が負ければイギリスはナポレオンに侵略されるという危機一髪の状態でした。

その時、ロスチャイルドは戦場に密使を送り込み、連合軍が勝ったという情報を逸早く入手し、イギリス国債を大量に売り始めました。イギリス国民は、大金持ちのロスチャイルドが売るということはイギリスが負けたのだと思い、次々と国債を売ったので大暴落したのですが、その底値になった国債をロスチャイルドが買い占めた頃に、実はイギリスが勝ったという情報が到着し、国債が一気に値上がりし、ロスチャイルドが大儲けしたという話です。

★情報を共有して名誉を得る

一方で「情報を共有して名誉を得る」という例も数多くあります。これも有名ですが、コンピュータのソフトウェアにはオープン・ソフトウェアという誰でも無償で利用できるソフトウェアがあり、開発した人は利益は得られませんが、多くの利用者から尊敬されることになります。リナックスというOSを開発したリーナス・トーバルズは、その一人です。

★話題のYouTuber

ところが最近、この境界が曖昧になる例が次々と現れています。ユーチューブは当初、自作の動画などを自慢したいためにアップして、「多くの人が見てくれると嬉しい」という仕組みでした。しかし現在は、人気になる動画を多数アップすると視聴回数などに応じて広告報酬が貰えるという仕組みができたために、それを狙う「ユーチューバー」と呼ばれる人々が登場し、有名になるとともに年収数千万円の収入があるという、利益と名誉の一挙両得という現象が出現しています。

★論文閲覧も有料に

ところが最近、問題になる動向が科学分野で登場してきました。学術論文の量的に明快な評価はある論文が他人の論文に引用された回数で測る方法です。重要な内容であれば、同じ分野を研究している研究者が引用するというわけです。そのような論文は学術雑誌に掲載される以前に、ウェブサイトに掲載される傾向にありますが、そのウェブサイトで閲覧しようとすると料金を払わなければいけないという事態が発生してきたのです。最近、その状況を調べた論文が発表されました。引用回数の多い上位101編の論文を調べたところ、35編は無料でしたが、66編は20ドルから40ドル、平均で32ドルを支払わないと閲覧できない状態だったのです。

引用回数1位は誰でも無償で読むことのできるオープンアクセスの論文でしたが、2位は閲覧が有料の論文で、閲覧料32ドルで21万3000回引用されており、合計682万ドルですから、日本円でおよそ7億円の収入です。題名は「バクテリオファージT4のヘッド構成間の構造タンパク質の切断」で、色々な研究に役立つために、研究者などが閲覧する場合が多いのだと思いますが、論文1編で7億円の収入というのは、1冊1500円の小説であれば470万冊の印税に相当しますから、ベストセラーの小説も真っ青という売上です。

これらの論文が掲載されているインターネットのウェブサイトの基礎となっている、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)というシステムは、科学者が情報を共有できるように作られたものですから、矛盾した現象です。

★ストーカーエコノミー

さらに情報を金銭に変換する活動は、クリントン大統領の副大統領であったアルバート・ゴアが「ストーカー・エコノミー」と名付けている経済活動です。現在では世界の大半の人々が携帯電話やインターネットを使っていますが、その時に発生する情報を集めて金儲けをする活動が一例です。携帯電話は付近にある電波塔を経由して通信していますから、3ケ所程度の電波塔の情報を集めれば、数十メートルから数百メートルの誤差はありますが、どの携帯電話が何処にあるかがわかります。

この情報を入手すれば、レストランやコーヒーショップの付近にいる携帯電話に割引サービスなどの案内を送ることができます。さらに、買物の代金をクレジットカードで支払ったり、ポイントカードでポイントをもらえば、誰が何を買ったかが記録されます。その傾向を調べれば、ある程度は一人一人の特徴を推定することができます。

★現在の情報社会=豊かな社会?

どの程度の精度かを示す興味深い実例があります。アメリカのスーパーマーケットのターゲット社は女性客の購買パターンを分析して、妊娠中の女性に妊婦向けの商品広告や割引クーポンを送っていました。ある家庭の10代の娘に、妊婦向けのクーポンが送られてきたので、親が店に抗議をしたという事件がありました。

ところが、後になって、その娘は実際に妊娠していたということが分かったのです。ギリシャ神話に登場するミダス王は自分が触るものをすべて金にする能力を望んで手に入れますが、手にする食べ物がすべて金に変わってしまって後悔したという話があります。どのような情報も利益を得る手段にする現在の情報社会は本当に豊かな社会を作るかを検討する必要があると思います。

 

月尾嘉男の日本全国8時です(リンクは放送後1週間のみ有効ですhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=2017112380000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)