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宇多丸、『トレイン・ミッション』を語る!【映画評書き起こし 2018.4.6放送)

アフター6ジャンクション

実際の放送音声はこちらから↓

宇多丸:
ああ、なんかすっごい変な感じする(笑)。すっごく不思議な気分になりますけどね(※宇多丸補足:新番組のなかでこのパートだけ旧番組のフォーマットそのままなので、曜日や時間感覚が狂う感じだったのです)。ここからは、『ウィークエンド・シャッフル』から金曜夕方にお引越ししてきた、週刊映画時評ムービーウォッチメン。このコーナーは、前の週にランダムに決まった映画を、私・宇多丸が自腹で映画館で鑑賞し、その感想を20分に渡って語り下ろす、という映画評論コーナーです。それでは、金曜の夕方に引っ越しして一発目に評論する映画は、こちら! 『トレイン・ミッション』

(曲が流れる)

10年間勤めた会社を突如リストラされた主人公のマイケルは、帰りの電車内で見知らぬ女性から多額の報酬と引き換えにある依頼をされる。家族を人質に取られていることを知ったマイケルはその依頼を受けるのだが……主人公のマイケルを演じるのは、最強のおっさんアクション俳優リーアム・ニーソン。監督は『アンノウン』『フライト・ゲーム』『ラン・オールナイト』に続きリーアム・ニーソンとは四度目のタッグとなるジャウマ・コレット=セラさんでございます。

■「リーアム・ニーソンの困り顔が堪能できて満足」(byリスナー)

ということで、この『トレイン・ミッション』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。ただしメールの量は、少ないというね。ちょっと残念ですけどもね。賛否の比率は6割が褒め。普通という人が3割。残り1割が否定的。全体を通して多かったのは「見ている時は楽しめた」という意見。鑑賞後に細かいところが気になったかどうかが評価の分かれ目というところでございます。

褒める意見として多かったのは「リーアム・ニーソンとジャウマ・コレット=セラのコンビに外れなし」「同じく乗り物サスペンスの『フライト・ゲーム』よりも進化している」「主人公の日常をテンポよく見せるオープニングから一気に引き込まれた」。後ほど言いますけども、オープニングがすごい特徴的で。「中盤の、とある楽器を使ったアクションやクライマックスの大スペクタクルシーンとアクション面にも抜かりなし」というような意見。いちばん多かった意見は「最初から最後までリーアム・ニーソンの困り顔が堪能できて満足」というようなご意見でした。一方、否定的な意見としては「作中張り巡らされた仕掛けや罠の数々がとにかく回りくどくて飲み込みづらい」「ミステリーというよりただ説明不足なだけ」「前半のサスペンスパートはよかったが、それを台無しにするクライマックスの展開に冷めた」などなどがございました。

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「坂Q」さん。「取り上げられなければ見に行かなかった作品でした。本当はこっちを見たかった『ペンタゴン・ペーパーズ』や『レッド・スパロー』を横目に見つつ、宇多丸ちゃんへの敬意を表さなきゃとチケット購入。その感想は『あーら、面白い。見てよかった』。電車通勤するリーアム・ニーソン。60才で息子の教育資金に行き詰まるリーアム・ニーソン。靴と時計でヤングエグゼクティブに値踏みされるリーアム・ニーソン。そんな姿のリーアム・ニーソンにアラ還の私は共感し、ストーリーに引き込まれました」。そうか。だいたい同じぐらいの年齢っていう感じですかね。リーアム・ニーソンはいま65だから、アラ還ってことはもうちょい下かもしれませんね。

「鍼師アミバ」さん。この方はダメだったという方。「リーアム・ニーソン主演。個人的に大好きな『エスター』の監督となれば期待したのですが、とんだC級作品でした。ストーリーだけ聞くととても面白そうなのですが、実際に見てみると不満だらけ。というか、不満しかありません。格闘シーンを正当化するための取って付けたような元警官という設定。そしてそれを正当化するための終盤の展開。ただの説明不足によってミステリー感を出すというもっともイラつく手法。全く予想を裏切らない展開。特にラストはひどい」というようなご意見でございました。

■「なんなら俺の方がおかしいのか?」が醍醐味の「ニューロティック・スリラー」

ということで私も『トレイン・ミッション』、バルト9で2回見てまいりました。深夜回にしてはまあ、そこそこ入っている方で。やっぱりリーアム・ニーソン主演アクション物っていうのは、ひとつの安定的ブランドになっている感じ、ちょっと感じましたけどね。『トレイン・ミッション』、原題は『The Commuter(通勤者)』ということで。リーアム・ニーソン、改めて言うなら、特にやはり2008年の『96時間(原題:Taken)』という作品以降、完全におっさんアクションスターとしての存在感の方が強くなってきた、という方ですけども。現在65才。ただ、たとえば一昨日この番組でも特集をしたシュワルツェネッガーとか、あるいはスティーブン・セガール、チャック・ノリスみたいな、「最強おっさんアクション俳優」たちと比べると、リーアム・ニーソンの場合、やっぱりみなさんもおっしゃっている通り……眉毛の角度ですね。眉毛の角度が八の字、それが非常に象徴的なように、やっぱり常に内面にはナイーブさ、弱さ、もっと言えば危うさをはらんだ、複雑な厚みのあるキャラクターを演じきる、たしかな演技力というのも当然……もともと「名優」っていう感じですから、当然あってですね。

それこそが、リーアム・ニーソン主演のアクション作品の特徴となっている、ということですよね。そして、まさにそのリーアム・ニーソンの「強いけど危うい」というキャラクター性を生かした、いわゆる「ニューロティック・スリラー」というジャンルがございます。ひらたく言えば、大変な事態に巻き込まれているのに……巻き込まれ型サスペンスの中でも、「誰もわかってくれない」「周りに味方が誰もいない」「周りのみんな敵に見える」、あるいは「なんなら俺の方がおかしいのか?」っていう気がしてきちゃうような、そんな「ニューロティック・スリラー(神経症的スリラー)」というようなジャンル。これを連発しているのが今回、リーアム・ニーソンとは四度目のタッグとなる、スペイン出身のジャウマ・コレット=セラ監督ということですよね。

先ほど『エスター』という出世作のタイトルも出ましたけど、『エスター』自体も、あちらはニューロティック・ホラーというか、要は「誰もわかってくれない」「“おかしいのはこっち”扱いされちゃう」みたいなホラー。素晴らしい傑作でしたけども。僕のこの映画時評としては、2014年9月13日に、『フライト・ゲーム』という作品……原題は『Non-Stop』というね、とても英語圏の人がつけたタイトルとは思えない(笑)『Non-Stop』という作品とか。2015年5月30日に扱いました、『ラン・オールナイト』という作品。これ、ガチャ当たって評しましたけども。ただこの『ラン・オールナイト』という作品だけは、ちょっと毛色が違って。実はどちらかと言うと、70年代風味の渋いクライムアクション、という感じでしたという。これは評の中で言いました。僕は大好物でしたけどね。

■超定番・ヒッチコック流の列車内スリラー

で、ジャウマ・コレット=セラ監督はその後、『ゴシップガール』とかのブレイク・ライヴリー主演の、身も蓋もない説明の仕方をしてしまえば『オープン・ウォーター』(2003年)型の「海に取り残されサバイバルスリラー」、『ロスト・バケーション』という作品をつくって。これもきっちり大ヒットさせている、ということですね。で、そこからまたまたリーアム・ニーソンと組んでの今回の……まあ、完全に誰がどう見ても『フライト・ゲーム』型ですよね。今回はね。っていうか、かなり『フライト・ゲーム』そっくり、と言ってもいいと思います。ニューロティック・スリラーでございます。

実際、3人クレジットされている脚本家のうち、原案としてもクレジットされてもいるバイロン・ウィリンガーさんという方とフィリップ・デ・ブラシさんというこの2人は、インターネット・ムービー・データベースでもこの『トレイン・ミッション』しか出てこないぐらい、まあ新人の方なんだけど。おそらくその彼ら、新人のアイデアを、現状のレベルまでまとめ上げる役割を果たしたと思われる、ライアン・イングルさんというもう1人の脚本の方はこれ、思いっきり『フライト・ゲーム』の脚本家。しかも『フライト・ゲーム』も同じで、原案・脚本でクレジットされている2人がいて、要はライアン・イングルさんがたぶん最後にこれをまとめる仕事をしているんだと思いますけどもね。

というか、ジャウマ・コレット=セラ監督自身が、このパンフレットのインタビューで、「本作は『フライト・ゲーム』の精神的続編だ」なんてことをはっきりと言っちゃっているぐらいでして。ということで、もちろん言うまでもなくと言うべきか、設定とかストーリー展開に、ぶっちゃけ新鮮味はないです! ジャンル映画ってそういうものですから。そもそも、列車内スリラーというこれ自体、それこそ『フライト・ゲーム』評の時にも名前を出しましたヒッチコックの『バルカン超特急』(1938年)を始め、本当に挙げていたらキリがないくらい、星の数ほどつくられ尽くしてきた、定番中の定番ジャンルですからね。

あるいは、その定番中の定番ジャンル……先ほどヒッチコックの『バルカン超特急』を挙げましたけど、今回の『トレイン・ミッション』なんかもまさにそうですけど、話の核に「陰謀」っていうのがあるんだけど、その話の核にある陰謀の、どうでもよさ感、適当感(笑)。「“権力者”が、“陰謀”の様子が収められた“何か”を追っている」って、これはまさにヒッチコックとかのサスペンス論とかでもよく出てくる、「マクガフィン」っていうやつですよね。それ自体はどうでもいいやつ、っていうことで。まあヒッチコック的と言えると思います。ジャウマ・コレット=セラ監督自身が今回は「ヒッチコック的、ヒッチコック的」っていう言葉を何度も使っているぐらい。とにかくヒッチコックの頃からずーっとつくられ尽くしている、定番ジャンルなわけですよ。

■話がシフトチェンジしてからが長い。30分長い。

加えてこれ、『フライト・ゲーム』評の時にもこれ、言ったことですけども。そのニューロティック・スリラーという、周りがみんな敵に見える、みたいなこういう形の神経症的スリラーの、ある種構造的弱点として……つまりこれは『トレイン・ミッション』だけの弱点じゃないんだけど、後半から終盤にかけて、謎解きがいったん済んでしまうと、それまであれほど不気味で恐ろしく思えていた、映画の中で描かれている「世界」が、一気に矮小化してしまいがち、っていうことですよね。「あ、ああ〜……そうっすか……。わかりましたー」以上の、何の感慨も持てなくなってしまう、っていうことは本当にありますよね。

なおかつ、その謎解きがいざされてしまうと……これもメールに書いている方もいっぱいいましたよね。「だとしたら、さっきのあれとか、おかしくね?」「っていうか、その計画、無理ありすぎじゃね?」っていうようなツッコミどころが、後から噴出しがちという、そういう傾向もございます。そして、それが正直、この本作『トレイン・ミッション』でも、全く例外ではない、ということですね。

しかも、この『トレイン・ミッション』という本作の場合、その謎解きの完了まで……『フライト・ゲーム』という作品は、その謎解きの完了まで、つまりニューロティック・スリラーというジャンルの楽しいところを、引っ張って引っ張って。で、謎解き後の決着は、一種西部劇的な「一瞬で決着がつく」という潔さで、スパッと終わらせてみせたのとは対照的に……今回の『トレイン・ミッション』は、それこそ『フライト・ゲーム』と差別化しようとした結果かもしれないけど、謎解きの後が長い! クドい!っていうのがあって。

まあね、これはジャウマ・コレット=セラとリーアム・ニーソンのコンビ作らしく、ジワジワジワジワと緊張を高めていくニューロティック・スリラーの面白さでずーっと引っ張ったのが、途中で一気にパニック・スペクタクル映画的なと言うか……パニック・スペクタクル映画に、若干ジャンルのシフトチェンジがあるという。これはまあ、そういうクライマックスがあるんですけど、サービス満点感として、うれしいですし。今回の『トレイン・ミッション』で言えば、みなさんご期待の通りですよね。『新幹線大爆破』とか『アンストッパブル』系譜の、列車パニックアクション的な見せ場がきっちり用意されていて。これはまあ、間違いなく嬉しいあたりなんだけども……そこでドカーン!ってシフトチェンジがあって、「ああ、サービス満点だ!」って思った、その後が正直、本作は長すぎる! そう思わせる程度には、大して盛り上がりもしない、ていう問題はちょっとあると思う。上映時間105分ですが、僕ははっきり、30分長いと思います。

■定番の展開をフレッシュに語る映像手腕と語り口

と、ちょっと苦言多めなところからつい始めてしまいましたが、じゃあこの『トレイン・ミッション』、つまんないのか? 見る価値がないのか?っていうと……これがきっちり面白い!っていうあたりがやっぱりね、映画、わけてもジャンル映画というものの、楽しさの部分だと思いますね。「展開がわかりきっている」とか、ジャンル映画で言うのは野暮っていうもんですよ、それは。もちろん、それを超えて面白かったり立派だったりする作品はあるにしても、ジャンル映画はまあ、その間違いないところの中で何をするか?っていうのが勝負のエンターテイメントなんでね。

でね、ここはさすがジャウマ・コレット=セラと言うべき部分。この監督は、ありふれた、さっきから言っている手垢のつきまくったような展開とかシーンを、なんだか不思議な撮り方とか見せ方をすることで、「シーンとしてはよくありがちなのに、なんか意外とこういう感じ、見たことないかも」っていうぐらいのバランスに仕上げてみせるのが、上手いんですよ。まず、オープニングからしてこのジャウマ・コレット=セラさん、一風変わった見せ方をしていきます、今回の作品『トレイン・ミッション』。

主人公が朝起きて、身支度をして、最初にラジオを……ラジオがアラーム代わりにつきはじめる。で、家族とあれやこれやと会話して、奥さんの車で駅まで送ってもらって、毎日同じようなメンツと同じ列車に乗り、息子と交換日記的にやり取りしているらしい読書をしつつ、勤め先の保険会社に向かっていく、というまさに原題『The Commuter(通勤者)』という、その生活サイクルというのをオープニングで見せるんだけど。おそらく、最初は見ていてちょっと混乱する方も少なくない……僕も最初見ていて「ん、ん、ん?」って。要は、会話シーンとかで男の子、息子と話しているんですけど、その息子の服とか髪型とか、話している内容が、違っているので。「あれっ? 子供ふたりいるのか?」って最初は一瞬思っちゃうような、混乱するような見せ方をしているんだけど。それは実は、見ていくうちに「ああ、こういう意図か」という。その通勤者の繰り返しの生活サイクルというのを、非常にトリッキーな編集スタイルで見せていく。

あるいは、突然主人公のマイケル・マコーリーさんが、リストラを告げられるわけですね。で、要はその主人公の、いきなり突然社会から隔絶したというか、社会から取り残されてしまった、というような心境を、端的に映像的に示す……会社からマイケルさんが出てきます。で、人々が歩いているんですけど、グーッとカメラが、マイケルさんの頭のほうに上がっていく。(その周囲を)人がこうやって歩いていく(のを映し出すショット)、そうすると図らずもフッと……という瞬間が訪れるという。主人公が、完全に社会から取り残された、という心境であるということを、言葉ではなく、映像で示す。非常にグラフィカルに計算され尽くしたショットとか。とにかく、同じことを語るにしても、ちゃんと映像的だったりとか、そして他の人がやっていないような語り口とかでちゃんとやっていて、いちいちハッとさせられるというか、新鮮なんですね。

■日常空間の極みから、いつの間にか異常な空間へと引きずり込まれていく

で、ですね、そんな感じで毎日毎日変わりない繰り返し、揺るがないはずだった主人公の日常っていうのが、足元からさっそく崩れ去る。解雇されちゃって、たぶん足許フワッフワで。奥さんに電話で嘘をつきながら帰って。そんなこんなで携帯もなんかなくなっちゃうし、なんなんだ!っていう、足元がフワッフワの状態。自分の生活の足元が崩れ落ちつつある、という描写が積み重なったまさにその矢先に、ベラ・ファーミガさんという方……これはジャウマ・コレット=セラさんの作品だと『エスター』主演の方ですね。まあ、後に『死霊館』シリーズとかでも今回のパトリック・ウィルソンと共演していますけども、要はこのベラ・ファーミガさん、顔がホラー顔なんすよね。もうそのままで楳図かずおの漫画に出てくるような顔しているわけですよ(笑)。怖いんですよね。そんなベラ・ファーミガ演じる謎の女が、向かいの席に座ると。

で、ですね、そこから主人公。通勤列車っていう日常空間の極みみたいなその空間。周りに人もいるにもかかわらず、向かいに座って話しかける。そこから、まともじゃない、カタギじゃない、正気じゃない、異常な領域、世界へと、彼女が引きずり込んでいくような会話を……最初はすごい何気ない感じで始めるわけですけどね。ここの、「なんてことのない世間話をしていたつもりが、いつの間にか悪魔との契約書にハンコを押させられていた」みたいな、で、一瞬現実感覚を失ってしまうような、クラクラするような感じ。これはまさにニューロティック・スリラー。本作の白眉、と言ってもいいようなところだと思いますけどね。

とにかくこの、謎の女が話しかけてくる場面。しっかり見ていただければ、彼女がいよいよ、要は悪魔の契約を持ちかける、異常な世界に引きずり始めるという……最初は世間話みたいなのをしているんだけど、「じゃあ……」って身を乗り出して話しかけるところで、これはまさに「ヒッチコック的」と言っていいと思います。ヒッチコック的、正統派スリラー演出とでも言うべき、ある演出がなされている。なにか? というと、ちょっと注目していただきたいのはやっぱり、照明と色の演出ですね。

電車がずーっと外の景色を……ガーッと外の、夕方ですからまだ明るいですよ。明るい景色の中を走っているんですけど、そのところで、パッとトンネルみたいなところに入って。で、これもヒッチコック的演出です。赤が……フワーッて通り過ぎる赤いシグナル的なのが、赤がフワーッ、フワーッて点滅しながら、そこで今回の悪魔の契約的な話を持ちかけられる、というね。そして、会話の音も、周りの自然音みたいなのがいつの間にか静かに消えていて、2人だけの声になっている、という……非常に律儀なまでの、正攻法スリラー演出が堪能できると思いますので、ぜひこちらもしっかり見ていただきたいと思いますね。

■主人公の追い詰められっぷりが超楽しい!

で、そこからどんどん主人公が、『フライト・ゲーム』同様に、なまじ推理力とか行動力に優れている分、グイグイグイグイ自分で動いては、どんどんどんどん自らドツボにはまっていく、というこのくだり。まさしくこの、ニューロティック・スリラーの醍醐味ですね。「えっ、えっ? 俺が、俺が悪いの!?」みたいな(笑)。「俺が間違っている!?」みたいな感じになっていくというね。ぶっちゃけこのへんはね、要はミスリードし放題なわけですよ。全員怪しく見せることなんて、いくらでもできるわけだから。なので、全ての描写が本当に怖いし気持ち悪くて、めっちゃ楽しいです。

たとえば、電車がカーブを曲がっていく時に、向こう側の車両でそれまで顔が見えなかった人の顔が、曲がっていく時にフーッ……て見えて、目が一瞬合う、とかの気持ち悪い描写とか。あとはこれ、『フライト・ゲーム』とかでもやっていたけど、それまでは普通に親しい人として話していた人物の顔を、その人物がしゃべっているのに、変なところで画面を切って顔を見せないっていう。このカットがもたらす、生理的不安感。「なんかこの人、怖い」っていう感じをさせるとか。すごくこういうのはジャウマ・コレット=セラさん、得意技ですね。上手いですね。で、とにかくこれは『フライト・ゲーム』もそうだったけど、最初の死者が出てしまってからの主人公の追い詰められっぷり、ひどい目に遭いっぷり。今作で言えば、「列車が舞台ならでは」の悪夢のような事態。もう超楽しいので。本当にギャグすれすれの(笑)超楽しい事態がありますので、これはぜひ見ていただきたい。

■結論「ジャンル映画らしいジャンル映画。これもまたよし!」

あと、いくつか格闘シーンがあるんですけど、後半に出てくる、ジャウマ・コレット=セラ監督十八番の擬似的な長回しワンショットでの、車両全体を使っての一大取っ組み合いシーンがあるんですけど。ここで非常にね、奇妙な感覚をもたらす早回し……まあ、ヒッチコックがたまにやる早回しアクションとか、そういう感じかな? だいたい「ヒッチコック的」っていう中には、「不自然」っていうのが1個、入っているんですけどね……とにかく、ちょっと奇妙な感覚をもたらす早回し使いをはじめ、この格闘シーン。さっき言ったような「設定、展開としてはありふれているのに、なんか見たことがない」感じ、すごくフレッシュなバランスになっている。これ、格闘シーン、名シーンだと思います。このシーンだけでも十分に元は取れている、という感じがしますね。

で、さっき言ったようにスペクタクル的見せ場があって……ここはまあ、サービスなんで。めちゃめちゃドサービスですよ。ドカーン、ドカーンってなって。ただ、その後の謎解きが長すぎ、っていうのはたしかにありますし。事後のツッコミどころ多すぎ感も、正直、まあ『フライト・ゲーム』とかに比べても、ちょっと高めですよね。まあまず、この手の陰謀っていうか、巻き込まれ型サスペンスにありがちですけども、「こんな手の込んだリスクの高い陰謀、必要ある?」っていう(笑)。この手のジャンル物あるある、っていうのは、これはまあ置いておいて。

それは別にしても、たとえば、キーとなるあるキャラクターがいるわけですね。要は、重要な情報を持っている、という。で、そのキャラクターを当てるのが前半のミステリーというか、引っ張りなんですけども。これだけ……いろんな情報があるわけですよ。こんな名前で呼ばれている、カバンの中にはこんなのを持っていて、何時の電車に乗る。ここまでわかっているのに……性別すらわからない!っていう設定の不自然さもあるし。なによりも、そいつはそいつである程度危険な立場、危険な道……危ないからニューヨークの中心地を離れろって言われて電車に乗っているんだから、(命の危険がある状況なのは)わかっているはずなのに……イヤホンをしていて、あれだけ周りがドッタンバッタン大騒ぎしてるのに、気づかない! で、しかもそれでね、「お前だろ?」ってなったら、イヤホンをこうやって取って、やおら不安げな顔を見せ始めるっていうね(笑)。なんかこのへんとかも、本当にツッコミどころでもありますけども。

ただ、リーアム・ニーソン自身がこんなことを言っています。「スリラーというのは、よく考えると無理のある展開がありがちだよね」「家に帰ったら『あそこ、おかしいだろ?』って思い出したりするよね」「でも、見ている間は楽しい。それがスリラー映画っていうもんだろ?」っていう風に言っているわけです。ということで、まあ非常にジャンル映画らしいジャンル映画。十分に楽しいし、僕は本当に好きですね。脇を固める役者さんたちがすごく良くて。僕が大好きなパトリック・ウィルソンとかですね、あとは『ブレイキング・バッド』でおなじみジョナサン・バンクスとか。あと、奥さん役がエリザベス・マクガヴァンっていうね、古くは『普通の人々』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』などの……みたいな。脇を固める人もしっかりしていて、まあ見応えがきっちりありますし。こういうジャンル映画のよさも、ぜひぜひ定期的に映画館で、ウォッチしていただきたいと思います!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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