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【映画評書き起こし】宇多丸、『犬猿』を語る!(2018.2.24放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『犬猿』

(ACIDMAN『空白の鳥』が流れる)

ああ、今かかってるこれ、最後に流れるACIDMANの曲なんですけど。『空白の鳥』っていうのは、十二支の申(サル)と戌(イヌ)の間にある、空白の「酉(トリ)」。インタビューを読むと、「申と戌の間」っていうことらしいですね。気が利いていますよね。

ということで、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督による人間ドラマ。刑務所から出所したばかりの兄と真面目な弟、家業を切り盛りする姉と能天気な妹の対立がエスカレートしていく様を描いていく。兄弟を演じるのは窪田正孝と新井浩文、姉妹を演じるのはお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子さんと女優の筧美和子さん、ということでございます。

■「『ダメだ、そのラインを越えたらダメだ!』」(byリスナーの心の声)

ということで、この映画をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、普通。でも公開規模はそんなに大きくないですからね。結構健闘している方じゃないですかね。賛否の比率は9割が「賛」(褒め)。残り1割が否定的な意見。間の「普通」みたいな意見はあまりなかった。「今年ベスト級」「(『葛城事件』など)“家族という名の地獄”映画の新たな傑作」「キャスティングが素晴らしい」「全編に詰め込まれた兄弟あるあるに共感と悲鳴が止まらなかった(褒めています)」など賛辞の声が多く並んだ。中には、「映画は面白かったが、兄弟がいなくてよかった」というひとりっ子からの声も。私もひとりっ子ですからね。

一方、否定的な意見としては、「期待値が高かった分、がっかりした」「中盤まではよかったのだが、後半の展開で冷めてしまった」「大事なことをセリフで説明しすぎ」の声が多かったということでございます。代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「頭巾」さん。「『犬猿』、ウォッチしました。恐ろしい映画でした。終わることのない兄弟、姉妹同士の熾烈ないがみ合い&マウンティング。見ながら思わずクスクスと笑いながらも、全く他人事に思えずゾッと背筋が凍りました。会話をしているとみるみるうちに地獄の様相を帯びていく会話劇がとにかく巧妙で、心の中で何度『ダメだ、そのラインを越えたらダメだ!』と叫んだことか。

思い当たる節がありまくる膨大な量の“兄弟あるある”も、それをただの“あるあるネタ”に終わらせず、ストーリーにバランスよく落とし込み、必然性を持たせていてさすがとしか言いようがない脚本だったと思います。ある意味では非常に意地悪な作品ではありますが、ひっきりなしにお互いを口撃する4人を見つめるその視線にはたしかに優しさを感じます。さんざん観客を殴っておきながら、やさしく抱きしめるような回想シーンには正直、『こんなもんで泣いてたまるか』と思いましたが、次の瞬間には兄と姉のあるセリフに号泣してしまいました。悔しいけどお見事です。『犬猿』は『勝手にふるえてろ』に続く、胃が痛くなるぐらい克明に現実を突きつけながらも、人間の面白さと愚かさをたたえてみせる傑作だと思います。めちゃくちゃ面白かったです」というご意見。

一方、「アクトル」さん。「今週の課題映画である『犬猿』、見てきました。賛否で言うと否です。兄弟・姉妹という生まれながらに比較を避けられない相手への愛憎、コンプレックスの話という大好物な内容で中盤までは本当にワクワクしながら見ていました。しかし、わりと意外性のない展開とクドい演出で徐々に乗れなくなってしまいました。極めつけはラストの思っていたことを全て口にしてしまうシーンとわざわざ入れる必要のない子供時代の回想」。だから、先ほどの頭巾さんが泣いてしまったというまさにそのところ。「……これらのシーンに限らず、全体的に説明的なセリフが多いのですが、ここは致命的でゲンナリしました」というね、対照的な意見でございました。

■「きょうだい」というものの「厄介さ」=「面白さ」がテーマ

ということで『犬猿』を私も、実はガチャが当たる前にもうすでに一足早く拝見していて。あと、丸の内TOEIで2回見てまいりました。ということで、吉田恵輔脚本・監督。2013年の『麦子さんと』以来ひさびさのオリジナルストーリー、っていうことなんだけど、ただまあ前作の『ヒメアノ~ル』も……もちろん古谷実さんの原作漫画があるんだけど。詳しくは私の『ヒメアノ~ル』評、2016年6月11日に評した映画評が、番組公式サイトにみやーんさんの起こしで載っておりますのでそちらを参照していただきたいですが、映画版の方はかなり、もう「原案」っていうクレジットの方が相応しいんじゃないか?っていうぐらい、かなりオリジナルな解釈が入った、ほとんど別物だったと言っていいと思うので。

まあ、基本的には毎回、原作が仮にあったとしても、ご自分で脚本も手がけられていますし、相当はっきりした作家性がある方ですよね、吉田恵輔さんは。平たく言えば、表面上おだやかに見えていたありふれた日常が、ふとした拍子で、ものすごく残酷だったり無情だったりっていう、その本質を露わにする話、ということで。特に、みんな誰もが、普段はなんとか取り繕って表に出さないようにしている「つもり」の、人間の醜い部分。嫉妬とか妬みとか、相手を下に見るようなマウンティング、差別意識であるとか、あるいは、手前勝手な欲望などなどが、たとえば日常的な会話で――基本的には会話劇的なところなんですけど――日常的な会話などのちょっとしたほつれとかこじれから、メリメリメリッと現実の本質が顔を出してくるような、そういう、見ている方も胃がキリキリと痛くなってくるような、超意地悪なコメディーっていうことですよね。非常に鋭い人間観察眼をうかがわせるような作品、っていうことですけども。

で、コメディーなんだけど、その、世界がメリメリメリッと本当の顔を見せる、というそのポイントから先は、作品そのもののトーンもガラッと変わって、ホラー的だったりサスペンス的だったり、っていうところに転がっていったりすることも多いという。まあ、ざっくり言うと、吉田恵輔さんはそういう作風の作り手さんです。で、今回……これまた大傑作だった2010年の『さんかく』という作品がございますけども、『さんかく』でも重要なファクターになっていた、対照的な人間性の姉・妹というのが描かれていましたけども。要は、もっとも近くにずっといて、誰よりも相手のことを私がいちばんわかっている、いちばんよく理解している”つもり”。だからこそ、でもやっぱり「他者」という、その本質的な他者性が、根の深いこじれを生みやすい。しかも、いくらこじれても、そう簡単には縁を切ったり距離を置くこともなかなかできないという、そういう兄弟というもの特有の厄介さ。

まあ、「家族という呪い」ということでもあるけど、親だったらまださ、たとえば親から受けた恩があったりとか、親は親で「育てなきゃ」っていう気持ちもあるけども、兄弟はさ、ぶっちゃけ、「知らねえよ! なんでこいつと?」っていう人じゃない?(笑) もう強制的に一緒に置かれるような人たちだから、その厄介さ。まあ、「厄介さ」っていうのは言い換えると……吉田恵輔作品的には「面白さ」っていう部分に焦点を絞って。兄弟と姉妹、それぞれの犬猿の仲っぷりっていうのを交差させていく、という、こうして言葉にしてみれば非常に明快なコンセプトの、ダークコメディーですね。はい。

■「ひっくり返すよ、俺は!」宣言としてのツカミ

まず、冒頭の掴みからして……吉田恵輔さんは本当に意地悪ですね(笑)。冒頭に、あるショッキングなというか、「あれっ? ちょっと違う映画を見に来ちゃったかな? あれっ、なんか映写事故?」って思うような、強烈なツカミがあります。悪意に満ちた(笑)。これは(ネタバレになるような具体的なことについては)言いませんけども。楽しみにしてください。まあ、要はでもね、こういうこと。「善きこと”げ”」な……「世の中で良しとされる、『これは感動しますよ』みたいなそういうものを、俺はひっくり返すタイプですよ」っていう、これは最初の宣言でもあり。で、これは最後の方の感じともやんわり対になっている、ということだと思いますね。「ひっくり返すよ、俺は!」っていうね。

で、ですね。さすが吉田恵輔作品、僕が秀逸だなという風にうなったのは、メインの舞台のチョイスが、街の小さな印刷工場。その舞台のチョイスと描き込み方。街の小さな印刷工場を舞台にしようという、ここがやっぱりなかなか思いつかないし、いい目の付け所だなと思いましたね。要は、どうやらもともとその社長だったお父さんが、たぶん脳梗塞かなんかで寝たきりになっちゃって。で、お笑いコンビ・ニッチェの江上敬子さんが演じるしっかり者の長女、犬猿姉妹の姉の方がそれを継いだ、ということらしいんだけど。で、そこに、代理店というか、印刷営業マンの窪田正孝さん演じる犬猿兄弟・弟。和成っていう人が仕事を持ってくるという。要するに、印刷工場があって、そこを仕切っているお姉さんと、そこに仕事を持ってくる営業マンの弟という、この構図が、基本的な話の中心にある構図なんですけど。

■ニッチェ江上敬子さんの「喜劇女優」振りを際立たせる「声」

で、とにかくその印刷所がメインの舞台なんですけど、仕事の描写であるとか、あとクライアントと下請けの、わりとえげつない力関係の構図であるとか、諸々がとってもやっぱりリアリティーがあって、非常に興味深いなと思いました。とにかくその兄弟・姉妹の4人それぞれが、それぞれに……それぞれの言い分とか立場があって。要は、それぞれが「自分は間違っていない」っていう風に思っているんだけど、客観的に見ると、それぞれが違った方向のバカさとか醜さとかセコさ、ズルさを持っているという。ゆえに火種が常に――まあ、人間誰しもそうなんですよね――トラブルの火種がある。まず何しろ、本作を見た人がおそらくもっとも印象に残るのは、ニッチェ江上敬子さんの、幾野由利亜さんというお姉さん。若い頃の藤山直美風とも評される、本当に堂々たる「喜劇女優」っていう感じね。僕はやっぱり今回の江上さんの佇まいは、お笑いの人がよく映画に進出した時の感じの中でも、特に「喜劇女優」としての佇まいがすごくばっちりあるなという風に思いました。

体格もさることながら、僕は江上さんね、ちょっとハスキーな声がいい。声がとってもいい。なにか不器用な真面目さみたいなものを感じさせるあのハスキーな声。要は、なんか朴訥というか、不器用な感じじゃないですか、あのハスキーさは。それを感じさせて、とてもいいし……と同時に、真面目で純真なキャラクターなんだけど、実は途中で、立場を利用した、要はパワハラ的ニュアンスを含んでいると言えなくもないある行為を重ねて行ってしまって。こじれのベースを作ってしまう、というようなことをするこのキャラクター。この江上敬子さん、約2ヶ所、あっと驚くタイミングで用意されている、豪快な「吹き出し芸」とかもよかったですし。

あと、僕はちょっとここはやりすぎな気もしなくもなかったけど、鍵がかかった自分の部屋で1人きりでいたらまあ、こういう時もあるかな?っていうような、「テンションが上っちゃった瞬間」のリアルさもちゃんとある「ダンス」シーンとかですね。とにかく、喜劇的スキルの高さというか、それをしっかりと発揮していると思います。これから女優として、息長く活動できちゃうんじゃないかな? という風に思いました。対する妹の筧美和子さんも、役柄的に……僕は劇中、モラル的な一線をいちばん最初に越えてしまったのは、彼女だと思っている。つまり、はっきりと悪意を持って、お姉さんに修復不可能なレベルの精神的ダメージを与えている。

で、それの結果、破壊的な事態に至る直接の引き金を引いてしまった。要は、かなりひどいことをする役柄なんですよね。あるところで、「えっ、なにかまずかった?」って聞くところの、「うわっ、こいつ!(怒)」っていう(嫌な感じなどが印象的なのですが)……でも、非常に感じの悪い役柄なんだけど、それをちゃんと一定のチャームを持って……つまり、とは言え根っこが本当の本当に邪悪というわけでもない、というようなぐらいのバランスで、絶妙に体現している。たぶん、筧さん自身がいいお嬢さんなんでしょう、というか。あと、「微妙に先が見えたグラビアアイドル」っていう、筧さんの立場的に結構なかなか際どい役でありながら、それを堂々とやりきっていて。僕はとっても、筧さんにも好感を持ちました。好感、好感です! 「好感、好感の嵐です!」(笑)。これ、見ればわかりますけどね。

■芸達者同士の兄弟サイド。新井浩文演じる「デリカシーのない兄」

で、一方の兄弟サイド。これはもう、芸達者対決!っていう感じですよね。まず新井浩文さん。もう日本のバイプレーヤーとして欠かせない存在ですよね。『葛城事件』では、ああいう固い真面目な役、この映画で言うとお姉さんみたいな、ああいう真面目すぎて苦しんじゃうような役も見事に演じていて、びっくりしましたけど。今回は、クズ・チンピラ方向。いちばん得意なあたりですよね。普通にしていても怖いですっていう新井浩文さんなんだけど、十八番のラインなんだけど、今回のその兄・卓司のクズ・チンピラ演技のキモは……たとえば、「後輩からとても煙たがれているであろう偉そうな先輩」っていうこの点においては、『さんかく』の高岡蒼甫演じる男、実は後輩からめちゃめちゃ煙たがれているっていうのがあるんだけど、あれを数倍悪質にしたような、粗暴なキャラクターなんですね、今回の卓司は。

なんだけど、ポイントはここ。たとえば出所後すぐ、キャバクラっていうかクラブに行って、ホステスさんにしょうもないセクハラをしつこく繰り返す、という場面。あそこのホステスさんがまた、諦めて、死んだ目で乳をいじらせているところ(笑)。で、こうやって会話しながら、卓司の方もさ、関係ない会話をしながら、乳をいじくり倒していて(笑)。お互いに誰得なの? この時間、誰得?っていうあの瞬間とか、めっちゃおかしいですけど。とにかく発言の端々に出る、「迷いのないデリカシーのなさ」。これが、この卓司という今回のキャラクターの、クズ感の特徴。「デリカシーがない」。特にやはり、「ダイエット薬を輸入するんだよ」っていう時に、「えっ、私もほしい!」って筧美和子さん、妹が言ったら、「どっちかって言うと、姉ちゃんの方が必要じゃね?」って、サラリと迷いなく(笑)。「デリカシー、ない!」っていう。あまりにも迷いがなさすぎて、責める気にもならん、っていう感じとか。

あとね、「ああ、俺もブス嫌だわー」ってね(笑)。「ブスですいませんね!」っていうあのくだりとかね。あと、「俺、チェンジなしの卓司って言われてんだぜ」っていうね(笑)。とにかくあの、悪気すら感じさせない、一貫したゼロデリカシースタンス。もう気持ちいいぐらいの。要は、この卓司という男は、非常に粗暴で半グレみたいな感じなのね。タトゥーの入れ方とかもすごい半端な感じなんだけど、要は、単に無邪気、単に「子供っぽい男」という面をさり気なく、このデリカシーなし男の感じで出している。

なので、単に無邪気で子供っぽい男ということで、かわいげっていうか……たとえば後半に出てくる「親孝行の強要」(笑)とか、弟にあるプレゼントをするんだけど、拒絶されて本当にしょんぼり帰っていくところとか、やっぱり彼なりに考えていることが、空回りしているだけなのかも……っていうようなバランスが、今回の新井浩文さんのクズ・チンピラ方向のですね、いい味付けになっている。さすが上手いですね。バランスがね、ちょっとしたバランスだけで、そのキャラクターの深みを出す。

■一番の曲者・弟を演じるのは窪田正孝

でも、この四者四様いる中で、僕は実はいちばん曲者なのは、窪田正孝演じる弟の和成というね。要は、劇中でいちばんおとなしく見える人なんだけど……まあ『ヒメアノ~ル』以降の吉田恵輔作品というのは、途中までいくらコメディーで進んでいても、「惨劇が起こるんじゃね? 途中から超怖くなるんじゃね?」って、こっちはもう覚悟して見ているけど、今回はやっぱり、いちばん不吉な殺気をたたえているのは、この窪田正孝演じる一見おとなしいキャラクターなわけですね。で、実はこの和成さん、おとなしくて、真面目に働いていて、「俺たちみたいに地道に働いている人間はさ」とか言うんだけど……劇中でそこまで明言はされていないけど、ものすごーく、ズルい人ですよね、この人。実はね。そこの、自意識としては真面目だし、真面目に振る舞っているけど、なんて言うのかな? 揚げ足を取りづらいズルさっていうのが、本当にズルいっていうか。

まあ、弟イズムなのかもしれないですよね。ダメなお兄ちゃんから学んでいるっていうか。たとえば、そのニッチェの江上さん演じるお姉さんの方から、好意を寄せられているわけですね。で、こっちはそんなに乗り気じゃないっていうのはまあ、たとえば遊園地のシーンの表情とかでも……しかもね、その遊園地でデートしたところで、こっちの江上さんは「ワーッ!」ってはしゃいでいるのに、パッとカットが変わってその窪田くんのカットになると、暗がりでタバコをいきなり吸い出していて。「あ、お前、タバコ吸い出したんだ」「うん。なんか全部どうでもよくなって……」っていう(笑)。どんどんタバコを吸う場所が、車の中にも広がっていく、というあたりで彼に荒みっぷりが表現されているんだけど。

とにかく、お姉さんからの好意っていうのを、「お姉ちゃん、和成くんのこと好きだから」「えっ、好きじゃないでしょ?」「またまた~」って、やっぱりちゃんとそこ(和成側も姉が寄せる好意を知った上で利用していること)は妹さんは見抜いているけど、とにかく気づいていないわけがないのに、完全に「自然に」すっとぼけた上で、ちゃんとその好意を利用する。とかですね、俺はこのキャラクター、実は二度目に見て気づいたんですけど、序盤、阿部亮平さん演じるチンピラに絡まれる場面……これはちなみに、阿部亮平さんと窪田正孝さんが絡むということは、「達磨一家 vs RUDE BOYS」か?っていうね(笑)。ハイロー世界のね。そういう感じがするんですけど。まあ、今回はキャラクター違いますけどね。

とにかく、チンピラに絡まれた件を、「卓司さんに言わないでくださいね」って言われていたのを、結局、「ああ、シレッと言っちゃっていたんだ」って思うじゃないですか。何気なく言ったのかな? で、「仕返しなんかしなくていいよ! たのんでないじゃん、兄ちゃん!」って怒るじゃないですか。でもね、その怒る場面の直前で、みなさん、何が起こっているかわかりますか? 会社で、送られたメールを見てニヤついているのを、同僚に指摘されるんですよ。「彼女からのメールですか? なんかニヤニヤして」って。その後に、メールに送られてきたチンピラが殴られている写真を見せて、「こんなことたのんでないじゃないか!」って怒ったポーズをしてみせるという……なんと悪質な!っていうことに気づいたりするわけですね。

■「きょうだいがいなくてよかった〜!」と思いつつ、でも……

ということで、実はこの和成さん、おとなしく見える弟の秘めたダークネス、というのを通奏低音として、その四者のこじれ……特にお姉さん、ニッチェの江上さん演じる由利亜の病みというのがどんどん加速していき、あるポイントでカタストロフを迎える、という感じになっていくんですけど。ただ、そのあるポイントでカタストロフを迎え、ついにむき出しになった兄弟姉妹の確執、衝突というのを、やはり吉田恵輔監督は、明らかにただネガティブなものとしては捉えていない。むしろ、ここまでさらけ出しあってなお壊れようもない関係性、というものを、やっぱりやんわりと肯定しようとしている、という風に明らかに見える見せ方をしていますよね。

まあ、ひとりっ子としては正直……まったくうらやましくはなりませんでしたけど(笑)。「(兄弟姉妹が)いなくてよかった~!」って心底思いつつも、ただ同時に、兄弟がいる感じってこういう感じなのかな?っていう気持ちが、ちょっとわかった気がします。僕にとってはたぶん、RHYMESTERのメンバーが、いちばん兄弟……この映画に描かれるような、愛憎入り交じるとか、でも切っても切れない、みたいな。で、「俺がいちばんあいつのことをわかっている」みたいな……そういう感じも含めて(RHYMESTERメンバーとの関係が兄弟に)近いかな?っていう風に思いますね。だから、僕は厳密にはひとりっ子じゃないです。3人兄弟です(笑)。はい。

とかね、あと僕の奥さんが昔、付き合いたての頃に、「私、もうお姉ちゃんと縁を切ったから!」みたいなことを言っていて。俺が「えっ、ええっ? そ、それはちょっと大変だ……ああ、そう……大変だったね……」みたいな感じで聞いていたら、ケロッと翌日「もしもし~?」なんて電話していて。「あれっ? 縁……」って(笑)。まあ、そんぐらいの感じでございました。

■言いたいこともなくはないが……結果オーライ!

ただし、このクライマックスのあたり。僕は実は、先ほどの2通目に読んだメールの方と意見を同じくするところがありまして。クライマックス周辺、まず兄弟と姉妹っていうのが、クロスカッティングで交互に対比される、というところに至って、ちょっとその対比という図式が、あまりにもわかりやすすぎるのが続くというか……こっちを映して、こっちを映して。こっちを映して、こっちを映して……っていうのがなんか、もう構造が明確になってからだと、「わかったよ、もう対比なのはわかった」って。でも、ずーっと(同じ構造の対比が)続くので、ちょっとそこが、あまりにも図式が単純すぎるのが続くかな?っていう感じだったのと、先ほどのメールにもあったように、僕も特に子供時代の回想……8ミリフィルム風の、あったかみのある映像で、しかもセリフで「あんた、かわいいからタレントになれるよ」とか、「俺になんでも言え」っていうような、要は劇中の元になるような少年少女時代の回想というのを、あまつさえセリフでまではっきりと入れ込んじゃっていて。これははっきりと説明過多、そして情緒過多に足を突っ込んでいる領域かな、という風に思いました。

ただ、その上で、冒頭のツカミ同様、やっぱり吉田恵輔作品らしい、「“善きこと”には終わらせねえぞ!」っていう意思表示をもって、バン!って終わるので。結果オーライ! (直前までのやや過剰にも思えるウェットなタッチは)前フリだったっていうかね、ミスリードだったとも取れるので、結果オーライかな、という風にも思います。この、重すぎないというか。結果軽いタッチの喜劇に見えるぐらいのところに落とし込む、こういう感じもやっぱり大事だなと。要は、「大名作!」みたいなツラをしていない作品っていうかさ。それも大事かなと思います。やっぱり、さすが吉田恵輔監督作品。めちゃめちゃ面白かったです。そして結論としてはやっぱり、「ひとりっ子最強~!」(笑)、という結論でございました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『15時17分、パリ行き』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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