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チェロ奏者で尺八師範のドイツ人、アーミン・ローベックさん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
2018年1月6日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、ドイツ人のチェロ奏者で琴古流尺八師範のアーミン・ローベックさんをお迎えしました。

アーミン・ローベックさん

名門音楽大学出身のチェロ奏者は日本の伝統楽器・尺八の音に心酔し、今では尺八を知らない多くの日本人にその魅力やルーツを紹介しています。やさしい笑顔と大きな体が印象的で、いかにもチェロ奏者という感じ。でもスタジオに持ってきたのは尺八…このギャップがいいですね。

スタジオ風景

ローベックさんは1967年、ドイツ北部の小さな町・レムゴの生まれ。両親は音楽学校の教師。兄と姉はバイオリニストという音楽一家に育ち、名門デトモルト音楽大学でチェロを学びます。その大学時代に仏教に興味を持ち、1992年に音楽大学を卒業するとすぐ、仏教の僧侶になるために来日しました。子供のころにテレビドラマ『SHOGUN(将軍)』(主演・三船敏郎)を見てから、すっかり日本や東洋の魅力に取りつかれていたのです。日本に来たローベックさんはまず京都で3ヵ月、続いて東京・立川で半年間、寺に入りました。ところが思い描いていた理想の修行生活とは違って、寺の人間関係は生々しいものだったのです。嫌気が差したローベックさんは寺を出て、日本の実社会で経験を積むことにしました。

スタジオ風景

ちょうどそのとき日本フィルハーモニー交響楽団チェロ奏者を募集していました。オーディションに合格したローベックさんは日本フィル初の外国人楽団員となって、日本で演奏活動を始めました。日本フィルを退団してからはフリーとなっていろいろなアンサンブルに参加したそうです。その間、翻訳のアルバイトで知り合った人の紹介で、日本の女性とお見合いして、結婚。翌年には男の子が生まれました。

この流れだとそのまま日本に永住しそうですが、ローベックさんは1997年、奥さんと2歳半の息子を連れてドイツに帰国します。ドイツの両親が高齢になったため、音楽学校を手伝う必要があったからです。また、古楽器のバロックチェロをドイツで勉強したいという気持ちもあったといいます。日本に滞在したのはわずか5年。いつかまた帰ってくると思っていたそうですが、実際にそれが実現するのは19年後のことです。ドイツではケルン音楽大学でバロックチェロを学んだり、音楽学校で後進の指導にあたったり、ヨーロッパ各地での演奏活動を続けていました。

尺八

でも日本の文化から離れてしまったわけではありません。むしろその反対。日本で結婚した頃に出会った尺八を、ドイツで本格的に始めたのです。初めは日本人の尺八師範に師事し、その後、スウェーデン人の師範に教わりました。そのスウェーデン人はリンデル儘盟(じんめい)グンナルさんという方で、日本で最も古い尺八の流派「琴古流(きんこりゅう)」の奏者で人間国宝の山口五郎(1933~1999年)の弟子。その方に師事したローベックさんは、山口五郎の孫弟子ということです。ローベックさんはチェロ演奏と並行して尺八のほうも研鑽を積み、ついに2016年、琴古流の師範となりました。そしてその年、19年ぶりに日本に戻ってきました。現在は千葉県松戸市でチェロと尺八の教室を開いています(さらにドイツ語も教えているそうです)。

「ローベックさんの話を聞いて分かったのは、いかに僕たち日本人が尺八について何も知らないかってことです」(久米さん)

尺八は、遣唐使によって中国から雅楽の楽器として伝わったのが最初だといわれています。正倉院には当時の尺八が残されているそうです。でもその頃の尺八は今のものとは少し違っていました。しかも徐々に廃れて、平安時代には消えてしまいました。日本に再び尺八が登場するのは、鎌倉時代。中国・南宋に渡った臨済宗の僧侶・覚心が禅宗の中の臨済宗の一派「普化宗(ふけしゅう)」を日本に伝えたときに、一緒に入ってきたのです。中国の普化宗は、唐の時代の禅僧・普化が開祖で、「鐸(たく)」という大きな鈴をいつも持ち歩いて、それを鳴らしながら「明頭来明頭打(ミョウトウライヤ、ミョウトウタ)、暗頭来暗頭打(アントウライヤ、アントウタ)」と唱えて歩いていました。そして普化の弟子の中に、その鈴の音に似せて竹の笛を吹く者が出てきて、それが日本に伝わったのです。普化宗の僧侶が虚無僧です。よく時代劇で見ますよね。虚無僧がいつも尺八を吹いているのは、それが読経の代わりだからです。尺八を吹くこと自体が宗教行為なんですね。ですから尺八は楽器というより、法具だったのです。明治時代以降、尺八は楽器として広まり、今ではいくつもの流派があります。

アーミン・ローベックさん

現在の尺八では「琴古流」と「都山流(とざんりゅう)」が二大流派といわれています。琴古流は江戸時代(18世紀)の虚無僧・黒沢琴古が始めたもので、古い奏法を今に伝える流派です。普化宗ではそれぞれの寺ごとに尺八のオリジナル曲(本曲といいます)がありました。黒沢琴古は全国を行脚して、各地の寺に伝わる本曲を集めました。その中で選りすぐった36曲が、現在「琴古流本曲」といわれるものです。

スタジオ風景

「琴古が最初に本曲を採取したのが千葉県松戸市小金の一月寺(いちげつじ)でした。私が住んでいるのも松戸です。だから松戸は私にとって聖地のようなものです。でも地元の人もそういうことはほとんど知りません。ですから私はこういう話を紹介しながら、尺八を演奏しています」(ローベックさん)

前にカナダ人の木版画職人、デービッド・ブルさんに浮世絵の本当の見方を教えていただいたことがありましたが、ドイツ人のローベックさんから聞く尺八のお話も知らないことばかり。それにしてもローベックさん、日本語も流暢ですし、日本の文化についてとてもよくご存じで、驚きました。

下野虚霊

最後にローベックさんに、一月寺の本曲「下野虚霊(つもつけきょれい)」を吹いていただきました。「虚霊」とは現れては消え、消えては現れる鈴の音。この「霊」は「鈴(れい)」のことだそうです。普化禅師がいつも鳴らした鈴をイメージしているのです。生で聞く尺八の音は想像以上に大きな音量と響きがあって、スタジオの空気は一変。まるで異界に足を踏み入れたようでした。久米さんと堀井さんはいつしかじいっと聞き入ってしまいました。

久米宏さん

「この距離で生の尺八を聞いたのは初めてですが、すばらしい音です。この音をなんと表現したらいいでしょうね」(久米さん)

「武満徹は、竹林を風が通り抜ける音のような音だと言って、とても気に入っていたようです」(ローベックさん)

「こんな音が竹一本だけで出るんですから。初めて聞いてびっくりしました」(久米さん)

その音を体験したい方に、近々、ローベックさんの尺八を聞くチャンスがあります。
「江戸年間の箏・尺八・ヴァイオリン・チェロによる日本と西洋の音楽」
2018年1月28日(日)開演13:30
時代カフェ&文化芸術スペース茶琴神明(千葉県佐倉市鏑木町1200-1)
電話:043-484-0198

アーミン・ローベックさんのご感想

アーミン・ローベックさん

あっという間に終わりましたね。これも言いたかった、あれも言いたかったと思っているうちに時間が飛んでいってしまいまいた。

尺八を吹いたときに久米さんと堀井さんが「空(くう)」の世界にすっと一緒に入っていってくださって、ありがたいと思いました。尺八独特の音色の世界ですよね。西洋の音楽はリズム、メロディー、ハーモニーがあるので、聞きながら体が動いたりします。でも尺八の本曲にはリズムもメロディーもハーモニーもないので、聞いていてフォローする部分がないんです。まさに「空」の世界です。そこに一緒に入っていくという特別な空間ですよね、尺八の音は。

実は尺八の音をマイクで拾うのは簡単ではないんです。尺八というのは吹いていると雑音も一緒にでるんですが、その雑音をカットしてしまうとフルートのような音になってしまいます。だからその雑音もうまく入るようにマイクでねらわなければいけません。その雑音も含めて尺八の音なんです。それが竹林に風が通ったときのような雰囲気になっているんです。それをうまくひろうのは結構、コツが必要です。今日の放送をあとで聞くのが楽しみです。ありがとうございました。

次回のゲストは、写真家の野村哲也さん

1月13日の「今週のスポットライト」には、写真家の野村哲也さんをお迎えします。イースター島、パタゴニア、南アフリカなど2年ごとに移住し、ほかの国々にも旅をしながら、地球の息吹を感じるような絶景を撮影しています。

2018年1月13日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20180113140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)