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宇多丸 『ヒメアノ〜ル』を語る! by「週刊映画時評ムービーウォッチメン」2016年6月11日

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:「映画館では、今も新作映画が公開されている。
     一体、誰が映画を見張るのか?
     一体、誰が映画をウォッチするのか?
     映画ウォッチ超人、シネマンディアス宇多丸がいま立ち上がる——
     その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

TBSラジオで毎週土曜日、夜10時から2時間の生放送『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』。
その中の名物コーナー、ライムスター宇多丸が毎週ランダムで決まった映画を自腹で観に行き、評論する「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ここではその文字起こしを掲載しています。

今回評論する映画は、『ヒメアノ〜ル』(2016年5月28日公開)です。

▼ポッドキャストもお聞きいただけます。

▼新サービス「TBSラジオCLOUD」で聞くにはこちらから(無料で聞けます)。

https://radiocloud.jp/archive/utamaru/
今夜扱う映画は、先週「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画。『ヒメアノ〜ル』!

(BGM:テーマ曲が流れる)

『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』などの古谷実による同名コミックをV6の森田剛主演で実写映画化。淡々と殺人を重ねていく男と、ビル清掃会社で働く平凡な男の日常が同時に語られていく。共演は濱田岳、ムロツヨシ、佐津川愛美ら。監督は『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『銀の匙 Silver Spoon』の吉田恵輔さんということでございます。ということで、この『ヒメアノ〜ル』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。ありがとうございます。

メールの量は、普通よりちょっと多めということです。非常に結構ね、注目度が高い作品。評価も高い感じなんでね。賛否でいうと、7割の人が絶賛。残り3割の人が普通、もしくはいまいちという反応。「今年最高の傑作」「見終わった後、何日も引きずった」という感想や、「ラストでは思わず泣いてしまった」という人も。また、森田剛ファンの人からも、概ね好評だった。まあね、すさまじい役ですけどもね。褒めるポイントで集中していたのは、森田剛の演技と、タイトルの入るタイミング。一方、「原作とテーマが変わってしまっている」として否定的に見る人も、ちらほらといたということでございます。

代表的なところをご紹介いたしましょう……。

(メール紹介、中略)

……はい、ということで、『ヒメアノ〜ル』。私もヒューマントラストシネマで2回見てまいりました。やはり、森田剛さんファンということなんですかね? 若い女性を中心に、結構昼の時間帯だったんですけど、かなり入っていましたね。

で、とにかくですね、ムービーガチャ。ガチャガチャを回して当てるというシステム。先週のリスナー推薦枠に入れさせていただいたこの『ヒメアノ〜ル』、推しのメールはいくつも来ていたんですが。その中で、あえて読ませていただいたメールは、要は当番組『ウィークエンド・シャッフル』の特集コーナー「サタデーナイト・ラボ」。後ほどやりますけども、ここ最近の中でもいちばんの問題作として知られる、「疎遠になった友達、通称“元トモ”特集」がございまして。これまで2回やりましたね。で、この『ヒメアノ〜ル』という作品、まさにあのコーナーそのままの元トモ映画、疎遠映画だったという内容のメールをいただいて、これは面白い、目立っているなということで読ませていただいたんですが。

で、実際にガチャが当たって見てみたら……本当にそうでした! もうびっくりするぐらいのシンクロ率でした。もう完全に、疎遠特集。ねえ。もちろんね、(疎遠特集を)聞いて作ったら、どんだけ突貫なんだ?って、そんなわけない。まあ本当にシンクロでございまして。だってさ、ラスト近くで流れる、ある回想の会話があるんですけど、完全に僕が、この疎遠特集の始めとか、番宣CMでしていた話そのまんまですよ。要は、新入生同士、クラスで最初に声をかけてきたやつと、とりあえずは仲良くなったりするものだよね。だけど……っていう、あの話そのまんまじゃないですか。

だから、僕はやっぱり、ずーっと見ている間、特にやっぱり2度目はどういうことになるか分かって見ているから、もう森田剛くんが──「森田」という役で出るんですけど──森田が登場した瞬間に、森田を見て主人公の濱田さん演じる岡田というのが、「あれ? 森田くんじゃ……?」って。あんまり親しくなかったから知らないっていうところからもう、胸が痛くて痛くて。もう終盤とかは心をえぐられるような感じでしたね。で、正直ひょっとしたらもう疎遠、元トモコーナー、この映画を見たら、もうあのネタでゲラゲラ笑ったりはできなくなっちゃうかもっていうぐらい……いや、そうじゃなくて、『ヒメアノ〜ル』ショックが生々しい今だからこそ、近々にその第三弾特集をやるべきなのか!? とか。そういう風に迷っちゃったりするぐらい、僕はその疎遠コーナー、元トモコーナーの発案者として、相当食らうものがありました。もう、はっきり言って食らった。

ということで、まあこの番組のファンであるとか、あの特集にちょっとでもグッと来たという方は、好き嫌いは分かれるところはたしかにあるかもしれない。非常にバイオレントな映画だし、突き放しているようなところもあるので、好き嫌いが分かれるところはあるとしても、とにかくこの番組のファン、あのコーナーのファンだったらもう、必見だと思います。その意味だけで。これはもう、断言させていただきます。で、原作はその古谷実の2008年から連載が始まった漫画で、6巻で終わっている。これはこれで本当にさすが古谷実というか。特にもうラストの切れ味とか、さすが!っていう感じで。うわっ!っていう感じの切れ味で素晴らしいんですけど。

ただ、今回の映画化は先ほどチラッと言いましたけど、脚本・監督の吉田恵輔さんによるアレンジがすごく大きいんですね。まあ、忠実にやっているところもあるんですよ。飲み会に連れて来られる、参加する女の子のルックスとかはすっごい忠実に漫画通りやっていたりしますけど。ただ、相当実は全体としてはアレンジが大きくて。たとえば元の漫画の方はですね、連続殺人鬼化していく森田という男の視点、心情で進んでいく部分がすごく多いわけですね。で、主人公の岡田とのクロスポイントは割と薄めだったりするわけです。

あと、たとえば殺人鬼化していく森田自身も、漫画の方でははっきり、もう自覚的に快楽殺人者だったりする。要は、人を殺すことそのものに性的快楽を感じるという自覚があったりするため、ある意味、テーマからして根本的に変えられているとすら言えるので。それこそ、その元トモ要素みたいなことは完全に映画オリジナルで足されている部分だったりするので。あまり、その古谷実の漫画の映画化という部分での期待の仕方はしない方がいいかもしれないです。原作漫画がすっごい好きな人によっては、ちょっとそこの部分で失望することはあり得ると思います。まあ、俺もう本当クレジットは「原案」という形でいいんじゃないかな?っていうぐらいだと思いましたけどね。はい。

それよりもやはりね、それぐらい、これはどこまでも吉田恵輔の映画なんだなという風に私は思いました。吉田恵輔さんの作品、もちろん代表作は大傑作『さんかく』ということになるでしょうけども。このコーナーでは以前、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』。作品的には2個前になるのかな?(※宇多丸訂正:「3個前」と言い間違えました!)を、2013年11月23日に取り上げました。で、絶賛させていただきましたけど。で、その『ばしゃ馬さんとビッグマウス』を僕がリアルタイムで評した中で、僕は吉田恵輔さんの脚本・監督作品に通底するものとして語っていることが、自分の番組放送用に書いているノートを見返してみて、我ながら、完全に今回の『ヒメアノ〜ル』までを見通している吉田恵輔論になっていて。我ながら鋭い!(笑)。この男の評、なかなかである! という風に思ってしまったというぐらいなんですけど。

どういうことか?っていうと、基本、コメディー・喜劇が多いというイメージがあると思います。吉田さんね。なんだけど、僕のその時の言い方では、こういうことですね。むしろホラー的だったりサスペンス的だったりする、胃がキリキリと痛むような喜劇の名手だということですね。喜劇の中でも。どういうことか?っていうと、主人公たちが「世界っていうのはこういうもんだ」という風に思っている。でも、それは勝手な思い込み。その思い込みが、あるポイントで覆される。「人間とか世界っていうのはお前らがもともとこうだと思っていたものとは、実は全然違うものなんだよ」っていうことが、あるポイントではっきりする。表面上、いくら穏やかに見えていても、一皮剥けばその本質は実はものすごーく残酷だったり無情だったりするんだよっていうのが明らかになる。

で、そういう真実が途中で明らかになって先、作品のトーンが、それまではコミカルだったり喜劇調だったのが、ちょっとトーンがガラッと変わったりするという。つまり、コメディー・喜劇に見えていたような作品が、途中のあるポイントで突然、世界っていうのが恐ろしい……要するに本当の顔ですね。世界の本当の顔っていうのがあらわになる。残酷だったり無情だったりする、本当の顔があらわになった先は、ホラー化していったりサスペンス化していったりするという、そういう作風。要約すれば、概ねそういうことを僕はその2013年の『ばしゃ馬さんとビッグマウス』の時点で吉田恵輔さんの作家的資質として言っていたんですけど。これ、完全に今回の『ヒメアノ〜ル』そのものの話にもなっていますよね。さすが俺!っていう(笑)。さすが俺、的確!っていうね、ことだと思うんですけどね。

とにかく、上映時間99分のだいたい半分ぐらいまでは、まあこんな話ですよ。困った先輩の片思いの相手と僕が秘密の関係になってしまい……?っていうね。みたいな、まあ『翔んだカップル』とかの序盤みたいな、まあラブコメ話なわけですよ。ちなみにでも、そういえばその柳沢きみおの漫画『翔んだカップル』も、出だしこそは軽いラブコメとして始まるけど、その後どんどんどんどん話は重くなっていって、最終的には、自殺者、自殺未遂者が出てくるという、非常にハードな展開になっていくという漫画だったりしましたけど。まあ、ともあれ序盤はそういうラブコメ展開。『ヒメアノ〜ル』、最初の45分ぐらい、ラブコメが続くわけですね。

で、ここも岡田という、事実上の主人公を演じる濱田岳さんの非常に芸達者ぶりも相まって、本当に普通にコメディーとして笑える。とにかく濱田さんがね、本当にセリフのちょっとした間とか。あと、微妙な目の泳がせ方とか、本当に上手くて。あの、いわゆるベロベロバー演技ではなく笑わすのが本当に上手いなという風に思いますし。で、それに相対するヒロインの佐津川愛美さんの、なんて言うんですかね? やっぱり、エロかわいさでしょうね。これもあって、非常にラブコメとして前半楽しく見れると。なんだけど、まずその困った先輩・安藤さんというのを演じている……原作漫画の方は安藤さんのキャラクターはもっとわかりやすくコメディー的。で、むしろだからそこのコメディー感に関しては非常に安心して読める感じになっている。要するに、殺人鬼となっていく森田の話とは全然違うトーンとして読めるんだけど。今回の映画版だと、その安藤さんをムロツヨシさんが演じていて。

ムロツヨシさん、どっちかって言うと漫画とは逆のアプローチというか。漫画だと、ものすごい表情豊かな、ワーッてなっちゃうようなエキセントリックに表情を変えるような感じなんだけど、今回のムロツヨシさんは逆のアプローチで。無表情方向にデフォルメした演技をされていて。で、それがなんか、そこはかとない不穏さ。「一皮剥けば、こいつは本気でヤバいんじゃないか?」的な、微妙な緊張感をちゃんと前半も持続している。だってムロツヨシさん、よく考えたらさ、三宅隆太さん監督の『呪怨 白い老女』で殺人に手をくだしちゃう人になっちゃうわけだから。そういう危うさは全然演じられる人なわけで。だから、安藤さんのヤバさっていうのがある種、緊張感の持続を引っ張ってる。前半、ラブコメなんだけど、ちょっと緊張感にもなっているし、ということですね。まあ、でもラブコメの話が続いている。

あるいは、普通のラブコメに見えるんだけど、男側が女の人っていうものに勝手に抱いているファンタジーっていうのが、実は女の人ってそういうことじゃないぜっていうのがひっくり返るみたいな。これは本当に吉田恵輔作品の繰り返し出てくる話ですね。「男、しょうもな……!」っていう。女に勝手なファンタジーを抱いてっていうのが出てきたりすると。なので、普通のラブコメよりやっぱりちょっと、若干意地悪な緊張感がキープされていると。そして何よりも、やっぱり殺人鬼となっていく森田役の森田剛ですよね。森田役の森田剛っていうところがもう大丈夫か?っていう感じなんだけど。

お話上、まだ何もしていない段階でも、その森田剛さん演じる森田、はっきりと伝わってくる、「人として何か重大な欠落があるんじゃないか、こいつは?」っていう感じ。要は、「なんにも構わない類の人間の怖さ」っていうか。なんにも構わないタイプっていうのが、なんかすごく後を引く、いや〜な感じを前半、何も起こっていないのに残すという感じになっている。で、これはもう本当にいくら言っても言いすぎということはないと思います。とにかく、森田剛。この作品ね、もうちょっと心配になってくるほどです。だって、V6はまだ普通に活動してるのに……ちょっと心配になってくるほど、本当に見事な、その人としての佇まいからしての汚れっぷり、荒れっぷり。もう、そういう人にしか見えない、っていう荒れっぷり。それが今回の映画『ヒメアノ〜ル』の非常に特別な価値というか、輝きを与えているのは本当に疑いの余地がないんじゃないでしょうか。

2週間前にやった『ディストラクション・ベイビーズ』。同じ暴力的な日本映画っていう意味でも、あれの柳楽優弥さん。非常に素晴らしかったですけど。ただ、あの柳楽優弥さんが演じるあの役は、言ってみれば『ノーカントリー』のシガーじゃないですけどね。要は、暴力的なキャラクターにしても、もう突き抜けきっているからこそ、ある種の高潔ささえ感じさせるキャッチーさをたたえているっていう。それとは、非常に対照的ですよね。今回の森田っていうのは。いちばんわかりやすいポイントは、レイプするようなやつかどうか?っていうことですよ。レイプ、そんなことをするようなやつかどうか。で、今回の森田はやっぱりレイプをする側のやつなんですよね。

本当に社会の底辺で生き続けてきた結果。そしてそこで少しずつ人間性をすり減らしてきた、削り取られてきたのであろう男。つまり、シガー的なね、『ディストラクション・ベイビーズ』の、柳楽優弥のあの役的な幻想など入り込む余地もない、本当に身も蓋もない現実っていうのをもう、泥のようにまとって。匂いのように身にまとってしまっている。体現してみせるかのような森田剛演じる森田がもう本当に……今日ね、この表現が多いんですけど……とにかくキツい。キツすぎる! で、褒めてます!っていう。すごく嫌です、褒めてます! みたいな。とにかく、この森田剛の森田がキツすぎる、褒めてます! もう、最大級に褒めている。

人の話を聞いている時の、「ああ、ああ? ああ……」っていう口。あと、目。普通に会話できているだけに、でも、なんか全然心が通じた感じがしない感みたいなことだと思いますね。ちなみにタイトルのね、『ヒメアノ〜ル』っていうのはトカゲの名前なんだよね。要は、「捕食される側」っていうのの象徴っていうことらしいんですけど。それはもちろん、森田の犯罪の被害者たちっていう。それはもちろん、捕食される側っていうのの象徴かもしれないけど、同時にこの森田。特に今回の映画だと、「社会の底辺に生きている俺たちは、どん底から抜け出せないんだ」っていう彼のセリフがあったりするぐらいで。彼自身が社会全体の中では、要は生涯の捕食者。常に食い物にされる側であるという構造もあって、これがまたなんかこう……イヤだ〜! 褒めてます!っていうことですね。

ともあれ、さっき言ったように前半45分間かけてですね、ついにそのラブコメ的なストーリーがひとつのハッピーな着地を迎えたかに見えるその話。その瞬間ですね。実は、その殺人鬼となっていく森田から、その光景は見返されていた。僕はこのコーナーでいつもしつこく言っていますけども。「見る/見られる関係の逆転」っていうのが映画でいちばんスリリングな瞬間だと思うんですが、まさにそれが物語的に全体で起こる。いままでのハッピーな着地が実は森田から見られていた。そのポイントからすでに、これはだから皆さん絶賛されているポイントです。ついに、本当に意味でこの『ヒメアノ〜ル』という物語が始まるという、いかにもこれね、吉田恵輔さん好みのトリッキーな構成。吉田さんはこういう二部構成が多いんですよ。たしか『机のなかみ』もそんな、途中で一旦切れてタイトルが出てっていう流れをやったりしてますけども。非常にトリッキーな構成がとにかく……これ内容からすれば不謹慎な言い方だけど、超ワクワクするっていう。「うわー、うわー、始まっちゃった。始まっちゃったよ!」っていうね。

で、そっから先はですね、画面のトーンとか、あと前に『ばしゃ馬さんとビッグマウス』の時に「この人、実は衣装のスタイリングとかもすごく計算してやっていると思う」って言いましたけど。衣装のたとえば色合いであるとかトーンに至るまで、少しずつ全体が画面もダークにクロスフェードしていくっていう感じだと思います。気がついたら、もう暗黒のところに踏み込んでいる、という感じだと思います。で、もうそこからは文字通り転げ落ちるように、森田という男。行き当たりばったりの連続殺人に手を染めていくわけですけど、この描写のキツさがまたですね、本当に素晴らしい。今回、特殊メイクとか特殊造形、バイオレンス造形をやっているのが、『アイアムアヒーロー』でも名前を出しましたけども、記憶に新しい藤原カクセイさんがやってらっしゃる。さすがですねということなんですけどね。

たとえばですね、最初に直接的に劇中で殺人が描かれる被害者。当番組でもお馴染み、名優 駒木根隆介。そして、山田真歩さん。要するに、『サイタマノラッパー』カップルですね。『サイタマノラッパー』に出てきたあのカップルの末路ときたら……っていうことですね。まずね、ゴチン! ガチーン!って頭を殴られて、体がガーッて痙攣するっていうあそこ。クライマックスで2階からガラス窓をバリーン!って体ごと落下するっていう、僕は本当に、「ああ、こんなケレン味たっぷりの見せ方まで用意してくれて、本当に最高!」っていう風に思ったところですけど。とにかく、ガーン!って殴られて痙攣と、2階からガラス窓をバリーン! で体ごと落下で外へっていう、これは合わせて『悪魔のいけにえ』オマージュだったりするのかな? なんていう風に思ったりしましたけど。

とにかく、劇中最初の直接的殺人シーン。山田真歩さんの「あるリアクション」といい、主人公たちのセックスシーンとわざとイマジナリーラインを混乱させて。要は、セックスシーンと殺人シーンの同時進行感を出す非常に悪趣味な編集……これ、褒めています。悪趣味な編集込みで、本当にイヤ〜な感じです。褒めてます!っていう感じですね。しかし、あのイマジナリーラインを混乱させてまで同時進行感を出すセックスシーンと殺人シーンの編集は、僕の解釈はこうですね。つまり、恋人たちの最も幸せな時間と、また別の恋人たちにとっては人生最悪の瞬間でもあるっていう。つまり、その二者は関係あるけど関係なくて、関係ないけど関係あって。ただ、この同じ世界に同時に存在しているっていう。

で、これって現実そのものじゃないですか。我々がこうやってヘラヘラ、こうやって私が話してますよね。いま、この瞬間に凄惨な殺人ってやっぱり起こってたりもするわけです。これ、現実に、悲しいけど。と、いうことなんですよ。その現実の容赦なさなんですよね。どっちかって言うとね。と、いうことで、その主人公たちの日常とは関係あるけど関係ない、関係ないけど関係ある、そういう同時進行感で森田は殺人を重ねていくわけですね。たとえば、あの通りすがりの女の人。ねえ。こうやってバーンってなって。で、まあレイプされかかると。生理中のナプキンからの、で、パッとカットが変わったと思ったら、もうブルーシートがかけられていたあそこの感じ、イヤだね〜。褒めてます! とか、刃物による、執拗にザクッ、ザクッ、ザクッて刺す。イヤですね〜。褒めてます!

あと、『プライベート・ライアン』ばりの、抵抗する相手に対してナイフをグーッと押しこんでいく。ゆーっくり胸に押しこんでいくっていうパターン。イヤですね〜。褒めてます! あと、後半。とある理由から入手したピストル。パーン!って。あの、「うっせー」ってあれは映画オリジナルの描写で。いいですよね、やっぱり。耳栓もしないであんなところで撃ったら、そりゃうるさいですから。なかなか当たらないっていうのは漫画にもありましたけど。あれの、縛られた男に対するあの弾着。本当にイヤ〜な弾着表現とか。褒めてますけどね。とにかく、直接のゴアとかグロがそれほどあるわけじゃないんだけど、とにかく見るものの生理を逆撫でするようなバイオレンス描写にひたすらげんなり。楽しくないっていう。まあ、これは褒めてます。

で、原作のその森田側の心情描写がほぼオミットされている分、初めて彼の現状。つまり、「ああ、森田はここまで来ちゃっていたんだ」っていうのは主人公はだいぶ後になって気づくわけですよね。で、その岡田側の、「いったいこの間、君の人生に何があったんだ?」っていう……もちろん、苛烈ないじめっていうのは大きな要因になっているようではあるけれど、そうやって、でもいじめだからこうなったって簡単に因果関係をわかった気にはさせてくれない作りにちゃんとなっているわけです。たとえば、やっぱり主人公がとらわれている贖罪意識は実は関係なかったとか。なので、簡単にはそうやって因果関係はできない。なにがあったんだ? どんな思いをしてきたんだ? そのわからなさ、理解のできなさ故の悲しさ、切なさがより際立つ作りに今回の映画はなっている。そして、これこそまさに疎遠、元トモ話のエッセンシャルなわけですよ。

で、いまの森田のことはもうビタイチ理解できないが故に、理解できていた頃の記憶っていうのがとても大切に思えるっていうことですね。これ、視点が入れ替わっていますけど、原作ラストと僕はちょっと通じていると思います。原作では、森田側の視点だけど、要するに人であることをやめ始めた、最後の瞬間っていうのを思い出すっていうところなんでね。はい。で、この結末をですね、甘いって感じる人がいるかもしれないけど、僕は逆だと思っていて。つまり、この記憶の大切さっていうのがイコール、取り返しのつかなさっていうのをより際立てて。要は、この世の救いのなさっていうのを真摯に見据えているからこそのこの着地だという風に僕は思いますね。はい。

直前、クライマックス途中でのね、「お前、本当に人でなしだな」っていう描写がその後、その森田がうっかりとってしまう、ある人間的行動の伏線にもなっているというあたり、上手いというかひどいというか。褒めてます!っていう感じですね。あえて言えばクライマックス。岡田と森田の対決という非常に映画オリジナルの展開。盛り上がって非常に最高なんです。ここは最高なんだけど、要はピストルが使われた殺人があって、しかも、目的とされている人物は主人公の岡田だってはっきりわかっているのに、その岡田のアパートにヒロイン1人で……つまり、警護もつかずに帰らせるってちょっと考えづらいですよね。はっきり言って警察は威信をかけて捜査している段階だとは思うんで。ちょっとここは、たぶん絶対に「今日は別の場所に泊まりなさい」っていう風にあれするはずだし。ちょっと不自然な展開だったと思います。

まあ、その住所がバレる経緯はですね、「ババァ〜ッ!」っていうね、この番組的なネタ感もあって面白かったですけどね。ただ、まあ初見ではそんなことは僕はあんまり気にならないぐらい、本当に没頭してましたし。なにしろ、そのラスト。ガーッと胸を掴まれて。エンドロール用の音楽が流れ出して、暗くなって、クレジットタイトルが出るタイミングとかがもう、涙腺を刺激させるタイミングそのもので。本当に素晴らしかったです。そのへんね。で、日本のノワールとかバイオレンス映画、いつの間にか本当に超充実してきているなという風に思ったりします。ちゃんと前半笑って、で、嫌な気持ちになって。ハラハラして、最後は胸を締め付けられて。で、劇場を出ると世界がちょっと違った風に見えて。で、誰かと意見交換したくなるって、これが面白い映画ってもんでしょう!!っていう風に僕は本当に思いました。

正直、今年の日本映画、個人的にはね、またベスト級来ちゃったよ!っていう感じです。またこのレベル、来ちゃったの!?っていう風に思いました。本当に個人的にも忘れがたい一作ですね。ちょっと思い出すとウッと来ちゃうような一作になったと思います。またしても日本映画、素晴らしい傑作が出てきました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『デッドプール』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパートにて>

『ヒメアノ〜ル』での、『悪魔のいけにえ』オマージュは、ちゃんと参考にしろって吉田監督に言われたという話を名優・駒木根さんがポッドキャストでされているそうですね。ということが判明いたしました。教えていただいたみなさん、ありがとうございます。ということで、来週スペシャルウィーク。3作品に絞らせていただいております。最初の候補はこちら!……(以下省略)