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2018年の終わり、平成の終わり 高橋源一郎さん

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日に放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
12月29日(土)は1時間短縮で午後2時スタート。今年さいごのゲストコーナー「今週のスポットライト」に作家の高橋源一郎さんを迎えて年末特別対談をお送りしました。高橋さんに年末にお越しいただくのは2015年2016年に続いて3度目ですが、2017年は高橋さんがパーソナリティを務める「すっぴん!」(NHKラジオ第1・金曜日)に久米さんがゲスト出演しているので、2人はこれで4年連続で年末に顔を合わせたことになります。

高橋源一郎さん

「ホーム・アンド・アウェー方式で、来年の年末はぜひNHKに!」(高橋さん)

高橋さんは近年、「原発」「戦争」「民主主義」といった、「3.11」を契機に浮き彫りになった私たちと社会が抱える問題を継続して取り上げています。今年(2018年)も『憲法が変わるかもしれない社会』『「雑」の思想―世界の複雑さを愛するために』といった本をはじめ、新聞、ラジオ、ツイッターなど、様々なメディアで発信し続けてきました。

今回の対談では平成さいごの年末ということで「2018年の終わり、平成の終わり」というテーマを設定しましたが、自分の経歴や社会の出来事を西暦で憶えているという久米さんと高橋さんは、元号で世相を語ることについてどうもしっくりこないと言います。特に久米さんは、世界史との比較になると絶対、西暦で比較しないと何だか分からないと主張します。2人にとって「ついこの間」始まったばかりの平成という元号では時代を括(くく)るには短すぎる、またグローバル化した今の時代を語ることはできないということです。だから本当に元号が必要なのかという議論をしてみてもいいのではなんて話も出ました。そう言いつつも、久米さんが「平成生まれの野球選手やタレントが出てきたときはびっくりした」が水を向けると、高橋さんも「ぼくは平成生まれのグラビアアイドルが出たときにびっくりした」と応え、気づいてみれば30年が経とうとしている平成という時代の長さを実感。そこで改めて見直してみると…。

「平成がちょうど30年でしょ。それで大正が15年で、明治が45年。昭和がだいたい60年。15の倍数なんです、みんな」(高橋さん)

「うまい具合にできてますね」(久米さん)

「すごく分かりやすいんですよ。それで30年で一世代だから、大正だと世代が半分しか交代していなくて、明治だと一世代交代して、終わり頃に出てきた人が大正で代わる。ちょうどいい。だからもう30年で元号を区切ったらどう(笑)」(高橋さん)

「30年って、結構なもんですよね」(久米さん)

「いやあ、結構長い。それで、ぼくが作家になったのが昭和の終わり。1981年なので。だから、ほとんどぼく平成なんですよね。作家生活37年のうち30年」(高橋さん)

「平成の人なんだ」(久米さん)

「そうなの! 自分では昭和文学って言ってたら、ある作家に『高橋さん、まるごと平成文学じゃない』って言われて、マジで?って。自分の認識では、昭和26年生まれだから、昭和でずっと生きてきたでしょ。だから昭和の人っていう認識でいて。うちの学生(高橋さんは明治学院大学国際学部の教授です)からも『先生、昭和くさい』って言われて、そうだと思っていたら、いや、高橋さん、まるまる平成文学だよって言われて、結構ショック。昭和で精神形成したから、昭和の頭のまま平成で生きてるんです」(高橋さん)

「こういう話ができるのは元号があるからだっていうことですか」(久米さん)

「そうそう、結構あったほうが便利だからいいんじゃないですか。話が最初と変わっちゃった(笑)」(高橋さん)

「区切りにはなるっていうね」(久米さん)

「なるでしょうね。歴史を意識するっていうのもあるし、どこで振り返ったらいいかっていうときに、元号って振り返るのにちょうどいい。だんだん元号を擁護する側になってきちゃった(笑)」(高橋さん)

元号で歴史を区切ることに違和感を覚えるのは「一世一元」になった今は当然のことかもしれません。かつては吉兆(おめでたいこと)や大きな災害、疫病の流行、さらには戦乱などがあったときに、人々の心を一新するために変えてきたのが元号でした。つまり元号は世の中の変動と密接に関わっていました。それが明治以降、一代の天皇でひとつの元号となってからは元号と歴史の区切りが必ずしもリンクしなくなりました。前にこちらにお越しいただいた社会学者の吉見俊哉さん(2018年11月17日出演)は、1945年を基点に前後「25年単位」で区切ると歴史をうまくとらえることができ、また未来も見通すことができるとおっしゃっています(『大予言 「歴史の尺度」が示す未来』より)。それでも、西暦で考えていたときには昭和文学を自認していた高橋さんが元号に当てはめてみると実は平成文学だったというように、元号には元号の歴史の見え方があるのではないでしょうか。高橋さんは今年(2018年)、NHKのテレビとラジオで春、夏、冬と3度、平成を振り返る特番に出演したことで、平成にはいくつものテーマが錯綜して存在していると実感したと言います。

スタジオ風景

「振り返ってみていろいろ面白かったんですが、例えば、もうたぶんすっかり忘れていると思うんですけど、EUができたのが平成5年なんです」(高橋さん)

「あれ平成ですか?!」(久米さん)

「平成なの! びっくりするでしょ? ソ連の崩壊が平成3年なんですよ。つまり、平成の最初にヨーロッパッパが統一されて、ソ連邦は崩壊して、これから世界が平和な時代になる…という始まりだったの。それが今、イギリスはEUから離脱するし、ロシアはプーチンだし、アメリカはトランプだし、日本は…って、こういう状態にまさかそうなるとは。だから、民主主義というひとつのテーマで言えば、希望の始まりと希望の終わり…っていうとあんまりだけど、その30年間だったというのが分かった」(高橋さん)

「元号って、わりと世界史にも普遍できるっていうことですか?」(久米さん)

「そうなの! これはよく言うんですけど、経済変動は30年周期だとか物事の変化の単位がある程度、周期性がある。15年単位とか30年単位で。デモクラシーに関して言うと平成の始まりに頂点を迎えて、だいたい30年かかって終わると」(高橋さん)

「昭和が終わって小渕官房長官が紙に『平成』って出しましたよね。あのときどんな時代が来るのかなっていうふうに思って、悪くはならないだろうなっていう根拠のない希望みたいなのがあったような気がするんです、ぼく自身はね」(久米さん)

「ありましたよね。平成に関してはもちろんいろいろ事件もあったし、阪神大震災も東日本大震災もありました。オウム事件があってサリン事件もあって、少年A(いわゆる酒鬼薔薇事件)があったり、連続殺傷事件があったり、結構ひどい事件もたくさんあるんですが、前半はなんとなくそれでも明るい」(高橋さん)

「バブルでしたしね」(久米さん)

「やっぱり頂点は民主党政権成立(平成21年)までですよ。あれは、政権の特徴は、言葉に重きを置く政権だったんです。ライターに優秀な人もいるから言葉が非常に美しくてリベラルで。アメリカ民主党のスピーチライターが書いたような、オバマさんの演説に近いものを鳩山さんがやってた。そういうものがあって支持も高かったでしょ。ああいう理想を有権者が支持していた時代があった。それが今はそういう理想を言うと嘲(あざけ)るよね。そんな理想じゃ食えないよ、お花畑みたいだって。この数年で変わっちゃいました」(高橋さん)

民主主義に対する希望がぱっと膨らんで、あっという間にしぼんでしまったのが平成という時代。そうなってしまった背景には何があるのでしょうか。久米さんは経済的困窮が広がったからではないかと言います。働いている人たちの3分の1以上が非正規雇用になる時代がくるとは、平成に入った頃には考えられなかったことでした。高橋さんが見ている大学生たちの中にも、生活費を稼ぐためにアルバイトをせざるを得ないという人が本当に多くて、そのアルバイト先がひどいブラック企業で…と、どんどん悪い方向へ転がっていく社会になっている。

高橋源一郎さん

「平成を代表する小説は、朝井リョウさんの『何者』(平成24年度、第148回直木賞受賞。平成生まれ作家としては初受賞)と村田紗耶香さんの『コンビニ人間』(平成28年度、第155回芥川賞受賞)。『何者』は企業が求める人間に一生懸命なろうとする話。無理でしょ、そんなの。でもみんなそう。そのうち自分が何者だか分からなくなっちゃうっていう、その繰り返し。しかも、せっかく作った自分のキャラは否定されるわけです、いらないって。ある種、ものすごく同調圧力が強い。『コンビニ人間』にもそうです。全部マニュアル通りに生きていると楽だと。それに対して世間は『もっと個性的にやれ』とか言うんだよね。でも本当はそう言ってる人たちもマニュアル通りに生きてるんだけど気がつかない。主人公の、本当にコンビニでしか生きていけないマニュアル人間のほうが実はそれを自覚している。ぼくのゼミ生に読ませたら、みんな面白くないですって。辛すぎて(笑)。そういうふうに生きていけないとこの社会から追い出されますよということを誰が教えてくれるかっていうと、まあ企業は言わないよね。社会も黙ってるでしょ。就活なんかしたら人間性が失われるよなんて言わない。結構怖い世界に飛び込んでいっている。貧しさが増大していくとますますそういう方向に雪崩を打って転がっていくという感じがするんですよね」(高橋さん)

そして高橋さんは、民主主義への期待が急速にしぼんでしまった背景には、貧困の広がりのほかに、世の中の「空気」の変化があるのではないかと指摘します。民主党政権に代わったとき、みんなの「意志」でこれを選んだつもりになっていたけれど、もしかするとあれも「空気」だったかもしれないと。つまり少し豊かだったときは「理想を語る政党もいいね」という空気が強かった。それが貧困が広がるとともに「理想じゃ生活していけない」という空気にぱっと変わってしまった。

「第2次大戦が終わったあとに新憲法ができて、みんなやっぱり新憲法はいいと言った。山本七平は『空気の研究』で批判してるんですよね。あれは別に信念じゃなくて、みんながいいと言うから素晴らしいと言ってる。その半年前には天皇陛下万歳、鬼畜米英って言ってた人が民主主義万歳って言ってる。あまり浮かれて言っているのは信用しないほうがいいと」(高橋さん)

2019年は間違いなく(どういう元号になるか分かりませんが)「○○(まるまる)元年」になります。そして再来年は「○○2年」で、東京オリンピックがあります。今は新聞もテレビも何かといえば「○○2年」の東京オリンピックに結び付けた話が多くて、そのあとのことはあまり書かれませんし、言われません。一体どんな社会がやってくるのでしょうか。

久米宏さん

「平成の次の『○○(まるまる)』は厳しいそうですね。やや息苦しいですか?」(久米さん)

「ジョージ・オーウェルの『1984年』じゃなくて『○○2年』(笑)。本当は息苦しくならないように我々が考えていかなきゃいけないんですけども、でもなかなかね。こんな就活おかしいとかこんなボランティアっていいの?って話すと、みんなそれはおかしいと思うって言います。でも、粛々と進んでいく。「文書改竄おかしいよね?」「おかしいと思う」…でも、そのまま。これがある意味、ぼくたちの国が持っているひとつのやり方。戦争中はみんなが天皇万歳、鬼畜米英と言っていて、8月15日を機にして突然みんな民主主義万歳になって。どういうふうな心理で変わったかというと、本当はぼくも戦争に反対していたけどああいう時代にそういうことはなかなか言えなかったんだと。やっと本当の気持ちを言えることができるようになった…というふうに、自分の記憶を作り変える。これがジョージ・オーウェルが『1984年』で言っていた〝人間の二重思考〟。本当は鬼畜米英だったと言うのは恥ずかしい…というならまだ救いがあるんです。つまりウソをついているなら救いがある。これが怖いのは、本当に自分は当時から戦争に反対していたような気がしてくるところ」(高橋さん)

「言ってるうちにね」(久米さん)

「何回も言ってるうちに。怖いでしょ。そういうものをオーウェルは批判したんですけど、それはオーウェルが言っていた世界だけではなくて、ぼくたちの国も一緒でね。つまり何かものすごく大きいものが支配しているほうに流されていってね、お前違うことを言ってたじゃないかって指摘しても、いや本当はこうだったんだ…みたいな。すごく簡単に言うと、長い物には巻かれろだよね。そういうことを今の若い子は見てる。そういうものを繰り返し見ていると、教育効果ですよ」(高橋さん)

「ぼくはトランプとかプーチン、それからドイツのメルケルさんはもうすぐやめますけど、そういう人たちを見ていると、その国のリーダーの資質、メンタリティ、あるいは才能って、日本ってみんなで寄り合い所帯だから誰がリーダーになっても同じようなもんじゃないかって思ってるところがあるんですけど、実は世界中を見回すと一国のリーダーの資質、特にその人が持っている哲学みたいなものって、その国の命運をかなり大きく左右するって思ってるんです。だからさっき「○○2年」のオリンピックのあとの日本のことを誰も考えてないと言ったんだけど、新しいリーダーの資質によっては日本は…、救われるって言っちゃ語弊があるな、あんまり落ち込まないですむ可能性がなきにしもあらずだと」(久米さん)

「リーダーというか政治的指導者が出てきてその社会が変わるってことがよくあるんですけど、どういう具合に出てくるかというと、やっぱりいろんな考えを持った大衆それぞれの無意識を代表して、反映してくれる人。あるときはコービン(イギリスの最大野党・労働党の強硬左派、ジェレミー・コービン党首)だったりね。欧州でもアメリカでも結構オールド・マルクス主義みたいな、言ってることは古そうだけども、『人間、平等じゃなきゃおかしいね』とか『格差があるのはおかしいでしょ』とか『なんで少数派は虐げられてるの』という人たち。今、選挙に行くと40%は棄権ですよね。50%近いかな。だから残りの50%を分け合ってるだけ。あとの50%の人たちというのはもやもやしてる。そのもやもやを可視化してくれる言葉、可視化してくれる人が出てくると、やっぱり動いたりすると思うんですよ。ヘンな言い方だけど、棄権率の高さに希望を見る(笑)。やっぱりおかしいよと思ってる人がいて、幸運にも民主党政権時代には一瞬可視化されたけどそういう人たちっていうのはいると思うんですよ、たくさん」(高橋さん)

「ぼくね、学生の頃、数寄屋橋の交差点で赤尾敏さんの演説を聞くの好きだったんですよ」(久米さん)

「ぼくも聞いてましたよ(笑)」(高橋さん)

「あのときぼく、なんでこんな立ち止まって一生懸命聞いてるのかと思ったときに、最終的な結論は『人間みな兄弟』っていうことにぼく落ち着いたんです。この心根かもしれないですよね」(久米さん)

「なんかね、憎めないんだよね。ぼくも演説を聞いていたら『おい、そこの学生! ちゃんと晩メシ食ったか?』って(笑)。それでまた共産主義批判を始めるっていう。このなんていうか、あ、この人は人間なんだなっていう感覚が残っててね。だから彼の政治思想はひとつも認めませんが、人としては面白いねっていう」(高橋さん)

「だからその空気を読むっていうのは、うまい具合に包容力につながっていくとね」(久米さん)

「そうそう、そうそう」(高橋さん)

「空気を読むというのは包容力なんだということになっていくと素晴らしいんですけど。この日本人の特性が」(久米さん)

「今、反対ですよね。空気を読んで排除する。だからまともに考えているとちょっと暗くなる気もするんですが、暗さって伝染しちゃうので、ばかだと思われてもいいからポジティブなことを言い続けたほうがいいんじゃないかっていうふうに最近思うようになりました」(高橋さん)

「ああ、すごく助かりました、その話。肝に銘じて生きていきたいといま思いました。お互いに元気で、また来年の年末にでも」(久米さん)

「じゃあ、ぜひその節はうちのNHKのほうにも」(高橋さん)

「ええ。来年、○○元年の年末には(笑)」(久米さん)

「○○元年の年末(笑)。そうですよ、よろしくお願いします!」(高橋さん)

「久米 こちらこそ。ありがとうございました」(久米さん)





高橋源一郎さんのご感想

高橋源一郎さん

久米さんと4年連続で年末に会っていると気づいて、久米さんに会わないと落ち着かない感じになってきました。もうすでに気持ちは来年の年末(笑)。「○○元年」はぼくのホームグラウンドのNHK(「すっぴん!」金曜日)にぜひでていただいきたいですね。向こうのプロデューサーにもそう言ってお願いしておきます。ありがとうございました。


「今週のスポットライト」ゲスト:高橋源一郎さん(作家)を聴く

次回のゲストは、「変形菌」研究者・増井真那さん

2019年1月5日の「今週のスポットライト」には、「変形菌」(粘菌)を研究している現役高校生・増井真那さんをお迎えします。変形菌という不思議な単細胞生物に5歳のときにとりこになって以来、研究を続けていて、世界中の研究者も知らなかった大発見をしたそうです。

2019年1月5日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190105140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)