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経済だけではないイギリスのEU離脱問題

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嶌信彦

いよいよ今週に迫ってきたイギリスのEU離脱の是非をめぐる国民投票

EU残留支持の女性下院議員が殺害され、同情を含め、残留支持が高まっている。イギリスの大衆紙「メール・オン・サンデー」の調査では、殺害事件前は、離脱45%、残留42%で、「離脱が優勢」だったが、殺害事件後は、離脱42%、残留45%と、「残留が逆転」で優勢になった。

イギリスとEUの関係、経済的影響ではなく、歴史からみると・・・

今、離脱の影響は、主に経済面で語られることが多い。しかし、地域の安定性という意味では、もっと大きな影響があることを見逃してはならない。

そもそもヨーロッパの歴史は戦争の繰り返しだった。多くの国が国境を接していたためで、2度の世界大戦で荒廃しきっていた。そこで再び戦争を起こさないという反省から、ヨーロッパの地域統合に向けた機運が高まった。

その第一歩となったのが、1952年に設立された「欧州石炭鉄鋼共同体=ECSC」の誕生だった。戦争のきっかけは資源の獲得競争だったことから、重要な資源である「石炭」と「鉄鋼」を、当時の西ドイツとフランスなど6カ国で共同管理する仕組みを始めたのだ。

そして、1967年には、原子力分野の協力組織など3つの共同体を統合。これがEUの前身「欧州共同体=EC」となった。

根本は「戦争の反省、平和の希求」だが、英国は経済で協調

このヨーロッパ共同体の動きに対して、イギリスは当初、難色を示していた。イギリスは、「アメリカ」や「イギリス連邦諸国」とのつながりを重視、ドイツとフランス主導のヨーロッパ共同体を避けていた。

しかし、1973年、そのイギリスもEUの前身「EC」に加盟することになる。それは経済的事情が強かった。当時、イギリスは、60~70年代の景気低迷を経験し、「ヨーロッパの病人」「イギリス病」とも言われ、苦しんでいた。そこでECの経済的側面に注目し、加盟によって経済成長を後押ししようと考えたのだった。

ただし、EC=EUは、冷戦が終わると、政治的にも統合が進むようになった。この政治的統合に対してイギリスは、微妙な距離を取り続けることになる。とにかく、イギリスの主権が弱まるようなことはやりたくない、という立場を貫いた。そこには、イギリスは大航海時代以後、世界を主導してきたという「栄光の歴史と誇り」があり、新参のドイツに主導権を取られたくなかったのだろう。

経済以外の協調を拒む英国、そのEUとのスタンス

こうしたことから、イギリスは、統一通貨ユーロに参加しなかった。通貨政策は国家主権の中核という考えが揺るがなかったのだ。そしてもうひとつ、イギリスはシェンゲン協定に参加していない。「シェンゲン協定」とは、EU加盟国の間での人の移動を自由にする協定で、パスポート検査など、出入国審査なしで国境を越えられる協定だ。イギリスは「国境管理は国の大切な主権」ととらえているため、ここでも協調しなかった。結局イギリスは、経済的には協調したいが、主権は譲らない、という姿勢で一貫していた。

EUの前に巻き戻るということは、経済的な影響だけではない

イギリスのスタンスとは逆に、今、EUは、政治的協調が強くなってきている。難民問題でも協調を求められ、ギリシャ危機など財政問題では、各国の主権よりEUの政策を優先する動きがある。この政治的協調強化の流れと、イギリス本来の「主権意識」のズレが、今の離脱論の原因となっている。

イギリスの高齢の保守層の中には「これ以上EUに残ると、イギリスの主権が失われる」という不満がある。またイギリスはサッチャー改革以来、「市場競争」を重視しているのに対して、EUは弱者保護=経済発展が遅れた国へ予算を配分する傾向がある。そこで離脱派から「EUのせいで、イギリス企業の成長が遅れている!」「イギリスの国民向けに、そのお金を使うべきだ」という不満が噴出しているのだ。さらに、移民問題にも不満が噴出。国境管理の主権を守るため「シェンゲン協定」に入っていないのに、それよりもEUの人の移動の自由が優先されるため、移民がどんどん来る。

経済的な影響は言うまでもない。イギリスには、日本企業も1千社以上進出している。EUで金融事業を行う場合、どこか1国で許可を取れば、他の国でも営業可能なため、イギリスに会社を置いて、EU全体で事業をしているのだ。離脱したらこうした企業は移転して行ってしまいイギリスも打撃・・日本も無関係ではない。

ただ、より大きな問題は地政学的な影響であることを忘れてはいけない。各国の主権を多少制限してでも、協調して、譲り合って、地域でまとまることで戦争を防ごうとしてきた理念が崩壊してしまう。離脱論の背景も「イギリスファースト」イギリスだけを優先させる動きがある。そして今、同じように極右的な思想はヨーロッパ、アメリカでも出ているので・・EUをただの経済共同体と捉えず、平和の希求、あの戦争の反省に立ち返り考え直すべきではないか。

 

 


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