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「映画『ブラック・クランズマン』公開記念〜プリンスが歌うあの曲の意味を探る」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム

「映画『ブラック・クランズマン』公開記念〜プリンスが歌うあの曲の意味を探る」

【高橋芳朗】
本日はこんなテーマでお送りします! 「映画『ブラック・クランズマン』公開記念〜プリンスが歌うあの曲の意味を探る」。

【ジェーン・スー】
悔しい! まだ見ていない!

【高橋芳朗】
『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』などでおなじみスパイク・リー監督の映画『ブラック・クランズマン』。第91回アカデミー賞で脚色賞を受賞したことでも話題になったスパイク・リー監督の最新作が3月22日より公開になりました。今日はこの『ブラック・クランズマン』のエンドロールで流れるプリンスの「Mary, Don’t You Weep」についてお話ししたいと思います。まずは映画の概要を説明しますね。

【ジェーン・スー】
お願いします。

【高橋芳朗】
これは映画のフライヤーからの抜粋になります。「黒人刑事が白人至上主義の過激派団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査するという衝撃の実話を映画化。人種差別問題が加熱するアメリカを背景に、KKKへの潜入捜査をコミカルかつ軽快なタッチで描きながらも時に緊張感を交え、見るものに強烈なメッセージを残すリアルクライムエンターテインメント」と。

【ジェーン・スー】
これさ、どうやって潜入するの? まず最初が気になるよね。

【高橋芳朗】
それは……あ、言わない方がいいのかな?(笑)

【ジェーン・スー】
そうだよ、楽しみにしてるんだから。頼むわ!

【高橋芳朗】
すいません(笑)。この『ブラック・クランズマン』、いまの説明にもあるように緊張と緩和を織り交ぜたストーリー運びが絶妙なんだけど、最終的にはハードな現実を正面から思いっきり突きつけてきます。まさに人種差別問題の根深さを改めて思い知らされる内容になっているんですが、そんな映画の最後、エンドロールで流れる曲がプリンスの「Mary, Don’t You Weep」になります。

M1 Mary, Don’t You Weep / Prince

【高橋芳朗】
この「Mary, Don’t You Weep」はプリンスが1983年に残したピアノの弾き語りによる未発表音源集『Piano & a Microphone 1983』に収録されている曲なんですけど、実はプリンスのオリジナル曲ではありません。南北戦争以前、19世紀から歌われている黒人霊歌なんですよ。1960年代にはフォークシンガーのピート・シーガーが歌ったことによって公民権運動のキャンペーンソングとしてリバイバルしました。

M2 Mary, Don’t You Weep / Pete Seeger

【高橋芳朗】
先ほど紹介したプリンスのバージョンは歌詞を変えて歌っているんですけど、オリジナルの歌詞は基本的に「メアリー、泣かないで。ファラオの軍は海に沈んだのだから」というフレーズの繰り返しになります。これはどういうことかというと、旧約聖書の出エジプト記に基づく歌詞になっているんです。エジプトで奴隷にされていたユダヤ人をモーゼが海を割って逃して、彼らを追ってきたエジプトの王ファラオの軍隊が海にのまれて全滅するという、あのお話に由来しています。

つまり「Mary, Don’t You Weep」は要約すると「神様は信じる者を守って、いずれ悪を罰してくれる」という歌になります。だから『ブラック・クランズマン』は非常にヘビーな後味の映画ですけど、最後にこの「Mary, Don’t You Weep」を流すことによって希望や救い、祈りを提示していると。神様はいずれ悪を罰してくれる、差別主義者はいつか必ず滅びるだろうと暗に示しているわけです。

そして、いま流れているピート・シーガーのものと共に「Mary, Don’t You Weep」のよく知られているバージョンがゴスペルグループのスワン・シルバートーンズによる録音になります。これもピート・シーガーと同じ1959年の作品ですね。

M3 Mary, Don’t You Weep / Swan Silvertones

【高橋芳朗】
ピート・シーガーのものともまたちょっと印象が違いますね。

【ジェーン・スー】
ああ、本当だ。ぜんぜん違うね。

【高橋芳朗】
このスワン・シルバートーンズの「Mary, Don’t You Weep」は途中にアドリブでこんなフレーズが入るんですよ。「I’ll be a bridge over deep water if you trust in my name」。直訳すると「私を信じるならば私は深い海に架かる橋になろう」みたいな意味になるんですけど、実はこのフレーズにインスパイアされて作られたのがサイモン&ガーファンクルの「Bridge Over Troubled Water」(明日に架ける橋)なんです。1970年の大ヒット曲。

【ジェーン・スー】
へー、そうなんだ!

【高橋芳朗】
「明日に架ける橋」はベトナム戦争や公民権運動で混迷するアメリカの社会情勢を受けて作られた曲で、歌詞の大意はこんな内容です。「君が苦しんでいるときは僕が支えになろう。荒れる海に架かる橋のように、自分の身を投げうってでも君の力になろう」と。これはもう完全に「Mary, Don’t You Weep」の意義を継承した歌と言っていいでしょうね。

「明日に架ける橋」の成り立ちは同じように黒人霊歌の「No More Auction Block」にインスパイアされて作られて公民権運動のアンセムになったボブ・ディランの「風に吹かれて」(Blowin in The Wind)に非常によく似ていますが、「明日に架ける橋」も「風に吹かれて」も両方ともゴスペルのスタンダードになっているのはこういう黒人霊歌に基づくバックグラウンドによるところも大きいのではないかと。「明日に架ける橋」は皆さんよくご存知の曲だと思いますが、こうした背景を踏まえるとまた聞こえが変わってくるのではないでしょうか。

M4 Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel

【高橋芳朗】
あまりに名曲すぎてちゃんと向き合って聴くこともなかなかないんですけど……うん、しょうもない感想ですがしみじみいい曲だなーと(笑)。

【堀井美香】
本当にいい曲(笑)。

【ジェーン・スー】
堀井さんが曲を聴きながら「平成も終わるなー」って(笑)。

【堀井美香】
一時期通っていたスナックのママがいちばん最後に必ず歌う曲がこれだったの(笑)。

【ジェーン・スー】
そうなんだ、スナックのママ(笑)。

【高橋芳朗】
でも確かに、いろいろなものをまとめてくれる歌かもしれませんね。スナックの閉店時に歌うのも「平成も終わるなー」ってフレーズにもすごくしっくりくる(笑)。あ、ちなみにこの曲でドラムを叩いているのは先週追悼企画をお届けした伝説のドラマー、ハル・ブレインです。

で、この「明日に架ける橋」、そして「明日に架ける橋」のインスパイア源になった「Mary, Don’t You Weep」、両方の曲を歌っているシンガーがいるんですよ。それは昨年他界したソウルの女王、アレサ・フランクリン。

【ジェーン・スー】
さすが。すべてを自分の曲にする女!

【高橋芳朗】
フフフフフ。アレサ版の「Mary, Don’t You Weep」は1972年、教会で行ったライブパフォーマンスを収めたゴスペルの名盤『Amazing Grace』に収録されています。

M5 Mary, Don’t You Weep / Aretha Franklin

【高橋芳朗】
そしてアレサ・フランクリンとスパイク・リーといえば、スパイク・リー監督の1992年の映画『マルコムX』。あの映画のエンドロールで流れる曲はアレサ・フランクリンが歌うダニー・ハサウェイのカバー「Someday We’ll All Be Free」(いつか自由に)でした。ダニー・ハサウェイの「Someday We’ll All Be Free」も公民権運動の盛り上がりを受けて作られた曲で「いつの日か我々は自由になるんだ」というメッセージソング。『ブラック・クランズマン』の最後に流れる「Mary, Don’t You Weep」も『マルコムX』の最後に流れる「Someday We’ll All Be Free」も、両方とも未来に希望をつなげるという意味で映画のなかで同じような役割を果たしているんですね。

M6 Someday We’ll All Be Free / Aretha Franklin

マルコムX
【高橋芳朗】
ただ、『ブラック・クランズマン』の最後に流れる「Mary, Don’t You Weep」も『マルコムX』の最後に流れる「Someday We’ll All Be Free」も両方とも希望を提示しているとも言えるんだけど、公民権運動の時代に民衆を鼓舞していた曲をいまもこうして歌い続けなくてはいけないということは、まだまだ戦いは続いているということ、まだまだ問題は解消されていないということでもあるわけです。「Black Lives Matter」時代のアメリカ、トランプ政権下のアメリカの現状を知る意味でも『ブラック・クランズマン』、必見の一本です。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

3/25(月)

(11:05) If You Were There / Wham!
(11:21) Heaven Is a Secret / Spandau Ballet
(11:32) I Cannot Believe It’s True / Phil Collins
(11:41) Last Chance / Level 42
(12:11) Marine Boy / Haircut 100
(12:25) TKO / Elvis Costello & The Attractions
(12:51) ストレート・ライフ / 上田正樹

3/26(火)

(11:07) Love The One You’re With /Stephen Stills
(11:25) I Can’t Hear You No More / Carole King
(11:37) Domino / Van Morrison
(12:13) Love’ll Get You Hight /Jo Mama
(12:23) Ready for Love /The Rascals

3/27(水)

(11:05) Cool Jerk / The Capitols
(11:21) Baby Don’t You Do It / Marvin Gaye
(11:35) You’ve Been Cheatin’ / The Impressions
(12:13) Do I Love You / Frank Wilson
(12:50) そんなに悲しくなんてないのさ / 古市コータロー

3/28(木)

(11:03) Waiting in Vain / Bob Marly & The Wailers
(11:40) Can’t Go Through With Life / Marie Pierre
(11:14) Once Upon a Time / The Main Attractions
(12:22) Silly Games / Janet Kay
(12:49) コンポジション・1 / 南佳孝

3/29(金)

(11:03) Rock the Boat / The Hues Corporation
(11:23) More, More, More / Andrea True Connection
(11:36) Casanova Brown / Gloria Gaynor
(12:09) Spring Affair / Donna Summer