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50年前の東京は騒音と煙の街だった ロバート・ホワイティングさん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
11月24日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、『菊とバット』『東京アンダーワールド』などのベストセラーで知られる作家・ジャーナリストのロバート・ホワイティングさんをお迎えしました。日本で暮らして50年以上。かつて久米さんの「ニュースステーション」に3年間(1990年~93年)出演していたこともあります。今回、二人は25年ぶりの再会です。

ロバート・ホワイティングさん

ホワイティングさんは1977年に『菊とバット』を出版して注目されました。日本とアメリカの野球の違いを描いたこの本は話題となり、ホワイティングさんは雑誌や新聞の原稿を書くようになりました。以後、『和をもって日本となす』『さらばサムライ野球』など日本プロ野球を題材にした本を数多く出版。ホワイティングさんが日本のプロ野球に興味を引かれたのは、そこに日本人の本質を見たからです。読者もまたホワイティングさんの本で「和」や「武士道」といった日本文化を再認識させられました。これらの著作はアメリカでも出版され、やはり高い評判を得ています。

そしてホワイティングさんが日本を洞察するときのもう一つの軸が「裏社会」。2000年に出版した『東京アンダーワールド』は、東京のマフィア・ボスと呼ばれたニコラ・ザペッティが六本木に開いたピザレストラン「ニコラス」を舞台とするノンフィクション。政財界の要人、暴力団、大物フィクサー、政商、国民的プロレスラー、東西の諜報部員などが交錯、暗躍した世界を描いたこの本は、明るい戦後史と表裏一体になった「暗黒街」としての東京の一面を知ることができます。奇跡の高度成長を経て日本とアメリカの力関係が変わってきたのがこの本に書かれた時代で、そこからアメリカが新自由主義へ転換し、いまのアメリカファーストへとつながります(この本には青年実業家だった頃のドナルド・トランプも登場しています)。

ふたつのオリンピック

ホワイティングさんはどうしてこんふうにプロ野球の世界や裏社会の内幕を知ることができたのか。一体、ロバート・ホワイティングとは何者なのか。それがよく分かるのが今年(2018年)9月に出版された『ふたつのオリンピック 東京1964/2020』です。これはホワイティングさんが日本に来てからの半世紀を振り返った自叙伝であると同時に、世界で最もダイナミックに変貌を遂げた東京の戦後史でもあります。

ホワイティングさんは1942年、アメリカ東部のニュージャージー州で生まれ、カルフォルニア州のユーレカという小さな田舎町で育ちました。そして1962年、19歳のときにアメリカ空軍の諜報部員として当時、東京・府中市にあった米軍基地(第5空軍太平洋空軍司令部・太平洋軍電子諜報センター)にやってきました(その基地はもう使われていませんがその跡地にはいまも巨大なパラボラアンテナが2基残っています)。ここでの任務は、アメリカのNSA(国家安全保障局)とCIA(中央情報局)の指揮のもとで電子スパイ活動や暗号解析をすることだったそうです。ホワイティングさんは配属が決まるまで日本のことは何も知らなかったそうです。

スタジオ風景

「ユーレカは本当に田舎町で映画館はひとつだけ。そこでぼくは『ゴジラ』を観ました。ゴジラが国会を壊した場面を憶えています。それが日本に関して唯一の知識だった。だから東京に初めて来たときすぐ国会を探しました(笑)」(ホワイティングさん)

銀座を訪れたホワイティング青年は数寄屋橋交差点を見て圧倒されます。行き交う人の群れ、建設工事の騒音と煙、激しく鼻を突くセメントの臭い。交通整理をする警官は酸素ボンベを携行し、歩行者はみんなマスク…。凄まじい光景だったんですね。

久米宏さん

「1962年ですから東京オリンピックの2年前で、街中が工事中だった」(久米さん)

「そう。だからすごいエネルギーの迫力に吸い込まれちゃった。数寄屋橋に立つと左のビルを壊していて、右側に新しいビルを建てていた。青山の道路は造り直した。夜も建設工事の音がものすごくうるさかった。だからみんな耳栓をしてました。まぶしいランプがどこにもあって、みんな暗いカーテンを付けなくちゃならなかった。でもあのときの東京は本当に素晴らしかった」(ホワイティングさん)

エネルギーがあふれた東京に一瞬にして魅せられたホワイティングさんは、府中での勤務の傍ら、英会話学校の教師となっていろいろな街に入っていきます。そのなかで日本のビジネスマン、政界の大物、闇社会のボスたちと近づきました。なんとあの渡邉恒雄さんにも教えていたそうです。当時ナベツネさんは読売新聞の敏腕政治記者で、ホワイティングさんは「むしろ私のほうが日本について教わっていた」と回顧しています。3年半で軍を退役したあとも日本に残り、上智大学で政治学を学び、卒業後は出版社に勤めます。

ロバート・ホワイティングさん

「上智大学を出てからブリタニカという会社に入りました。日本のサラリーマンになってから酒を飲むことを覚えました(笑)。そのときまでぼくはあんまりお酒を飲まなかった。スポーツマンだった」(ホワイティングさん)

「この本(『ふたつのオリンピック』)を読むと、ほとんどが酒を飲んでる(笑)」(久米さん)

「仕事が終わると毎晩、歌舞伎町に行って酔っぱらいました。その頃、ぼくのアパートは東中野にあって、あのへんに住吉会が管轄していたバーやレストランがありました。そこで沖縄から来た住吉会の若い人と友人になりました。いろいろな冒険がありました」(ホワイティングさん)

「ホワイティングさんは安藤組の人とも付き合いがあったし、割と日本の暴力団員と打ち解けるタイプなんですか?」

「いえ、そうじゃないけど、話しやすいんだと思います。彼らは最初、怖い顔をしてるけど、ビールを少し飲みながら話してみるとただの人間。ぼくの経験だけど、暴力団の人はインタビューしやすい。例えば巨人の選手にインタビューしたいと思ったら、金を払って、聞きたい質問を書かなくちゃいけない。それでこれはOKだ、これはダメな質問だとなって、書き終わった原稿も見せなくちゃならない。でも暴力団の人は自由に喋る」(ホワイティングさん)

「巨人の選手にインタビューするのは大変だけど、暴力団に聞くのは簡単(笑)」(久米さん)

「簡単、ぼくの経験では(笑)。あの人たちは自分の生活、自分の悩みを話すチャンスがない」(ホワイティングさん)

「そういう人たちを理解してくれて話をちゃんと聞いてくれる人はホワイティングさんぐらいしかいなかったんだ、つまり」(久米さん)

こうしてホワイティングさんは日本人でもなかなか入っていけない世界に自然と食い込めるようになっていました。それはホワイティングさんが日本の社会にムリに溶け込むのではなく、むしろ「アウトサイダー」のままでいいと考えていたからかもしれません。「ガイジン」と言われることを嫌う人も多いなかで、ホワイティングさんはガイジンというスタンスを最大限に利用したのではないでしょうか。ガイジンだからこそ日本人には話さない話を聞くことができた。『ふたつのオリンピック』には戦後日本を彩った実に様々な人たちが登場します。GHQの秘密機関「キャノン機関」出身の大物、安藤組、住吉会、東声会、横綱・大鵬、力道山、ジャイアント馬場、ザ・デストロイヤー、渡邉恒雄、石原慎太郎、中曽根康弘…。

スタジオ風景

「ホワイティングさんは軍を退役したあとNSAに入らないかと誘われたけど上智大学に入りましたよね。あそこが人生の分岐点だったと思うんですが、どうして上智大学に行ったんですか」(久米さん)

「まず東京に残りたかった。東京オリンピックが始まるところで、東京は街として成長中だった。だからものすごく面白かった。それを見ているのが面白い。東京のエネルギーはものすごく影響されたと思います。バー、レストラン、盛り場はものすごく面白い。みんなニューヨークのタイムズスクエアがすごいと言うけど、東京にはいくつかのタイムズスクエアがある。歌舞伎町、渋谷、宇田川町、上野、池袋、新橋、銀座。こういう都市はほかにないです」(ホワイティングさん)

ホワイティングさんは奥さん(国連難民高等弁務官でした)の勤務地だったニューヨーク、ソウル、メキシコシティ、ジュネーブ、パリ、ストックホルム、モガディシュ、カラチ、ダッカに住んだ経験があり、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、ワシントンDC、ホノルル、香港、シンガポール、バンコクなどにも長期滞在したこともあります。そのなかでも東京がいちばん面白いし、好きだと言います。それでも2020年の東京オリンピックについては批判的に見ています。

「ぼくはいろんなところに住んだことがあるけど、東京はナンバーワンだと思います」(ホワイティングさん)

「ホワイティングさんの本にはこう書いてあります。『東京に住むことで自分の性格もかなり改善されたと思う。我慢強くなったうえ、ニューヨークにいたときよりもずっと礼儀正しくなった。自分勝手だった性格も薄れたと思う』。この本は、ぼくと同じかもうちょっと下の世代の人が読んだら、涙が出てくるような本です。ぜひご一読を」(久米さん)

ホワイティングさんのご感想

ロバート・ホワイティングさん

久米さんは心が温かい人だと思います。番組の流れをマネジメントするのが上手いと思います。もちろん50年の経験がありますけど、本当にスムーズ。また、590ページの本を全部読んでくれてありがたいと思います。

今は髪の毛がすっかり白くなりましたけど、久米さんは体重も前と変わらないし、いつも元気よくにこにこしていますね。そういうタイプは久米さんが唯一です。「ニュースステーション」のときのことはよく憶えていますが、久米さんはほかのニュースキャスターと全然違います。久米さんはエンターティナーです。きょうは楽しかった、本当に。ありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:ロバート・ホワイティングさん(作家・ジャーナリスト)を聴く

次回のゲストは、「食品ロス」専門家・井出留美さん

9月8日の「今週のスポットライト」には、本来は食べられる食品が大量に廃棄されてしまう「食品ロス」の問題に取り組んでいるジャーナリストの井出留美さんをお迎えします。日本では1年間に600万トン、東京ドーム5個分の食品がまだ食べられるうちに捨てられています。井出さんは東日本大震災の被災地で大量の「食品ロス」を目の当たりにしてこの問題の専門家に転身しました。

2018年12月1日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20181201140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)