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「究極の和英辞典」をたった一人で30年かけて作ってしまった男! 頴川栄治さん(外国語辞典編集者)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
5月4日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、「ポケットプログレッシブ英和・和英辞典」(小学館)をはじめ数多くの外国語辞典を世に送り出してきた編集者・頴川栄治(えがわ・えいじ)さんをお迎えしました。およそ40年間、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、タイ語の辞典を20~30作ってきたので、とにかく辞典に対する愛情と探究心がすごい! ついには仕事とは別に、たった一人でA4用紙3,800ページにもおよぶ和英辞典を30年かけて作ってしまったのです。


頴川さんは1950年、長崎県の五島列島・奈留島の出身。自ら「辞典ひと筋の人生」と言う頴川さんですが、実は理数系が得意で、東京都立大学では物理学を専攻。大学では好きな数学・物理のほかに新しい勉強がしたいと思い、やり始めたのが外国語でした。毎朝、NHKのラジオ講座でフランス語、スペイン語、ロシア語、中国語と立て続けに聞いてから大学に行くという生活を送るようになり、大学の教養課程ではドイツ語を履修。さらに大学4年のときにソルボンヌ大学へ短期留学してフランス語を学びました。このパリ留学が頴川さんにとって大きな転機となりました。

それまで理論物理学の研究室にこもりきりで暗い性格だったのが、各国からの留学生たちと交流するなかですっかり明るく変わったのです。そして、彼らと食事をしながら「エイジ、これはオレの国では○○○と言うんだ」「私の国では○○○と言うわ」という話を聞いているうちに、憧れていたアインシュタインは頭の中から消えてしまい、「外国語は面白い。外国語に関わる仕事をやろう」と思うようになっていました。

大学卒業後はドイツ語関連の出版社「三修社」に入社。その直前、頴川さんにとってまた大きな出会いがありました。大学でドイツ語を教わった先生から電話があり「今、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が日本に来ているんだけど、何人かが鎌倉に遊びに行きたいって言ってるんだよ。頴川くん、案内してくれないか」というのです。当時はドイツ語も英語も自信がなかったものの、大好きなウィーン・フィルのメンバーに会えるチャンスだということで引き受けた頴川さん。ドイツ語の辞典を片手になんとか彼らを案内して、喜んでもらうことができました。そしてウィーン・フィルのメンバーに言われました。「エイジ、これからぼくたちと一生付き合いたいなら、ドイツ語を勉強しなさい」。それでいっそうドイツ語の勉強に励んだそうです。「私は、何事も熱中すると寝ても覚めてもやり続ける性格なんです」と笑う頴川さん。今では英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、オランダ語、ロシア語、スウェーデン語が使えるそうです。独学でこれだけ習得できるなんて、本当にすごい。

ドイツ語が上達した頴川さんは入社から2年ほどしてドイツ語辞典の編集を担当するようになりました。そして1989年に小学館に移り、定年退職する2011年までずっと外国語辞典の編集に携わりました。小学館では英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、タイ語の辞典を数多く作りました。その一部をご紹介すると…


「ランダムハウス英和大辞典(第2版)」
「ポケットプログレッシブ英和・和英辞典(初版・第2版)」
「ワードパル和英辞典(初版)」
「プライム英和・和英辞典(改訂新版)」
「ベーシックプログレッシブ英和・和英辞典(初版)」
「プチパル英和辞典(初版)」
「ジュニアプログレッシブ英和辞典(初版・第2版)」
「ジュニアプログレッシブ和英辞典(初版・第2版)」
「プログレッシブ独和辞典(第2版)」
「プログレッシブスペイン語辞典(初版)」
「すらすら読めてくるくる書ける タイ文字練習プリント(初版)」
「オールカラー 6か国語大図典(初版)」

どうです、学生時代に使ったものがありましたか? これらの改訂版は今でも書店の学習参考書コーナーに並んでいます。この中にある「ポケットプログレッシブ英和・和英辞典」は100万部を突破した大ヒット。英和と和英の間に「旅行会話集」を入れたところ、実用的だということで驚異的な売行きとなったそうです。

そして頴川さんが「私の人生最高の出来」と言うのは「オールカラー 6か国語大図典」。これは、私たちの身の回りで目にするありとあらゆるものの形状、内部構造、仕組みを精密なカラーイラストにして、そこになんと6か国語(日本語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語)の名称表記をつけた辞典。イラストはなんと6000点。イラスト辞典はいろいろありますが、まさに他を圧倒するスケール。頴川さんはその編集をたった1人で担当して、2年がかりで完成。まさに渾身の1冊。


「一人で各国の辞典を翻訳して1冊の大図典にしました。例えば、自動車のいろんなパーツを英語ではなんて言うのか、ドイツ語、フランス語ではどうか、というのを6か国全部調べて、辞典にしているんです。パイプオルガンを調べたときは図書館に丸一日こもりきりでした。これは自分で言うのもなんですが、世界に誇れる辞典です」(頴川さん)。

熱中すると寝ても覚めても…という頴川さんの尋常でない「辞典愛」が伝わってきます。

外国語辞典というのは、文学者などの執筆者が数名から10人ぐらい、そして編集者数名が、4~5年かけて原稿を作ります。編集者は小さい文字の原稿を4~5年の間、毎日見ています。もちろんただ見ているのではなく、誤表記がないか、ほかにもっといい表現はないか、一言一句チェックしながらです。普通の人なら2~3ページも読んだら頭が痛くなりそうです。「辞典の編集はとてもつらい仕事です。1冊の辞典を作るたびに、メガネの度を変えました」と頴川さんは言います。そんな大変なことを会社でやっているのに、頴川さんは自分でも和英辞典を作ってしまったのです。たった1人で30年もかけて。気の遠くなる作業です。


頴川さんはなぜそんなことをしたのでしょうか。その動機の一つは、辞典の本文の「統一感」に対する不満でした。


「辞典は執筆者と編集者がそれぞれ複数います。そして、日本語、英語の感覚がそれぞれ異なります。例えば、執筆者が4人、編集者が2人いたとすると、8通りの組み合わせがありますから、感覚もそれだけ違ってきます。『我慢する』という言葉と『忍耐する』という言葉があって、私はどちらもほとんど同じ英語でなければならないと考えています。ところが執筆者が違うと、『我慢する』のところの英語と、『忍耐する』の英語が異なるんですね。それが1冊の辞典の中に混在していていいものだろうかという考えがあったんです。それを統一するためには一人でやるしかないということなんです」(頴川さん)

そしてもう一つ、頴川さんが自分で辞典を作ろうと思った動機があります。外国語辞典を編集していて、つくづく辞書の引きにくさを感じていたのです。つまり、辞典のレイアウトや表記について大いに不満があったのです。下の写真を見て下さい。


このように、多くの和英辞典は「2段組み」で、説明文や用例が「追い込み」(スペース節約のため改行・階段せずに書く)になっています。辞典はこういうものだと思っていましたが、言われてみれば、確かに引きにくいですよね。単語によっては用例だけで1ページも2ページも続いています。これでは自分が調べたい用例がどこにあるか、すぐには分かりません。ずらずら並んだ文字をひたすら追って、結局、載っていなかった…ということ、ありますよね。

「本当に引きやすい辞典というものが世の中に出ていないじゃないかと思ったんです。だったら私が作ってやろう! そう思ったんです」(頴川さん)。

頴川さんが作った辞典が下の写真。どうでしょう。従来のものと比べて格段に見やすくなっています。



さらに頴川さんは、一つの語に対して取り上げる用例にもこだわりました。

「例えば『態度(attitude)』という単語の前後にどういう日本語が結びつくかを調べたら、約160ありました。私の辞典にはそれをできるだけ載せています。ところが、ほかの和英辞典をいろいろ見てみたんですが、だいたい10くらいしか載せていません。辞典というのはどういう人が引くか分かりませんから、できるだけいろいろな需要に応えられるようにしたいと思って私は作りました」(頴川さん)。


世界一引きやすい〝究極の和英辞典〟を作ることに情熱を燃やし続けて30年。頴川さんはついに去年(2018年)、見出し語7万語、3,800ページにもおよぶ原稿を完成させました。タイトルは『句例中心の日英対応コロケーション辞典』。コロケーション(Collocation)とは「語と語の並べ方、配列、つながり」という意味。頴川さんは「コロケーションは『語と語のむすびつきやすさ、相性』のことで、今の辞典で最も重要なものです」と言います。コロケーションをどれだけ豊富に知っているか、コロケーションをどれだけ使いこなせるかが、自分の言いたいことを相手にきちんと伝えるコツであり、よりよい文章を書くための道なのです。

「辞典の編集者はみんなコロケーションを意識しています。でもここまで徹底してコロケーションを意識した辞典はないと思います」(頴川さん)。

外国語辞典の編集者は外国語に堪能であることは当然ですが、実は、日本語の表現にこそ精通していなければ、いい辞典は作れないのです。「この日本語、英語にすると何て言うんだろう」というときに、いくつ用例を思いつくことができるか。英語をたくさん知っているだけではだめで、日本語をどれだけ知っているかも重要なのです。

例えば、頴川さんの辞典で「灯台」を引くと、「Lighthouse」という英語に続いて、「『灯台もと暗し』の灯台は、灯明台のこと」という説明まで書いてあります。この場合の「灯台」とは、昔の日本人が暗い中でろうそくをともすときに使っていた「燭台」「灯明台」のことなのです。考えてみれば、日本に灯台ができたのは明治元年ですが、「灯台もと暗し」という表現はもっと前から使われています(井原西鶴の「世間胸算用」にも出てきます)。ですから、海を照らす灯台は「灯台もと暗し」の「灯台」とは違うのです。
頴川さんの和英辞典には誤用しやすい日本語についてまとめたページもあるんです。


「頴川さんの和英辞典は、辞典としてとても面白いんですが、〝読みもの〟としてとっても面白いと思います」(久米さん)

頴川さんはこの辞典を出版するための足がかりとして、30年間の編集作業の中で特に面白いと思った英語表現を集めたものを『600点最速到達! TOEIC L&Rテスト 必ず出る単語&フレーズ』(宝島社)という本にして、今年(2019年)3月に出版しました。頴川さんが人生の半分をかけて作った、これまでとは全く違う究極の和英辞典、いま出版へ向けていろいろ働きかけているところだそうです。ぜひ出版されますようお祈りしています!

頴川栄治さんのご感想


私にとって久米さんは憧れの方でしたので、その方を目の前にしてどこまで自分の地を出せるか不安だったんですけども、軽妙な話り口に緊張感から解放されて話ができました。その点で感謝しております。

実は私が驚いたのは、久米さんはわたしよりはるかに英語の発音が素晴らしいということでした。「Collocation」を私は「コロケイション」と発音しましたが、久米さんは「カラケイシャン」とおっしゃっていました。30分話をして、久米さんが英語に関してかなり知識をお持ちだということが分かりました。今日は本当にありがとうございました。




「今週のスポットライト」ゲスト:頴川栄治さん(外国語辞典編集者)を聴く

次回のゲストは、「光触媒」発見者・藤嶋昭さん

5月11日の「今週のスポットライト」には、「光触媒」を発見した化学者で、東京理科大学栄誉教授の藤嶋昭さんをお迎えします。「光触媒」とは光が当たると汚れやニオイを分解する効果を発揮する物質のこと。藤嶋さんが発見した酸化チタンの光触媒反応は様々な分野に利用され、今では私たちの身の回りになくてはならないものになっています。

2019年5月11日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190511140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)