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数理モデルで感染症対策 西浦博さん(北海道大学大学院教授)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
3月23日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、数理モデルを活用した感染症予防に取り組んでいる北海道大学大学院教授・西浦博さんをお迎えしました。

西浦博さん

感染症が広がり方を数式で表すことによって流行の予測や予防対策につなげるという研究は1980年代から活発になり、この15年ほどの間に飛躍的に発展しています。欧米ではすでに感染症の数理モデルを国家の医療政策に活用する動きが進んでいます。ところが日本ではまだまだ遅れているのだとか。この分野で日本のトップランナーが西浦さんです。

西浦さんは1977年、大阪で生まれ、兵庫県神戸市で育ちました。少年時代はロボットコンテストやソーラーカーの開発に憧れ、神戸市立工業高等専門学校で電気工学を学んでいました。ところが17歳のときに阪神淡路大震災に遭い、被災者を救助する医師たちを見て、工学部志望から一転、医学の道を志しました。宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)4年のときに中国で感染症のポリオを撲滅するプロジェクトに参加。そこで、感染症の流行を予測する「数式」に出会ったのです。

スタジオ風景

「1990年代の後半、中国の特に西部では感染症のポリオの撲滅プロジェクトをやっていたんです」(西浦さん)

「それでポリオの予防接種を始めたわけですね」(久米さん)

「各地の集落に行って、予防接種を何%の人に実施するか目標を設定して、目標に達していない村では『こうするべきだ』ということを村人と話をしたり、目標設定がうまくいっているところではワクチンの効果をモニタリングしたり、ひとつひとつ確認していくようなプロジェクトだったんです。そこで数式が出てきたんです」(西浦さん)

「ここが全ての物語の始まりですね。何を表している数式だったんですか?」(久米さん)

「ポリオの感染性を表すもので『基本再生産数』といいます。感染者1人あたりが生み出す2次感染者数のことです。例えば、1人の感染者がある集団に入ってきたときに3人の感染者を生み出すのだったら、基本再生産数は『3』となります。ポリオの場合は『5』でした。これが予防接種率に直結する数字だというのをそこで知ったんです。この基本再生産数が『1』より少なくなれば、感染症は減衰していくんです」(西浦さん)

「それを表す方程式があったんですか?」(久米さん)

「はい。それはたったひとつの不等式でした」(西浦さん)

西浦さんが見たのは下のような不等式でした。

(1 – p) * R0 < 1  p:予防接種率、R0:基本再生産数

これはどういうことを表しているかというと、ポリオの基本再生産数「5」が「1」より小さくなるような予防接種率になれば、その村ではポリオが減っていくということです。具体的には、予防接種率が80%を超えればポリオはなくせるということです。西浦さんが実際に回った村々を調べてみると、予防接種率が80%以下の村ではポリオの流行が見られ、80%を超えている村では流行が見られませんでした。

西浦博さん

「人が感染していく仕組みがたったひとつの数式できれいに記述できるというのを見てびっくりしたんですね。しかもそれが現実に見ている村々のポリオの状況とほぼ合致していたんです。これは何だ?! という衝撃を受けましたね」(西浦さん)

このプロジェクトのあと日本に帰ってきた西浦さんは、数式を使った感染症予防の勉強に没頭しました。医科大学を卒業するとイギリス、ドイツ、オランダ、香港と10年間海外を渡り歩き、「感染症を予測する数理モデル」を研究しました。数理モデルを使った感染症対策はこれまでの予防対策とはどう違ってくるのでしょうか。

スタジオ風景

「例えばある感染症の流行を制御しようとするときに数理モデルを使うと、社会の集団の中でどういう年齢の人、男性か女性か、どこを重点的にワクチン接種をしたら効果的に感染を抑えられるかということが、理論的に明確に数字で明らかにできるんです。どれくらいの量のワクチンを確保しなければいけないのかとか、そういう重要な医療政策を考えるときにも明確に答えることができるというところが、数理モデルのいちばん魅力の部分です」(西浦さん)

欧米では数理モデルを感染症予防に活用する動きがこの15年で加速しています。特にイギリスとオランダは進んでいて、感染症数理モデルの専門家グループを国で抱えて、国の医療保険政策に反映させているそうです。日本では西浦さんのようにのように大学で研究している方もまだまだ少なく、国の政策に数理モデル研究が活用されるようなところまでには至っていないということです。医師の経験や勘に頼った感染症対策のままでは、日本はどんどん後れを取ることになります。

久米宏さん

「日本はインフルエンザの対策でも相当後れているというのは、いかなる事情があるんですか?」(久米さん)

「日本は予防接種の政策でトラウマがあるんです。実は昔は海外と比べるととても進んでいて、子供の集団予防接種をやっていました。1990年代の中ごろまで実施されていたんですけど、それが効いているのか効いていないのかという議論がありました」(西浦さん)

「ここからの話は世界的には有名なんですけど、日本人はほとんど知らないんです。なぜかというと日本の恥だからです(笑)。それでどうなったんですか?」(久米さん)

「それで群馬のある町で研究が行われたんです。ひとつの町では予防接種を高い率でやっていて、もうひとつの町でそんなに高い率ではやっていなかったんです。それである年、インフルエンザの感染者数を比べるてみると、あまり違いがないということが分かったんですね。それで予防接種に懐疑的で反対だった人たちが社会的な運動を起こすことに至りました。その影響もあって子供たちの集団予防接種をやるのをやめてしまいました。インフルエンザというのは子供を中心に伝播します。一方、高齢者の人たちはあまり伝播を起こさないんですけど、ひとたび感染すると重症化するんです。老人ホームなどでよく肺炎になったりしますね。それで、子供たちの集団予防接種をやめたことによって、子供たちの感染者が増えただけでなくて、高齢者の感染者も増えて、高齢者の死亡者数が増えてしまいました。海外では日本はとても重要な社会実験をしたということで知られているんですけど(笑)」(西浦さん)

「子供の集団予防接種をやめるとこういうことになるんだよというのを日本が証明したんです。それで集団予防接種をやるようになったかというと、これがですね、元に戻れないんですよ(笑)。どういうことなんですか?」(久米さん)

「一度政策として決めてしまったことは否定しないというのが霞ヶ関のルールとしてあるというのがまずひとつです。インフルエンザに関しては国ごとに2つに大きく分かれています。ひとつが高齢者に接種をして重症化を防ごうというもの。それは日本のいまの予防接種でも受けれ入れられているんですけど、高齢者に接種しておけば肺炎になる人が少なくなるので死亡する人が少なくなるという考えに基づきます。個人的な効果を考えているわけです。もうひとつの方法は、子供にできるだけ予防接種をしましょうというものです。インフルエンザの伝播は子供中心に広がるので子供に接種すると流行自体が下火になるです。これを集団免疫と言いますけど、個々人の免疫だけじゃなくて集団レベルでその特定の感染症に対してある程度抵抗を持っているという状態を作る。すると老人も結果的に感染しなくなるという政策なんです。数理モデルの研究を積み重ねていると、やっぱり子供たちに接種したほうがうまくいくということが立証できます」(西浦さん)

「なんで日本はそれでも政策を変えないんですか?」(久米さん)

「ぼくはいつも皮肉的に、数理モデルのことを『黒船』と表現しています。まだ黒船の存在価値とか強さが分からないので、竹槍で頑張ってやっている状態なんですけど、いつかは近代兵器を受け入れないといけなくなります。いまはそのプロセスの途中にあるんだろうなあと思っています」(西浦さん)

「霞ヶ関も含めて、いまこの数理モデルに対する関心度と理解度はどうなんですか?」(久米さん)

「特に若い人が中心なんですけど、最近は厚生労働省だと医系技官の方々ですごく志の高い人がいます。その人たちは海外の公衆衛生大学院で修士号を取って帰ってくるんですけど、数理モデルを勉強してきたりするんです。そういった機会を通じて、海外のスタンダードで考えるとこうなっているというのことをある程度理解しているので、一人ひとりお話ししていると相当理解度は高いです。けれど、それが変わっていくにはまだ年数がかかるんだと思っています」(西浦さん)

いま中国ではアフリカ豚コレラが、またコンゴ民主共和国ではエボラ出血熱が猛威を振るっていて、北海道大学の西浦さんの医学教室では研究員の人たちがほぼ寝ずに対応しているそうです。

腕時計

この研究に携わっていると、頭脳だけでなく体力も大変大事になってくるということで、西浦さんはこの10年近くマラソンをおやりになっているそうです。実はこの放送の翌日には、埼玉・久喜市で行われるフルマラソンに出場するのだとか。それに備えてこの半年でなんと40kgものダイエットに成功したそうです。そんな西村さんの左腕にはGPS機能付きの高性能腕時計が。この日のメッセージテーマが腕時計ということで、この話でも盛り上がりました。

西浦博さんのご感想

西浦博さん

楽しくお話させていただいたというのが第一の感想です。久米さんも堀井さんも話をどんどん引き出すように聞いてくださったので、感染症の数理モデルは本質的にはすごく難しい話なんですけれども、伝えなければいけないところだけをかみ砕いてお話しさせていだけたのがよかったと思います。最後に久米さんに「ちょっと分かった」と言っていただいて締めくくれたのは、本当にやっていてよかったなあと思いました。

久米さんのアドリブの回転の速さというのはさすがだなあと感じさせられました。それと、思っている以上にたくさんの資料を積み上げて線を引いて調べて下さっていて、本当に研究熱心な方だなと感じました。ありがとうございました。

「今週のスポットライト」ゲスト:西浦博さん(北海道大学大学院教授)を聴く

次回のゲストは、「野良桜」撮影・小野寺宏友さん

3月30日の「今週のスポットライト」には、東京都心のサクラを撮影しているフォトグラファーの小野寺宏友さんをお迎えします。上野公園のような花見の名所ではなく、ビルの谷間や線路わきにひっそりと1本たたずんでいるサクラを「野良桜(のらざくら)」と名付けて、撮り続けています。

2019年3月30日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190330140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)