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「土」は地球にしかないって知ってます? 土壌学者・藤井一至さん(森林総合研究所)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
10月13日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、土壌学者の藤井一至(ふじい・かずみち)さんをお迎えしました。普段は茨城県つくば市にある「森林総合研究所」にいらっしゃいます(以前ご出演の鳥類学者の川上和人さんと同じ研究所です)。といっても活動の中心は研究室ではなく、野山での穴掘り。国内はもとより、北極圏の永久凍土、熱帯雨林、はたまた砂漠地帯と、スコップを持って世界中を歩き回り、穴を掘って調査しているのです。

藤井一至さん

藤井さんは1981年、富山県立山町生まれ。農家の長男ですが畑仕事を手伝うことはあまりなく、少年時代は卓球部と将棋部をハシゴしていたインドア派。それが毎日泥まみれになりながらまるで探検家のような生活を送るようになったのは、京都大学農学部に進学してから。食糧危機の問題に関心を持つようになって農業を学ぼうと考えていたのですが、重要なのは「土」だということを知り、土壌学を研究するようになったそうです。

スタジオ風景

そもそも「土」とは何か。岩が風化して細かくなったもの? いえいえ、実はそれだけでは土ではないのです。そこに植物、動物、昆虫、微生物といったあらゆる生物が関わることで作られるのが「土壌」なのです(専門家はそう定義しています)。岩は水や空気にさらされて細かくなりますが、生物によってもっと細かく分解されます。微生物や植物は岩や砂から栄養を吸収するために、酸性物質を出して岩を水に溶ける形にするのです。その植物を昆虫や動物が食べ、それらの生物が死んで、それをまたミミズや微生物が分解して…というサイクルがあって、初めてわたしたちが日頃見ている「土」になるのです。つまり、生命が存在しないところでは土ができないということです。ですから月や火星には岩や砂はあっても、土はないのです。なんのへんてつもない土が実はこの宇宙でとっても貴重なものなんですね。よく「地球は水の惑星」といわれますが、むしろ「地球は土の惑星」ということを威張ったほうがいいのです(誰に?)。

では、土はいつから地球にあるのか。地球が誕生したのが46億年前ですが、土が登場したのは5億年前。地球には40億年以上ずーっと土がなかったんです。いまから5~6億年ぐらい前にコケのようなものが海から陸地に上がって土のようなものができ始めました。でもまだ土と呼べるようなものではありません。本当の土になるまではそこからさらに数億年かかって、3億年ぐらい前になってようやくいま見ているような土の姿になったそうです。人類が登場して農業を始めたのは1万年前。例えてみると、46歳の地球さんが家庭菜園を始めようと思い立ったのが5年前で、どうにかいい土ができたのが3年前、そしてようやく大規模な栽培をはじめたのがつい10日前、という感じです。

久米宏さん

「土はみんな同じようなものだと思ってますけど、子供たちに絵を描かせると国とか地域によってみんな色が違うだそうですね」(久米さん)

「そうです。お二人は何色で描きますか?」(藤井さん)

「ぼくは茶色だと思います」(久米さん)

「茶色で描きました」(堀井さん)

「北海道、東北、関東、九州は黒い土が多いんです。これは黒ぼく土(くろぼくど)といわれる火山灰土壌で真っ黒い土。日本には30%ぐらいあります。関西や北陸の人は茶色で描く人が多いという話を聞きますが、火山が少ないところの土は茶色です。沖縄だと赤い土です」(藤井さん)

「海外だと、例えばアフリカの子供たちは?」(久米さん)

「赤で描きます」

「ノルウェーの子供たちは?」(久米さん)

「白で塗ります」(藤井さん)

「シロ?! 雪じゃないんですか?」(堀井さん)

「雪ではないんです。落ち葉からしみ出したクエン酸とかフルボ酸といわれる酸っぱい酸性物質によって土の中の粘土が溶かされて砂だけが残るという現象があって、その結果、土の表面が白く見えるんです」(藤井さん)

「日本は黒っぽくて、歩くとぼくぼく音がするから黒ぼく土というって本当ですか?」(久米さん)

「本当です。松尾芭蕉も『黒ぼこの道』と詠っていますから、その頃も言われていたみたいです」(藤井さん)

「日本の黒い土に似ていて、ウクライナあたりにある最も栄養分に富んでる土って何でしたっけ?」(久米さん)

「チェルノーゼムっていいます。色は黒ぼく土と全く同じですが、黒ぼく土は火山灰でできているので持ってみると風に飛ばされそうなくらい軽いんですよ。それに対してチェルノーゼムは砂もある程度入っているのでずしりと重い。それと、日本の土ほど有機物は多くないので、中身を調べてみると全然違います。ぼくたちは牛乳というと北海道から届いているっていう意識が強いと思いますけど、その牛が食べている牧草はチェルノーゼム地帯から届いていることが多いので、実はぼくらとも関わりがある土です」(藤井さん)

ちなみに下の写真は藤井さんが掘って標本にした埼玉県・秩父の土。黒い色が地表面にある黒ぼく土。その下の薄いグレーの層は、黒ぼく土が雨や生物の働きで酸性になって粘土が流され、砂だけになったもの。流された粘土は砂の層の下に再びたまって2層になっています(茶色の層と薄茶色の層)。そしていちばん下にたまっているのは石です。

土のサンプル

黒ぼく土やチェルノーゼムをはじめ、地球上の土は大きく12種類に分けられているそうです。藤井さんは愛用のスコップを持って、その12種類をすべて調査したそうです。土壌学者でも12種類すべての土を研究する人は少なくて、藤井さんは自分で密かに「土壌学研究のグランドスラム」と呼んでいるそうです。

スコップ

ただ、穴を掘っていていると、ときには蚊の大群に襲われ、ときには怪しまれて通報され、職務質問されることもしばしば。そこまで大変な思いをしながら調査を続けているのは、土が地球とあらゆる生物の将来を左右するからです。日本の土はどうやって私たちの食卓を支えているのか? 世界の人口が100億人になったとき、それだけの人々を養う食糧を作れる土壌はあるのか?

藤井一至さん

「人口が密集しているところは肥沃な土壌が広がっています。また、降水量が多いところも人口密集地です。でも水と養分は両立しません。雨が多いと土の養分を洗い流してしまうからです。いくら水が大事だといっても、アフリカの熱帯雨林の養分を失った赤い土では農業がうまくいきません。一方、乾燥した砂漠では養分はあっても、肝心の水がない。日本は雨が多くて、火山や土砂崩れによって土が若返るんです。それはときには災害を伴いますが、作物を作るためには悪いことばかりではありません。土だけを見ればチェルノーゼムが最強ですが、その地域は雨が少ない。日本の黒ぼく土は酸性になる問題がありますが、人口を養う力は最大です。こうしたそれぞれの土の弱みを知っていれば、克服も可能です。ぼくがよく行っているインドネシアは、水は豊富だけど土はあまり肥沃ではありません。肥料を使えばいいんですが、貧しいから買うお金がない。それぞれの地域にはいろいろな制限があります。雨が制限になるのはしょうがない。気候を変えることはできませんから。でも、土が制限にならないようにしたい。そのために土をどう管理するかというのがぼくの研究テーマのひとつです」(藤井さん)

本

藤井さんは「土の研究はとても地味」と言いますが、話を聞くととても面白い世界です。藤井さんはそれをできればたくさんの人に知ってほしいと、これまでに2冊の本を書いています。読んでみると土の素晴らしさが分かりますよ。

藤井一至さんのご感想

藤井一至さん

思いがけないところからボールが飛んでくるように久米さんから質問が飛んできて、刺激的でした。久米さんの土に関する知識の多さに脱帽しました。大事なことはすべて久米さんにおっしゃっていただいて、ぼくは余計なことばかり話してしまいました(笑)。迷うところなんですよね。話が脱線したときにどこまで広げたらいいのか、どのへんで話を戻したらいいか。

でも、普段なかなか土のことをアピールする機会がなかったので、きょうは本当に嬉しかったです。ありがとうございました、楽しかったです。


「今週のスポットライト」ゲスト:藤井一至さん(土壌学者)を聴く

次回のゲストは、築地の鮭専門店「昭和食品」佐藤友美子さん

10月20日の「今週のスポットライト」には、東京・築地場外市場にある天然鮭専門店「昭和食品」の店主・佐藤友美子さんをお迎えします。築地に来る料理人たちからは「しゃけこさん」と呼ばれて慕われています。場内市場が豊洲に移転して人の流れが大きく変わり始めた築地ですが、場外市場のお店はきょうも元気が声が飛び交っています。

2018年10月20日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20181020140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)