お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ

ついに日本で臨床試験開始!近赤外線を使ったがんの光免疫療法

森本毅郎 スタンバイ!

「近赤外線」という光を体に当ててがんを治す。日本人が開発した画期的な治療法で、番組では2年前に取り上げましたが、ついに臨床試験が千葉県の国立がん研究センター東病院で始まりました。どんなものか、4月23 日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。

★光免疫療法とは

「近赤外線と免疫とで力を合わせて、がんをやっつけよう」というもので、この治療法は、日本人で、アメリカ国立がん研究所の研究員の小林久隆さんという方が開発しました。

現在、行われているがん治療の方法は、大まかに3つあります。①つは、外科手術。②つ目は、抗がん剤治療の化学療法。③つ目は、放射線治療です。でもこれらの治療法は、がん細胞を殺すために、 正常な組織も取ったり叩いたりしてしまうので、患者さんの体に大きな負担が伴います。

一方、今回、臨床試験が始まった近赤外線を使った治療は、これまでの3つの治療法と違って、がんだけを壊すので、 体に負担のない治療法です。

近赤外線を体に当てるというと、怖いと思う人もいるかもしれませんが、大丈夫です。光にはいろいろな種類がありますが、近赤外光線というのは、テレビのリモコンに使われている光で、私たちの目に見える光よりもエネルギーが弱く、体に害はありません。実際、近赤外線は、すでに、血液内の酸素の量を調べるのに使われていたり、食べ物である果物の糖度を測定するのに使ったりされている光なので、安心です。

★弱い光でがんを治せるのか?

近赤外線だけ当てても、何も起きません。近赤外線だけで、がんが治るのであれば、テレビのリモコンだけでいいので、非常に便利な治療になりますが、そこまでの力は、近赤外線にはありません。では、どうやって近赤外線でがんをやっつけるのか。小林さんたちは、近赤外線を当てると化学反応が起きる物質を発見しました。

治療方法としては、がん細胞に集まる「抗体」と呼ばれるたんぱく質に、近赤外線を当てると化学反応が起きる光を感じる物質をつなげて薬剤として利用します。この薬剤を患者さんに注射し、翌日にがん細胞に集まったところで近赤外線を当てます。光が当たった物質が化学反応を起こして、がん細胞の膜を破って攻撃するという仕組みです。がん細胞以外には影響が出ることはほとんどありません。

★マウスでの実験では

マウスの動物実験では、すでに成果が得られています。光免疫療法で1カ所のがんを治療すると、その1カ所のがんはもちろん治療できたのですが、そのがん細胞が他のところへ移る=すなわち転移がんも消えていたのです。さらにそのがん細胞に対するワクチン効果も認められ、再発しないことが確かめられました。

一般的にがんの治療では、1か所、取り除いても、他に転移している事が多く、後でまた手術、という事も多いのですが、これならば、一気に全部、治療できます。こうしたことから、この治療は、すい臓がんや、悪性中皮腫、卵巣がんの転移したがんなど、手が届かない、手術で取りきることが難しいがんに、有効だと考えられています。

★米国での臨床成果

前回は動物実験の結果の出た時点で、この番組でおはなしをしたのですが、今回はヒトでの臨床試験でよい結果が出ています。

アメリカでは2015年に臨床試験が始まっていて、小林先生の学会発表によりますと、頭頚部(首から頭にかけての部分)の再発がんの患者さん15人を対象に臨床試験を行ったところ、14人のがんが3割以上縮小して、さらに、そのうちの7人は画像上でもがんが消えてしまった、ということなんです。これは初期に行った安全性試験の段階の成績ということなんですが、この成績は、十分期待できると思われます。

★日本でも臨床が始まった

これを受けて千葉県の国立がん研究センター東病院で国内で初めて臨床試験が始まりました。今回の臨床試験で対象になる患者さんは、喉、口、耳、あごなど頭頸部と呼ばれる部分で再発したがんがある患者さんに限定されています。正確には「局所再発された頭頸部扁平上皮がん」です。近赤外線がきちんと届く体の表面のがんに限定しているわけです。

また今回は、治療方法が安全に行えるかを確認するために少人数での実施となります。

こうした臨床試験で、まずはその安全性を調べるということになっています。

★今後への期待

臨床試験の期間は3カ月から半年を予定しているようです。

今後のことは未定となっていますが、これで安全性が確認できれば、体内のがんで臨床試験が行われることが期待されます。研究者の小林さんによれば、細い光ファイバーを患部に挿し込めば、近赤外線を当てることが出来るそうです。光ファイバーを使うことで、皮膚がんのような身体の表面に近いものだけでなく、食道がん、肺がん、子宮がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど、がんの8割から9割は、この治療法でカバー出来るようになるということです。

現在行われている臨床試験の後で、こうした広い臨床試験に進めれば、3〜4年後には、保険適用を目指せるのではないかと期待されています。

★一般の人たちはいつになったらこの治療が受けられるのか

臨床試験の段階でも病院の募集に応じれば治療を受けることができます。その場合試験なので自己負担はありません。ただ、直接、国立がん研究センター東病院に問い合わせても臨床試験が受けられるわけではありません。病状を把握している主治医に相談し、紹介状を書いてもらう。その上で申し込む、という流れとなります。また、今回は、頭頸部に再発した頭頸部扁平上皮がんに限られていること、加えて、その人数も絞られていることから、実際に治療を受けられる方は、現時点では少ないかと思います。

詳しくは国立がん研究センター東病院の「光免疫療法 治験についてのお知らせ」をご参照下さい。

ダウンロード→ 治験についてのお知らせ

とはいえ、今後の臨床試験の結果によっては、3~4年後の保険適用も夢ではないと言われます。その場合は、高額療養費制度を使えば、自己負担は10万円以下。また、日帰りで治療ができるなど患者さんの負担が少なくすみそうですので、今後の進展に期待したいです。

ちなみにこの医療費全体でみてもこの治療は100万円から200万円。ロボットでも300万円。話題になったオプジーボなど高額の薬の場合1500万となるので、この光免疫療法は国の医療費にもやさしいということでした。

 

日本全国8時です(松井宏夫)

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫