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宇多丸、『メランコリック』を語る!【映画評書き起こし 2019.9.6放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『メランコリック』(2019年8月3日公開)。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞して評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのはこの作品、『メランコリック』。監督の田中征爾、主演の皆川暢二、出演とアクション演出も手がけた磯崎義知さんという、この3人からなる映画製作ユニット「One Goose」によるサスペンスコメディ。

うだつの上がらない生活を送っていた主人公の和彦は、偶然訪れた銭湯で高校時代の同級生と再会。その銭湯で働くことになるが、そこは閉店後、殺し屋が仕事をする銭湯だった……という作品でございます。ということで、この『メランコリック』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「やや少なめ」。ただ、まあ公開規模がね、アップリンクで……いまのところアップリンク渋谷と吉祥寺でしか都内では見れません。テアトル新宿で拡大公開が決まったのがつい先程、解禁になった情報ということなので。

でも、賛否の比率は9割方が「褒め」。大好評でございます。褒めている人の主な意見は「今年のナンバーワン候補」「お仕事映画としても良くできている」「お話や設定に不自然なところがあるが、役者の魅力がそれを補って余りある」などがございました。ごくわずかだった否定的な意見は「もっとエグい話になるかと思ったら、そうならない」「主人公たちのやったことが何ら罰されないのはおかしい」。まあ、因果応報的にどうなんだ? みたいなね。まあ、そういう意見が出るのもわかるような着地ではあるんだけども。はい。

■「映画が進むにつれ、登場人物みんなが愛おしくて大切な存在に」(byリスナー)

というところで代表的なところをご紹介いたしましょう。「野菜好き」さん。「何の気なしにたまたま予定が空いたので見に行ったんですが……」。いいですね。そんな見方をして。いまは逆にもう評判が高まっちゃっているから。「……自分にとって大切な1本となりました。社会の中で自分の居場所や役割を見つけられないでいる和彦が、銭湯での(銭湯業務以外の)『仕事』によって承認されたり嫉妬したりする様はコミカルでありながら、感動しました。普段まとっているものを脱ぎ去った人々が交錯する『脱衣場』という場でのラストシーンは見事でした。

普段、交わることがない人が交わったこの人生の交差点での一瞬の出来事は、その瞬間が過ぎればそれぞれの目的地に向かって再び離れていくんだなと思うと切なくなります。脚本の粗さとか、やっていることが倫理的にどうとか、気になるところはありますが、それは登場人物の魅力で帳消しになります。最初は気持ち悪さ全開で見ていられなかった主人公・和彦も、妙な気遣いと優しさで和彦を許容する両親も、DQNっぽい松本も、映画が進むにつれて愛おしくて大切な存在になりました」ということでございます。

一方、ちょっとダメだったという方。「パエリアで卵かけご飯」さん。「巻き込まれ型の主人公が超ブラックバイトをすることになる作品『メランコリック』、途中までかなり期待しながら見ていたのですが、期待ほど面白くなりませんでした。上映前に主人公が人殺しを請け負う銭湯で働くという映画の大まかなストーリーを聞いて、ひたすら露悪的だったり凄惨な作品かもしれないと想像しました。こうした作品は好物ではありますが、それだけなら物足りないのではないかと不安でした。

しかし、『メランコリック』を見た感想はむしろ、露悪さやグロテスクさが足りないのが物足りないということでした」。まあ、やってることに対して、っていうこともありますよね。で、その映画の着地も、ちょっとどうなんだ?みたいなことを書いていただいて。「もっとダークかつひねりの多い作品になっていたら、と思いました」ということでございます。

あとですね、これ「主人公とは元トモ」さん。この方、いろいろと感想を書いていただいて、追記的に「私事ですが、映画の主人公を演じた皆川くんとは高校からの友達です」ということで。とにかく、劇中の主人公の和彦の人生と彼のキャリアが重なって見えて、本当によくがんばったね!ということで号泣してしまった、ということでございます。はい。

■「銭湯で死体処理」=一石三鳥のナイスアイデア

ということで、私もこの『メランコリック』、アップリンク渋谷で見てまいりました。あとこれはちょっとご厚意で、内覧用のネット上の試写的な映像を拝見させていただきました。もちろんアップリンクにもちゃんと行きましたけども……というのは、アップリンク吉祥寺に行こうと思ったら、売り切れで行けなかった回があったりなんかして。

ということで、東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞、そのほか世界の映画祭でも評価されたりしつつ……こちらのムービーウォッチメンのリスナー枠にも公開週から熱烈なリクエストが複数届いていましたし、口コミで爆発的に支持が広がっている作品、ということですね。そういうことで、たとえば昨年の『カメラを止めるな!』現象を連想される方も多いとは思うんですが。

『カメ止め』がね、あれは作品としてそもそもメジャー的な明快さを持ったストレートなエンターテイメントだったのに対して、この『メランコリック』は、もちろんわかりやすくめちゃくちゃ面白い、という要素がある作品ではあるんだけど、よりはっきりインディー映画的っていうか、グレーな味わいが魅力の映画でもありまして。そこは全然違うので……っていうところは言っておきたいかなと思います。

作ったのは、今回の主演でありプロデューサー、全ての言いだしっぺだという俳優の皆川暢二さん。それと、彼に声をかけられた脚本・監督・編集の田中征爾さん。田中さんはこれ、普段は他のお仕事をされながら監督を今回やられたという。そして、劇中で「松本」役として、その役柄の多面性を表現しきった見事な演技、プラス、ちょっと「えっ?」っていうぐらい本格的な格闘アクション、あるいはガンアクションシーンの構成、演出も手がけられた、磯崎義知さんという方。このお三方、三者による映画製作チーム、「One Goose」っていうのがまあ、皆川さんの一声で、一念発起して、自分たちの手で自分たちのつくりたい映画をつくろうということでつくり上げた一作、ということですね。もちろん超低予算……300万とかって言ってましたっけ。

で、彼らは、いきなり長編をつくる前に、パイロット版として短編版の『メランコリック』という作品をつくって、クラウドファンディングで資金集めをしたり、京都国際映画祭に出品したりしたという。で、僕はこれ、すいません。短編を全部は見られなくて、ネットに上がっていた予告編でしか現時点では見られていなくて、申し訳ないんだけど。ただ、その短編バージョンを見るだけで、「なるほど」と。みなさんがインタビューなどで言ってる通り、アメリカのドラマ『ブレイキング・バッド』の影響を受けたというのも、よくわかるルックだったりする。

たとえばキャラクターたちが、白っぽい防護服みたいなのを着ていたりして、という(※宇多丸補足:それまで闇社会とは無縁に生きてきた堅気の男が、あるきっかけからディープな犯罪に手を染めてゆくこととなる……というお話であることは言うまでもなく、です。念のため)。で、この短編版は実は、今回の長編『メランコリック』の最大のキモと言っていいアイデア……要は銭湯が、夜は殺人と死体処理用に使われている、という部分。これ、短縮版の時点でまだなかった、ブラッシュアップ要素のひとつでもある、ということなんですね。で、実際にこれ、言われてみればなるほど、大変理にかなっている、というこのアイデア。銭湯……掃除もしやすいし、あとこれ、今時はかまどのあるタイプの銭湯もそんなに多くはないらしいんですけど、それを見つけてきて。

あの火が灯っているかまど。あそこでまあ、死体を燃やしちゃえばいい、っていうことでですね。いろいろと考えてみると、なるほど理にかなってもいるこのアイデア、設定が入ったことで……まあ殺し屋兼死体処理屋っていうさ、なんかともすれば、特に日本ではちょっと、嘘臭くなりかねない設定や話じゃないですか。それがですね、登場人物たちにとっては、まるで普通のバイトや仕事と地続きの、日常的な業務でもあるようにちゃんと見えてくる、という……要はやっぱりそのリアルに、身近なものにしっかり感じられる。その銭湯という場であることで、ですね。

しかも、やってることはやっぱり殺しであり、死体処理でもある、という、オフビートでダークなユーモア。そのギャップからくるユーモアというのも、ずっと漂っていて。さらには、最終的な、テーマ的な着地にも、すごく説得力を増しているっていうところで、この銭湯というのは、まさに一石三鳥のアイデアだったな、という風に思いますね。

■とにかく先の読めないストーリーと魅力的な俳優たち

で、とにかく先の読めない……つまり「ああ、だいたいこういう設定だったら、こういう方向に行くだろうな」っていう風に、想像がつく方には、決して転ばない。「えっ、そっちに進む?」的な二転三転が楽しい、練り込まれたストーリーテリングと、全員ほぼね、無名の方々なんですが、全キャラクターが本当に、完璧にハマった演技・存在感。こんなに素晴らしい役者さんたちが、まだまだこんなにザクザクいるんだな、っていうのを、思い知らされるような役者のみなさん。

それと、先ほども言いましたけども、時おり挟み込まれる、ギョッとするほど本格的なアクションとバイオレンス……ただし、これは予算の関係もあるのか、グロさは抑えめ。ひょっとしたら、あえての抑えめなのかもしれない。これはちょっとわかりませんけども。

僕の好み的には、もうちょっとグロがあってもいいかなとは思いましたけど(※宇多丸補足:とは言えやっていることの重大性をしっかり際立たせる、言わば倫理的バランスのためにも、ということでもあります)。まあ、そこは抑えめな……しかし本格的なアクションとバイオレンスが、ボンと出てくる。それらに乗せられて、あれよあれよと見進めるうちにですね、最後には、意外とも思える着地にたどり着いて。「ああ、でもたしかにこの映画、最初からずっとその話をしてたよな」っていう風に、振り返って思う。なんか不思議にあったかい余韻とともにですね、エンドロールに、気持ち的には拍手したくなっているという、まあそんな映画ですね。

■日本でもまだまだいい役者さんがいるもんだな!

ちょっと順を追って話していきますけども。まず冒頭、アバンタイトルでですね、この銭湯を使った邪魔者処分業の、根本にあるサイクル、その非情さっていうのが、ごくごく簡潔にテンポよく示される。まず、すべての元凶であるヤクザの田中と言う役。「田中さんとか言わなくていい。田中でいい」なんて言われてましたけど。これを演じてらっしゃる矢田政伸さん、この方の貫禄がね、俺は……ジョアキム・デ・アルメイダってわかります? いろんな映画の悪役とかでよく出てくるジョアキム・デ・アルメイダさん、検索してみてください。『グッドモーニング・バビロン』とかで出てきたあの人ですよ。ちょっと似てるなと思って見てたんですけども。その貫禄もすごいですし。

そして何よりですね、これ、浜谷康幸さんという方が演じている、殺し屋であり、同時にあの松の湯という銭湯の、従業員のパイセン格でもある、小寺さん。彼がですね、特に最初の殺しの場面で、ナイフをフッと構えた時の、まさしく獣のような、あるいは蛇のような、「シャーッ!」という感じ……そのナイフを構えた瞬間に、僕はその、殺人者の目つきというものが実際にはどういうものなのかは知りませんけども、明らかに目の色とか身のこなしのモードが、やっぱり殺人者のそれにフッと変わる、その恐ろしさとか。本当にすげえなって感じで。このナイフの構え方なんかも、先ほど言った磯崎さんの、格闘技術指導の賜物ではあるらしいんですけども。

で、ですね、このツカミのショッキングな設定提示、っていうものがあってからの、主人公・鍋岡和彦くんの視点から本編が始まるという。演じるその皆川暢二さん。ご本人はですね、この写真なんか見る限り、堂々たる体躯のイケメンなんですけど、本作ではそのメタルの、要はちょっとあか抜けない感じのメガネをかけて、髪もなんか無雑作にね、もみあげなんかもボサッとだらしなく伸びた感じで。それでやや神経質そうな猫背で、要は社会的成功というものに対してコンプレックスを抱えた東大卒業生、というのを、とてもチャーミングに体現されている。

これは僕が個人的に知ってる東大生何人かとも、本当に雰囲気が似てて。「おおっ! 東大生、こんな感じの人、たしかに多いです」っていうね。さすがね、赤門の前で観察を重ねて研究した、というだけのことはあるなっていう。ちなみに途中、和彦くんがデートをしている場面で、ボタンダウンシャツの、襟のボタンを外してジャケットを着ていて。まあ彼なりのおめかしなんですけど、そうやって着ているのがなんか、ウディ・アレン風の着こなしだなと思ってたら、これ実際に監督の田中さんは、ウディ・アレンのファンだそうで。だからたぶんこのボタンダウンの襟ボタン外しも、ウディ・アレンオマージュなんじゃないかな?って思うんだけど。

あと皆川さん。ギョロっとした目つきが時おりね、ジェイク・ジレンホールに見えたりなんかして。とにかくちょっとね、いままでの日本映画にはいそうでいなかったタイプの、ちょっとだけ病的な雰囲気も表現できる主役級、っていうかね。「ああ、これはまたいい役者さんがいるもんだな」という風に思いました。

磯崎義知さん演じる「松本」の見え方が次第に変わっていくのがポイント

ともあれ、その主人公の和彦さん、東大法学部卒だけど、実質ほぼニート生活を続けている。特に明確な目的もないまま、ニート生活をふわふわ続けてる。彼自身、なんでこうなっているのか、そしてどうしたらいいのかっていうビジョンが、特にないままやってる感じ。

で、その彼との距離を縮めていくことになる高校時代の同級生・百合さんというキャラクター。これを演じてらっしゃる、このね、吉田芽吹さんという方がまた素晴らしい! この百合というキャラクターは、ともすれば主人公に都合がいいだけの、物語の展開上必要だからっていうだけの、主人公に都合がいいだけの、なんならちょっとキモいぞっていう感じの女性キャラにもなってしまいかねないところもあるキャラクターなんだけど。これがですね、この吉田さんの、非常に繊細な演技と、あとはもう、内からにじみ出るような愛嬌ですね。それで見事に、本当に生きた存在として、このキャラクターを印象づけていて。この役柄に、やっぱり説得力を持たせていると思います。

これ、ちなみに映画監督の谷口雄一郎さんという方のご厚意で、彼女の過去の出演作で『彼女がドレスを脱ぐ理由』っていうのも、このタイミングで拝見したんですけど。ここでもやっぱりね、とにかく魅力と才能にあふれた女優さんだな、という風に思って。今後もちょっと吉田芽吹さん、名前を見たら注目だなって思いました。まあ、とにかくそんな彼女の存在もあって、主人公・和彦は、その問題の銭湯・松の湯で、当然最初は何も知らないまま働き始めるわけです。

つまり、この時点ではいわゆる巻き込まれ型サスペンスとして始まるんだけども、しかし……っていうところが、この映画の面白いところですね。で、銭湯の主人である東っていうね、彼の飄々とした、底の見えない、海千山千のオヤジ感もいいですね。これ、彼の口癖で「オケーイ?」っていうね。あの「オケーイ?」、なんか韓国映画でソン・ガンホが無責任に言い放ちそうな感じで(笑)。その「オケーイ?」っていうのがまた、すごくよかったりしますけどね。羽田真さんという方が演じられている。これもいいですけども。

なによりもやはり、本作、特筆すべきは、先ほど言ったそのOne Gooseのメンバーの1人であり、アクションシーンの構成・演出も手がけられた、磯崎義知さん演じる松本という、頭が全部金髪の若者のキャラクター。この『メランコリック』という作品の核となるポイントは、この松本というキャラクターの見え方・印象が、どんどんどんどん変化していくっていう、ここだと思いますね。それは要するに、主人公・和彦から見たその松本の印象、というのとほぼ一致してるわけなんですけども。

最初はね、その風体とか物腰から、ただのチャラい若者、まあ、バカな若者だなっていう風に見えるわけです。「風呂が好きっすねー!」とかなんとかね、そういう風に見えるんですけども。屈託ないけどバカだな、って感じに見えるんですけども。ただ、主人公・和彦がですね、殺しの現場を目撃して、図らずもその死体処理の手伝いをさせられる。ここまではその巻き込まれ型サスペンスなんだけど、この『メランコリック』ですごい面白いなと思うのは、彼が(死体処理の手伝いをした特別手当、的に)ボーナスをもらったことで……ここが非常に意表を突くところなんですけども。

初めて労働の喜びと誇り、つまり「ああ、オレは役に立てるんだ!」っていう実感に、働き甲斐を覚え始めてしまう、という。ここがやっぱり意表を突くストーリーテリングで。「ああ、そっちに行くんだ!」っていうね。という風になり始めた矢先に、自分より下の存在だと無意識になんとなく見下していた松本が……つまり、主人公・和彦も、東大卒だけど自分自身はニートに等しいくせに、なんとなく見下してた。それは同時に、我々観客が無意識に抱いている、学歴差別だったり、人を見た目で判断する視線なんですけど。

表面的な、そういう差別的な視線を実は内面化してしまっている、っていうのがここで浮き彫りになるんだけど。とにかく、無意識に見下していた松本が、実は犯罪的な領域では、自分などよりもはるかに頼りにされる、なんなら有望株らしい、っていうことが明らかになってくる。そして和彦はそこに嫉妬する、というくだりがあります。それどころか、これは和彦もあずかり知らない……和彦が番台であくびとかしてる時に(笑)、松本は何をしてるかと言うと、中盤、ちょっとあっと驚く、とあるアクションシーンがある。そこで、松本の「その筋のプロ」っぷりっていうのが、どうやら通常のレベルではない、ということが観客には分かってくる、ということですね。

■社会の片隅でバディ化していく主人公たち

このあたりね、いわゆるガンアクション的なのが用意されていて、銃の構えとかもかなり……それこそあれじゃないですか、『ジョン・ウィック』とかでも使われている、あのセンター・アクシス・リロック・システム、近接戦における銃の構え方とかね、磯崎さんは、相当きっちり研究されていると思いますね。で、ただじゃあ松本が、いわゆる「非情な殺しのプロ」的な存在なのかというと、そうでもない、というね。彼的にはどうやら、あくまで生きるために、こういう風になるしかなかったからこうなった、というだけで。彼自身が邪悪な存在かというと、そうとも言い切れない。

むしろ見た通りの、はっきり「気のいいやつ」でもある、とかですね。だから、どんどん松本の見え方が、やっぱり場面ごとに、「ああ、こういう面もある」「でもやっぱりこういう面もある」っていう風に、どんどんどんどん、多層的に見えてくる。なので、和彦とのやり取りも、その言っていることは殺し、殺人の計画だったりとか、その死体処理とか、非常に犯罪的な、しかも重大な犯罪なんだけども、なんかそのトーンは、銭湯の普段のバイトとか……なんかバイトのシフトの話をしてるみたいな感じで(笑)。

「あの、ちょっとすいません! シフト変わってくれます?」みたいな。「ああ、そういえば和彦さん、休みだったんですもんね。助かります、すいません! ちょっとじゃあオレ、行ってきますんで」みたいな。なんかそんな感じ。まあ、要するに、そこでやってることの重大性に対して、でも言ってるノリはほとんどバイトの話、みたいな感じで。そこに、非常にダークでオフビートなおかしみが醸し出される。

あと、かわいいところもあって。まあ和彦にね、自分の言ったことを突っ込まれたりすると、「チッ!」ってこう、いまいましそうに舌打ちするのとか、なんか下品なんだけどかわいい!みたいな感じで。しかもこの舌打ちが、ちゃんとクライマックスできっちり生かされる! というね。これとかも非常に上手いですね。ということで、当初は全く対照的な存在に見えたこの2人が、特にその、さっきから言っている松本の見え方とか印象が変わっていく、非常に多面的な顔を見せていくに従って、次第にバディ化していく。

要は、世間的な幸せ像、成功像とは違うところで、「それでも生きてるんですがなにか?」な若者2人。彼らが居酒屋でする問答が、非常にこの作品のテーマそのもの、核心に迫っているところですけど。この2人、言っちゃえば東大卒と、まあおそらく学校なんかまともに行ってこなかったかもしれないというこの2人。非常に対照的なんだけど、次第に社会の片隅でバディ化していく、というその微笑ましさというのもある。

一方で、この銭湯をホームとする、その東という銭湯のオーナーを擬似的な家父長とする、疑似家族みたいなものがなんとかうまく回っている。この中ではほんわかしたもので。「ああ、お疲れ。今日は休みでいいよ」とかなんか言ってね。やってることは殺しだったり死体処理なんだけども、ほんわかした疑似家族にも見える。ただし、これはやっぱり、ヤクザ・田中という、社会的により高次の暴力的存在によって……ある意味、社会の構造の縮図ですよね。より強い存在によって搾取され続ける、という立場でもあって……というあたりで、さあ、果たして若い彼らは、どのような生き方をチョイスしていくのか?っていう話になっていく。

これが監督・脚本の田中さんによると、映画『セッション』における……僕の『セッション』の映画評の中でも言いましたけど、「この話はつまり、いいお父さんと邪悪なお父さんのどちらを選ぶんだ?っていう話なんだ」っていう風に僕、評の中で言いましたけども、監督の田中さんがまさに、その『セッション』的な、いいお父さんと悪いお父さんのどちらを選ぶか?というような話だ、っていうことをインタビューで答えてらっしゃったりしていますけども。

で、とにかくこの若者たちが、どう選択をしていくのか? なんなら社会の中で、非常に宙吊りだったり、片隅でいまはくすぶっている若者たちが、どういう生き方をチョイスしていくのか? それに対して古い世代はどういう風に対応するのか? というあたりは、おそらくですがやはりこの、いままでは無名だったこのつくり手たちの、若き情熱とか、志とか、ルサンチマンとか、諸々が込められているんだろうな、というね。そこにやはり、非常に熱いものがこもっている。漏れ出てしまう熱さがある、という感じですね。

で、着地はね、ここに違和感を感じてらっしゃる方もちょいちょいいましたけども、思いのほか、意外なまでにハートウォーミングなところに着地した、ように見える。なので、因果応報的にどうか?っていう風に感じる人がいるのはわからなくはない。ただ僕はですね、この映画を見てる途中から……たまにそういう映画、あるんだけど、「あの、ストーリー的な決着とかいいから、もう幸せになってくれます? 頼むからお前ら、幸せになってくれます?」って感じだす映画があって(笑)、これがまさにそうでした。

まあ、そういう意味でも僕はこの着地、全然受け入れられましたし。それ以上にですね、このハートウォーミングに見えるその着地。メールにもありましたけども、これもまた束の間の出来事、ということを示すかのようにですね、主人公・和彦の独白、ナレーションがかぶさっていく中で、「人は、こういう瞬間のために生きているかもしれないな」みたいなことを言ってる時に、フッと、風呂の下で炊いてるかまどが映るわけです。つまり、いままで死体を焼いてきたところ。

つまり、いずれは誰もがね、何らかの形であれ死んだりとか、まあ不慮の形で死ぬこともあるだろうし、ということで。まあ、ちょっと非常に不吉な、風呂のかまどの画が挟み込まれたりもした上での、「でも僕はね、一瞬のことかもしれないけど……」っていうところでプッと、ストップモーションで終わりますよね。ストップモーションで終わる、っていうのはつまりこれ……あの『ロッキー』のラストシーンのストップモーションに関して、スタローンがですね、「つまりこの瞬間が、この男の人生最良の瞬間なのだ」という風に、自ら解説をしているような意味で、その儚い一瞬でもある、ということを示している。

でも、ねえ。僕らだって、そういう儚い一瞬を求めて、映画館の暗闇に何度もね、今日も身を沈めに行ったりするわけですから。というところでやっぱりすごく、「はあ……」と沁みるものがありますよね。でね、これは脚本・監督の田中さんがですね、お仕事をされている合間でやっているんで、週末だけしか撮れなかった。しかもその銭湯が、営業してる時間外でしか撮れなかった、とかで、いろいろ撮影条件に厳しいものがあって。その撮影条件の厳しさが、正直、画面のクオリティーに現れているという風に思えるところもやっぱりありました。「ちょっとここ、無造作に撮りすぎじゃないか?」みたいに思うところもあるはありました。荒っぽいといえば荒っぽいところ、散見されます。

しかし、それを越えてやはり……まずはやっぱり、とにかく面白い! ですよね、これ。やっぱり、ストーリーテリングの工夫、そしてその、安易な方に行かないようにしよう、とする意志の強さ。そしてなんといってもこの、最高の役者陣たちに支えられた、生き生きとしたキャラクター。つまり、もう(現実に)生きてるとしか思えないですよね。あの人たちね。で、「あいつらにまた会いたい」ってやっぱり、完全に思ってしまう映画です。これはもう、いい映画の証明でございますし。ということで、非常に面白かったです! 彼ら、そのOne Gooseのみなさんに、しっかりした予算を与えたらどうなるか。メジャー会社のみなさま、いまがチャンスではないでしょうか?

僕は必ず彼らのね、そういう作品……今後とも、自主制作であっても見ますけども、そういう作品があれば必ず見ますし、そういう人はすごく多いんじゃないでしょうか? 「この才能に賭けずしてどうする?」という風に、メジャー会社のみなさんには言っておきたい。ぜひ劇場でいま、ウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ドッグマン』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

(ガチャパートにて余談)

ちなみに『メランコリック』、超楽しそうな打ち上げ&ストップモーションで終わる映画という意味では、『オーシャンズ12』の、なんかオマージュ感……ないかな? ないかな?(笑) 俺があの終わり方が好きだ、っていうのはあるんだけど。はい。

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