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【映画評書き起こし】宇多丸、『リメンバー・ミー』を語る!(2018.3.31放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。ということで、この番組は最終回ですが、このコーナーだけはそのまま、来週から金曜日の夕方6時半にそのままお引越しいたします。

土曜の夜の最後を飾るのは先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して……1回まわしてコロンと出て。で、1万円払えばもう1回まわせるシステムを最後にもう1回やろう、と思って払ってポロンとまた出て。もう1回1万円払ってまわして、結局3回連続でこれが出てしまった。ちなみに、ガチャのカプセルの数はそんな偏りとかはないのに、実際にそうだったという。ある意味、運命なんでしょうかね? やっぱり最終回にふさわしいこの映画……『リメンバー・ミー』

(『Remember Me』が流れる)

1年に一度だけ他界した家族と再会できるというメキシコの祝日「死者の日」を題材にしたディズニー・ピクサーによる長編3DCGアニメ映画。監督は『トイ・ストーリー3』でアカデミー賞を受賞したリー・アンクリッチ監督と、共同監督としてエイドリアン・モリーナさんでございます。劇中歌『Remember Me』の作詞作曲は、『アナと雪の女王』の、あの有名な『Let It Go』(レリゴー)を手がけた、クリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻。第90回アカデミー賞長編アニメーション賞および主題歌賞を受賞。同時上映は『アナと雪の女王/家族の思い出』ということでございます。

ということで、『リメンバー・ミー』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、多い! まあね、『リメンバー・ミー』。ピクサー最新作ともなれば、ある意味全方位的にみんな見に行くっていうのはありますからね。映画自体の注目度に加え、「(タマフルの)最終回にこのタイトルの映画だから」という理由で送ってくれた方が多かったです。賛否の比率は、7割が褒め。普通および否定的意見が3割程度。

主な褒める意見は「ストーリーがとにかく泣けた」という声がもっとも多かった。また、「自分の家族を思い出して泣けて仕方なかった」という声も多かった。「最近親戚を亡くした」という方や「娘と一緒に見た」「子供がそろそろ生まれる」といった方からのメールも多数いただきました。かたや否定的意見としては、「主人公の夢を禁じた家族たちがひどく、その後の話の展開に乗れない」「悪役の扱いがいくらなんでもあんまり」という声があった。また「宇多丸さんが2回もカプセルを回避したのに3回連続でカプセルが出たのは運命的」という声も多かったです。

■「全子供が見るべき、全大人が見るべき映画」(byリスナーの声)

しましょう。ラジオネーム「ふんどしゆで太郎」さん。「とんでもない名作に出会ってしまいました。今年の暫定ベストどころか生涯ベスト級の作品です。(劇中の)音楽は家族にとって呪いであり、家族を引き裂いたものでありながら、その家族をひとつにして呪いを解くのも音楽。そしてその中心になるのが『Remember Me』という歌であり、言葉であり、ヘクターが、(主人公)ミゲルが、その家族がそれぞれの思いを込めてその歌を歌い言葉を放つ様に、なんでこんなに感動するのかわからないぐらい感動してしまいました。

死後の世界を描いた映画でこんなにも切実にまだ生きている人、残された人に希望や前向きさを与える作品があったでしょうか? 人はいつかかならず死んでしまう。そのことを考えると怖い。目を背けたくなる。しかし、それと向き合い、誠実にひたむきに生きる希望や勇気が、その人のことを覚えていることの大切さを投げかけるこの作品を見ることで開けるように思いました。全子供が見るべき、全大人が見るべき映画だと思います。月並みですが、大切な人のお墓参りはこれから絶対に行こうと思いました」というふんどしゆで太郎さんでございました。この名前に似合わぬ(笑)、ちゃんとしたメール。

一方、ダメだったという方。「JJJ」さん。「結論から言うと『否』です。もちろんピクサーのアニメなのでアニメーションの技術やクオリティーは文句のつけようがないのですが、今回はお話的に全く乗れませんでした。家族によって音楽を禁止されたミゲルが、それでも音楽への情熱が止められないというのは共感できるのですが、そもそもその家族が音楽をそこまで拒絶する理由があまりにも浅すぎるのではないかと思いました。いちばん激しく音楽を敵視するおばあちゃんなんて、直接別に被害を被ったわけでもないのに何なんでしょう? ただ頭が固いとしか思えません。それがあるからラストの感動的なオチも全然泣けませんでした。

また何よりも悪役の描き方がいちばん納得いきません。いままでもピクサー唯一の欠点であると言っていい悪役の描き方。今回は本当にひどいと思いました。別に他のことを犠牲にしてまで成功を求めることが一概に悪いとは言えないと思うし、そこであの人に全て悪役的役割を背負わせるのってなんだかなという感じがして。クライマックスのコンサートでのシーンはひたすら不愉快でしかありませんでした」という。まあ、ピクサーは結構、意外と悪役の描き方が容赦ない、っていうのは共通項としてあるかなっていうのは、僕も今回見ていて思いましたけどね。

といったあたりで『リメンバー・ミー』、私もTOHOシネマズ六本木で字幕版、TOHOシネマズ日本橋で吹き替え版、両方見てまいりました。ということでね、ここんところ人気シリーズの続編っていうのがだいぶ増えてきたピクサー、久々の……2015年の『アーロと少年』、これはガチャ当たっていないですけど、それ以来の、完全オリジナル作品ということで。で、まず僕はやっぱり何よりもピクサー作品といえば――みなさんもたぶんこれを認めない人はいないとは思いますけども――ピクサー作品はもちろん、通常の「イイ映画」「よくできた映画」よりも、グッと上のレベルを常にキープした上で、その中でいいとか悪いとかっていう作品群である、というのが基本なわけですけども。

その中でもたとえば、当コーナーでは2015年8月15日に扱いましたあの超絶傑作、『インサイド・ヘッド』とかですね……脳と心のメカニズムっていうのを、万人向けエンターテイメントに落とし込むという、改めて考えてみても結構とんでもない試みを見事クリアしてみせていたように、全世界のファミリー向けビッグバジェット超大作として、「そこ、普通攻める?」っていうような挑戦的な題材とか手法。たとえば、『ウォーリー』の前半がほぼ完全にサイレント映画の手法で進むとか……そもそも「3DCGアニメで長編劇映画」を作るということ自体が、『トイ・ストーリー』の大成功以前はもうありえない、蛮勇そのものだったわけですよね。

とにかくそういう、「えっ、そこを攻める?」っていうような挑戦的な題材や手法に、あえてトライし続ける姿勢にこそ、僕は本来のピクサーらしさ、ディズニー単独ブランド作品とは違う……いまはジョン・ラセターが本当にディズニーのクリエイティブのトップにも立って、だいぶそのピクサーらしさ/ディズニーらしさの垣根っていのは曖昧になってきてはいるけど……それでもやっぱり「ピクサーらしさ」というものがあるとしたら、その挑戦的な題材であるというか、そこに魅力がある、という風に僕は思っています。その意味で今回の『リメンバー・ミー』も、題材の部分。メキシコの有名な祝日「死者の日」というのを題材に、死後の世界を描く、というその目のつけどころがまず、僕は最初に「『死者の日』で、死後の世界をやる」って聞いた時点で、「おおっ、さすがそう来たか、ピクサー!」って、ちょっと膝を打ってしまいました。

■メキシコの風習を題材にしたことで浮き上がった、意図せざる政治的メッセージ

しかもまあ、これは決してそれを意図してこの映画が作られたわけではないにせよ――この映画は7年前、2010年から進んでいるプロジェクトですから――それを意図してこの題材にしたわけではないにせよ、結果として非常にタイムリーなというか。要はメキシコとメキシコの人々をポジティブに描くということが、現状はやっぱり、トランプ(アメリカ合衆国大統領)が、いろいろとメキシコという国や人に対してめちゃめちゃ失礼なことを言いまくっているこのご時世に対する、この作品そのものがある種、これは図らずもですけども、カウンターになっている、というようなこともありますけどね。

で、死者の日。精神性的には日本のお盆ともちょっと通じますよね。先祖が帰ってくるっていう。お盆を扱ったアメリカのアニメーション作品といえば、2017年12月2日に扱いました『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』という、素晴らしい大傑作がありましたけどもね。あれとの共通項も僕はすごく感じたんですね。主人公の男の子が楽器を奏でることで何かマジックを起こすとか。あと、お父さんとお母さんの関係性が、旅をしていく途中で変化をしていくところとか。ちょっと……これはあくまでもシンクロニシティだと思いますけども、今回の『リメンバー・ミー』との共通項を多く感じました。で、まあ死者の日ね。最近の映画だと、『007 スペクター』のオープニング、アバンタイトル・シークエンスで、死者の日というのが出てきましたよね。

ただまあ僕、個人的にはじめてこの死者の日という祝祭を知って……死者の日というか、メキシコ文化のガイコツ推しっていうのを知って、「なに? メキシコ、マジ面白いんだけど」って最初に思ったのは、これは映画絡みですよ。日本では1980年、岩波ホールで公開された、『戦艦ポチョムキン』の(セルゲイ・)エイゼンシュテインの、『メキシコ万歳』っていう作品。これは1930年代に撮られていたんだけど、いろいろあって……このいろいろあった話もめちゃめちゃ面白いんだけど、いろいろあって製作中止で、ずーっとフィルムがお蔵入りしていたのが、1979年に、その時に助監督だったグレゴリー・アレクサンドロフさん。

1930年の時に一緒に撮影していた助監督グレゴリー・アレクサンドロフさんの編集で、1979年にソ連作品としてようやく完成して、1980年に日本では岩波ホールで公開されたエイゼンシュテインの『メキシコ万歳』。僕、さすがにこれは本編は見に行ってないんだけど、もう映画がすごい好きになっていて、エイゼンシュテインの何たるかぐらいは知っていて、予告かなんかを見て、「うわっ、なんかメキシコ、すげーな。ガイコツ推しかよ!」みたいな。そんな言葉は使っていないですけどもね(笑)。すごいショックを受けたのを覚えています。

■普遍的な共感を呼ぶ「人々に忘れ去られた時が、本当の死」という死生観

で、まあとにかくそんな感じ。全世界ファミリー向けエンタメ大作で、死者の日、「死」をテーマにするという、その挑戦的姿勢ということ。加えてそこに今回の『リメンバー・ミー』は……これね、大元の出典が何だったかっていうのはちょっとわからないんだけど、ネットで検索をすると、まず永六輔さんの名言として出てくる。あと『ワンピース』の名ゼリフとして出てくる。あとフランスの現代美術家クリスチャン・ボルタンスキーさんの言葉として出てくる、みたいな感じ。でも本当に本当の原典はちょっと僕は確認できていないんだけど、それぐらい、でも割と普遍的な実感としてみんな語りがちな言葉、考え方として劇中に出てくる、つまり要は──「肉体的な死の後に、人々に忘れ去られた時が、本当の死なんだ」というような考え方。

これはたしかに、国籍とか宗教を問わず、なんて言うのかな? 「世から去る」というイメージとして、普遍的に我々が実感しやすいですよね。完全に忘れ去られた時が世から去る時だっていうのは、なんか実感しやすい話でもある。で、そこをメインテーマに置いている、ということですよね。その点が……要は死がテーマであり、なおかつ誰もがイメージをする「この世を去ることとは何か?」っていう、この言っちゃえば本来はハードなというかヘビーなテーマをメインテーマに置いているあたりが、今回の『リメンバー・ミー』、僕はトライしている点として非常に感心しているところでございます。

■映画の軸となった名曲「Remember Me」

原案・監督のリー・アンクリッチさん。監督としての前作……脚本・監督を手がけた『トイ・ストーリー3』、当番組ではまだシネマハスラー時代ですよ、2010年7月18日に評しました。大絶賛しましたけど、そこから実に7年近くかかってこの『リメンバー・ミー(原題:Coco)』に取りかかってきた、というわけなんですけども。たぶんピクサー史上最長の制作期間ですね、これ、7年間。なんだけど、といっても7年間のあいだ、これはピクサー作品の例によってその大半、4年半は、ストーリー作りとメキシコへの取材、そしてメキシコ文化研究に費やされた、ということなんですね。もう、ここですよね。やっぱりね。で、先ほどから言っている通り、『Let It Go』でおなじみクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻が、今回もやはり一度聞いたら耳から離れない……。

……だけではなく、アレンジや歌い方、つまるところ映画の中でのその歌の置かれ方によって、同じ歌なのにニュアンスが全く変わる、という非常に懐の広さを持った、まあこれ、新しい曲だけどやっぱりなんだこの、「名曲感」? この、「いきなり古典感」はなんだ?っていう名曲、『Remember Me』を書いたのもこれ、4年以上前ということなので。だから、まだまだストーリーの練り上げ中にこの曲ができたということなんだけど。実際にこの今回の『Remember Me』。映画を見た方ならわかると思いますけども、今回の『リメンバー・ミー』という映画ほど、歌とストーリーとテーマが、密接に、全部リンクし合った作品っていうのもなかなかないわけで。要は、たぶん『Remember Me』というこの曲ができたことで、ストーリーもできたんだろう、っていう風にまあ、思いますよね。

非常にそのストーリーの練り上げ、苦労をしていたみたいなんですけども。たぶんこの曲がボンとできたことで、軸ができたというか、オチも決まった、という感じだと思うんですけどね。と、同時に、思えばリー・アンクリッチさん。前作にあたる『トイ・ストーリー3』も、まああれもはっきりとテーマは「死」ですよね。死と、言ってみれば、「ライフ・アフター・ライフ」っていうのかな? もともと生きていた時代の後も、人というか、その<存在>は生きることができるとしたら、どういうことなのか? それはだから、また誰かに愛され続けることなのかっていうことで、やっぱり非常に近しいテーマ性を持った作品ではあるなという風に思います。と同時に、怖さもある作品というかね。だと思いますね。

■ストーリーは「収まるべきところに、収まるべきものが収まっていく」良さを重視

ということで、まさにピクサー魂という感じだと思いますけども、題材・テーマ的には非常にチャレンジングなところに挑んでいるこの『リメンバー・ミー』という作品。ただですね、やっぱりその、死というテーマを扱う難しさに対して、たぶんバランスを取った結果なんだろうと僕は思いますが、テーマ的にチャレンジングな分、ぶっちゃけ最初に、映画前半いっぱいをかけて死者の国のルール、設定の部分。要するに、こういう風にすると本当に人というのは……「死んだらここに行ってその後にこうなりますよ。こういうルールですよ」という設定の部分が、前半いっぱいかけて説明される。で、その説明が終わった時点で、そこからじゃあどうなる?っていう話に、要するに二幕目中盤以降が始まっていくんだけど。

そこから先のストーリー、要するに二幕目から先。設定から先のストーリーは、ぶっちゃけ、どんでん返し的な仕掛けも含めて、まあある程度映画とか見慣れている人だったら、かなり早い段階でほとんど全ての展開が……細かい1個1個も含めて、「たぶんこれはこうなるだろう。たぶんこうなるだろう」って、ほとんど全ての展開が「読めて」しまうという。そういう方、これは少なくないんじゃないかな?っていう風に思いますね。たとえばですね、後半。主人公たちが、上の方に大きな穴がぽっかり空いた、洞窟っぽいところに閉じ込められてしまう、っていうか置き去りにされてしまうという展開があるわけです。

で、もちろんこのままでは上の穴には届きませんから。鍾乳洞みたいになっていて、そこから登ることもできないということで、そのままでは脱出できない、という場なんですけども……もうこの空間の設定からしてさ。「上に穴が空いていて、このままでは脱出できない」っていう設定を見た瞬間、どう考えてもあの穴のところから、さっき出てきた「アイツ」が――これは劇中を見てください――さっき出てきたアイツが、バッサバッサと舞い降りて助けに来てくれるんだろう、という。で、実際にそうなるわけですよね。舞台設定がもう、それをやりますよっていう舞台設定になっているし。

ちなみにその「どうせアイツがバッサバッサと助けに来てくれるんだろう」っていう展開が、実はこの後、クライマックスの時に、もう1個重なるんですよ、この『リメンバー・ミー』。僕、そこはわりとはっきり「あっ、上手くない」って思ったところですね。今回の『リメンバー・ミー』……ただ、全体としては『リメンバー・ミー』の良さはむしろ、そのストーリー的には「本来収まるべきところに、収まるべきものが収まっていく」という、その気持ちよさにあるのかなと思います。期待を裏切っていくというよりは、収まるべきところに戻っていく。ある意味、主人公たちも戻るべきところに戻る、っていう話になっていくので。これはこれでこれの良さがあるのかな、という風に思っています。

■「映画的に」ガツンと泣かされてしまう圧倒的表現力

で、その意味では、ストーリー的には要するに、ある意味定番的な展開が続いていくというか、確実にカタルシスをもたらす展開が続いていくという話なので、本当に、隙がない。その隙のなさっていうのはたとえば、細かい部分は本当に言い切れませんけども、メキシコ文化、習俗……それっていうのはたとえば古い習俗だけではなくて、メキシコ映画の伝統であるとか。あるいは、もちろんルチャ・リブレとかね。サントが出てきますから。映画なんかがいっぱい作られたサントという伝説のルチャ・リブレ・レスラーが出てきます。それとかも含めて、メキシコ文化・習俗の、本当に周到な織り込み方とか。あるいは、これはもうピクサークオリティ!としか言いようがない、ギターの指運び……だけではなく、爪弾いた弦の震え方。ミゲルがギターを弾くところのアニメーターは、できるだけ自分でもギターを弾ける人に任せた、ということですよね。

とか、やはりこれはピクサー、特にリー・アンクリッチさんは、『トイ・ストーリー3』でもそうでしたけど、照明・色彩演出が非常に繊細で上手い、ということも含め、本当にピクサーですから当然って言えば当然なんですけども、表現力の圧倒的な高さ、豊かさ。これは単に技術力じゃないです。圧倒的なセンスと追求力ですね。やっぱりね。何がストーリーテリングに必要か?っていうところを追求していく、というあたりを含めて、本当に隙がないなという風に僕は思います。特にやはり、ストーリー、テーマ。そしてさっきから言っている『Remember Me』という神曲。加えて、たとえば照明演出ですよ。窓から差し込む朝日の光。だんだんと……要するに、まだちょっと薄暗かった部屋が、少しずつ明るくなっていくという、その朝日の明かりの演出。そして、老女の肌のツヤ感、質感とか、表情の微細な変化などを含めた、超優れたアニメーション表現力……ストーリー、テーマ、曲の良さと懐の深さ、そしてそのアニメーションの表現力の高さ。全てが一点に集約されて、ガッとエモーショナルに盛り上がる、あのクライマックスというか、最後の泣かせどころですよね。

非常にまあ、僕は先ほどのメールと対照的に、先祖のお墓参りとか、まずロクに行ったことがない罰当たり人間なんですけども(笑)、家族主義的なのがかなり薄めな僕でさえ、やっぱり「映画的に」ガツンと泣かされてしまうし。やっぱりたとえば、なかなか子供に「死」を納得させるって難しいじゃないですか。親御さんが、たとえばおばあちゃん、おじいちゃんが亡くなった、死んだってどういうこと?っていうのを子供に飲み込ませていく時に、「亡くなっちゃったけど、ちゃんと思ってあげればいいんだよ」とかって教えるのは、全く真っ当なルートかなという風にも思いました。

ただ、すごい単純にもういわゆる「宇多丸の重箱の隅ツッコミ」的な感じで言うとね、クライマックスの泣かせどころで、こうやって、まあ一緒に歌いだす、みたいな瞬間に、「おいおい! オマエ! そんな急にまた音楽好きみたいなことを言っているけど、オマエがちゃんとその感じを出してりゃミゲルはこんな苦労することなかっただろ? オマエ、なに急に手のひら返してんだよ!?」みたいな(笑)。まあ、あれもいろいろと認知症的なあれとかが重なって、そういう素直な気持ちが出ちゃったっていう(こともあるんでしょうけど)。だからそれまではきっと厳しく……あいつもたぶん、だから厳しく言っていたんですよね。「ふざけんな、音楽!」みたいなことを言っていた可能性もあるなと思ったらね、「おい、なんじゃい! いまさらかい、ボケ!」みたいな(笑)。後からですよ、突っ込んだりもしちゃいましたけどね。

■孤独な死にも尊厳を認める「隙」のなさ

ただですね、僕はやっぱり、というような宇多丸個人が、個人的に本作『リメンバー・ミー』でいちばんグッと来たのは、クライマックスのところとかもそうですし、もちろん家族がリユニオンした瞬間も素晴らしいとは思いましたけど、いちばんグッと来たのは、やっぱり前半ですね。主人公ミゲルとヘクターがギターを借りに行く、身寄りのないおっさんガイコツがいるわけですね。で、まさに身寄りがないため、さっき言った「生者に忘れ去られた時が本当の死」という設定が、おっさんの死によって示される、という場面なんですけど、このおっさんの本当の死に際。そうやってね、「ああ、生きている人に完全に忘れられてしまった」っていう一応悲しい場面として演出されているんですけど、僕はあの場面がいちばんグッと来ましたし、このおっさんの死は全然悪くないじゃんって。

っていうか俺はむしろこうありたいぐらいかも……みたいな。友人にお気に入りの曲を弾いてもらって……しかも「最後に聞きたい」というお気に入りの曲は、やや軽いというか、ちょっとくだらなめの、もともとは下ネタが入っていたであろう……たぶん「おっぱいが地につく」みたいなそういう歌詞なんでしょうけども。っていう歌であるのとかも、なんかすごいそこの、軽さのバランスも良くて。で、フーッと消えていくというその彼の死の描写を、この『リメンバー・ミー』という作品は、ちゃんとここはバランスを取っていて。ちゃんと彼の死も尊厳を持って描いているところが、僕はやっぱり隙がないなと思いました。つまり「なんだよ。家族に看取ってもらえない人生、忘れられちゃう人生は不幸せっていうことですか?」っていうのに対して、「いや、そんなことはない」と。そのおっさんもちゃんと尊厳を持って描いているし、その後にヘクターに「人は誰でもいずれはこうなるんだから」っていうことを言わせていたりして、非常にだからそこのバランスは取れているな、と思いました。

願わくばもう1個フォローがあれば……っていう気もしましたけどね。要は、「彼は彼で全然いいんだ。俺は(生者の世界に)戻りたいけど、別にこれはこれでいいじゃないか」っていうことを、もうちょっと一押ししてもよかったかな、と思いました。家族っていうのはね、人によっては呪いでもあるわけで。死後まで家族に縛られなきゃいけないのか?っていう風に感じるような家族とのあり方だって……たとえばね、『葛城事件』のみなさんがね(笑)。葛城清はどう思うのか? みたいなこともあるし。

あと、すいませんね。これも完全にこの映画、こういう風に死後の世界ツッコミ、あの死後の世界の設定に突っ込んで遊ぶのは、この映画の醍醐味だと思って……これは完全に遊びの部分です。忘れられなければずっと死後の世界では命が続くんだとしたら、つまり悪いやつだって残れるっていうことになっているわけですから、ヒトラーは、人類文明が続く限り永遠の命を得たようなもんですよね。あの世ではね。でも、「ん? 待てよ。っていうことはあの世にはホロコーストで死んだ人がいっぱいいて。ということはヒトラーはどうなるのか? でも、その周りには当時のナチスのやつらとかもいっぱいいて……っていうか、歴史上ずーっといたそういう人種差別主義者とかもいっぱいいて。ん? どうなる、どうなる?」っていうね。たぶんあの世で大戦争が起きている可能性が……フフフ(笑)。とかね、いろいろと考え出しちゃう。

でも、これもこの作品『リメンバー・ミー』の、また楽し、の部分だと思います。これは全然ツッコミというよりは、「だったらこれはどうなる? どうなる?」というような、楽しみの部分だという風に思います。今回、同時上映がピクサーの短編じゃなくて『アナ雪』のスピンオフが付いているという件。このスピンオフ自体がクリスマス・スペシャルみたいな内容なんですよ。はっきり言ってクリスマス・スペシャルの、ファン向けムービーみたいな感じなんで、はっきり言ってこの時期に、本編前に22分も見るのは辛いです。まあ、それもあってアメリカでは途中でそれがオミットされたんですけども。やっぱりピクサー短編とのセットでピクサー作品感っていうのはあると思っているんで、ちょっとそこは非常に残念でした。

ただし、今回の『リメンバー・ミー』に関しては、題材のピクサー的チャレンジングさに対して、最終的な落とし込みの、なんて言うのかな? 穏当さというかソフトさみたいなところ、ユニバーサル感みたいなところが、よりディズニー寄りなバランスにもなっていたので。まあ『アナ雪』と……テーマ的にもね、「家族の伝統を探す」みたいなところもあれなので、まあこれはこれでいいのかな? という風に思いました。

吹き替え版。あるセリフが、ちょっとだけ吹き替え版の方がソフトになっていて。僕は吹き替え版のこの部分は……もちろん元のちゃんとスペイン語を話すというか、そのあたりもちゃんといいんですけども、あるセリフ「○○の子孫じゃなくてよかったよ」という――これは ネタバレになるんで言いませんけども――「○○の子孫じゃなくてよかったよ」っていうセリフが、吹き替え版の方では、「嘘つきの子孫じゃなくてよかった」という風に、若干ソフト化されていて。僕はこのぐらいにしておいた方が……だって、ねえ。子孫が悪いわけじゃないんだからとか、いろいろあったりするということでございます。ということで土曜日最後の作品。もちろんピクサー作品なりの超クオリティーでございます。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『トレイン・ミッション』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート 起こし>

ということでTBSラジオをキーステーションにお送りしている『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、評の前にも言いましたが、来週からこのムービーウォッチメンは『アフター6ジャンクション』内の金曜日夕方6時半に引っ越ししてお送りします。

ということで新番組『アフター6ジャンクション』1回目に評論する作品のウォッチ候補6作品の発表をいたします……

(中略)

……さあ、ということで一発目。レッツ、ガチャターイム! あの、すいません。『リメンバー・ミー』。忘れなければ生きているという感じは本当にね、MAKI THE MAGICのこととかをいつも、そうなんですよ。ずーっとMAKI THE MAGICのダメ話とかしていますからね。そうするとやっぱり生きている感じがする、っていうのはやっぱりありますよね。

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