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宇多丸、『ザ・ファブル』を語る!【映画評書き起こし 2019.6.28放送】

アフター6ジャンクション

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこちらの作品、『ザ・ファブル』(レディ・ガガ「Born This Way」が流れる)……うーん、このレディ・ガガの「Born This Way」、一応主題歌ということなんですけど、このチョイスというか、これに関しては、最後の方、時間が間に合えばちゃんとね、言及したいと思います。

週刊ヤングマガジンで連載中の南勝久の人気コミックを、V6岡田准一主演で実写映画化。どんな相手でも6秒以内に殺す腕前を持つ伝説の殺し屋ファブルは、1年間、普通の人間として生活するよう命じられる。殺しを封印し、大阪で暮らし始めたファブルだったが、とある女性と出会ったことから、闇社会の争いに巻き込まれてしまう……ということでございます。共演は木村文乃さん、山本美月さん、福士蒼汰さん、柳楽優弥さん、そして向井理さん、安田顕さん、佐藤浩市さんなど、非常に豪華キャストでございます。監督はこれ、この番組でも以前にちょろりとご紹介いたしました、『ガチ★星』などの江口カンさん、ということでございます。

ということで、この『ザ・ファブル』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「やや少なめ」。あらまあ、そうですか。賛否の比率は褒めの意見が半分。けなす意見が4割。両論併記が残り1割。まあ、よかったところもあるし、悪かったところもあるというのが1割。これはつまり、いわゆる本当に、パックリ分かれた賛否両論でございます。

主な褒める意見としては、「岡田准一のアクションがすごい」「原作がよく再現されている」といったもの。一方、否定的な意見は「アクションシーンも結構凡庸。特に後半は盛り上がらない」とか「編集のテンポが悪い」とか「原作のギャグとシリアスのギャップがないため、全体にぼんやりとした印象」などなどのご指摘がございました。

■「待ってました! 岡田准一のコメディーとガンアクション」(byリスナー)

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「さおり」さん。「待ってました! 岡田准一のコメディーとガンアクション。ファンが見たかった理想型です。元々デビュー当時はコミカルな作品が多かったので、コメディー耐性が抜群の岡田くん」。『木更津キャッツアイ』とかもやられていましたからね。

「……顔の筋肉を最大限に使った変顔と、原作に忠実な家での格好……」。そうそう。全裸暮らしをちゃんとやりきっててね、それは偉かったですね。「……忠実な家での格好をやりきっていて、さすがとしか言いようがありません。アクションについてはここ最近、殺陣などが多かったので、『ジョン・ウィック』のような流れるガンアクションはめちゃめちゃテンションが上がりました。江口監督が『動きが早すぎて早送りしたと思われるのが悔しい』とおっしゃる通り、目が追いつかないシーンが多々あったので、もう一度鑑賞したいと思います。

エンドロールの『ファイト・コレオグラファー:岡田准一』が最高にカッコいいです。コメディーとアクション押しではあったけど、その中でファブル(寓話)と呼ばれている主人公の人間性もきちんと描かれていて、一見すると分かりづらい主人公が大好きなキャラクターになりました」ということでございます。

一方、ダメだったという方。「リスキックス」さん。「役者陣はすごくよかったし、漫画原作映画の底辺が上がってきたと考えれば無しではないが、言いたいことはまあまあある、というような感じでしょうか。とにかく序盤と終盤の見せ場となるべきアクションシーンが盛り上がりに欠けます。この二つのアクションシーンは大人数が狭い中で混乱しながらも主人公に立ち向かってくるという点ではシチュエーションは全く同じですし、序盤であった廊下で複数人に1人ずつ対処していくというシーンではカットを切りまくって、ファブルの凄腕っぷりをちゃんと見せてくれません。

序盤で出てきた『命中率何パーセント』という字幕でファブルの脳内の計算を見せるという見せ方。そのエフェクトも最初見たときは『なんだ、そりゃ?』とは思ったのですが、個人的にはダサいから悪いのではなく、そのエフェクトを終盤のアクションには全く出さないという展開こそガッカリしてしまいました。どんなにダサくてもいいから、作り手側の『いや、俺たちはこれがかっこいいと心底思ってるから!』というような自信を見せてほしかった。中途半端にやめているから、ただただダサいだけで止まってて、こういうところは本当にはっきりさせてほしかったです」という。まあ、だから最初の字幕処理を後にもやれ、っていうことなんですかね。

「……どちらかというとお金も人力もそんなにかかってないところの方がよいシーンが多かった印象です」というようなことでございました。あとね、快適生活・村井さんからもメールをいただきまして。まあ両論併記に近いけど、ちょっとけなしの言葉が激烈でね。あと、ラジオネームがお前、これ読めるわけねえだろ!っていうラジオネームでね(笑)。村井さん、ちゃんと目を通してますよ!

■まず大前提として、日本のアクション映画史に残る非常に重要な一本

はい。ということで『ザ・ファブル』、私もTOHOシネマズ六本木で2回、見てまいりました。作品としては松竹系なんですね。今回、まずちょっと私、先にこれだけは言っておきたいです。今回の映画『ザ・ファブル』、日本のアクション映画、特に銃撃ガンアクション描写を多く含む作品としては、間違いなく歴史に残る、非常に重要な1本です。これは断言いたします。

特に、やはり岡田准一という、日本人のスター俳優としては稀代のアクション・格闘術スキルを持つ存在が、この時点でやれることをやりきった、その最新の成果として、兎にも角にもリアルタイムで……要は「日本のアクション映画もここまで来たか!」っていうのを体感していただきたいという意味で、劇場に駆けつけていただきたい、その価値は間違いなくある1本!という、これは保証いたします。

ただですね、やろうとしていること、やれていることのレベルが高い分……非常に志も高いし、達成しているレベルも高い分、見る側のこちらも、「だったらここはなんでこうなってしまうの?」とか、「もったいなくない?」みたいな、要求レベルもどんどん比例して高まってしまう、というところも確実にありまして。両手を上げて「無条件降伏!」という風にできないのが、こちらもちょっと残念ではあるんですけども。

とにかく、後々ちょいちょい苦言っぽいことを、僕、多めに言うかもしれませんが、まずその前に、大前提として、この作品が十分、そのアクションということに関しては、高い達成度と、あとは今後につながる可能性を示しているという、このことだけはちょっと最初に先に言っておきたいと思います。そこだけは絶対的に評価してますし、その一点をもって、リアルタイムで見る価値が絶対にある作品だ、っていうことだけは揺るがないと思っておりますので。それを先に言っておきますね。

■原作コミックは、「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした」(cギンティ小林さん)+『闇金ウシジマくん』的犯罪描写

ということで、ぜひそれを頭に入れておいていただきつつ……っていう感じなんですけど。まず、週刊ヤングマガジンで2014年から始まって、現在も連載中。南勝久さんによる原作漫画『ザ・ファブル』というのがあって。で、この2014年っていうのが、映画秘宝のギンティ小林さん命名……これ、この「ギンティ小林さん命名」っていうのを何度言っても、「宇多丸がこう言っていた」とか言う人が後を立たないから、何度でも言うけど! 映画秘宝のギンティ小林さんが命名、「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした」映画の、2014年はまさに当たり年で。

『イコライザー』が2014年9月にアメリカ公開、2014年10月に日本公開。『ジョン・ウィック』が2014年10月にアメリカ公開で、日本はちょっと遅れて1年後の2015年10月に日本公開。そう考えると、『ザ・ファブル』が2014年11月に連載を開始してるっていうのが、すっごいシンクロニシティっていうか、先見の明と言いますか、そういう感じなんですね。で、とにかく超人的な殺人スキルを持つ殺し屋と、その業界ネットワーク、っていうこの設定は、非常に『ジョン・ウィック』的と言えるし。そいつが一般人に紛れて穏やかに生活しようとしてるんだけど、罪のない一般人の知人の身に、暴力の影が忍び寄ってきた時、ついに一肌脱ぐ!というこの感じは、『イコライザー』的でもあって、という。

ただしそれを、言ってみれば『闇金ウシジマくん』的な、現代日本を舞台にしたリアリズム、犯罪描写、底辺社会描写であるとか……アンド、僕が連想したのは、望月峯太郎的なオフビートセンスっていうかね。特に『バイクメ~ン』とか『鮫肌男と桃尻女』とか、あのあたりの感じ。それで語っていく、という、大雑把に言えば、原作はそんなバランスの漫画なんですね。で、僕もこのタイミングで遅まきながら……評判は聞いてたんですが、遅まきながらようやく、これまでに出ている18巻を全部買って読みましたけど。評判通り、まずこの原作漫画が、無類の面白さなんですよ。もうめちゃくちゃ面白い!

18巻目を読み終わって、「ええっ、ここまでしか出てないの? 早く続きを読ませてよ!」ってなると同時に、「えっ、この話、いつか終わるんだよね?」って思ったら、ちょっと悲しくなってきちゃったぐらい。本当にすっかりファンになってしまいました。ちなみに今回の映画は、単行本で言うと7巻目の途中ぐらいまでを映画化しております。そんなね、和製「ナメていた相手が実は殺人マシーンでした」物の原作漫画を映像化するにあたって、最大のキーとなるのはね、これは先ほども言いました、主人公・佐藤アキラことファブルを演じる、岡田准一さん。

原作のキャラに対して、岡田さん……まあイケメン化しすぎっていうのは本作全部のキャストがそうなんで、それはまあ置いておいても。ちょっと、一目で「只者じゃない」感がビンビンすぎるっていうか。原作の、ただのチンピラにしか見えないっていう感じ、はっきり言ってナメられがちなところがあってこその、「ナメてた相手が〜」なんだけど。「いや、岡田さん、その佇まいの人は、誰もナメないっすよ!」っていう、ナメられ感がないっていうのはちょっと、その原作とズレがあるかなっていう気はしますけども。ただ、何よりも肝心なのは、そのアクション俳優としてのスキル、というところにある。

■「日本のトム・クルーズか?」驚異的スタントをこなす主演・岡田准一

特にね、岡田さんは、『SP』以降ですかね、本格的にアクション俳優としてのスキルが開花した感があって。で、映画秘宝のギンティ小林さんの記事によれば、岡田さん、カリとジークンドーとUSA修斗のインストラクター資格を持っている、っていう。「えっ? やりすぎでしょ、それ!」っていう(笑)。あと、昨年の木村大作さんの監督作品『散り椿』という時代劇、これで、殺陣の振付師としてもクレジットされていたりとか。もう要は、アクション映画、アクション俳優として、非常に意識高く、技術の向上に努められてきた方、ということなんですね。

で、そんな彼が今回の『ザ・ファブル』の映画化では、なんと海外から……フランスの方ですね。『ボーン・アイデンティティー』とか、『96時間』のニ作目、三作目などのアクションを担当した……特に『96時間』のニ作目、『96時間/リベンジ』。これ、私はウィークエンド・シャッフル時代のシネマハスラーで2013年2月2日に評しましたけども。クライマックスで、リーアム・ニーソンとゴリゴリのタイマン勝負……なんか硬い台みたいなところにゴツーンとなって、タイマン勝負を見せていたアラン・フィグラルツさんという方。この方との共同アクション監督も、岡田准一さん、務めている。

プラス、スタントコーディネーターの富田稔さん、というチーム。この三者のチームなんですけども。というわけで、とにかくその、日本のアクション映画としては異例なぐらい、バッチリな布陣で。しかもその1人が主演俳優、っていう。「トム・クルーズか?」っていうことになっているわけですよ。というわけで、先にちょっとこの話からしちゃいますけども、特にクライマックス。ゴミ処理場の内部での、一対多数の銃撃戦&格闘っていうのがある。

これはですね、後ほどちょっと詳しく言いますけども、フレッシュな工夫もたくさん盛り込まれてるし……それこそですね、この、なんか廃ビルの中にいっぱい敵が待ち構えていて、主人公が1階ずつ敵を全員殲滅していく、っていうこれ、松田優作の『遊戯』シリーズなどから脈々と続く、日本ガンアクション映画のクライマックスにありがちなシークエンスなんですが。それを、一気にネクストレベルに持っていった感があるシーン。ぶっちゃけこの『ザ・ファブル』という映画、このゴミ処理場シーンに全てをかけている、この一点突破で行く!っていう感じの作品でもあると思うんですけどね。

たとえばですね、誰もがまず、ド頭で度肝を抜かれると思うんですけど。あの、ゴミ処理場に潜入する際にですね、岡田准一さん演じるファブルが、壁と壁の間を、手と足を突っ張って、ピョンピョンピョンッて、結構なスピードで登っていくところ。あれ、惜しむらくはマスクをかぶっている上に、地上からの見上げるショットだけなんで……せっかく岡田准一さん本人による、本当に驚異的なスタントなんだけど、それを本人がやっているっていうことがはっきりわからない、っていうのはちょっともったいない。せめてちょっと、上から見せるショットとかもあってよかったんじゃないかな、とは思うんだけど。

とにかく、岡田准一、このピョンピョンピョンッて登るところだけでも、恐るべし!ですよね。顔も見えないのにこんなにがんばっちゃう。本当にいま、トム・クルーズに最も近いのは彼じゃないか、とすら思ったんですけどもね。

日本だからこそ生まれた「リアルなガン・アクション」とは

加えてですね、この工場でのクライマックスは、現代日本を舞台にした映画としては近年異例なほど、多数の銃弾が飛び交う場面でもあるんだけど。ちゃんとリアルと荒唐無稽、ケレンのバランスが、絶妙に取られている、という風に僕は思っていて。

ファブルが銃を持っている。ただ、メインで使用するそのナイトホークカスタムという愛用銃。これ、原作通りですけど。バレル、銃身と、弾は手製で作ってるわけです。要するに、一旦捨てちゃったから。で、一応銃は持って行ってないことになっているから。これも原作通り。いちいち一発撃つたびに、火薬の量が少ないからブローバックしないため、手でスライドを引いて、薬莢を捨てて、(弾を)入れ替えなきゃいけない、という動きがある。これも本当に原作通りなんですけども。

今回の映画では、そのカシャッていちいち手でスライドを引いて装填する動きを、追っ手との接近戦、格闘の手数の合間に、それをものすごいスピードで……格闘の手数の中で、「カシャッ、ドンドンドン、カシャッ、ダンッ!」って、ものすごい手数、スピードの中に挟んできていたりとか。あるいは、弾が切れたら、そこらへんにある棒を使ってまた反撃したりとか。あるいは、ハンドガンそのものを凶器として使う。グリップ側をバーン!って叩くのに使ったりとか、足を引っ掛けるのにも使っていましたね。

とか、敵の銃を奪った後も、敵が全弾撃ちつくした後、っていう描写だから、ちゃんと敵のベルトにあるマガジンを取って、マガジンチェンジをしたりとか。あとは、スライドを引き直したりとか。そういういわゆるリアルなガンアクションの動作を、やはり目にも留まらぬスピードの格闘&移動アクションの間に、きっちりとポンポンポンポンッて、はっきり言って本当に目にも留まらぬ早業で……初見だと全部の動きを把握するのは不可能なぐらいですね。

で、なおかつ「誰も殺してはいけない」っていう大きな、一大ハンデっていうのもブチ込んである。それも込みで……要はこういうことです。それを入れることで、「日本のガンアクション映画ならではの制限要素」を、オリジナリティーに転じる工夫をしまくっている、ということですね。手製の銃だからブローバックしないのでコッキングする、なんて、アメリカのアクション映画だったら考えられないわけじゃないですか。でも、日本だからこそ、それがリアルだし、ひとつのアクションとしても面白みを増してる、っていうことになるんですよ。これは本当に上手いし、素敵だなって思いましたね。

それでいて、その巨大なゴミ処理場の、ドッカーンとゴミを捨てる、デカい巨大な穴があるわけですよ。あれ、よく見つけてきましたね。その穴のところに、鉄の小橋みたいなのがスーッと1本伸びていて、その先っぽに、柳楽優弥さん演じるヤクザの小島というのが、先端の部分に椅子に座った状態でくくりつけられている。非常にその絵面自体が、「ワオッ!」っていうような、ケレン味たっぷりな、ハッタリ味たっぷりな画で。それもすごくアガりますし。

■劇的さを増す、「ほんの一瞬の“溜め”」

で、そこにバーンと殴り込みに来たファブルが、わざと、その小橋を吊っているワイヤーを……しかも他と格闘しながらの合間で、そのワイヤーを少しずつ撃って。で、ワイヤーが切れて、ボーンと落ちていくその橋に向かって、一気に駆け抜けていく!っていう。そういういい意味で荒唐無稽、ド派手な見せ場もしっかりあって、楽しい。で、落ちていく橋に向かって駆けて行き、そこの先っぽに柳楽さんがいるっていうそのアクション自体、ちゃんと本人たちがやっていて、大変危ないショットだった、っていうようなことを(監督はインタビューで)おっしゃっている。

しかもこれね、otocotoっていうサイトの岡田さんのインタビューによればですね、こんなことを言っている。「走って助けに行く時に、一瞬、1コマ分、止まるようにしたんです。すごく細かいことなので観客のみなさんは気づかないかもしれないけど、実はあれをやるかやらないかで、画がものすごく変わるんです」「だけど、どれだけ優秀なアクションチームであっても正解を出すのは難しいと聞いて、監督からも判断を任されたので、一瞬だけ止まる方を選択しました」とおっしゃっている。

で、それを意識して僕、もう1回見たら、たしかにその場面、橋のところにスタッと降り立った瞬間に、まさに1コマ分級のほんの一瞬、タメ的なものを取って……でも、本当に一瞬です。一瞬パッて(立ち止まって)、そこからグッと走り出してるんですよ。それによって、その落ちる橋の先端に向かってダッシュするというそのアクションの、メリハリと、劇的さというのかな、それがより増していて。たしかにすげえかっこいい画に(なっている)。仮にこれ、止まっていなかったら……たしかにそう(だいぶ印象が異なるアクションになっていた)かもしれない、っていう風になっていて。岡田准一、ちょっと恐るべしでしょう!っていう感じですね。

あと他にも、さっきの工場シークエンスの終盤、福士蒼汰くん演じるチャラい若手殺し屋・フードっていう……原作に比べるとこのフードの殺し屋、かなりポップかつ強い――フード、こんなに原作では強くないです――強い存在になっていましたけども。この映画オリジナルのアレンジとして、上下階に分かれて、この2人はスキルが拮抗しているからということなのか、まるでダンスをしているような、それでいてリアルさや切迫感は損なわれない、という絶妙なバランスでの対決シーンなんかも、意外とこれまで他では見たことがないタイプのガンアクション、っていう感じでできているかなという風に思いました。

■淀みきった男たちの生々しい関係性を描くのが江口カン監督の持ち味

ガンエフェクトはおなじみ、納富貴久男さん率いるビッグショットがやられていますけども。それとか、要所要所、その銃器の種類とかも、わりと原作通りにしてあって。例えば光石さんが演じている組長が持ってるのはルガーという……しかもルガーなのにはちゃんと意味があるんですよね。ちゃんとしてるなと思いました。それ以外だと、先ほども名前を出しました、これ、アクションシーン以外のところですけど、柳楽優弥さん演じるその出所したての狂犬系ヤクザの小島……これ、柳楽さんはちょっと目にアイラインを引いていますかね? 目がちょっと異様なヤバさなんですけども。

特に前半部の、底知れない恐ろしさ感。後半はちょっとね、彼のおどけ系脅しが、やりすぎてないか?っていう感じになってくるんですけども。前半の底知れない感じ、面白かった。特に、自転車に麦わら帽でお気楽に登場したかと思いきや、容赦ない、ピッ!ていうナイフでの一撃。あそこはですね、まあもちろん柳楽さんもそうなんですけど、小島のその暴力と圧を受ける、風間っていう役柄の加藤虎ノ介さんという方。この方が上手いんですよね。あの、お腹を刺されているのに、「そ、そんなこと言ってないやん……友達やん!」って(笑)。あそことか、すごい見事なものだと思いました。

思えばその監督、今回白羽の矢が立った江口カンさん。以前、この番組でもちょろっと紹介した『ガチ★星』という2017年の監督デビュー作も、競輪を題材にした、まあ僕表現で言うところの「負け犬たちのワンスアゲイン物」の、本当に良作でございました。素晴らしい作品でした。あれでもこういう、なんというか淀みきった男たちの、そういうマウントし合いも含めた関係性みたいなものが、非常に生々しく描き出されていたな、という。あの場面は、江口さんの味がやっぱり出てるなと思ったあたりですね。

■ギャグ要素や音楽演出に難あり

ただですね……今回の映画版『ザ・ファブル』に関しては、最初に言った通り、ちょっと両手を上げて全面支持とは言い難いところも、正直、多々ある映画ではございました。いちばんの問題は、まあ当然いちばんの難関でもあったということなのはわかりますけども、やっぱり原作にもあるユーモア、ギャグ要素とのバランスの取り方……漫画だったら許せるけど、映画で、実写の人物が演じるとちょっとやり過ぎになっちゃう、許せなくなっちゃう、っていうバランスは、難しいとは思います。けどね……っていう。あとね、原作からの話のまとめ方も、非常に疑問な部分がありましたし。あるいは演出の仕方。特に音楽に関してかなり、僕は難を感じるところが多かったですね。

冒頭からの一連の流れをちょっと例にとってみますと、まず、料亭みたいなところで、日本のヤクザとロシアかなんかのギャングが、親睦会的なことを開いている。そこにファブルが現れて皆殺し、というくだり。まずド頭で……先ほどのメールにもあったこと、僕は一理あるなと思います。クライマックスと同じ一対多人数との立ち回りを、わりとはっきり見せちゃっているっていうのは、劇的効果としてどうなんだ?ってのもありつつ……っていう感じですね。

個人的には、こここそ原作に忠実に、リアル寄りのアクションで……やっぱりそのファブルの存在感とかスキルっていうものを、リアル寄りで見せるべきだったな、という風に思いますけども。まあ、それは置いておくとしても……あと、そのファブルの脳内計算をグラフィカルに、ちょっとやっぱりおかしい、ユーモラスな感じで見せるというのもまあ、ナシではないアイデアだとは思います。好みかどうかは置いておいて、ナシではない画であるとは思うけども。

そこで、その音楽……こういう大立ち回りの場面でデジロックを流すっていうのは、いくら何でも既視感が強すぎるっていうか、ちょっといまは安易さを感じさせる音楽演出だな、っていう風に言わざるを得ないし。それより何よりですね、その銃撃シーンと並行して、木村文乃演じるファブルの助手的な存在・ヨウコが……ちなみに木村文乃さんは、ルックスを含めて、原作にかなり見事に寄せていると思いましたけど。彼女が、オリエンタルラジオ藤森さん演じるチャラ男を酔い潰して遊んでいる、というくだりが、なぜか、そことカットバックするわけですね。

たしかに原作でもヨウコのキャラクターを印象づけるエピソードではあるんだけど、その、ファブルがやっぱり恐ろしい殺人マシーンであることを示すくだりと並行して、いちばんコミカルなくだりを並行して見せる意味が、よくわかんないんですよね。「どっちも只者じゃない」というのを見せたいのだとしたら、それはとんだ見当違いだと思います。ファブルはプロとして、仕事してる。ヨウコのこれは、遊びでやってるだけ、暇つぶしなんだから。

あと、今回の映画版だけだとヨウコの役割ってなんだかわかんないんですよ。出番があんまりないから。だから、彼女のふざけ要素を、そのファブルのプロ的行動と並行して見せるっていうのは、はっきり僕は、逆効果以外の要素がないと思うんですね。さらにその後、ファブルが捨てたバレルが、海底に沈んでいく中での、タイトルバック。ここはかっこいいんですけど(※宇多丸補足:ただし、証拠を毎回同じ場所に捨てている、ということになるので、プロ中のプロの行動としては、明らかにリアルさを欠いたアレンジではありますが)、その後に佐藤浩市さん演じるボスとの会話場面になって……ここで、そのファブルが異常な猫舌っていう原作にある設定を強調したいのか、わかりやすくコミカルな劇伴、音楽が流れ出すんです。「ポンポコポン……」みたいな。

で、あまつさえ木村文乃さんが、その魚を冷ますために「フーフーして」って言われて、声を出して「フー、フー」って言っているわけです。要するに、このシーン全体をおどけたトーンにしようとしているんですけど……まず単純に、「笑わせたいシーンで“コミカルな”BGMを流す」という演出センス自体が、ダサい上に、逆に笑いづらいからやめてくれます?っていう風に僕は思いますし。あと、ここはシーンとしても、本当はそっちを強調すべきシーンじゃないと思うんですよね。

■「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした」ものの最大のカタルシスポイントを外しているのが……もったいない!

ルール設定と世界観の提示にかかわる、意外と大事なくだりのはずなんですよ、ここは。なのに、そのファブルのおもしろの方を強調しちゃってる、っていうのはこれ、シーンの解釈としてもどうかと思う。事程左様に、いくつかの、特にコミカルなシーンでは、悪い意味でここ10年以上の日本映画にありがちな、緩んだ演出が目立つ。例えば、佐藤二朗さんにアドリブさせて……って、面白いは面白いんだけど、なんかね、福田雄一さん作品っぽくなりますよね。

原作通りにやってるディテールやエピソード自体は結構多いはずなのに……っていうことで、たぶん、そもそもこの『ザ・ファブル』という物語のキモ、その解釈が、江口さんや脚本の渡辺雄介さんと僕とでは結構違う、っていうことだと言われれば、それまでかもしれませんけど。特にがっかりしたのは、「ナメてた相手が実は殺人マシーンでした」もの最大のカタルシスポイントであるところの、ナメくさっていた悪党やらなんやらが、主人公の真の強さを目の当たりにして、愕然とする。「なんでこいつはこんなに強いんだ?」「何者なんだ、こいつは?」って……そしてなんなら、「こいつに手を出すんじゃなかった!」って、後悔をする。

で、向こうから見るとその主人公が、スラッシャーホラーの殺人鬼みたいに見える、みたいな。そういうくだりが、実は本作、1個もないんですよ。原作はちゃんとあるんですよ、これ。それと裏表の話ですけど、超悪いことをした、そして自分はその強さゆえにこういう悪事も許される、と思っているようなナメきった悪を、主人公が余裕で倒す。ねえ。これ、このジャンルのキモですよね。そういう勧善懲悪的なカタルシスの構造が、今回の映画版では、暴力団内部の権力闘争というところに紛れちゃって、著しくピントがボケちゃっている。

向井理さん演じる砂川は「悪そう」なだけだし、いちばん悪げだった小島は、むしろ助けられる側になっちゃってるし。で、フードも漫画とは違って、結局最後までナメきったまま終わっちゃってますね。フードは、「俺は全然相手にされなかった……」って(原作では)なっていたのが。だから、原作のバランスとも変わっていて、要はキモをことごとく外しちゃってるというあたりが、もったいないなと。

これね、ファブルとボス、そして小島と安田顕さん演じる海老原との関係を対にしたりするような、ドラマ的なアレンジがあまりうまくいってないのかな、とも思います(※宇多丸補足:要は、ファブルと小島を等価な比較対象にしてしまうと、ファブルの存在感がどうしても矮小化されてしまうのです)。せっかくの好素材なのに、もったいない。あとはもちろん「Born
This Way」。ああいう、文脈のない過去の有名な海外曲を使ったりするのは、本当にダサい!っていうのはありますが。

でもまあ、冒頭にも言ったように、日本のアクション映画として、ここから何かが始まるはず! という可能性に満ちた一作として、もちろん劇場で、リアルタイムでウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『凪待ち』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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