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「大ヒット中! 映画『ジョーカー』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム

「大ヒット中! 映画『ジョーカー』をより楽しむための音楽ガイド」

大ヒット中! 映画『ジョーカー』をより楽しむための音楽ガイドhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191011123320

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)

【高橋芳朗】
本日はこんなテーマでお送りします。「大ヒット中! 映画『ジョーカー』をより楽しむための音楽ガイド」。

【高橋芳朗】
先週金曜日、10月4日から公開になった映画『ジョーカー』の音楽に関するお話をしたいと思います。皆さん、もうご覧になりました?

【ジェーン・スー】
まだ見てないです。ちょっと怖くて見られないというか、なんか見ると人生観が変わるみたいに言われてません?

【高橋芳朗】
「心が弱っているときに見るとメンタルやられる」みたいなことを言われてますよね。では、まずは簡単に映画の説明をしましょうか。「『バットマン』の悪役としておなじみジョーカーの誕生秘話をホアキン・フェニックスの主演で映画化。ピエロのメイクを施して人々を恐怖に陥れる悪のカリスマがいかにして誕生したのか、原作のDCコミックスにはない映画オリジナルのストーリーで描く」。

【ジェーン・スー】
ジョーカーが出てくる映画はこれまでにも何作かありましたよね? でも、それぞれ違うお話なんですか?

【高橋芳朗】
そうですね。これはジョーカー誕生の前日譚的なお話になります。

【ジェーン・スー】
そうか、それぞれに違うんだ。

【高橋芳朗】
いまスーさんが話していたように『ジョーカー』については「世界の見え方が変わる」だとか「善悪の価値観や倫理観を揺さぶられる」だとか言われていますが、劇中で流れるいくつかの音楽の歌詞も本来の意味とちょっと違って聴こえてくるようなところがあるんですね。元気をもらえるはずの曲、楽しいはずの曲が不穏で禍々しい曲として流れてくるというか。

そんななかでまず最初に紹介したいのは、1960年にミュージカル『Bye Bye Birdie』の挿入歌として作られたスタンダードソングの「Put On a Happy Face」。これを同じ1960年に録音されたトニー・ベネットのバージョンで聴いてもらいたいと思います。ただ、この「Put On a Happy Face」に関しては劇中で曲が流れるわけではないんですよ。映画のキャッチコピーとしてアメリカ本国のポスターやトレイラーで使われているフレーズなんです。

【ジェーン・スー】
ふーん!

【高橋芳朗】
おそらくスタンダードソングの「Put On a Happy Face」から引用したものだと思うんですけど、これが映画の重要なキーワードになっています。劇中ではホアキン・フェニックス演じるアーサー、のちのジョーカーが「My mother always tells me to smile and put on a happy face」と独白するシーンがあって。彼は幼いころから母親に言われ続けてきた「いつも笑って幸せそうな顔でいなさい」という教えを胸にずっと生きてきたんですね。でもそうやって真面目に暮らしていたアーサーも、社会から爪弾きにされた挙句孤立してダークサイドに堕ちていくことになります。

そんな闇堕ちしたアーサーにとっての「Put On a Happy Face」というフレーズは、お母さんの教えとちょっとニュアンスが異なってくるんですよ。「いつも笑顔でハッピーな顔でいよう」ではなく「笑顔の仮面(Happy Face)をかぶる(Put On)」、つまりピエロのメイクを施してジョーカーに変貌することを示唆していると。

【ジェーン・スー】
なるほど。

【高橋芳朗】
そして、映画を見終わったあとにはこの「Put On a Happy Face」にさらにもうひとつ意味が加わってくるんですよ。どういうことかというと、実直に生きてきたにも関わらず社会の枠組みから弾かれて狂気に飲み込まれていくアーサーの姿は、とてもじゃないけど他人事には思えなくて。だから、映画を見ているうちにいつの間にかヴィランであるはずのジョーカーに感情移入していく自分に気づかされるんです。

要は、最後には「Put On a Happy Face」というフレーズが映画を見ている自分の方にも向かってくるんです。ジョーカーは、この映画を見ている我々にも笑顔の仮面、ジョーカーのマスクをかぶせようとしているということですね。「お前の中にもジョーカーは潜んでいるんだぜ」と。

M1 Put On a Happy Face / Tony Bennett

【高橋芳朗】
続いては、ソウルボーカルグループ、メイン・イングリーディエントによる1972年のヒット曲「Everybody Plays the Fool」。これは劇中のとあるシーンでさり気なく流れる曲になりますが、まあ、見事な選曲です。

この曲、もともとは失恋して落ち込んでいる男を励ます曲なんですよ。タイトルの「Everybody Plays the Fool」は「人は誰だって愚かなことをやってしまうものなのさ」という訳になるんですけど、実は「Fool」には「道化師」「ピエロ」という意味もあって。だから『ジョーカー』における「Everybody Plays the Fool」はもうどうしたって「誰もが道化を演じている」という歌に聞こえてくるんです。

【ジェーン・スー】
なんか映画を見た人がどんどんとおかしくなっていって、ぜんぶが幽霊の影に見えてくるみたいな(笑)。

【高橋芳朗】
僕の話し方がよくないのかもしれないですね(笑)。つまり、やっぱりこの曲も「Put On a Happy Face」と同じように「お前たちの心の中にもジョーカーは潜んでいる」ということをほのめかしているわけです。

【ジェーン・スー】
ヨシくんが陰謀論者になっています。

【高橋芳朗】
フフフフフ、実際に映画を見終わったあとには「誰もが道化を演じている」という言葉の意味がよくわかると思いますよ。

【ジェーン・スー】
怖いよ!

M2 Everybody Plays the Fool / The Main Ingredient

【高橋芳朗】
話している内容と楽しげな曲調とのギャップがすごいことになってます。

【ジェーン・スー】
それがまた怖いんだよ。

【高橋芳朗】
音楽だけ取り出せば「今日はポジティブなメッセージの曲ばかりかかるね!」という感じになると思うんですけど、でも劇中で流れる曲の多くはこんなふうに本来持つ意味と微妙に異なるニュアンスを帯びてくるんですよ。

3曲目に聴いてもらいたいのは、ジョーカーのテーマソング的に劇中で何度か流れるフランク・シナトラの「That’s Life」。1966年の作品、もう皆さんおなじみのスタンダードですよ。「That’s Life」は「人生楽ありゃ苦もあるさ。でも前を向いて生きていこう」といった内容の人生の応援歌的な曲なんですけど、やっぱりこの映画の中では違ったふうに聴こえてくるんです。

【ジェーン・スー】
だんだん「信じるか信じないかはあなた次第です」みたいになってきてるよ(笑)。

【高橋芳朗】
「That’s Life」の歌詞にこんなフレーズがあるんですよ。「夢を踏みにじられても絶対にくじけない。あきらめかけたこともあるが、俺の心がそうはさせなかった」。この一節も相まって、シナトラのあの「That’s Life」が自分を見放した社会に対するジョーカーの復讐の歌に聞こえてくるという。

【ジェーン・スー】
もう堀井さんが怯えてきてるよ……。

【高橋芳朗】
堀井さんの大好きなトニー・ベネットやフランク・シナトラがかかるというのにね(笑)。

M3 That’s Life / Frank Sinatra

【高橋芳朗】
最後にもう一曲、劇中の挿入歌からクリームの「White Room」。1968年の作品です。クリームは1960年代にエリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーの3人によって結成。短い活動期間ながらのちのハードロックの基盤を築いたスーパーグループですが、今週6日にドラマーのジンジャー・ベイカーが80歳で亡くなったんですよ。これはそんな彼の追悼の意味も込めて選曲しました。

この「White Room」に関しては、これまでの3曲と違って歌詞を額面通りに受け取っていいと思います。「White Room」はジョーカー爆誕を意味する曲でもあり、ジョーカーの狂気を象徴するような曲ですね。たとえば歌詞にはこんな一節があります。「俺は日の光が決して当たらない場所、影すらも消えて見えなくなるような場所でお前を待ち続ける」。こうしたジョーカーが闇の中から手招きしているような姿、ジョーカーが人々をダークサイドに引きずり込もうとしているような姿をイメージさせるフレーズがあったりするんですけど、タイトルの「White Room」がなにを意味しているのかは映画のラストシーンを見ればわかると思います。

M4 White Room / Cream

【高橋芳朗】
というわけで、今回は映画『ジョーカー』の関連曲を4曲紹介しました。いま話してきたように、この映画を見ると「自分もジョーカーになってしまうのではないだろうか?」「自分もジョーカー的な要素を含んでいるのでははないだろうか?」という懐疑心に苛まれる怖さがあるんですけど、その一方、自己責任論があふれる現代社会の中で「自分は知らず知らずのうちにジョーカーのような存在を生み出すことに加担しているのではないだろうか?」ということに気づかされる怖さもあるんですよ。

【ジェーン・スー】
強者の理論や自己責任論みたいなものを我々も無自覚に受け取ってしまうところがありますが、そろそろそこに対するカウンターがほしいところですね。

【高橋芳朗】
はい。劇中で効果的に使われている曲はほかにもいくつかあるので併せてチェックしてみてください。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

10月7日(月)

(11:08) Nobody Told Me / John Lennon
(11:27) I’ve Got a Rock ‘N’ Roll Heart / Eric Clapton
(11:36) How Can I Make You Love Me / NRBQ
(12:11) The Loved Ones / Elvis Costello & The Attractions
(12:21) Raging Eyes / Nick Lowe
(12:51) Dream Away / George Harrison

10月8日(火)

(11:05) Cold Sweat / James Brown
(11:25) Niki Hoeky / Aretha Franklin
(11:36) Get Off My Back, Woman / B.B. King
(12:12) Snatching it Back / Clarence Carter
(12:24) Let a Woman Be a Woman, Let a Man Be a Man / Dyke & The Blazers
(12:50) Men Are Getting Scarce / Joe Tex

10月9日(水)

(11:07) (Nothing But) Flowers / Talking Heads
(11:26) Best Thing Ever / Scritti Politti
(11:37) Hold On (Money Don’t Buy Love) / Nick Heyward
(12:12) Just Play Music / Big Audio Dynamite
(12:50) I’m Not the Man I Used to Be / Fine Young Cannibals

10月10日(木)

(11:07) Heat Wave / The Who
(11:25) Mickey’s Monkey / The Hollies
(11:36) The Way You Do The Things You Do / Manfred Mann
(11:15) Dancing in the Street / The Kinks

10月11日(金)

(11:04) Shake Your Body (Down to the Ground) / The Jacksons
(11:22) Too Hot ta Trot / The Commodores
(11:36) Ain’t Gonna Hurt Nobody / Brick
(12:12) Shake and Dance With Me / Con Funk Shun