お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

「トランプのアメリカ」は日本の未来か?! 社会学者・吉見俊哉さん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
11月17日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、社会学者で東京大学大学院教授の吉見俊哉(よしみ・しゅんや)さんをお迎えしました。

吉見俊哉さん

吉見さんは1957年、東京都生まれ。東京大学在学中は演劇に熱中し、それが社会学研究の出発点になっています。1980年代の終わりから90年代にかけて都市論やメディア論の若手の旗手として世の中で注目され、90年代の終わりから2000年代はカルチュラルスタディーズ(文化研究)の先駆的な役割を果たしました。そして50代になってからは大学教育に10年近く関わり、『大学とは何か』『「文系学部廃止」の衝撃』(いずれも岩波新書)といった一般書が話題になりました。そして去年(2017年)、ハーバード大学の客員教授として招かれ、10ヵ月間アメリカに滞在。今年(2018年)6月に帰国し、トランプ政権で混乱するアメリカ社会について書いた『トランプのアメリカに住む』という新書を出版しました。

スタジオ風景

「アメリカでは連日トランプのニュースばっかりで、シャワーみたいだとか」(久米さん)

「トランプ支持のFOXニュースもトランプに批判的なCNNも、左右両極でトランプの話ばかりです。トランプ自身も毎週、新たに暴言を吐くので、アメリカの人たちは頭に『トランプ』という文字がこびりついて離れないような状況になっていると思います」(吉見さん)

思い起こせば2016年のアメリカ大統領選のときから「あんな人が大統領になるわけがない」と言われ、大統領になってからも「こんなにひどい大統領はかつていなかった」と批判されているのに、どうしてトランプさんは一定の支持を保ち続けているのでしょう。

吉見俊哉さん

「トランプの政治のやり方はそれまでの保守と全然違うんです。いままでだったら対立や分裂はなるべく隠してうまくいっているように見せていたところを、トランプはあいつが悪いと名指しして、敵と味方を作って、自分がその中心に立つ。こういう政治はなかなかありませんでした。こういう状況を成り立たせているものがいまアメリカにあるということだと思います。それはここ1~2年のことではなくて、私は1970年代の終わりぐらい、レーガン政権の頃からずっと続いているんだと思います。1970年代までのアメリカは、みんなが中産階級になって、みんなが豊かになる、そういうものがより広く行き渡っていくというのがアメリカンドリームでした」(吉見さん)

「つまりアメリカンドリームというのは大出世して大金持ちになるということではなくて、ちょっと頑張ればみんなが中産階級になれるというものだった」(久米さん)

「そうです。それが1970年代ぐらいからうまくいかなくなって、物を作っても売れない。市場が飽和しているからです。そのうえ日本やドイツはどんどんアメリカの市場を取っていく。そこで70年代の終わりにレーガンが福祉国家から新自由主義に大きく方向転換するんです。金持ちはもっと金持ちになればいい、貧しい人や弱い人は切り捨てればいいという方向に転換するんです。そうしてみんなが豊かになる社会が崩れて、貧富の格差を認める社会に、そして弱い人間を切り捨てる社会にどんどん向かっていくなかで、アメリカ社会の亀裂・分裂がものすごく深まっていったんだと思います」(吉見さん)

トランプのアメリカに住む

「吉見さんの本(『トランプのアメリカに住む』)を読むと、アメリカでは中産階級の人たちが急速に落ち込んでいくことへの恐怖に日々怯えながら暮らしていて、実際、仲間がどんどん落ちていっている。そういう社会にアメリカはいま差しかかっているんですね」(久米さん)

「そうです。それをトランプはそれを非常に狡猾に利用しています。対立を煽って、ニューヨークやボストンやサンフランシスコでITで儲けているアフリカ系やアジア系のやつらが悪いんだとか、民主党の連中がグローバル化を進めるから悪いんだと、いろいろ敵を作りながら自分の味方をまとめていく。それはレーガン以降の共和党の大統領たちが進めてきた新自由主義がそういう貧富の差を作ってきたんですけど、それを逆に利用して自分が舞台の中央に立っていくという政治をトランプはやっています。そこで『トランプ、お前が悪い』と言ってもそれでは同じ土俵で戦うことになってしまう気がします」(吉見さん)

トランプを批判しても思うつぼ、支持すればこのやり方は変わらない。どうすればいいのでしょう?

スタジオ風景

「いままでとは違う形のやり方が、私がアメリカにいる間に現れてきました。例えばセクハラ問題だったら『#MeeToo』ムーブメントというインターネットを媒介にした女性たちの連帯というすごく大きな動きが起きてきましたし、銃乱射の問題ではフロリダの高校生たちが『#NeverAgain』という運動をこれもインターネットをベースに起こした。高校生たちがワシントンまで大行進して集会で演説をするわけです。17歳とか本当に若い人が本当に素晴らしいスピーチをしました」(吉見さん)

「フェイクニュースのことで言うと、日本人は太平洋戦争中に大本営発表をずっと聞かされてきたわけで、ぼくはお上が発表するニュースはあまり信用していないんですけど、トランプはそのことを気づかせてくれたと思ってちょっとだけ感謝してるんです。自分でニュース番組(『ニュースステーション』1985年~2004年、テレビ朝日系列)をやっててこんなことを言うのもなんですけど、ニュースで本当のことを伝えるってほとんど不可能に近いんです。どんな出来事でも伝えられるのはほんの上澄みだけで、本当のことはなかなか伝えられない。だから、すべてのニュースはフェイクだというトランプの言い方って実はちょっとだけ正しいと思っていて、それを言い続けてくれることは長い目で見ると世の中のためにちょっとだけ役立つかなと思ってるんです」(久米さん)

「トランプは反面教師なんですね。でも昔のニュースの嘘っぽさというのはお上がちょっとだけ作っている『事実』だったと思うんです。いま起こっていることは、みんながちょっとだけフェイクをいっぱい作っている。インターネットによって誰もが発信者になっている。だから世の中にフェイクがいっぱい溢れている。じゃあどうすればいいのかというときに、真実に戻れと言ってもなかなか難しい。チェックする仕組みを作ると言ったときに、誰がどうやってチェックしていくのか、何が真実なのかと、私たち自身がいままでとは違う仕組みを考えていかなければいけないという気がしますね」(吉見さん)

「ニュースが本物か、本物じゃないかを見分けるのって、一人ひとりが知力を持たなきゃできない。大変じゃないですか(笑)。これからどうすりゃいいんですかねえ」(久米さん)

「少なくとも言えるのは、このニュースがどうだったのかということを時間の中では検証できるわけです。トランプの言うことはころころ変わります。言い間違いや検証せずに言っていることもあります。トランプに限らず、安倍総理でも誰でも、過去に言ったことと未来に言うことがどう変わっていくかをネットの中で検証していくことは十分できると思います」(吉見さん)

「トランプはもう2年後の大統領選の準備をしているでしょう。2020年というと日本人は東京オリンピックのことしか考えないんですけど、アメリカ大統領選の年です。あと2年。そこでお聞きしたいんですけど、民主党には対抗馬がいない。ただ考えてみるとトランプだって、どうしようもないところから這い上がってきて誰も大統領になると思わなかったのに大統領になったんだから、民主党だってあり得ない話ではないですよね?」(久米さん)

「それはあると思います。でもこの間の中間選挙では上院は共和党が取って、下院は民主党が取っている。そうするとますますアメリカの中が真っ二つに分かれていくと思います。民主党で議員になった人の中には女性がすごくたくさんいたじゃないですか。先住民の議員も出た。そうすると下院はよりリベラルになっていくと思います。一方、上院はトランプに寄っていく。そうするとアメリカの社会はもう、ひとつの国と言えないぐらいに二つに分かれていく。そしてこの分裂は終わらないんですね。でもトランプがこの分裂を作ったのではなくて、1970年代以降、50年近い歴史のなかでどんどん二つに分かれていっちゃった。アメリカはもう、ひとつにはならない。だからアメリカは新たなる南北戦争というか、内戦状態だと思います」(吉見さん)

久米宏さん

「話をお聞きしてみると、すべての原因は経済ですよね。富めるものはより富んで、貧しきものは切り捨てるという冷たい経済政策が原因ですね」(久米さん)

「資本主義の仕組みが1970年代のどこかでもう限界に達したんですね。そこでアメリカやイギリスは新自由主義に転換した。でも日本は国と企業と労働者が一体になってなんとか頑張ろうという形で70年代の危機を乗り切っちゃったんです。それで80年代はこの日本モデルが成功したとみんな思ったんです。でもそれは大きな間違いで、同じ構造でずっと続けてきた仕組みが90年代の後半になると日本でも限界に達して、小泉政権以降、非常に苦しくなってきた。でもアメリカやイギリスは70年代の苦しかったときに仕組みを変えちゃって、それがトランプに至った。だから悪いシナリオとしてはトランプは日本の未来なんですね」(吉見さん)

「トランプってバカなこと言うねってニュースを見るのもいいですけど、そういう出来事が意味するところは何なんだってよく考えるとトランプのニュースは深みがあるんですね」(久米さん)

「深刻だと思います。日本の未来がトランプだとは思いたくはないですよね、私たちは」(吉見さん)

「ただ、政治家を見るとトランプになれそうな人が人材豊富なので不安にはなりますよね(笑)」(久米さん)

「しかももう高度成長はないですから、経済が緩やかに下降線をたどっていくなかで良い社会を作っていくってすごく難しいことです。それが立憲民主党にしてもそうだし、ほかの勢力にしても、発展はないなかで良い社会を作っていくにはどうしたらいいのかを考えるのはなかなかハードルが高いと思います」(吉見さん)

吉見さんの著作

今回は吉見さんの最新の著書『トランプのアメリカに住む』をベースにお話を伺いましたが、あわせて『親米と反米』『ポスト戦後社会』(ここまで岩波新書)、『天皇とアメリカ』『大予言 「歴史の尺度」が示す未来』『戦後と災後の間 溶解するメディアと社会』(ここまで集英社新書)、『夢の原子力』(ちくま新書)などを読むと、吉見さんがアメリカ社会の合わせ鏡として日本社会をどのように見ているか理解が深まると思います。

吉見俊哉さんのご感想

吉見俊哉さん

久米さんとお話しできて大変光栄でした。昔、「ニュースステーション」を一視聴者としてずっと見てきたひとりとして、こういう場を与えていただいたことは何より嬉しいと思います。ありがとうございました。

きょうの話には出てきませんでしたが、私は社会学と演劇は実はつながっていると考えています。今回の議論の中でも演劇はベースにあるんです。つまり、演劇というのは同じ台本でも役者や観客や裏方の微妙な変化によってできあがるドラマは全部違ってきますよね。それは私たちの社会そのものなんです。だから私は、シェイクスピアは最大の社会学者だと思っているんです。リチャード三世やマクベスのような暴君は、ひどいやつだということをみんな分かっている。それでも、それを成り立たせてしまうものがあるんです。それは何なのかということをシェイクスピアは描いているんですね。だからシェイクスピアを読むと、トランプのことも分かると思います。

いまのアメリカは未来の日本です。とても危険です。違う道を探るのは簡単ではないです。ただ、演劇がひどいドラマになったり素晴らしいものになったりするように、私たちにも日本の社会を良い方向にもっていく可能性はあるはずです。




「今週のスポットライト」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者)を聴く

次回のゲストは、ロバート・ホワイティングさん

11月24日の「今週のスポットライト」には、『菊とバット』『東京アンダーワールド』など日本のプロ野球や裏社会を描いたベストセラーで知られる作家・ジャーナリストのロバート・ホワイティングさんをお迎えします。50年で大きく変わった東京の街を描いた『ふたつのオリンピック』を出版しました。戦後の東京にうごめく政財界、プロ野球やプロレスの大物たち、裏社会のボス、そして久米さんことも書かれています。

2018年11月24日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20181124140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)