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宇多丸、『ヴェノム』を語る!【映画評書き起こし 2018.11.16放送】

アフター6ジャンクション


宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が前の週にランダムに決まった最新映画を自腹で映画館にて鑑賞し、その感想を約20分間に渡って語り下ろすという週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜はこの作品、『ヴェノム』

(曲が流れる)

マーベルコミックスの人気キャラクター、ヴェノムを単独映画化。ジャーナリストのエディ・ブロックは、怪しい噂が流れるライフ財団を調べる中で、地球外生命体シンビオートに寄生されてしまう。その生命体は「ヴェノム」と名乗り、エディの体を蝕んでゆくが……。監督は『ゾンビランド』などのルーベン・フライシャー。出演は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディや『ゲティ家の身代金』のミシェル・ウィリアムズ。また、先日亡くなったスタン・リーもおなじみのカメオ出演をしている、ということでございます。

といったあたりでこの『ヴェノム』をもう見たよというリスナーのみなさん、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は「多め」。ああ、そうですか。やはり大きく公開もされてますしね。賛否の比率は褒め(賛)が4割、否が4割。「良いところも悪いところもある」という両論併記が残り2割。賛否両論、ぱっくりと別れている形でございます。

主な褒める意見としては、「負け犬たちのワンス・アゲイン展開で燃えた」「とにかくヴェノムがかわいい」「バディムービーとして萌えた」という関係性萌え。否定的な意見としては「ヴェノムが全然悪くないし、残虐シーンもなし。宣伝に偽りありでは?」「ヴェノムがエディに味方する理由が単純すぎる、もしくは納得できない」とか。「画面が暗くて分かりづらいし、フレッシュさのかけらも無いアクションシーンも退屈」といった感じございます。「先日亡くなったスタン・リーの姿を見て思わず涙」という方も多数。まあ、ここは本当にここ数日の話でしょうけどね。

■「そんなに萌えは安くないぞ!」(byリスナー)

ということで、代表的なところをご紹介していきましょう。褒めている方。「テンホー母」さん。「『ヴェノム』、見終わったらもうニッコニコです。大好きです。パンフで監督も言っていましたが、本当にある種の関係性萌えを持つ人間には刺さりまくると思います。とにかくエディとヴェノム、2人の掛け合いが楽しく、なんか知らんがエディのことを気に入っちゃったヴェノムがかっこよくてかわいくてたまりません。中盤のドローン追跡&バイクチェイスシーンも『ヴェノムさん、次はどんな超絶回避を見せてくれるのか?』とワクワクしました。

正直、『なんでヴェノム、気が変わったの?』とか、『そんなカジュアルに寄生乗り換えちゃって体は大丈夫?』とかいろいろツッコミどころはあるのですが、作品の説明不足を脳内補完する楽しみをくれるキャラクターたちだと思うのです」。たしかにこれ本当に、完成度がビシッとできた作品よりも、ちょっと隙があって、ツッコミどころがあったりとか、ファンが脳内補完したり、遊びどころがある作品の方がカルト的な愛され方というのをしやすい、っていうのも、それはそれこそ『ロッキー・ホラー・ショー』の時代からある傾向ではあって。今回の『ヴェノム』好き派もそういうことなのかな?っていうところはあるかもしれませんね。

一方、ダメだったという方。「ゾゾ」さん。「正直、私には全てが平均点以下の稚拙な作品としか感じられず、終始感情を動かされることがなく、真顔で視聴を終え、長過ぎるスタッフロールの壮大な音楽の中でじわじわと腹が立ったほどです」という。まあ、非常にいろいろと凡庸だったりとか、全部セリフで説明してしまう脚本も上手くないということで。「どれもちゃんと映像で描けば物語の血肉となるエピソードのはずなのに、先に言葉で説明されてしまうので、『はあ、そうですか』と興ざめです。ブロマンス要素についてですが、エディの人間性もヴェノムの過去もよく分からないまま、仲良しぶりだけ急に見せられても『そんなに萌えは安くないぞ!』と言いたいです。ただ、トム・ハーディの好演のおかげで主人公はなんとなく愛されるキャラクターに仕上がっていたと思います」といったあたりでございます。

■映画化までに紆余曲折あった『ヴェノム』

さあ、みなさん、ありがとうございました。私も『ヴェノム』バルト9で字幕2D、あとはT・ジョイPRINCE品川でIMAX 3D・字幕でも見てまいりました。バルト9の方なんかね、日曜深夜回なのに、イケイケ感のある若者を中心に結構入ってましたね。ということでまあ、スタン・リーが亡くなったこのタイミングでの『ヴェノム』。改めて説明するならば、もともとはスパイダーマンに対する悪役(ヴィラン)として登場した、マーベル・コミックス史上でも屈指の人気キャラクターにして、映画化ということに関しては、長年のすったもんだの果てにようやく……しかもちょっと、若干ねじれた形で実現、っていうのが今回の1本でもあるわけですね。

まず、スクリーン初登場となるのは2007年、みなさんご存知、サム・ライミ版『スパイダーマン3』なんですけど。これが、その三部作を監督したサム・ライミの趣味に反して、スタジオの意向で後からねじ込まれた要素だったりしたというのもあって……ヴェノムが誕生する経緯そのものや、あとは「スパイダーマンのダークサイド」という、オリジンとしての位置付けみたいなのは原作コミックをある程度忠実に押さえてはいるんだけど、ファンが見たかったヴェノムのツボ、みたいなのをちょいちょい外してしまった挙句、やっぱり作品内での扱いも結局中途半端、複数いるヴィランの中の1人でしかなかったり、映画全体としても明らかに詰め込みすぎになっちゃってたりして、結局「誰得?」っていう結果になっちゃったっていうのが、『スパイダーマン3』でのヴェノムの扱われ方だったと思います。

その後ですね、単独でスピンオフが作られるとか、あとはアンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに登場するとか、いろんな話が何度も浮上しては、その都度いろんな理由で頓挫してきたという、こと映画化に関しては、ちょっと呪われた存在でもあった、っていうのがヴェノムなわけですね。

で、結局ソニー傘下、『スパイダーマン』シリーズの再リブートである『スパイダーマン:ホームカミング』、要するにトム・ホランド主演の方がディズニー傘下のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)と合流することになったという今、今回の『ヴェノム』はどういう位置づけになってるか?って言うと……まず「MCUは関係ない」っていう風に、MCU側は言っています。「今回のヴェノムは関係ありません」っていう風に言っている。

さらには、「今回、スパイダーマンは登場しない」。それどころか、「ヴェノムの誕生にもスパイダーマンは全く関わっていない」という。つまり、独立した世界観、独立したユニバースを形成していく作品シリーズ、ということになっているということなんだけど……ただ、ここがちょっとまたねじれが残っているところで、ソニー側の製作陣は、さっき言ったトム・ホランド主演の現行『スパイダーマン』シリーズとの将来的なクロスオーバーの可能性を、完全には捨てたくない、っていうのがあるみたいで。今回の劇中でも、主人公のエディ・ブロックが、舞台はサンフランシスコなんですけど、そこで「元々ニューヨークのデイリー・グローブ社で働いてたんだけど、なんらかのやらかしをして、いられなくなってサンフランシスコに移ってきた」なんてことを言わせてる。デイリー・グローブ社っていうのは当然、デイリー・ビューグルという、ピーター・パーカー(=スパイダーマン)が勤めている会社のライバル会社なわけですよね。という過去がチラリと語られていたりするのは、だからまあ、「いずれクロスオーバーなんか、気が向いたらいかがですか? これが大成功したら、いかがですか?」みたいな(笑)。なんか、そういう可能性を残すディテールもあったりするという。

ともあれ、とにかく今回の『ヴェノム』は、原作コミックの特に『リーサル・プロテクター』という、要はヴェノムが単なるヴィラン(悪役)からちょっとダークヒーロー的な立場にはっきり転向して、単独シリーズが始まったという、その『リーサル・プロテクター』っていうのをベースにしつつも、基本的にはスパイダーマンとは関係ない、これ単体で完全に独立した1本として楽しめる、というような命題で作られてるということですね。だから、いきなりここから見ても一応大丈夫なようにはなってるという。

で、これまたですね、紆余曲折を経て最終的に今回の監督として白羽の矢が立ったルーベン・フライシャーさんというのは、まず監督デビュー作『ゾンビランド』とか、その次の『ピザボーイ 史上最凶のご注文』っていうやつとかもですね、要はバイオレントな描写を含む、エクストリームでダークなコメディ センスっていうのがあって。まさに『ヴェノム』向きな人材なんですよ。あとは、その次に撮った『L.A. ギャング ストーリー』という、2013年のやつ。これは、いい意味でものすごく表面的なスタイリッシュさで、『アンタッチャブル』をいまの感覚でポップに作り直してみちゃいました!みたいな感じで。それも僕、すごい好きだったりして。

とにかく、バイオレンス含むいまどきのエクストリームな表現というのを、いい意味でライトにポップにこなすことができる、っていう人材。そういう意味でルーベン・フライシャーさん、本当に『ヴェノム』という素材にとても合っている、と言える監督人選だと思うんですね……本来は。

■レーティングを引き下げた結果、フライシャー監督の「ポップさ」だけが残った

実際に――出典元付きのWiki調べですいませんけど――監督自身が、その原作キャラクター、原作のヴェノムの暴力性を尊重することが重要、という風に語っていたという。そして、今回のヴェノム単独映画化が実際に動き出したのも、『デッドプール』とか『LOGAN/ローガン』といった、要するにバイオレンス描写などなどをソフトに緩めず、あえて少し高めのレーティングでね、ちゃんと公開したという作品が、興行的にも成功したっていう、それを受けて動き出した。にもかかわらず……っていうね。

これもね、原典付きのWiki調べで申し訳ございませんけど、ソニーの首脳陣側的には、さっき言ったように将来的にスパイダーマンとか、あわよくばMCUともクロスオーバーするということになった時に、その”高いレーティング”っていうキャラクターになってると支障が出る、っていう風に考えて。最終的には暴力描写を大幅にトーンダウンして、PG13として公開することになった、という経緯を経ているわけです。

さあ、その結果がどうなったかって言うと……さっき言ったようなルーベン・フライシャーさんの持ち味、本当はだからすごく、バイオレンス描写含むダークでエクストリームなコメディセンスはある方なんだけど、さっき言ったルーベン・フライシャーさんのテイストの中での、「ライトな、ポップな手際」っていうところだけが残った、という。で、まさにそのことによってこの作品、そこが魅力というか、「だから見やすいんだ。安心してファミリームービー的に見れる。そこがいいんじゃない!」っていう方が少なからずいる。これもまあ、わかるんですけども。

■寄生型モンスター映画のお約束をなぞりつつも、どこか薄口

全体にですね、やはりすべてがかなり薄口。はっきり言えば「ぬるい」仕上がりになっていることは間違いない、という風に思います。まず、トム・ハーディ演じる主人公エディ・ブロックと、その地球外生物であるシンビオートの中の一個体であるヴェノムが、完全に一体化するまでのところね。前半部はこれ、監督のルーベン・フライシャーさんがインタビューなどでもしきりとおっしゃっている通り、たとえばジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』。最近ね、デジタル・リマスター版が上映されたりしていましたけども。あのオープニング、宇宙の彼方から宇宙船が、遠くからフーッとやってきて、燃えながら大気圏突入していく、っていうあのオープニングからしてもう、完全に『遊星からの物体X』的ですし。

もちろんですね、生物から生物への寄生というか、寄生して同化、擬態を繰り返していく、というその生き物、モンスターとしての生態っていうのはまさに『遊星からの物体X』だし。あとは、もっと言えばそういう地球外生物モンスター物で言うと、『ヒドゥン』とかもね、要するに人間から人間へと乗り移っていって、なおかつ、「宇宙人とのバディ物」っていう要素も、『ヒドゥン』にはありますからね。『ヒドゥン』とか、あと近年だとやっぱり、『ライフ』っていうホラー映画に出てきた……ライフ財団っていう今回の劇中に出てくるあれもあるから、「『ライフ』が『ヴェノム』の前日譚なんじゃないか?」っていう噂が一時期流れたぐらいなんだけど。まあ、『ライフ』で出てきたあの地球外生命体とか、そういう寄生型の異生物・モンスター物のジャンルを、今回の『ヴェノム』前半では、ある種お約束的になぞっているわけですね。

あるいは、これも監督自ら名前を挙げている通り、デヴィッド・クローネンバーグ監督の、特にやっぱり『ヴィデオドローム』とか『ザ・フライ』のように、要は人間の肉体、そしていずれは精神が「内側から次第に変容していく恐怖」的なのものも、まあやはりあくまでライトにではあるけども、一応描かれていく。たとえば彼女に「俺、なにかに感染しちゃったかもしれない。ヤバいんだよ、助けてくれよ。俺、死んじゃうのかな?」みたいに泣きつくっていう……なんだけど、ドン引きの奇行に走ってしまう、みたいなあのくだりは、特にやっぱり『ザ・フライ』っぽいな、みたいに思ったりしました。

あのあたり、前半部は、トム・ハーディのダメ感の表現みたいなのがすごくかわいらしくて。そこで「エディ・ブロック、かわいい!」ってなるのもまあ、わかる気がします。特に、首周りが汗じみっていうか、なんか常に濡れてるパーカー?(笑) あのなんか小汚い感じとか、かわいらしいですよね。あと、これも監督がタイトルを挙げていますけども、ジョン・ランディス監督の『狼男アメリカン』なんかも挙げていますね。これも肉体の変容、内側から変容してしまうっていう恐怖と、あとは人ならぬもの、この世ならぬものとバディ化していくっていう、それの会話劇でもあるという部分。これもまあ、たしかに通じるところはあるかな、と思います。

■ホラー的な恐怖、不気味さ、グロさは一切ナシ

といったあたりで、いま挙げたようなタイトル、僕もめちゃめちゃ好みのラインですし、おそらくルーベン・フライシャーさんもそういうところをちゃんと狙ってるわけなんですけども……ただ、さっき言ったようにこの『ヴェノム』、全編に渡って、さっき言ったようにレーティングを下げるために暴力描写みたいなものが大幅にトーンダウンした一環として、どれだけバイオレントっぽい事態が起きようとも、血の一滴も流れないんですね。なにが起ころうとも、その場はきれいさっぱり……ちょっと違和感があるくらい、きれいさっぱり、になっているわけです。

といった、この違和感というか、あまりにも何が起ころうともきれいさっぱり、跡形もなく何もないので、何が起こったのかよくわかんない場面さえある、っていうぐらいなんですけど。これは後ほど言いますね。加えてですね、シンビオートの寄生描写も、大変おとなしいです。それこそ『ライフ』に出てきたあれみたいに、グニグニグニグニ、スライム状のやつがグニグニモジョモジョ……要は、せっかく気持ち悪い触手めいたボチョボチョがたくさん突起している、っていう形をしているわけですよ。で、「うわっ、気持ち悪い!」なんて言うわけですよ。なんだけど……こうやって人に取り憑く時、たとえば口からとか、耳、目からとか、ケツの穴からとか、とにかく体の穴から入り込むっていう、そういう生理的な嫌悪感をもよおすような描写などが一切なく、ただものすごくスムーズに「染み込んでいく」んですね。染み込むような。

あと、逆に体の中にいるシンビオートが外に姿を表す、で、ヴェノムにガッとなる時も、服とかを通り越して、ものすごくスムーズに……もう「変身!」みたいな感じで、「染み出る」感じになっているんですね。といったあたりで、結局のところ、「デヴィッド・クローネンバーグを参考にした」とか言っているんだけど、あとは「ジョン・カーペンターを参考にした」とか言っているんだけど、肉体破壊とか肉体の変容感……要はやっぱりホラー的な怖さ、ホラー感、ダークさみたいなものは、実はほとんどない作りなわけですね。これは当然、さっき言ったレーティングを下げた、トーンダウンの結果でもあるでしょう。

ただ、たとえば今回の悪役、カールトン・ドレイクというね、大富豪を演じるリズ・アーメッドさん。この方がですね、まるで『ナイトクローラー』でのジェイク・ギレンホールのあいつから邪悪さが、文字通りヴェノム的に乗り移ってしまったかのように、なんか痩せ型にデカい目を生かしたサイコパス演技が、非常に見事で。人体実験のくだり……直接的な描写以上の怖さを醸し出しているのはやっぱり、これはリズ・アーメッドさんの演技力がすごくあるからだと思います。ここはすごくよかったですけどね。ただ、あれも本当はやっぱり、ビジュアル的にも恐ろしいともっとよかったですけどね。

■一種のバディものとしての楽しさはある

で、じゃあそういうホラー感とかはあんまりない。ダークさもあんまりない。その代わり、ということで、実はこここそが本作のキモであり、まあ喜んでいる人も多いあたりなんですけど、ヴェノムが主人公のエディ・ブロックに話しかけだしてから……内なる声が話しかけだしてからは、まあ二重人格的なとこで言うとやっぱり『ジキル博士とハイド氏』みたいところがルーツだとは思いますけども、話しかけだしてからは、多くの方がすでに指摘する通り、まさしく『ど根性ガエル』……もっとそのものズバリで言えば『寄生獣』的な。あと、まあそれこそこの番組的な文脈で言うならば『うしおととら』とかね。『うしおととら』は完全に一体化しているわけじゃないけど、まあでもほぼほぼ一体化したような存在、みたいな『うしおととら』。

要は、それぞれ本来は独立した意思を持った2者が合体して……時には反発し合いながらひとつの目的に向かってゆくという、一種のバディ物としての側面がどんどんどんどん前面に出てくる、という。で、ここに関係性萌えを感じて喜んでらっしゃる方はたくさんいるようだし、それももちろんわかります。そういう面白さがあるというのはとってもわかります。実際、意思に反してビヨーン、ビヨーン!って体が動かされてしまうあたりは本当に『ど根性ガエル』っぽいし、あとはそこから始まる室内格闘。実際、今回の映画ですごくいいなと思うのは、フィジカルな、たとえば爆発とか格闘とか、実際に撮っているものとCGの混ぜ合わせ、みたいなのがすごく上手くて。

そこから始まる室内格闘から、わかりやすくサンフランシスコの地形を生かした、ちょっと懐かしい感じのカーチェイス、バイクチェイス。実際に、モロにカーチェイスの革命的映画『ブリット』に出てきた「ブリットヒル」っていう……要するにものすごい勢いで坂をボーン!って上がると、車体もボーン!って上がっちゃう、っていうブリットヒルでのジャンプシーンみたいなのが出てきたりして。要は、あえてちょっとレトロな感じの、懐かしい感じのカーチェイス、みたいなのもやってみせたりしてるという。まあ楽しいは楽しいんですけどもね。そのあたりも。

■対立なき共存関係、ゆえにカタルシスも低め

ただ、元にあった「スパイダーマンへの逆恨み」という、要はエディ・ブロックとヴェノムの共通点っていうものが、今回はないわけですね。で、一応ヴェノムが「同じ負け犬同士、シンパシーを感じたんだ」的なことは口で言うんですけど、何にせよ「お前、気に入った!」くらいのかなりハードル低めな動機だけしか……しかも、やっぱり先ほどの否定的なメールにもあった通り、セリフ上の説明しかないんですよ。つまり、本来は侵略者である、そして問答無用の捕食者でもあるはずの地球外生物と普通の地球人っていうのが、それほどはっきりとした立場的な対立や軋轢、それを経た和解なり合意、というプロセスを経ないまま……例えば『寄生獣』で主人公とミギーがまさにそうやって順繰りに経てきたようなそういうプロセス、「対立と和解」「軋轢と合意」みたいな、そういうプロセスを経ないまま、わりとあっさり無条件で、共存関係になってしまう。

つまりそれによって、バディ物としても、つくりがぬるい分、カタルシスが薄くなっちゃっている、というのも僕、間違いないと思いますね。あと、まあメールでも指摘している人が多かったですけど、他の生き物や人間にも平気で……「あの人」にも寄生して、その人も全然健康なまま乗り移れちゃうんだったら、要するにエディ・ブロックという個体でなきゃいけない理由がいよいよ、「お前、気に入った」以外になくなっちゃう、っていうことですね。共依存性っていうのが非常に弱い関係になっちゃっている。なぜ、エディ・ブロックじゃなきゃダメなのか? そしてエディ・ブロックも、なぜヴェノムを追い出したままにしちゃダメなのか?っていう、そこの説明が大変に弱い話になっちゃっている。

で、結果、さっき言った極度のバイオレンス描写のソフト化っていうのも相まって、なんだかヴェノムが、ものすごーく、「単に聞き分けのいいコ」でしかなくなっている。これちょっと、『スーサイド・スクワッド』のメンバーが「普通の人よりもいい人にしか見えないんですけど?」っていう、あれにも通じる感じになっちゃっている。まあ、「そこがかわいいんじゃない!」とか「そこがいいんじゃない!」っていう人がいるのも分かるし、まあだったらそれはそれでいいんですけど……って感じなんですけど。個人的にはですね、この「負け犬同士」っていうキーワードを使うんだったら、もっとこれは生かせたはずだと思っていて。はい。こっから先ですね、「ぼくの考えた、もっと『ヴェノム』を良くする方法」です(笑)。

■ヴェノムがエディを主体的に選ぶ場面があれば燃えた/萌えたのに……!

ええと、一応ですね、高い理想を掲げている、成功者であるドレイクという人と、地を這うような目線でしか生きられない、社会的敗者であるエディっていうのはですね、ちょうど『ウォッチメン』で言う、オジマンディアスとロールシャッハの関係なわけです。だから、その「人類全体のことを考えてやってるんだよ!」って偉そうなこと言うドレイクに対して、「勝手なことを言ってんじゃねーぞ!」っていう……まさにその、大きい理想を持ってやってんだよ!っていう人に対して、地の下からの、地を這うような視点からの反論という、アンチヒーロー、ダークヒーローならではの思想的対比、っていうのが、もっと効果的に立てられたはずだし。

それこそ、たとえばドレイクさんと最終的に合体した、シンビオートの親分である、ヴェノムの上司ライオットが、「こっちのドレイクっていう奴の方が、人間として……つまり“乗り物”として優れた存在なんだから、お前もそっち側のその劣った人間なんか捨てて、こっちと同化しろよ。こっちに来いよ!」っていうのに対して、それまでは一応シンビオート側の論理でずっと進んでいたヴェノムが、はっきりと拒絶して、エディを主体的に選ぶ!っていう場面を、クライマックス、もしくはクライマックス手前に持って来れば……これ、めちゃめちゃアガりませんか?

で、バーッ!って、「俺はこっちを取る!」って戦いだしてから、エディが「えっ、でもお前、あいつめちゃめちゃ強いって言ってたけど……」「そうなんすよ、勝ち目、ないんすよ……」みたいな感じで(笑)。それで戦いだすとかさ……これ、アガりません? という、みたいな感じだと思いますね。

で、まあとにかくでも、諸々がそういう薄いことになっちゃっていてですね。予告でも出てくる、悪党をこうやってヴェノムが捕まえてて、頭を食う、っていうくだりが出てくるんですけど……とにかくその、頭を食いました。でも、その後が、血も出なければ……その後もなにも、死体ひとつ残っていないですよね。床にもなにもないんですよ。跡形もなくきれいになりすぎてて。まあ丸呑みしちゃったのかなんか知らないけど、ちょっと何が起きたのかわからないレベルになっちゃってるところも、ちょいちょい出てきたりして。なんかちょっとぬるい出来になっちゃってる。

ただね、いろいろと言ってますけど、MCUがハードルを上げる前の、「そんなに良くないかもね」っていうぐらいのアメコミ映画が多かった時代のことを、ちょっと思いだす感じはあったかもしれません。ただまあ、そのルーベン・フライシャーさんも、多分これはちょっと「これで満足」っていうわけではないんじゃないかなと思います。インタビューなどでも、「あのウルヴァリンも最終的には『LOGAN/ローガン』みたいなところに育っていったように、これから! これからですよ……!」みたいなことを言っていたりするんで(笑)。

まあ、よくも悪くも安心して見れちゃうファミリームービー的なところに収まってしまったのかな、っていうのはありますね。あと、エンドロールでね、おまけ映像がつく。1個目はまあ続編で、コミックにも出てくるある有名なキャラクターを、あの人が演じますと。「ある有名なヴィランを、あの人が演じますよ」っていうのが出てくる。これはまあ、よくあるやつで、お約束としていいでしょう。なんだけど、もう1個付くんだよね。もう1個付くそれが、要は先ほどから言っているソニーサイドのですね、「あわよくばスパイダーマンの世界とつなげたい。まあ直接は関係ないんだけど……」っていう、その欲がなんかまたねじれた形で……要するに今回の『ヴェノム』と一切関係ない作品の映像が、結構長い尺を使って出てくるんですよ。

「どうかな、そういうの?」っていう感じが正直、しちゃいましたね。はい。ただですね、やはりこのタイミングでこそ、最後の方でですね、スタン・リーがカメオ出演しております。スタン・リーが声をかけてくる、というおなじみのくだり。やっぱり、スタン・リーの血脈の上に出てきた、長く愛されるなりの魅力はちゃんとたたえたキャラクターでもあったんだな、っていうのが、いまこのタイミングだからやっぱり切実に熱く感じられる、というあたりっていうのを実感する意味でも、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。