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【映画評書き起こし】宇多丸、『ちはやふる -結び-』を語る!(2018.3.24放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ちはやふる -結び-』

(曲が流れる)

このね、横山克さんの音楽も、シリーズを通じて本当に素晴らしいですよね。ということで、同名の大ヒットコミックを広瀬すず主演で実写映画化した『ちはやふる 上の句』『ちはやふる 下の句』の続編。瑞沢高校競技かるた部の1年生、綾瀬千早は3年生になり、個性派揃いの新入生たちに振り回されながら、高校生活最後の全国大会に向けて動き出す。監督の小泉徳宏、広瀬すず、野村周平、真剣佑さんは名字がついて、新田真剣佑(あらたまっけんゆう)……しかもこの作品の役名の「新(あらた)」からつけての、新田真剣佑という……そして上白石萌音など、前作のスタッフ、キャストが再集結した、ということでございます。

ということで、『ちはやふる -結び-』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、多め! ありがとうございます。賛否の比率は褒める意見が7割。否定的意見が残り3割で完全否定は1割ほどでした。主な褒める意見は「伏線の回収がとにかく見事」「勝負のロジックも完璧でスポ根映画、青春映画として完璧」「俳優もいい。新キャラも全員魅力的だった」など。方や否定的意見としては「設定にリアリティーがない」「消化不良」「原作からの改変が気に食わない」といったところに集中していたということでございます。

■「伏線とその回収がとてつもない領域に」(byリスナー)

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「切れ目はない」さん。「結論から言って今年暫定ベストです。しかも、かなりぶっちぎりで。もうなにからなにまで素晴らしくて、それこそ映像、演技、演出、音響、シーンからカットの意味付け、新旧問わずのキャラ立ち、エンドロールに至るまで褒めだしたらキリがないので割愛しますが……とにかく今作が秀逸なのは伏線と回収、シーンとシーンの呼応です。その要素と要素が結ばれることは『結び』というタイトルとも通じるわけですし、もう完璧ですね」という。これね、たしかにいろんなね、全部は挙げていられないぐらいなんだけど。

「……今作『ちはやふる -結び-』の伏線はあくまでもその時点で単体としてきちんと機能したことが、あとに思い起こされ効果を発揮するという高度で品のいいものが張り巡らされています。これは『上の句』『下の句』でも多分に見られましたが、今作ではさらにそれがブラッシュアップされて、なんだかとてつもない領域に突入しています。これぞまさに映画的快楽。映画を見ているんだ!という風に思いました」と。

僕、いま評の中でメモに書き忘れたのを思い出したけど、たとえば『上の句』の最初の方で、千早が屋上にドーンと出てくるくだり。それ自体は、その場面で太一が屋上に閉じ込められちゃって、ドアノブがついていなくて……っていう。その件が今回の『結び』で、ちゃんと意味を持ってというか、ものすごいメッセージ的な意味と絡めてもう1回出てくるところとか。『上の句』『下の句』の振りがちゃんと今回、さらにまたもっと大きな意味での伏線になっていたり、っていうところもすごかったですよね。

ダメだったという方。「フキボー」さん。「『ちはやふる -結び-』、ウォッチしました。完結編にはどうしてもつきものなウェットさが目に余りました。加えてかるた部の最後の大会よりも、その後の人生の方に重きが置かれているので、いかんせん盛り上がりに欠ける。いわゆる文芸作品であれば話は別だが、『ちはやふる』なのだ。イジイジ悩んでシャーペンの芯が折れるのを見たいわけじゃない」という。なるほどね。これはたしかにでも、『結び』がかるた部の話を越えて……っていうところになっているところをどう取るか? ということでしょうね。

■「自分で観る映画を選べない」システム、ありがとう!

はい。行ってみましょう。『ちはやふる -結び-』。私も神戸に行った時にOSシネマズ 神戸ハーバーランドというところ、そしてTOHOシネマズ新宿で2回、見てまいりました。どちらも中高生たちを中心に、本当にめちゃくちゃいっぱい入っていまいた。神戸のハーバーランドで見た時は、終わった後、男子女子を含めて中高生たちがいっぱいなんだけど、男のトイレの方に、男子中学生がですね、Perfume『無限未来』を朗々とした口笛で吹きながらですね(笑)。もうすごい朗々とした口笛を吹きながらトイレに入ってきた中学生、っていうのが最高でしたけどね。

ということで、そんだけ人が入っているんですけど、この実写版映画『ちはやふる』シリーズ、当コーナーでは2016年4月2日に『上の句』、5月16日に『下の句』を評しましたが、特にやっぱり彼らの世代にとって、すでに間違いないブランドとなっていることを感じました。で、僕自身の評も、『下の句』には若干苦言めいたことも付け加えてしまいましたが、それでも「二作トータルで、日本のティーンエージャームービー、あるいは『がんばれ!ベアーズ』型スポーツ映画というジャンルの中でも、近年では明らかに突出した傑作と言い切っていいだろう。たぶん長く愛されるシリーズになっていくだろう」という風に、概ね大絶賛いたしました。詳しくは番組ホームページの公式書き起こしがアーカイブされておりますのでご参照ください。

要は僕自身、心底大好きなシリーズになってしまったわけです。これ、このコーナーの、「シネマハスラー」からのシステム。「自分で見る映画を選べない」というシステムが、明らかにプラスになったという、まさに好例ですね。僕はやっぱり、ぶっちゃけこういう、日本のこの手の映画は、自分で選んで見てはこなかったので。見たらやっぱりいいものもあるじゃないか、というのはよかったです。ちなみにこの間……『下の句』から今回の『結び』に至る間に、同じく広瀬すず主演、そして真剣佑も出ている「がんばれ!ベアーズ』型スポ根物として、『チア☆ダン(〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜)』という作品も去年、ありましたね。チアダンスの実話をベースにした話。

で、これね、ぜひみなさんね、同じようなキャスト。で、同じようなジャンルで。ある意味プロットというか……たとえば着地がね、「主人公が後にはこうなって」みたいな着地も似たところがあるこの『チア☆ダン』と『ちはやふる』を比べるとですね、映画にとって「良さ」というものを生じさせるものは何か?っていうのが、めちゃめちゃよく見えてくるので。比較対象としてぜひご覧ください。僕はちょっと軽くショックを受ける勢いでしたけども。こんなに落差があるのか、っていう。それはもう1個1個の、たとえば画面ごとのちょっとした積み重ねだったりするんですけどね。

■前2作の美点と欠点を踏まえてつくられた最終作

ということで、『上の句』『下の句』が最初から二部構成で企画されていた作品なのと違って、今回の『結び』は、『上の句』公開直後に製作が正式決定した。つまり、前二部作の出来のよさ、評判のよさっていうものがありきで作られた、まさに正真正銘の続編であり、そして真の完結編。「出演者たちの年齢もあるので、これで最後にします」と宣言されての完結編、ということですね。前二作でも、末次由紀さんの原作漫画、これは現在も連載が続いておりますが、そこから重要なエッセンスを抽出して長編映画用に再構成してみせた見事な脚色、これを手がけている監督の小泉徳宏さん。非常に優れた再構成をしているんだけど、同時にこれね、たとえば「大人んサー」というネットのインタビュー記事で、こんなことを言っているんですけども。

「映画のストーリーを前後編に分ける難しさが、顕著に現れたのが『下の句』だった」「普通の映画なら存在する冒頭のドライブ感がどうしても作れませんでした」みたいな。だから、僕が『下の句』にいろいろと言ったりしていることを、承知の上で作っている。「物語としてはそれで間違っていなくても、映画本来の構造・構成として前後編というものはあまり乱発すべきでない」って、もう言い切ってます。なので今回の『結び』は、多少尺が長くなっても一本でまとめる、という風に宣言して始めてらっしゃいます。ということで、事程左様にですね、前の二部作の、もちろんよかったところ、だけではなく、上手くいかなかったところまでもを造り手たちがしっかりと把握した上で、最後に『ちはやふる』実写版の決定版をバシッと作り上げてやる! という気概のもとに完成した今回の『結び』、ということなんですけども。

■「青春映画」のくくりを越えて、2010年代の日本映画を代表する古典に

僕なりの結論を言わせてもらえば……『上の句』『下の句』セットで、僕は、「日本青春映画の新たなクラシックが生まれた」なんてことを言いましたけど。改めて今回の『結び』を含む三部作となったことで、『ちはやふる』は、もう青春映画というくくりをもはや越えて、2010年代の日本映画を代表するクラシック、真の古典になった、という風にまずは断言したいです。大傑作だと思っています。いろいろとちょっと言いたいことはあるにしても、大傑作だと思っています。順を追って整理していきますけども、まず『上の句』と『下の句』、それぞれよかったところというのがまず、あるわけですよ。

まあ『上の句』は何より、競技かるたという題材に対する誠実なアプローチをした結果、たとえば試合の進行であるとか勝敗のロジックもしっかり描かれた……要はスポーツ映画として、まずちゃんとしている。スポーツ映画として非常に質が高い。『がんばれ!ベアーズ』型のスポ根物って言うけど、全然そのスポーツそのものをちゃんと描いていない、あるいは勝敗のロジックを描いていないものが多い中で、ちゃんと正面から「スポーツ映画としてのかるた」をやっている。これが『上の句』のいいところ。

一方『下の句』は、スポーツ映画としての面白さというのはあえて大きく後退させておいて、「かるたを取る」ということ自体の精神性、「情熱の伝播」というテーマ性をポエティックに浮かび上がらせて、二部作全体の格調を上げる、というような、これが『下の句』のよさだったわけです。で、その『上の句』『下の句』のそれぞれの美点という……加えてもちろん、新進気鋭の俳優陣が織りなす、演技アンサンブルの妙ですね。それこそクレジットにもある通り、平田オリザさんの演技ワークショップに通わせたりとか、あるいは実際にちゃんとかるた選手としての訓練をさせたり。みんな集めて訓練をさせたりとか。

要は、これは本来だったら、この『ちはやふる』っていう題材をやるのであれば、もしくは演技経験が浅い俳優たちを集めてやるなら、当然これは映画作り、クオリティーを上げるために、本来はやるべき準備なんだけど……日本の映画界というかエンタメ界、芸能界のサイクルの中では、なかなかここをきっちりやっているところは少ない、という現状の中で、それをとにかくちゃんとやった。積み重ねた。その真っ当な積み重ねが生む、このメンツならではの化学反応みたいな部分。とにかくそういった諸々の美点……『上の句』『下の句』それぞれの美点、そして、(両作に)共通するその俳優たちのアンサンブルというよさ。それをしっかり前ニ部作から今回の『結び』は引き継いで、さらにそれらをブラッシュアップしていっている、ということですね。

■アニメ的演出も、スポーツ映画的ロジックの中で嫌味なく機能

たとえば、試合としてのかるたシーンに凝らされた数々の工夫、ということですね。おなじみの、特に『下の句』でも多用されていましたけども、超スローモーションの絵面はもちろんのこと、他の映画でも出てくるGoProっていうさ、主観ショットの映像とかをよく撮るのに使われるGoProを手につけて、そのかるたを取る「手の目線」のショットみたいなのを入れてきたりとか。あるいは途中で、カメラが外から会場に入って、試合の流れの移り変わりみたいなのをずーっと、様々な角度から捉えて回る、長回しのショットであるとか。あるいは、主人公の千早。かるたに関しては非常に天才的であるとされている主人公の千早が、実際にリアルタイムでどのように読み手の読みに対して反応して札を選んでいるのか? というのを、非常にわかりやすく示してみせるそのくだりとかね。

これは(個人的な希望として)、シリーズが完結するならどこかで、「天才である千早の見ている世界」みたいなものを見せるところは必要なんじゃないか?と思っていたら、見事に今回やってくれたんだけど。とにかく、スポーツ映画としての精度、『上の句』がよかったところというのがさらに、その様々なアイデアが投入されて、磨きがかかっている、ということですね。と、同時に、『下の句』的なポエティックさ。要は、心の中の声が決めゼリフ的に機能する、みたいな。これは言っちゃえば、日本型アニメ的なカタルシス演出だと思うんですよね。すごくアニメっぽい演出だと思うんだけど。

でも、日本アニメ的であれ、そういう気持ちよさを醸すようなカタルシス演出、心の声が決めゼリフとして機能するようなそういう演出が、特に今回の『結び』では、さっき言ったスポーツ映画的なロジックと、とても上手くハマっていて、いいと思います。要するに、それ単体だと「ああ、なんかアニメっぽい演出を実写でやっているな」ってことになっちゃうんだけど、ちゃんとスポーツ映画としてのロジックと一致することで、嫌味なくカタルシスを発揮することができている、というのがあると思います。

■本作を一段上に引き上げた「継承」というテーマ

その上で、さらに今回の『結び』では、『上の句』『下の句』の、青春映画、ティーンムービーという枠組みから一段成長して、もっと大きな、もっと長い射程を捉えたテーマ性、視座を獲得しているという。一言でいえば、それは「継承」っていうことなんですけども。受け継いでいく。たとえばさ、すごいちょっとしたセリフでもね……その大会の運営の係を、かるたの先輩の人がやっている。で、「これはいいんだよ。こういうものは回ってくるものだからさ。卒業したら、今度はお前らがやってくれよな」みたいなのを、とっても軽い会話としてやる。でも、その軽い会話の後に、千早は、「周り(の他校など)もそうやって受け継いでいっているんだ」っていうことに気づいて、自分も後輩に(自分が部活を通じて)受け取ってきたものを渡そうとする。それがその、さり気ない会話の中から行くところとか、本当に見事なんですけども。

「継承」というテーマ、それをキャラクター的に、役柄として体現する、今回初登場の新キャラクター……つまり新キャスト陣が、今回軒並み素晴らしいっていうのも、『結び』の勝因じゃないでしょうかね。特に、シリーズを通して結果、事実上の主人公と言っていいであろう、野村周平さん演じる真島太一という男……これ、今回の『結び』は、最終的なお話の決着の部分を、たとえばクイーン戦をクライマックスにして千早VS若宮詩暢っていうこの戦い、つまり、天才同士のトップの戦い、これをクライマックスに置くっていうのは、まあ普通じゃないですか。でも、そこにクライマックスを置くんじゃなくて、本質的には「持たざる者」である太一の話。太一が、真に自分を、アイデンティティーを確立するまでの成長物語、というところに、原作の流れから大胆に改変してまで、物語の着地をそこに持っていった小泉徳宏監督の脚色。その判断がまず、本当に僕は素晴らしいと思う。

もちろんだから、原作からの改変とか、「かるた部の話ですらないじゃないか!」っていうところに(一部ファンなどが)苛立つのはわかるんだけど、僕はお話としては、これはめちゃめちゃ正しいと思う。たしかにそれによって、たとえば今回、松岡茉優さん演じる若宮詩暢――前回『下の句』では全部を持っていってましたけども――詩暢ちゃんが、今回はコメディーリリーフ的なところにとどまっているとか、そういうことはもちろんあるんだけど。ただ、コメディーリリーフなんだけど、やっぱり松岡茉優さんが、すでにこの間にスターになっているから。その、コメディーリリーフ的なところでもきっちりと重みを残す、みたいなところも含めて、それはそれでよかったんだと思うんだけど。とにかく、改変して太一の話にしている。

■ここぞという時に用いられる映画的表現

で、その太一を成長に導くメンター、指導者となる、非常に変人の名人・周防というキャラクター。原作でも人気のキャラクターがいるんですけど、これを演じている賀来賢人さん。ともするとこの周防というキャラクターは、要はデフォルメ一方っていうか、なんかありえない感じっていうか、下手すればコミカルな感じとかになりがちな極端な役柄というのを、ちゃんとこの賀来賢人さんが、生身の人間として体現する、という方向に心がけてらっしゃって。本当に素晴らしいなと思います。

太一が、この周防さん、普段はボソボソ喋って、何を考えているのかわからない人なんだけど、「感じが悪い」なんて言われてますけども、彼の後を、こっそりとつけて行くと……その天才として、非人間的な風に見られがちな彼の、人間的な痛みというのを、文字通り「目撃」するという場面。こことか本当に素晴らしくて。ここを思い出すだけで涙が出てくる。ちなみに僕は、こういう周防さんのような、『がんばれ元気』で言う三島さんみたいな、こういうメンター役みたいなのには、弱いんです。もう、周防さんのことを考えるだけで泣きそうになる、っていうぐらいなんですけども。

で、その周防さんであるとか、瑞沢かるた部の新人2名。優希美青さん、佐野勇斗さん演じるかるた部新人2名のエピソードも、さっき言った「継承」というメインテーマを伝える、ある意味もっとも重要な部分なんだけど、そこの部分に関しては特に、たとえばさっき、「心の中の言葉が決めゼリフ的に機能する、アニメ的カタルシス演出が多い」とは言いましたけど、この「継承」よいういちばんある意味重要なポイントの演出に関しては、たとえば、「無言で受け身を取り始める」、そうすると、「もうひとつ受け身の音が重なり始める」とかですね。あるいは、「ちゃんと爪が切ってありますよ」とか。あるいは、「同じタイミングで耳をふさぐ」……この「同じタイミングで耳をふさぐ」っていう動きだけで、「あっ!」って来るような感じ。

とにかくそういう、極めて「映画的」と言うほかない、セリフに頼らない、ある意味純粋にアクションと表情で何かを伝える、という映画的演出、表現を、ここぞというところできっちりと取っているというあたり。やはり小泉監督、とてもわかってらっしゃる作り手だなと思います。あとやっぱり、無音の使い方ですね。三部作を通じて、本当に無音の使い方、特に今回の『結び』は冴え渡っているので、ぜひこれは映画館で見るしかない! というのはディレクターの小荒井さんも言っていました。映画館でこそ……本当の無音状態を、観客全員が息を詰めて見ている、というこの状態は、やっぱり映画館でこそ味わってほしい。

■キャストの成長まで含めた「瞬間」の輝きをとらえる

新キャラで言えば、小泉監督が原作のいくつかのキャラをひとつに統合した上で、清原果耶さんですか、その女優さん用にほぼ当て書きしたという、我妻伊織という新キャラクター。これの、今回から創作したキャラクターなのに、『ちはやふる』世界への自然な馴染みっぷり。これは小泉さんの、『ちはやふる』という作品への理解の深さを本当にうかがわせるなと思います。この伊織というキャラクターと新田真剣佑演じる新との、「告白からの断り」ギャグ。そしてそれに対する突っ込みも、ちゃんとかるたネタだとかさ。とても楽しいし、非常にテンポいいなという。

正直、最初の方は、この千早・新・太一の三角関係を、ずーっとウジウジウジウジやられたらかなわねえな、と思って見ていたんですけど……やっぱり肝心なのは、ティーンエイジャーの恋が成就するかどうかではなく、そこから生じる自分への迷いから、いかに何かを見つけ、いかに成長していくかだ、という風に、しっかりそっちの方に舵を切ってみせたということで。もはや小泉監督には、信頼しかありません!っていう感じですね。成長といえば、『下の句』で僕が苦言を呈したような……「とはいえ仲間内、内向きにしか目が向いてない話のようにも見えてしまっているよ、この『下の句』は」みたいな苦言を言いましたけども、今回の『結び』には、ちゃんとその他校の人たち、「他者」にもちゃんとそれぞれの物語がある、ということを、前二作から2年分成長した主人公たちの目を通して、ちゃんと示しているし。

しかも、それが同時に、この2年間で現実に成長したキャストたち、というドキュメント性を含んでいるという。だから、さらにそれがまた素晴らしさ、感動を生むというね。オリジナル・キャストたちの素晴らしさについてはもはや、ここで時間をかけて言っている時間がないので……言うまでもなく、本当に全員、スターのオーラを発しているぐらいだと思います。(まさにそのドキュメント性が示しているように)いま、この瞬間を燃焼し尽くすこと。つまり、青春を思い切り謳歌することっていうのは、もちろんその場限りの刹那的な輝きなんだけど、同時にそれは、次の世代へ波及し、ひいては時を超えた永遠にもつながっていくんだ、という……周防さんの言葉どおり、「一瞬を永遠にする力が、人間にはあるんだ」っていうね。そういう視点まで見据える着地。ここまで持ってきたことで、僕は『ちはやふる』シリーズは、一段上の普遍性、古典性を獲得した、という風に思っています。

■三部作全体を持ち上げた傑作!

まあ正直ね、太一が周防さんから具体的に何を教わって、自分なりの戦い方……「守りがるたが得意なんだ」ってこれ、原作にもあるくだりですけども、(具体的にどうやって)それを見つけたのか?っていうのはぶっちゃけ、ちょっと雰囲気で持っていっちゃってるところはありますけども。そんなことは気にならないぐらい……特に決勝戦からの流れには、本当にぶっちゃけ涙が止まらなかったです。「ああ、これで終わっちゃう……」っていうことも含めてですけどね。試合の流れ、勝敗のロジック、見せ方。音楽と無音、スローとスピードの使い分け。そして『上の句』『下の句』も合わせた上での、さっきのメールにもあった通り、「呼応」ですよね。伏線の回収の仕方。役者たちの演技と、そしてその演技と(若手役者自身の)リアルがシンクロする感じ。全てがこの、『ちはやふる -結び-』という一作でしかなし得ないマジックに向けて集約されている、という……素晴らしい作品ですよね。

あと、ロトスコープ的なアニメの使い方とかも、最後にフワッとこうね、リアルの次元から……要するにもっと長い射程の視点というものを示すのに、あそこでアニメをフッと使うのも上手いですし。最後に流れるPerfume『無限未来』の歌詞のシンクロも完璧!といったところ。あえてひとつだけ、小泉さん! あえてひとつだけ苦言、言わせてください。『下の句』の時に言ったことでもあるんですけど……久しぶりの、2年ぶりの続編なんでしょう? 頭に、やっぱり前に『下の句』につけようよと言った、あの(前二部作の)ダイジェスト・モンタージュ(※宇多丸補足:誤解されている方も多いようなので『下の句』評で言ったことを繰り返しますが、僕が言っているのは“これまでのあらすじ解説”などではなく、『スーパーマンⅡ 冒険編』のタイトルロールに付いているようなアレ、のことなので念のため)。いままでのストーリーを……どんな形でもいいです。

たとえば、『バーフバリ 王の凱旋』での、あれは砂の塊みたいな感じで見せるとかでしたけど、なんでもいいから、いままでの名場面を頭のところでリフレインするようなのを見せてから本編に……アバンタイトルがあってからの、クイーン戦があって、新の告白があって、そのダイジェストがあってからの、本編、なら……本当に5000億点!だったんですけど。これをなんでやってくれないのかな?っていうのが……その冒頭のドライブ感っていうのが、ある意味僕は今回の『結び』も、そこはまだちょっと弱い気がしたんで。そこさえやってくれていればね、もう、もう、もう、永久トップ!ぐらいの感じだったんですけどね。なんて、いちゃもんをつけているぐらいでございます。

もう締めなくちゃいけない。いろんなことが語り足りない。Huluでやっている、(『下の句』と『結び』の)間の、それこそまさに『繋ぐ』っていう特別ドラマの、それについているメイキングとかがまた素晴らしくて。キャストそれぞれのドキュメンタリー、それ自体が青春映画のような輝きを放っていて、素晴らしかった。とにかく一人ひとりの……机くんがああだこうだとか、肉まんくんがああだこうだとか、一人ひとり語り尽くしたい!っていう感じでした。とにかく私は、『ちはやふる』完結作として一段上の傑作に、この三部作を持ち上げた大傑作だと思っております。ぜひぜひ劇場で、いまの劇場のこの雰囲気の中で、ウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は、2万円支払っても同じカプセルが3回出たため、泣く泣く『リメンバー・ミー』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート>

「誰がつまらん大人だ!」「言ってません」っていうあのくだりとかも本当におかしかったですけどね(笑)。『ちはやふる -結び-』、ぜひご覧ください。

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